蘭学書翻訳に際して日本で造られた訳語といわれる。「社会」と同様に、最初は①の仲間、結社の意味で用いられ、幕末・明治初期に society の訳語となる。しかし society の訳語としては「社会」が定着するに及び、「会社」は company の訳語として定着、もっぱら②の意味で使われるようになる。
何人かの人が共同して特定の経済的目的を達成しようとして設立する組織が会社であるが,〈会社〉に相当するものはすでに古代から存在した。おそらく,家長の死亡後に兄弟が財産を共同に管理したことに起源があると思われるが,やがて特定の目的をもった,しかも血族外の者が参加する団体が形成された。ローマ共和政末期から〈ある事業のための団体societas alicuius negotiationis〉(ソキエタス)が出現する。メンバーの出資した資本は共通財産とされ,その持分に従って利益と損失の配分が行われた。しかし,この団体は法人格と団体自体の財産を欠いていた。したがって,現行法から見れば会社というより組合であるが,ここでは広義に解することにする。この契約形態は中世に伝えられ,11世紀以降発展した地中海商業のなかで用いられた。しかし,この契約はメンバーの第三者に対する無限連帯責任を規定しているため,危険の伴う海上交易には不適当であった。このため海港都市において考案されたのが,原則として一航海ごとに完結し,出資者の有限責任を規定しているコンメンダcommendaである。これに類似した契約が8,9世紀のイスラム法学書に見られることが,近年指摘されている。一方,12,13世紀以降イタリアとフランドルを結ぶ線を軸として成長した内陸交易においては,コンパニーアcompagniaが発展した。これも家族的な事業団体を基盤に,家族以外の者や使用人を加えて成立したものである。一定の期間と資本金を定めて設立され,メンバーは第三者に対して無限連帯責任を負った。コンパニーアは,上述の資本金のほかに外部から預金を受け入れ,一定の利払いを約束した。14世紀フィレンツェのバルディ家,ペルッツィ家,アッチャイウォーリ家のごとく,ヨーロッパ各地に支店を設け,十分の一税など教皇庁の豊富な資金を動かし,商品取引のほかに為替や君主,諸侯への貸付けを行う者も現れた。16世紀南ドイツのラーフェンスブルク会社やフッガー家なども,ほぼ同様の企業形態をもっていた。イギリスではこの種の会社をパートナーシップpartnershipと呼んだ。それらとは別に,特定の地域,特定の経済活動を独占する商人団体が存在した。北ヨーロッパのハンザやイギリスのカンパニーcompanyがそれである。なかには一つの企業がそれ自体で独占団体を形成する場合もあった。ジェノバのマオーナMaonaのような植民会社(13世紀以後)や,同じくジェノバのサン・ジョルジョ銀行Casa di San Giorgio(15世紀に成立)のような公債所有者団体がそれである。17世紀初頭に設立されたオランダおよびイギリスの東インド会社も同様な独占会社であるが,会社の永続性,社員の有限責任などの原理を確立し,株式によって広い範囲から資本を調達した。以上のようにコンメンダ以下の多様な私的企業組織と独占的な商人団体が,近代における株式会社成立の前提であると考えられている。
→株式会社[歴史] →カンパニー制度
執筆者:清水 廣一郎
江戸時代にも同族的な共同企業(三井など),同業者相互の一時的な共同企業(組合商内・乗合商内),株仲間を基礎にした一時的な組合企業が存在したが,それらは概して機能資本家相互の無限責任的な出資によっており,有限責任制の欠如を共通の特徴としていた。欧米のカンパニーないしコーポレーションcorporationに関する知識は,幕末慶応年間(1865-68)に,福沢諭吉,渋沢栄一ら海外渡航者によって導入・紹介された。その訳語には〈商人会社〉〈商社〉〈仲間〉などがあてられたが,明治に入ると,立会結社ないし会同結社を縮めた〈会社〉という用語が確定した。維新政府は対外対抗のために民間資本の結集を図り,会社制度の導入を推進した。すなわち,1869年(明治2)には通商会社・為替会社の設立を指導し,71年には渋沢栄一著《立会略則》,福地源一郎著《会社弁》を大蔵省から刊行して会社知識の普及を図り,72年には国立銀行条例を制定して国立銀行の設立を促した。通商会社・為替会社を最初の株式会社とする説があるが,出資者の無限責任,出資と預金の混同などの点でそうはいえない。第一銀行から第百五十三銀行に至る国立銀行は株式会社としての実質を備えていた。また福沢諭吉の指導で1869年1月に設立された丸屋商社(のちの丸善株式会社)は,実質的に合資会社であった。