竹,蔓,木の小枝,針金などを編んでつくった入れ物。語源は定かではないが,上代に〈こ〉と呼ばれていたことを考えれば,〈か〉の由来する言葉との合成語であることがわかる。すなわち〈か〉は竹の意とも堅の意ともいわれ,〈こ〉に形容的に冠している。あるいはまた,構籠(かきご)や囲むの略義であろうとする説もある。籠の文献上の用例としては,まず鎌倉時代に書かれた《名語記》の〈こころ流浪の行人のせなかに負たる籠をかこおひとなつけたり〉をあげることができる。
籠のおもな特徴は,入れ物として,焼物や木箱にくらべて著しく軽く,袋ほど自在ではないが弾力に富み,形としては丸み,ふくらみをもち,そして編目が粗く透けているため通気性に富み,内容物が見やすいことなどである。したがって似ている入れ物に笊(ざる)があるが,笊の場合は平織方式で編目がつんでいるうえ,概して浅いものが多いので区別することができる。
人類が籠を編み始めたのは旧石器時代にさかのぼる。アフリカのケニアのガンブル洞穴からは籠目の圧痕のついた後期旧石器時代の粘土片が発見されている。これは籠の内側に張りつけた粘土が火熱を受けて残ったものとされている。アメリカ合衆国ユタ州のデンジャー洞穴からも約1万年前の籠が筵(むしろ)や石皿,尖頭器とともに出土している。新石器時代になると世界各地で盛んに作られるようになる。エジプトでは前4500年ころのファイユーム遺跡から種子容器とみられる舟形の籠が発見されているのをはじめ,王朝時代の多数の〈とぐろ巻き編み〉による籠が知られている。スカンジナビアの泥炭層遺跡からは,草,亜麻,柳などの籠が出土しているし,北米大陸南西部の前100-後700年ころのアナサジ文化期では,運搬・漁猟具などさまざまな籠を製作する高度な技術が発達したので,その一部がバスケット・メーカー文化と呼ばれているほどである。この編み方は緻密なとぐろ巻き編み技法である。アジアでも漢代の馬王堆漢墓や楽浪古墳などから,籠に漆を塗った製品が出土している。
日本では縄文時代前期から籠の存在は確実視され,福井県鳥浜貝塚では蔓製の籠が多数出土している。ややおくれて佐賀県坂の下遺跡,青森県是川遺跡,埼玉県寿能泥炭層遺跡などからも同様の籠や籃胎漆器(らんたいしつき)などが出土している。歴史時代になっては,正倉院御物の中に華籠や藺(い)箱,柳箱といった多数の籠編みの製品が保存されている。籠は土器や金属器が発明されてからも,その用途は衰えず,また現在のように合成樹脂が発明されても,籠のもつ特性はなお人々をひきつけている。北方諸民族を除く世界の諸民族の間では,在地の材料を巧みに利用し,さまざまな用途に応じて独特な籠が編まれ,民芸品ブームを呼ぶほどである。
籠の材料は大きく分けると,コード状のものと帯状のものとに分けることができる。前者にはアケビ,藤,柳,マタタビ,シダ,スズダケ,東南アジアから中国に多い籐(とう),エジプトのパピルス,北米の藺,最近の針金などがある。後者には,太平洋,東南アジア,日本の竹,ヤマブドウ,イタヤ,シナノキ,ヒノキなどがあり,珍しい例ではミクロネシアのヤシの葉がある。最近では合成樹脂製品や化学繊維も用いられる。歴史的にはコード状のものが古く,蔓や小枝など自然産品をそのまま使い,ついで木皮,竹など帯状のものや加工されたものが登場し,そして20世紀になると合成樹脂製品が登場してきた。
日本の籠では竹がもっとも一般的な材料であるが,なかでも広く用いられるのはマダケであり,ついでモウソウチク,メダケ,まれにはハチク,クロチクなども用いられる。使う竹は,シンコ(1年生)は避け,11~12月に切り倒したものを使う。これらの竹は,使う前に適当な幅と厚さに割り裂かれる。この編み材をヒゴともヒネともいう。ヒゴには青皮,中皮,裏皮があり,上質の籠には青皮が使われるが,普通は青皮と中皮をまぜて使う。ヤナギは新芽の部分を取り,水洗して日干しにし,使うとき湿らす。藤,アケビ,ヤマブドウ,籐もだいたいこのように処理されて使われる。物によっては,漂白したり,染色したり,製作後にニスを塗ったりして外見を整えたり,ささくれを防いだりすることもある。古代によく作られた籃胎漆器は籠を芯にして,たっぷり漆やアスファルトを塗りつけたもので,堅牢なものであった。
