寂然(読み)セキゼン

デジタル大辞泉 「寂然」の意味・読み・例文・類語

せき‐ぜん【寂然】

[ト・タル][文][形動タリ]静かでもの寂しいさま。じゃくねん。
天地は―として静である」〈菊池寛忠直卿行状記
[類語]静かひそやかしめやか静寂静粛静閑閑静閑散閑寂清閑しじま森閑深深しんしん森森しんしん沈沈ちんちんせき・じゃく寂寂せきせき・じゃくじゃくげき闃然げきぜん粛然

じゃく‐ねん【寂然】

[ト・タル][文][形動タリ]
ひっそりとして静かなさま。寂しいさま。せきぜん。
「院は―として人もないようであった」〈露伴・連環記〉
煩悩ぼんのうを去って、心が静かであるさま。
「―と黙考ていなりし時も」〈宙外・ありのすさび〉
[類語]寂しい寂寥せきりょう寂寞せきばく索莫さくばく落莫らくばく蕭然しょうぜん蕭蕭しょうしょう蕭条しょうじょう蕭殺しょうさつ寥寥りょうりょう荒涼寂然せきぜん

じゃく‐ぜん【寂然】

[ト・タル][文][形動タリ]じゃくねん(寂然)

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「寂然」の意味・読み・例文・類語

せき‐ぜん【寂然】

  1. 〘 形容動詞ナリ活用タリ 〙 ( 「せき」「ぜん」は、それぞれ「寂」「然」の漢音 )
  2. 寂しいさま。静かなさま。ひっそりとして静かなさま。寂々(せきせき)。じゃくねん。
    1. [初出の実例]「令伊(尹歟)・兼通上殿上、聊調酒食出殿上、依寂然也」(出典九暦‐九暦抄・天暦二年(948)八月一九日)
    2. 「須臾の間に、さっとやむれば、寂然として」(出典:中華若木詩抄(1520頃)上)
    3. [その他の文献]〔易経‐繋辞上〕
  3. 物足りなくてわびしいさま。
    1. [初出の実例]「依前例、而下部等申寂然由仍臨時賜之」(出典:御堂関白記‐長和元年(1012)四月二七日)

じゃく‐ねん【寂然】

  1. 〘 形容動詞ナリ活用タリ 〙 ( 「じゃく」「ねん」はそれぞれ「寂」「然」の呉音 )
  2. 煩悩をはなれ、心の動揺を去って、心静かであるさま。
    1. [初出の実例]「寂然として衆悪を滅し、恬澹として一心を得」(出典:正法眼蔵(1231‐53)出家功徳)
  3. 静かなさま。また、さびしいさま。
    1. [初出の実例]「寂然閑院当馳道、祗候仙輿一路」(出典:凌雲集(814)夏日陪幸左大将藤原冬嗣閑居院応製〈滋野貞主〉)
    2. 「両手を両腋に支って寂然(ジャクネン)と立ったが、天には星、地には虫の音」(出典:青春(1905‐06)〈小栗風葉〉秋)

じゃく‐ぜん【寂然】

  1. 〘 形容動詞ナリ活用タリ 〙じゃくねん(寂然)
    1. [初出の実例]「端座して頭を(た)れ寂然(シャクゼン)として気(いき)絶ぬ」(出典:私聚百因縁集(1257)七)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

日本大百科全書(ニッポニカ) 「寂然」の意味・わかりやすい解説

寂然
じゃくねん

生没年未詳。平安末期の歌人。「じゃくぜん」ともよぶ。俗名藤原頼業(よりなり)。父は正四位下丹後守(たんごのかみ)藤原為忠(ためただ)、母未詳。兄為業(ためなり)(寂念)、為経(ためつね)(寂超)はともに歌人で、大原(常磐(ときわ))三寂と称された。生年は1118年(元永1)ころと推定され、最終事蹟(じせき)は1182年(寿永1)の「寿永(じゅえい)百首」家集編纂(へんさん)である。近衛(このえ)院東宮の時の蔵人(くろうど)等を務めるが、1143年(康治2)以後まもなく出家、唯心房(ゆいしんぼう)寂然と号して大原に隠棲(いんせい)した。歌人として公的な場への出詠はほとんどないが、西行(さいぎょう)と親しく、歌風も西行に通うものがあり、自然詠、釈教歌に優れるほか、今様(いまよう)の作もある。家集数種のほか『法門(ほうもん)百首』がある。『千載集』以下に入集(にっしゅう)。

[川上新一郎]

 ことしげき世をのがれにしみ山べにあらしの風も心してふけ

『井上宗雄著『平安後期歌人伝の研究』(1978・笠間書院)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

普及版 字通 「寂然」の読み・字形・画数・意味

【寂然】せきぜん・じやくぜん

ひっそりとしずか。〔易、辞伝上〕易は思ふこと无(な)きなり。爲すこと无きなり。寂然として動かず。感じて天下の故(こと)にず。天下の至に非ずんば、其れ孰(たれ)か能く此れに與(あづか)らん。

字通「寂」の項目を見る

出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報

デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「寂然」の解説

寂然 じゃくぜん

?-? 平安時代後期の歌人,僧。
藤原為忠の子。康治(こうじ)2年(1143)壱岐守(いきのかみ)に任じられたが,辞退。まもなく出家し天台をまなぶ。京都大原に隠棲(いんせい)。西行と親交をもち,「千載和歌集」以下の勅撰(ちょくせん)集に48首のる。兄の藤原為業(ためなり)(寂念)・為経(ためつね)(寂超)とともに「常磐(ときわの)(大原)三寂」とよばれた。家集に「寂然集」など。俗名は藤原頼業(よりなり)。号は唯心房。法名は「じゃくねん」ともよむ。
【格言など】吹く風にはな橘やにほふらんむかしおぼゆるけふのにはかな(「新古今和歌集」)

出典 講談社デジタル版 日本人名大辞典+Plusについて 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内の寂然の言及

【大原の三寂】より

…平安末期,藤原為忠の子藤原為業藤原為経藤原頼業の三兄弟の称。三者は官仕を辞して出家し,それぞれ寂念・寂超・寂然と称し,歌人として活躍,のち三寂と称せられた。寂超・寂然は大原に住んだが,寂念が大原に住んだ証はなく,父の別荘のあった地にちなみ常磐の三寂と呼ぶほうがよいとする説もある。…

【藤原頼業】より

…勅撰集には《千載集》に初出。蔵人,左近将監を経て1148年壱岐守,次いで出家して大原に住み,唯心房寂然(ゆいしんぼうじやくねん)と号した。大原の三寂(常磐(ときわ)の三寂)の一人。…

【唯心房集】より

…唯心房寂然(じやくねん)(俗名藤原頼業(よりなり))の家集。平安末期。…

※「寂然」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

プラチナキャリア

年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...

プラチナキャリアの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android