国立銀行条例,取引所条例(1887),私設鉄道条例(同)などの特別法のほかは統一的な会社法を欠いたままに,会社の設立は活発となり,87年には会社数が2000社を上回り,翌年には資本金合計が1億円を超した。しかし89年秋からの恐慌で会社の破綻(はたん)が続出したことから,会社の法的規制は急務となった。その結果93年7月,商法(旧商法。1890公布)のうち,手形・小切手法,破産法とともに会社法が一部修正のうえで施行された。会社法によって会社は権利・義務の主体と認められ,その形態は,無限責任制の合名会社,無限・有限の両社員からなる合資会社,有限責任制の株式会社の3種に区分された。同法施行に伴って会社の多くは株式会社と名称を改め,また三井財閥は傘下各企業を合名会社に改組し,三菱社(1885年以前は郵便汽船三菱会社(略称,三菱会社)といった)は三菱合資会社に改組された。95年現在,会社は2458社を数え,その払込資本金合計は1億7405万円に達したが,株式・合資・合名会社の内訳は,社数でそれぞれ46.2%,45.3%,8.5%,資本金で87.0%,7.8%,5.2%であった。99年には商法が改正され(新商法。3月公布,6月施行),これに伴って株式合資会社が認められたほか,株式会社設立については免許主義を廃して準則主義が採用され,また無記名株・優先株の発行が認められた。会社法施行の前後から,日本の企業は会社形態を中心として発展を遂げていったが,鉱山業や製糸業などでは会社形態をとらないものが多かったことにも注意すべきである。その後1938年の有限会社法公布によって有限会社が認められ,また50年の商法改正(翌年施行)によって株式会社法は全面的に改正された。
執筆者:高村 直助
会社は共同企業組織の一種である。人が企業をつくって営利目的の活動をする場合,その組織には個人企業と共同企業とがあるが,共同企業には資本の集中,労力の補充,責任の分散といったメリットがあり,なかでも資本の集中がもたらす巨大資本のスケール・メリットは,現代の企業活動にとって強力な武器となる。共同企業組織のなかにも,同じ企業目的で集まり資本を拠出した人々が合同して企業主体となり,取引を行う場合にもその全員がそろって当事者となるような民法上の組合(民法667条以下)および船舶共有(商法693条以下),ならびに,資本を拠出した人々は企業の表面に出ないで,取引を行う場合にも特定の営業者個人が当事者となるような匿名組合(商法535条以下)があるが,会社は,それらとは違って,資本を拠出した人々の形成する団体それ自身が独立の企業主体(社団法人)となるものである。つまり,共同企業組織として会社をつくるということは,たとえば同じ企業目的で10人の人々が集まった場合,11人目の人(法人)を企業主体として生みだすということであって,企業取引の当事者は会社自身であることになるのである。
(1)準則主義と許可主義近代市民法のもとでは,人(自然人)は生まれながらにして法主体であるが,それ以外のどのようなものに法主体性(法人格)を与えるかということは,国家の立法政策によって定まる。会社を法人として認めることについても,政策のあり方としては,国家がその実体を審査したうえで適当と判断したものを法人として認めるやり方(許可主義)と,一定の法的条件を満たしたものを当然に法人とするやり方(準則主義)とがある。許可主義には,国家経済的ないしは国民経済的観点から国家(ことに行政機関)が巨大資本による企業活動に統制を加えることができるということのほかに,個人企業の法人成り(税法上のメリットや社会的信用を求めて形式的に法人格を取得すること)などによる会社の濫設(法人格の濫用)を排除することができるというメリットがある。その反面,許可行政の運用しだいによっては,国民の企業活動の自由を阻害するおそれが生ずるというデメリットがある。準則主義のメリット,デメリットは,ちょうどその逆になる。今日の日本では,国民の企業活動の自由を政策的に最も優先すべきものとして,準則主義をとっている。そのうえで,国家経済的ないしは国民経済的観点からの規制は独占禁止法などのいわゆる経済法にゆだねるとともに,法人格の濫用に対しては,裁判所がケースによっては会社の企業主体性を認めないこと(法人格否認の法理)によって対処している。準則主義のもとでは,会社をつくる(会社の設立)ということは,会社として法人格が認められるための法定条件を満たすことである。したがって,会社の設立が自由であるとはいっても,人が勝手にどのような型の会社をつくることもできるということにはならない。ある型の会社をつくるための法定条件を満たせば,その型の会社として法人格が認められるわけであり,法定条件が定められていないような型の会社はつくりようがないからである。もともと,〈会社〉という言葉は人々の集団・結社をさす広い意味のものであったが,今日,法律的には,その意味は限定されている。それは,同じような生活関係であっても,個人が当事者である場合と会社が当事者である場合とでは法規制が異なることがありうるわけであるから,どのような法規制が加えられるかということを明らかにするためには,法の適用対象となる生活関係を概念的に限定せざるをえないことによるのである。