籠の形は,用途や内容物の大きさや性質などによっていろいろあるが,大別すると最も基本的な半球形をはじめ,円筒形,皿形,甕形,楕円球形,円錐形,直方体などに分かれる。しかし平面的な養蚕用の籠のように,籠の範疇に入れるべきか迷うようなものもある。大きさも大は長さ10mにも達するような河川工事用の蛇籠から,小はホタル籠までさまざまである。俗に〈かご〉と呼ばれているもののなかには,編み方からいえば籠のらち外にあるものもある。たとえば,東南アジアや西アジアにまれに見られる籠の家のように編目のつんだ網代(あじろ)編みのものや笊(ざる)編みのものでも,またごくまれには小鳥籠のように編み技法を経ていなくも,材料が竹でしかも形が籠形であれば〈かご〉と呼ばれる。また籠には付属部位をもつものもあり,提げ籠のように釣り手をもつもの,盛り籠のように台をもつもの,魚籠(びく)のように蓋をもつもの,あるいは背負籠のように肩紐をつけたものなどである。
籠の編み方の基本形は籠編みであり,編目があいていることが必要条件である。籠編みには編目の形で,四ッ目編み,六ッ目編み,八ッ目編みのほか,前述したように,笊編みや網代編みが導入されたり併用されたりしているものもある。また一定の法則によらないで編む〈乱編み〉というのもある。さらに,多方面の注文に応じ形や意匠の効果を出すためには,麻の葉,松葉,青海波,一(市)楽,目潰し,鎧(よろい)編み,筏(いかだ)編み,鬼編みなどを取り入れて編みあげる。籠組みの工程は,おおよそ次のとおりである。
(1)底編み 編みはじめは菊編みや網代編み,筏編みでひろげられる。網代編みや筏編みは平面的な編地に適しているからである。(2)腰立て 底部から胴部に移るところの立ち上がりの部分で,底部の四角を円く変えたり,平面を強制して立ち上がらせながら編み整える。(3)胴編み 腰立てのあとを受け胴部を規則的に口縁部まで編み続ける。飾りや意匠出しはこの工程で行われる。(4)縁巻き 胴編みの締めくくりをするとともに横材等を入れ,肉を厚く強化し,持ちやすいよう巻き込む。(5)仕上げ 底や胴がゆがまないように,力竹を入れたり,ヒネの飛び出しやささくれをかきむしる。
籠を分類すると,その形により丸籠と角籠,用途により仕事籠と家庭籠,また使う状態により置き籠,提げ籠,背負籠などと幾通りかあるが,籠の機能別に分けると次のとおりである。
(1)運搬具 籠の果たす最も広い機能は,物を運ぶということである。大きい例からいえば人を運ぶ駕籠(かご)のようにかついで使う籠,草刈籠や桑取籠のような背負籠,配達用の御用籠,草取籠や魚籃のような腰籠,花籠や岡持ちのように釣り手や把手をつけた提げ籠,バスケット,買物籠などがある。これらはだいたい竹製のものが多いが,背負籠にはアケビ,ヤマブドウ,シナノキ製のものもある。(2)入れ物 次に多いのが入れ物である。書類を入れる文庫籠,銭を入れる銭籠,衣類を入れる行李(こうり),飯櫃(めしびつ)を入れる飯籠やお櫃入れ,その他小物入れ籠や肩物入れ籠などがある。(3)水切り・乾燥用具 洗った野菜や食器などを入れる水切籠,養蚕用の繭籠,干し草を入れておく編目の大きい草籠などがある。(4)飼養用具 鶏や小鳥を飼う鶏籠や小鳥籠,蚕を飼う蚕籠,虫を飼う小さい虫籠などがある。(5)捕獲用具 魚を捕らえる筌(うけ)にも籠編みのものもある。またカニを捕らえるカニ籠,鳥取り用の籠もあるが,ネズミ取りには金編み籠を使う。これらの籠にはいったん入ったら出られなくなるような〈かえし〉や〈おとし〉がついている。(6)包装用具 軽くてじょうぶな特徴と編目の美しい図柄を生かした果物籠や瓶籠などがある。(7)濾過用具 籠というよりも笊が多いが,味噌こし,あんこしなどがある。(8)装飾用品 生花用の籠,鯉のぼりの鯉玉,食事用の盛籠,葬儀用の花籠などがある。
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執筆者:吉川 国男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
タケ、トウ、アケビ、ヤナギ、フジ、イタヤ、シナノキ、針金、合成樹脂などを材料としてつくる、編み目のある容器のこと。これに類するものとして「ざる」がある。ざるは目がつんだもので、米あげざる、食器あげざるのように水切りなどに用いることが多い。その形も一般的には籠と比べ小形である。
わが国にみられる籠製品は、縄文・弥生(やよい)時代の出土例があり、正倉院にも精巧な伝世品がある。
籠として日本では古くから竹製のものが広く用いられ、種類としてはマダケ、モウソウダケ、ハチク、メダケなどがみられる。タケが材料としてよく使用されるのは、生育が早く、しかも身近に豊富にあり、弾力性に富み、美しく、狂いが少なく、細工しやすいためである。竹材の豊富な日本は、籠をはじめとする竹製品の多い国である。
