精選版 日本国語大辞典 「引」の意味・読み・例文・類語
ひき【引】
[1] 〘名〙 (動詞「ひく(引)」の連用形の名詞化)
[一]
① 引っぱること。「綱引き」「車引き」のように、多く複合して用いられる。
② 引っぱる力。引き込む力。
※物理学術語和英仏独対訳字書(1888)〈山口鋭之助〉「宇宙ノ引キ」
③ 引く力に耐える力。特に紙などの腰が強いこと。「引きのある紙」
⑤ (多く「おひき」の形でいう) 「ひきでもの(引出物)」の略。
※高野山文書‐(文祿元年(1592)か)四月五日・興山上人応其書状「猶々御使へも、我等へも、御ひきを被レ下候」
[二]
① 率いること。導き。手引き。案内。
※万葉(8C後)六・一〇四七「新世の 事にしあれば 大君の 引(ひき)のまにまに 春花の うつろひかはり」
② 特別に目をかけて便宜をはかること。
(イ) 好意。ひいき。力添え。
※落窪(10C後)二「かの中納言殿の少納言、かく落窪の君とも知らで、辨の君がひきにて参りたり」
③ 歩行の助けとしてすがる綱。引き綱の類。
※今鏡(1170)五「かちよりおはしますさまにて、御輿の綱を長くなされたりしにや、ひきにしなしてかかれてぞ、末ざまはおはしましける」
④ 「ひきあわせ(引合)⑥」の略。ひきあわせがみ。
※海人藻芥(1420)「将軍家にも、女房達皆異名を申す〈略〉引合をばひきと申也」
[三] 数量の差引き。減法。
※地方凡例録(1794)六「石盛違引〈略〉勿論地不足無地だか石盛違の分、古検新検石盛の差ひにて引に立たる分は」
(ロ) さいころ博打(ばくち)で、三または四個のさいころの目の合計数から、規定の数を差引いた数をいう。
※随筆・独寝(1724頃)下「筒目(どうめ)、なり目などありて、此引をつくるといふ事」
(ハ) 値引き。値下げ。「三割引(び)き」「百円引(び)き」
[四] 後ろへさがること。
① 潮が引くこと。また、その力。
いん【引】
〘名〙
① 漢文の文体の名。本文を引きだすための短めの序。
※南郭先生文集‐三編(1745)九「講二四子一引」 〔文体明弁‐引〕
② 俳諧で本文を導きだすための句や短い文。〔俳諧・本朝文選(1706)〕
③ 昔の中国における楽曲の名称。また、それに合わせた歌詞である楽府(がふ)の題名に用いられる。箜篌引(こうこういん)など。
※南郭先生文集‐三編(1745)一「観芙蓉図引」 〔文体明弁‐楽府〕
④ 来世の果報を引き起こすべき力のある所業。引業(いんごう)。
※雑談集(1305)五「業に引(イン)と満とあり」
ひかさ・れる【引】
〘自ラ下一〙 ひかさ・る 〘自ラ下二〙
① 心が引きつけられる。思い切れない。ほだされる。引かれる。
※歌仙本元輔集(990頃)「谷ふかくしづむたとひにひかされて老いぬる松は人も手ふれず」
② 相場が予想に反したため、売買建玉(たてぎょく)が損失勘定となる。
ひかし【引】
〘形シク〙 (四段動詞「ひく(引)」の未然形に、形容詞を作る接尾語「し」が接した上代語) 引きたい。引き留めるようだ。
※万葉(8C後)一四・三四三一「足柄(あしがり)の安伎奈の山に引こ船の尻比可志(ヒカシ)もよここばこがたに」
ひっ【引】
〘接頭〙 (接頭語「ひき(引)」の変化したもの) 動詞の上につけて、勢いよくする意を添えたり、語調を強めたりする。「ひっかく」「ひっくるめる」「ひっぱたく」など。
ひかさ・る【引】
〘自ラ下二〙 ⇒ひかされる(引)
ひこ【引】
四段動詞「ひく(引)」の連体形「ひく」の上代東国方言。
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