(2)商事会社・民事会社,外国会社・内国会社 商法では,商行為の営業を目的として設立された社団を固有の意味の会社(商事会社)とし,さらに,商行為の営業を目的とはしなくても,営利目的で設立された社団を〈みなし会社(民事会社)〉としている(商法52条)。したがって,法概念としての〈会社〉とは,商事会社と民事会社の総称ということができる(保険業に認められている相互会社は,商行為をも営利をも目的とするものではないから,ここでいう会社にはあたらない。相互会社の設立や組織については保険業法が規制を加えているが,実質的にはかなり大幅に商法が準用されている)。また,外国の法律にもとづいて設立された会社(外国会社)もここでいう会社にはあたらないが,日本に本店を置いたり,あるいは日本での営業を主目的として設立された外国会社は,日本の商法にもとづいて設立された会社(内国会社)と同一の法規制を受ける。なお,法律の適用に関しては,商事会社と民事会社との間に差異はない。
(3)合名・合資・株式・有限の各会社 現行法上,会社の種類としては,商法において合名会社,合資会社,株式会社の3種と,さらに有限会社法において有限会社の計4種が認められている。これらは,社員(法律的には,社員とは会社という社団法人を構成している人すなわち共同企業主として資本を拠出した人をいうのであって,会社員の意味でのいわゆる社員とは異なる。いわゆる社員は,独立の企業主体である会社にとって雇傭契約の相手方である)の責任の差異を基準とする分類である。すなわち,会社が取引相手に対して債務を負い,会社の資産だけではその債務が完済できない場合に,社員が法律上どのような責任を負うかが会社の種類によって異なるのである。合名会社の社員は,直接無限責任を負う。すなわち,会社の資産だけで会社の債務が完済できないときには,合名会社の社員は,全員が債権者に対して連帯責任を負うのである(商法80条)。合資会社の社員には2種類あって,合名会社の社員と同様に直接無限責任を負う者(無限責任社員)と,あらかじめ決められた出資額の限度で債権者に対して連帯責任(直接有限責任)を負う者(有限責任社員)とに分かれる(商法146条)。これに対して,株式会社と有限会社の社員は,間接有限責任を負うだけである。すなわち,両会社の社員は出資額の限度でしか責任を負わず,しかも債権者に対する責任は会社が負うのであって,社員の責任は会社に対する出資義務にとどまるのである。社員が無限責任を負うためには,会社の経営をみずから行う権限が認められることを前提とする。したがって,合名会社や合資会社では,社員(無限責任社員)の人的信頼関係・個性というものが重要である(人的会社)。これに対して,社員が間接有限責任しか負わない場合には,所有と経営の分離が可能となり,会社に対する出資義務を履行する者でありさえすれば,社員の個性は格別に問題とはならないことになる。これを会社の債権者の側から見れば,合名会社や合資会社にあっては,社員(無限責任社員)の財産が究極的な担保となるのに対して,株式会社や有限会社にあっては,会社の資産だけが担保となる(物的会社)。本来,物的会社では,社員の個性が問題とならないのであるから,社員の交代は自由であるべきものである。つまり,社員が間接有限責任しか負わない以上,従来の社員の出資義務を肩代りする(実際には,出資義務はすでに履行されているから,それに見合う資金をその社員に支払って社員たる地位を買い取る)者がいれば,その者を新たな社員としてかまわないはずである。そのことによって,従来の社員は,自分の投資を回収することができる。
(4)所有と経営の分離 物的会社における〈所有と経営の分離〉および社員交代の自由は,不特定多数の資本を集めて,国民的規模で企業を行うための制度的条件であり,この点こそが共同企業主たる社員に間接有限責任のみを負わせることの本来の意義であった。そのため,商法上の物的会社である株式会社では,従来から,株式譲渡の自由という形で社員交代の自由が法的に保障されてきていた(株式)。その後,小規模で閉鎖的な物的会社に対する社会的需要が高まり,1938年に有限会社法が制定され,社員の総数が50人以下であることを条件として,社員の交代を制限しうる有限会社が認められ,さらに66年には商法が改正され,株式会社でも定款によって株式の譲渡を制限することが認められるに至っている(ただし,それらの場合にも,会社は持分または株式を譲り受けて新しく社員となる者を制限できるだけであって,従来の社員が投資を回収する道を閉ざすことはできない。有限会社法19条,商法204条ノ2以下)。いずれにしても,現代社会における企業の担い手として最も重要なものは,典型的な物的会社としての株式会社である。それは,巨大資本にもとづく企業活動がもたらす社会的な影響力の大きさのほかに,証券市場の発達によって,株式を市場で公開している会社に国民資本が参加し,企業の存在が国民経済における民主主義の保障という意義をももつことによるのである。