竹籠を製作するには、まず縦割りした竹を準備しなければならない。それに鉈(なた)を当て小割りする。その小割りした竹を鉈で皮竹と実竹に分ける。竹の厚さによって何枚にも分けるが、つねに2等分させながら作業を行う(竹へぎという)。この工程ではとりわけ節(ふし)をこすのに技術を要する。そのあと、底編み、腰立て、胴編み、縁仕上げを行う。底編み、胴編みの編み方には四つ目編み、六つ目編み、網代(あじろ)編み、ざる目編みなどがみられる。腰立てでは、底編みした竹を曲げながら立ち上がらせる。次の胴編みでは、腰立てした立竹をそのまま底編みと同じように編む場合と、別に用意した割り竹を横回しにして編むことがある。縁仕上げには胴編みした立竹でまとめる場合(共縁仕上げ)と、別に用意した内外2枚の縁竹をつける場合(当て縁仕上げ)がある。後者の仕上げには、野田口仕上げ、巻口仕上げ、蛇腹巻仕上げなどがみられる。
籠は用途によって種々のものがある。その大部分は日常生活のなかで使われてきた。食生活のなかでは夏に用いられる飯の腐敗を防ぐ飯籠、魚を入れる魚籠、弁当箱などがみられる。住生活では、衣類を収納するつづら、ぼてこ、挟箱(はさみばこ)がみられ、これらは籠の表面に紙を貼(は)り柿渋(かきしぶ)や漆を塗ったもので、嫁入り道具の一つとなっていた。また火鉢に炭を入れるための炭斗(すみとり)もある。
生業用具としても籠は用いられる。農耕用として田畑の刈り取った草を入れる草刈り籠、種籾(たねもみ)を入れ田畑に播(ま)く際に使用する種籠、苗代から田に苗を運ぶ苗運び籠などがある。茶業用として釜(かま)で茶を蒸すのに用いる茶蒸し籠(ざる)、漁労用として、川につけて魚を入れ込む仕掛けのモドリ、投網(とあみ)を入れる投網籠、延縄(はえなわ)を1本ずつもつれないように入れる縄籠、魚を入れる魚籃(びく)、養蚕用として、桑葉を入れる桑摘み籠、収穫した繭を入れる繭籠、畜産用として、田畑で使う牛の口にはめる口籠、ニワトリを庭に集めておくための伏せ籠、染織用として績(う)んだ藤(ふじ)、麻などを入れるのに用いる籠に紙を貼ったオゴケ(オボケ)などがある。運輸、交易具としては、草などを運ぶ背負い籠、天秤棒(てんびんぼう)の前後につける皿籠、腰にさげる腰付け籠、青果物を入れる青物籠、手紙・書類を入れる籠に紙を貼り漆や柿渋を塗った文箱(ふばこ)・書類入れ、防火の際に水を運ぶ紙バケツなどがある。以上のような籠類のうち簡単なものは農閑期に各家でつくられることもあるが、多くは専門の竹細工職人によって製作されてきた。職人には店を構えるものと、土地土地を回って製作するものがある。昨今、家庭用品をはじめとして廉価な工業製品にとってかわられ、竹籠をつくる職人は年々減少しつつある。
籠は生活用具のほかに、美術工芸品として愛好されることもある。とりわけ茶の湯の方面では、花入れ、茶箱、炭斗などにみられ、各時代の茶人の好んだ型、編み方が伝えられている。今日、工芸部門をもつ美術展では籠製品が陳列されている。さまざまのくふうされた複雑な編み目がみられ、また伝統的な型を出たオブジェも出品されている。
[芳井敬郎]
九州島西部にある有明(ありあけ)海沿岸、とくに佐賀県域に多い干潟(ひがた)荒野開発の干拓地地名。長崎県諫早(いさはや)市域などにもみる。佐賀平野の佐賀市川副(かわそえ)町域などでは、寛永(かんえい)~寛文(かんぶん)(1624~73)ごろの築造とされる潮止め第一堤塘(ていとう)の松土居(どい)(本土居)の内側に、次郎三籠、茅(かや)土居籠ほか多くの籠名が分布する。それらは松土居外側の搦(からみ)名干拓地に比し、内陸にあり、また成立年代も古く、異なった形態を示す。しかし、佐賀市嘉瀬(かせ)町域や鹿島(かしま)市域では、明治以後の干拓地でも籠名をみる。諫早市域では、嘉永(かえい)年間(1848~54)ごろまでの干拓地に五左衛門籠など籠名の干拓地が多く、それ以後は開(ひらき)名などに移行する。籠の由来については、潮止め築堤工事に石や土を入れた蛇籠(じゃかご)を用いたことによるという工法説など諸説がある。
[川崎 茂]
…〈編み〉に機械的工夫を加えたものが〈織り〉だともいえよう。
【考古学からみた編物】
人類は古くから編物を利用していたらしく,考古学的には網,籠(バスケット類),蓆(莚)(むしろ),網代などが確かめられる。だが編物は素材が一般に有機質だから腐りやすく遺物として残りにくいため,絵画資料によるほかは多くの場合,粘土面への圧痕などによってわずかにその存在を知るか,または出土する石・土製の錘をもって編物細工用の錘具あるいは漁網用の錘とみて,それらの存在を間接的に推知したりするにとどまる。…
※「籠」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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