地獄(バルビュスの小説)(読み)じごく(英語表記)L'Enfer

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

地獄(バルビュスの小説)
じごく
L'Enfer

フランスの作家バルビュスの長編小説。1908年刊。パリのあるパンシオンに寄宿する懐疑的詩人が、自室の壁の穴から、隣室に展開するさまざまな人間模様を目撃する。兄妹として育てられた幼い男女の初めて性に触れるおののき、人目を恐れる同性愛の2人の女、医師と病人、死の間近い老人とその年若い婚約者など、さまざまな境遇の屈折した人間像が赤裸々に描き出される。一見、自然主義的作風で猟奇的外観のこの作品には、若き日の作者の人間観、社会観が明瞭(めいりょう)に読み取れる。後年、社会主義の道をたどる作者の姿勢がすでに観取されよう。

稲田三吉

『田辺貞之助訳『地獄』(岩波文庫)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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