会社形態の企業組織に特有の法律を会社法という。その事業目的の種類に従って特別の法規制を加えられる会社もある(たとえば,銀行法,保険業法,通運事業法,証券取引法,商品取引所法などで,今日その数はふえてきている)が,すべての会社に共通して適用される企業組織法は主として,商法第2編および有限会社法であって,これを形式的意義の会社法という。会社もまた一個の法人として対外的に取引をする場合には個人企業と同じ資格・地位をもつものであるが,内部的に多数の利害関係を含むものであるため,その間の利害の調整とそれに伴う第三者の保護の問題を生ずるので,特別な法規制を必要とすることが会社法の立法理由である。ただし,人的会社については,会社自身は法人格をもつが,その内部組織は民法上の組合とほぼ同様であるため,固有の法規は数が少なく,多くは民法の組合に関する規定の準用によっている(商法68,147条)。これに対して,物的会社にあっては,第1に,所有と経営の分離に伴って企業の所有者である社員(株式会社では株主)の利益を保護する必要が生じるとともに,第2に,社員の間接有限責任に伴って会社債権者の利益を保護する必要が生じる反面,第3に,社員および会社債権者の利益保護が会社または経営者と取引する第三者の利益を害するものであってはならないという要請をも生みだすのである。このような錯綜した利害を調整するために,会社法のなかでもとくに株式会社法は,きわめて詳細・厳格な法規制を定めることにならざるをえない。さらに,最近は,巨大株式会社の占める社会的・経済的・政治的地位の重要性から,社員,会社債権者および取引上の第三者のほかに,工場立地の地域住民とか,大衆消費者といったような不特定多数の国民一般に対する責任,さらには政治倫理の確立についての責任も,会社法上の問題とされるようになってきている(企業の社会的責任)。
日本で初めて近代的な会社法が公布されたのは,1890年のいわゆる旧商法によってである。これは許可主義をとっていたが,施行期間は短く,99年の新商法の公布・施行によって取って代わられた。新商法は会社の設立については準則主義をとり,株式の分割払込みを認めるなど,その条件は比較的ゆるやかであった。その後,1911年に日露戦争後の日本の経済発展に合わせるための大改正と,38年に当時の経済新体制の一環としての大改正とが行われ(有限会社法もこの年に公布された),第2次大戦に至る。敗戦後,経済復興を担うべき企業の基礎の充実とその民主化とを図るため,48年には株式の全額払込制を採用し,次いで50年には株式会社制度を根本的に改める大改正が行われた。50年の改正は,それまでドイツ法的な制度であった日本の株式会社制度を,占領軍司令部の要求もあって,アメリカ法的な制度に改め,企業資本の調達を機動的にするために授権資本制度および無額面株式制度をとり入れ,また,経営の技術革新に対応して所有と経営の分離を徹底化(株主総会の権限を限定)するとともに,それに伴う取締役会制度の導入および取締役の責任の強化を図ったものである。なお,その際,取締役の業務執行をコントロールする機関としてのヨーロッパ的な監査役制度は廃止され,以後監査役は単なる会計監査機関となった。取締役の業務執行についてのコントロールは,合議体の取締役会が業務執行を決定する過程で自律的に行うべきものとされたのである(自己監査制度)。ところが,取締役会の自己監査制度は日本には十分に根づかず,74年には監査役が業務監査機関として復活し,さらに一定規模以上の大会社については,新たに会計監査人による会計の監査を必要とするものとされた(〈株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律〉)。この特例法によって,実質的には,株式会社は監査等の面で大会社と小会社とに分化されたことになる。