競争(経済学)(読み)きょうそう(英語表記)competition

翻訳|competition

日本大百科全書(ニッポニカ) 「競争(経済学)」の意味・わかりやすい解説

競争(経済学)
きょうそう
competition

経済学では、次の二つの意味に用いられる。(1)経済主体(企業や消費者)の行動に関して競争ということばが使われるとき、たとえば企業の競争的行動の程度という場合には、個別企業が互いに競い合う程度をさしている。(2)市場構造(個別企業が操業している市場のタイプ)の競争の程度という場合には、個別企業が市場支配力自己の生産物が販売されるときの価格や他の条件に企業が影響を与えることのできる力)をどれくらいもっているかという程度をさしている。このように経済主体の行動と市場構造に関して、それぞれ同一の「競争」ということばを用いても、その含意が違うことを理解するのが重要である。この点を明確にするために、次に具体的な市場構造での例をみてみよう。

 完全競争市場構造では、その市場に非常にたくさんの企業が存在し、個別企業はまったく市場支配力をもっていない。一つの企業の自社製品の販売能力は、他の企業の行動により影響されることはないので、企業どうしは互いに競争する必要はない。つまり完全競争市場では、企業間競争は生じない。企業はライバル企業の行動をまったく無視して自己の意思決定をするのである。

 市場に少数の企業しか存在しない寡占市場構造では、それぞれの企業は、自分が販売政策を変更すると他の企業はそれに対し敏感に反応するということを認識している。各企業はかなりの市場支配力を有しており、企業間の競争は激しくなろう。

 市場に一企業しか存在しない独占市場構造では、独占企業の市場支配力は完全であり、企業間の競争は完全競争の場合と同様にまったく行われない。

 独占・寡占と完全競争との中間的ケースである独占的競争あるいは不完全競争市場構造では、完全競争と同様に非常に多くの企業がその市場に存在する。しかしこれらの個別企業は、完全競争の場合とは異なり、独占・寡占企業ほどではないがいくらかの市場支配力を有している。価格政策や非価格政策を多様化することによって企業は互いに競争しあう。

 このように市場構造によって個別企業の競争的行動の程度は影響を受けるのである。この関連をいっそう明確に分析するのが産業組織論の主要な目的の一つである。

[内島敏之]

『R. G. Lipsey and P. O. SteinerEconomics, 6th ed. (1981, Harper & Row, New York)』『荒憲治郎他編『経済学3 産業組織論』(1976・有斐閣)』

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