その後,1950年改正以来の経済情勢の変動に合わせるとともに,企業の自主的監視体制強化による社会的責任の充実を図るため,81年に商法および上記特例法の大改正が行われ,株式単位の引上げ,株主総会の活性化(株主の提案権,取締役・監査役の説明義務,総会屋排除など),監査役・会計監査人の地位の強化,企業内容開示(ディスクロージャー)の強化などが定められ,さらに90年および93年には,監査役の任期伸長,大会社における監査役会制度の導入,株主代表訴訟(株主が会社のために取締役・監査役の責任を追及する訴訟)の手数料の定額化などの改正がなされた。これら一連の改正は,コーポレート・ガバナンス(〈企業統治〉)すなわち会社の倫理主体性の確保を目的とするものである。一方,97年には,合併手続の簡易化,ストック・オプション(あらかじめ定められた価額で取締役等が自社株を買い取る権利)のための会社自身による自社株の所得・保有の解禁など,経営の便益を目的とする改正も行われている。
日本では,前述のように明治維新後,西欧諸制度の輸入による日本独特の急激な近代化のなかで,まず政府が特殊会社(たとえば国立銀行)として西欧型の会社を設立したことがきっかけとなって,私企業にも会社ことに株式会社制度がひろまった。このことは,西欧における共同企業の歴史的発展段階を飛び越して,一挙に高度資本主義的な資本団体の形成だけが日本で一般化することを意味するものであったため,実質は家族的・人的組織であるような多くの企業にとって,制度と実態とのくい違いという日本固有の問題を生みだす原因となったのである。
社会・経済体制の歴史的な変動に対応して会社法はたび重なる改正を経てきているが,それらの改正は主として日本の国家経済および国民経済を支えるような大企業を対象として行われたものであり,数のうえでは大半を占める小規模同族的な会社にとっては,法規制が不適切な面もでてきている。そのため,アメリカの閉鎖会社closed corporationやイギリスの私会社private companyの立法例にならって,小規模株式会社に対する特別の立法を行うべきであるという社会的要請が生まれるに至る。ただし,日本では,せっかく小規模閉鎖的な共同企業のために考えだされた有限会社制度が所期のようには普及しなかったという現実がある(たとえば,日本とほぼ同様の会社制度をとるドイツなどでは,株式会社とくらべて有限会社の数が圧倒的に多い)。これは,本来はヨコ並びの会社の種類をタテ型の格付けとみる社会意識にもとづくものであって,ここに日本固有の会社制度が形成されていく原因の一つがある。
執筆者:倉沢 康一郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
日本での共同企業の法的形態には、民法上の組合、商法上の匿名組合、海上企業が利用する船舶共有、および会社法(平成17年法律第86号)上の会社等があるが、会社は、独立の法人格が付与されることによって企業存立の継続性が確保される点に特色があり、共同企業の利点を生かして営利活動を行うのに適した企業形態である。
会社法上、会社とは、株式会社、合名会社、合資会社または合同会社をいう(会社法2条1号。以下の条文番号は、とくに補足のない限りすべて会社法をさす)。商法時代と異なり、会社法は、会社につき、属性に着目した実質的定義規定を設けていない。
会社法上、会社には、株式会社と持分(もちぶん)会社との二つの類型があり、持分会社には、合名会社、合資会社および合同会社がある(2条1号、575条1項)。このように、日本の現行法上、会社の「種類」として、株式会社、合名会社、合資会社および合同会社の4種類が認められている。会社の種類が法律上限定されるのは、法律関係を明確にして、会社と関係をもつ者の予測可能性を高め、法的安定を図るとともに、監督規制を容易にするためである。会社法では、企業の実態に即した各種の法的企業類型の選択を可能とし、公開会社法制と非公開会社法制の均衡と調整を図っている。
[福原紀彦 2017年12月12日]
会社は、さまざまな資本を結合し集中させて事業活動による利益の獲得を実現する経済主体であり、機能資本の結合段階である合名会社から、機能資本と無機能資本の結合段階である合資会社へ、そして遊休無機能資本の糾合段階である株式会社という順に、資本集中を高度化させてきた。そして、制度上、機能資本家たる出資者は業務執行権限を有する無限責任社員と位置づけられ、無機能資本家で持分資本家たる出資者は業務執行権限を委譲する有限責任社員と位置づけられてきた。
会社の種類を区別する基準は、主として、会社債権者に対する関係からみた社員(出資者)の責任の態様にある。その態様として、社員が会社債権者に対しても直接に会社債務を弁済する義務を負う場合を直接責任といい、会社に対して出資義務を負うにすぎない場合を間接責任という。そして、それぞれの義務が一定額を限度とする場合を有限責任、そうでない場合を無限責任という。
[福原紀彦 2017年12月12日]
合名会社は、個人企業から進化した最初の会社企業形態であり、機能資本どうしが参加しあう資本集中形態である。古く、中世ヨーロッパにおいて先代の商売を引き継いだ複数の子らによって構成された団体がその源とされ、フランスで、商号に社員全員の名前を用いることを要求していたことに、「合名」という名称の由来があるといわれている。
合名会社は、会社債務につき会社債権者に対し連帯して直接無限の弁済責任を負う社員だけで構成される一元的組織の会社である。合名会社では、所有と経営とが一致しており、各社員が原則として業務を執行し、会社を代表する。社員の地位の譲渡は自由ではない。
合資会社は、合名会社から進化した会社企業形態であり、機能資本に加えて無機能資本が参加する資本集中形態である。合資会社は、中世イタリアにおけるコンメンダ(中世の地中海貿易で活用された一種の匿名出資組合)に起源があるといわれ、商法上の匿名組合と起源が同じである。機能資本家たる無限責任社員が所有とともに経営を担うが、無機能資本家たる有限責任社員においては所有と経営が分離している。合資会社は、二元的組織の会社であり、合名会社の社員と法的に同じ地位にたつ直接無限責任社員と、会社債務につき、会社債権者に対し連帯して直接の弁済責任を負うが、出資額を限度とする責任しか負わない直接有限責任社員とで構成される会社である。
株式会社は、本来、社会に散在する巨額の資本を広範囲・最高度に集中して(無機能資本を社会の要請する規模で機能させ)、大規模な企業活動を長期的・継続的に営むために案出された共同企業形態である。株式会社としての特徴をもつ会社は、歴史上、1602年に設立されたオランダの東インド会社が最初とされている。
株式会社は、会社債務につき会社債権者に対してはなんらの弁済責任を負うことなく会社に対して株式の引受価額を限度とする出資義務を負うにすぎない有限責任の社員(株主)だけで構成される一元的組織の会社である。株式会社は、その機能を発揮するために、株式制度および株主有限責任の原則を基本的特質としてきた。そして、株式制度のもとで、投下資本の回収を可能とするために株式譲渡の自由を原則とし、所有が分散しても資本多数決原理の導入によって統一的意思形成を可能とし、所有と経営を分離して合理的な経営を可能としている。また、株主有限責任によって投資の促進を図る一方で会社債権者の保護を強化している。
株式会社は、本来、大規模で公開的な会社形態として想定されるが、現実の利用形態はさまざまである(株式会社企業形態は、日本では、特質を一部変容させながら、小規模で閉鎖的な会社でも採用することができるようになっており、他方、かならずしも営利目的を有しない事業形態にも導入され始めている)。
なお、2005年(平成17)の会社法制定以前においては、間接有限責任社員のみで構成される一元的組織の会社として、おもに小規模閉鎖的な会社のために、有限会社が用意されていたが、会社法制定によってその根拠法である有限会社法が廃止され、株式会社制度に吸収された。ただ、有限会社法に基づいて設立された有限会社は、会社法施行後も引き続き「有限会社」という商号の使用を継続することが認められる。すなわち、このような有限会社は法律上では「株式会社」として存続するものであるが、その商号中に「有限会社」という文字を用いなければならない。このような株式会社を特例有限会社という。
[福原紀彦 2017年12月12日]
投資の促進をおもな目的とした共同事業形態(投資ビークル)が次々と誕生しており、それらは、会社型、信託型、組合型に分類される。そのうち、会社型とよばれる投資事業体には、金融の自由化に伴って認められた特殊な営利社団法人として、「資産の流動化に関する法律」(平成10年法律第105号。略称「資産流動化法」)による特定目的会社(SPC)、「投資信託及び投資法人に関する法律」(昭和26年法律第198号。略称「投資信託法」)による投資法人があり、また、「会社法」によって創設された合同会社がある。
合同会社は、日本版LLC(Limited Liability Company、有限責任会社)ともよばれ、創業の活発化、情報・金融・高度サービス産業の振興、共同研究開発・産学連携の促進等を図るため、会社法で新たに創設された会社の種類である。合同会社では、出資者の有限責任が確保されつつ、会社の内部関係については組合的規律が適用される。
[福原紀彦 2017年12月12日]
従前の商法上、会社はすべて「社団」であると規定されていた(2005年改正前商法52条、有限会社法1条)。一般的に、社団は組合(民法667条以下)に対する概念である。しかし、従前の商法は合名会社と合資会社の内部関係について民法の組合に関する規定を準用し(改正前商法68条、147条)、商法上の「社団」の意義をめぐって疑問が生じていた。この点では、従前の商法上の「社団」という用語は、共同の目的を有する複数の構成員(出資者=社員)の結合体たる団体を意味し、民法上の組合を含む広義で使用されていると解されていた(多数説)。これに対して、会社法上、会社は社団である旨の規定は、とくに置かれていないが、会社が社団であることに変わりはない。
[福原紀彦 2017年12月12日]
合名会社・合同会社・株式会社では、社員が1人となることが認められており、合資会社では、社員が1人となれば合資会社として存続はできないが(576条3項)、会社の解散原因とされず、定款のみなし変更により合名会社または合同会社として存続する(471条、641条、639条)。一人会社は、実質上、完全親子会社関係において存在を認める実益があり、理論上は、潜在的な社団性を認めればよい。
[福原紀彦 2017年12月12日]
会社はすべて法人である(3条)。すなわち、会社自体の名において、その構成員とは別個独立に権利能力を有し権利義務の帰属主体となり、訴訟当事者になることもでき、会社自体に対する債務名義によってのみ会社財産に対して強制執行をなすことができる。これにより、会社独自の排他的な責任財産が形成され、法律関係の処理が簡明になる。会社法は、会社の法人格取得の要件を定めて、その要件が満たされたときに当然に法人格を認める立場(準則主義)を採用している。なお、会社は活動の本拠たる住所と法律上の名称たる商号(6条)を備えることを有し、会社の住所は本店所在地にあるとされている(4条)。
[福原紀彦 2017年12月12日]
会社は営利を目的とする(105条2項参照)。ここに営利の目的とは、事業活動によって利益を獲得し、その得た利益を構成員に分配することを目的とするという意味である。この点で、相互会社や協同組合は、団体の活動によって構成員に経済的利益を付与することを目的にしており、その活動の結果として剰余金を構成員に分配することがあるとしても、分配することを目的とするものではない。
会社法上、このように株式会社が営利を目的とするところから(会社法の視角において)、株式会社では、「株主利益最大化原則」が会社関係者の利害調整の原則とされるとの理解が有力となっている。
[福原紀彦 2017年12月12日]
会社法上は、日本法に準拠して設立された会社を内国会社といい、外国の法令に準拠して設立された法人その他の外国の団体であって、会社と同種のものまたは会社に類似するものを「外国会社」という(2条2号)。とくに明文で定めない限り「会社」には外国会社は含まれず、外国会社の定義において法人格の有無を問わない。
[福原紀彦 2017年12月12日]
会社がその総株主の議決権の過半数を有する株式会社その他の当該会社がその経営を支配している法人として法務省令で定めるものを「子会社」といい、株式会社を子会社とする会社その他の当該株式会社の経営を支配している法人として法務省令で定めるものを「親会社」という(2条3号・4号)。対象となる範囲を株式会社に限定せず、判断基準として、議決権の過半数という形式基準に加えて実質的支配基準を採用する。子会社には外国会社も含まれると解される。実質的な支配基準は法務省令で定められ、連結計算書類の連結対象となる範囲と同等のものとされている(会社法施行規則3条)。
会社法上、(1)子会社による親会社株式の取得禁止(135条)、(2)親会社の監査役等の子会社調査権(381条3項)、(3)連結計算書類の開示(444条1項)、(4)親会社株主の子会社に対する閲覧等請求権(318条5項、371条5項、442条4項、125条4項、252条4項、433条3項)が定められるとともに、社外監査役・社外取締役の要件、監査役の兼任禁止の範囲等においても、子会社概念が重要な役割を果たしている。
[福原紀彦 2017年12月12日]
規模に関して、最終事業年度の貸借対照表上の資本の額が5億円以上または負債の合計額が200億円以上である株式会社を「大会社」といい(2条6号)、会計監査人の設置が強制される(328条)などの厳格な規律がなされている。
[福原紀彦 2017年12月12日]
公開性に関しては、すべての種類の株式が譲渡制限株式である全部株式譲渡制限会社(法文上は「公開会社でない株式会社」=非公開会社)と、そうでない「公開会社」とに区分される。
公開会社は、譲渡について株式会社の承認を要しない株式を発行している株式会社である(2条5号)。発行しているすべての種類の株式の譲渡が制限されていないことまで必要ではなく、そのうちの1種類の株式でも譲渡が制限されていなければ該当する。会社法では、公開会社の規律が強化して整えられるとともに、非公開会社の規律のなかに従来の有限会社規律が統合されている。
また、剰余金の配当その他の会社法所定(108条1項各号)の事項について内容の異なる2以上の種類の株式を発行する株式会社を「種類株式発行会社」という(2条13号)。ただし、この場合、種類株式発行会社とは、現に種類株式を発行している会社をさすものではなく、種類株式についての定款の定めがある会社であればよい。
[福原紀彦 2017年12月12日]
会社法においては、すべての株式会社に設置が義務づけられる機関は株主総会と取締役であり(295条、326条1項)、このほかは、定款の定めや法律の規定によって、取締役会、会計参与、監査役、監査役会、会計監査人、監査等委員会または指名委員会等・執行役を置くことができる(326条2項)。
そこで、会社法では、選択される機関設計により、「取締役会設置会社」「監査役設置会社」「監査役会設置会社」「会計監査人設置会社」「監査等委員会設置会社」「指名委員会等設置会社」「会計参与設置会社」の定義がなされる(2条7~12号)。なお、非公開会社では、監査役を置いても、監査の範囲を会計に限定することができる場合があり(389条1項)、そうした場合には監査役設置会社とはよばない(2条9号)。
[福原紀彦 2017年12月12日]
会社は、講学上、経済的・経営的な実質に着目して、人的会社と物的会社とに分類されてきた。すなわち、社員の個性と会社企業との関係が密接で、社員個人の信用が対外的信用の基礎となるなど、企業の人的要素が重視されている会社を人的会社といい、他方、社員の個性と会社企業との関係が希薄で、会社財産が対外的信用の基礎となるなど、企業の物的要素が重視されている会社を物的会社といってきた。合名会社は人的会社の典型であり、株式会社は物的会社の典型である。合資会社は両者の中間形態であるが、人的会社に属する。しかし、新たに創設された合同会社は、このような人的会社と物的会社との区分になじまない。
[福原紀彦 2017年12月12日]
一般法である会社法の規定だけに従う会社を一般法上の会社といい、その他の特別法の規定にも従う会社を特別法上の会社という。特別法上の会社には、特定の会社のために制定された特定特別法(日本電信電話株式会社法等)に従う会社(特殊会社)と、特定の種類の事業を目的とする会社のために制定された一般特別法(銀行法・保険業法等)に従う会社とがある。
[福原紀彦 2017年12月12日]
『鳥山恭一・福原紀彦・甘利公人・山本爲三郎・布井千博著『会社法』第2次改訂版(2015・学陽書房)』▽『江頭憲治郎著『株式会社法』第6版(2015・有斐閣)』▽『落合誠一著『会社法要説』第2版(2016・有斐閣)』▽『神田秀樹著『法律学講座双書 会社法』第19版(2017・弘文堂)』▽『福原紀彦著『企業法要綱3 企業組織法――会社法等』(2017・文眞堂)』
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…株式会社は会社の一種で,会社の構成員である社員(株式会社においては,株主と呼ばれる)の地位が株式という細分化された割合的単位の形をとり,同時に,すべての株主が,会社に対して,その出資額を限度とする有限責任を負担するだけ(いいかえると,株主は会社の債権者に対してはなんらの責任を負わない)の形態のものである。
【法的にみた株式会社】
上記のような株式会社の制度的特質は,個性を喪失した大衆投資家を株主とすることによって,大規模な資本の集中を図るための必要から生じている。…
…カンパニーcompanyは,広義には中世のギルドから現在の諸種の〈会社〉企業体までを含むが,とくに中世末,近世初期のイギリスに成立した特許会社chartered companyをさす。巨額の上納金や貸上げの代償として国王から与えられた特許状によって独占権を認められたこれらの企業体は,植民や鉱山業などを含む経済活動の多様な分野で成立したが,その中心は貿易業にあった。…
…社団法人は,公益を目的として設立することも,営利を目的として設立することもできる(民法34条,35条,商法52条)。営利を目的とする社団法人を会社といい,通常,社団法人という場合には,公益社団法人を指している。
[設立手続]
公益社団法人を設立するためには,社団法人を設立しようとする2人以上の者が,設立の意思をもって法人の根本規則である定款を定めて書面にしなければならない。…
※「会社」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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