平野(へいや)(読み)へいや(英語表記)plain

翻訳|plain

日本大百科全書(ニッポニカ) 「平野(へいや)」の意味・わかりやすい解説

平野(へいや)
へいや
plain

起伏の小さい低い平地。平野は、地質学的尺度で数万年あるいは数百万年以上の長期にわたって安定している地域や、沈降している地域に形成されやすく、前者侵食によって、後者は堆積(たいせき)によって形成される。したがって平野は、その成因から、侵食平野erosional plainと堆積平野sedimentary plainに大きく二分することができる。大陸的規模で徐々に上昇あるいは沈降するような大陸では、大規模な平野が形成され、新期造山帯の中に形成された平野は一般に規模が小さい。

[市川正巳]

侵食平野

長期にわたって地殻が安定している地域では、地表は侵食されて波浪状の小起伏をもつ低地が形成される。これがいわゆる準平原で、構造平野とともに侵食平野を代表する。

(1)準平原peneplain 準平原は海面すれすれの低位置にあって、大きな起伏のあった地形が低く平坦(へいたん)となり形成された平野で、たとえば北朝鮮の平壌を中心とした楽浪(らくろう)準平原、中国東北部の遼東(りょうとう)準平原などがその典型である。

(2)構造平野structural plain 古い地質時代の古生代中生代の地層がほぼ水平に堆積し、古生代以後地殻が安定して、侵食されて水平に近い地層は地表と交差して、広大な侵食平野となる。これが構造平野とよばれるものである。この構造平野は、一般に地球上でもっとも古い岩石である先カンブリア時代や古生代カンブリア紀の結晶質岩石からなる地域の周辺の低地に分布し、古い岩石を不整合に覆っている。要するに古い岩石地域が古生代以降に安定し、その岩石が侵食して周辺に堆積して生じたことによる。地殻が安定しているので広大な面積にわたってほぼ水平か、わずかに傾斜した古・中生層からなり、地表は侵食されて起伏は波浪状で小さいのが一般である。北アメリカのカナダ楯状(たてじょう)地にみられる、古い結晶質岩石地域とロッキー山脈に至る間の広大な平野は構造平野である。また、ヨーロッパ・ロシアの大平原も構造平野の典型である。

 侵食平野としては、このほかに、乾燥地域の山麓(さんろく)に連なる山麓緩斜面(ペディメントpediment)や、これらが連続して連なっているペディプレーンpediplainも、また大陸氷の侵食によって形成された氷食平野なども侵食平野に含まれる。日本にはこのような侵食平野は存在しない。

[市川正巳]

堆積平野

堆積平野にも、その形成される原因や場所によってさまざまな種類がある。

(1)沖積平野alluvial plain 河川の堆積作用によって形成された平野で、河川は勾配(こうばい)の急な山地などを流れて侵食し、また岩屑(がんせつ)を運搬して、中流や下流の低地に堆積して平野を形成する。山間の谷間に氾濫(はんらん)して形成されたものを谷底平野(こくていへいや)という。谷底平野には、数回にわたる河川の氾濫によって形成された氾濫平野と、低地を埋積して堆積物の厚い埋積谷とがある。山地から急に平野に出る所では、河川の勾配が緩やかになるため、いままで運搬していた礫(れき)や砂を堆積して扇状地を形成する。扇状地も沖積平野の一種であるが、谷底平野や三角州平野に比べて表面傾斜が大きく、地下水の賦存状況や土地利用などに特色がある。扇状地の下流や広い氾濫原では、砂質や泥質からなる自然堤防が発達する。そして、自然堤防はその背後にいわゆる後背湿地を形成する。

 河川が海や湖に注ぐ河口付近には、細粒物質の砂や泥からなる低湿の三角州を形成し、いわゆる三角州平野となる。沖積平野は現世の堆積物からなる平野で、現在は堆積が行われない段丘や台地は、一般に洪積段丘、洪積台地と称し、沖積平野と区別する。現在はいわゆる自然史的自然が消えて、各地で人工の河川が増加し、河川本来の性格が失われてしまっている。

(2)氷堆石平野(ひょうたいせきへいや)moraine plain 氷河が大小さまざまな岩屑を運搬し、氷河が融解すると、運搬された物質(堆石=モレーン)が堆積して氷堆石平野をつくる。また、いわゆる融氷水が比較的均質の物質を運搬して、氷堆石平野となる。氷堆石平野にはドラムリンdrumlin、エスカーesker、モレーンmoraineなどの小丘が分布するので、一般に小起伏に富むとともに地味が肥えていない所が多い。

(3)風成平野aeolian plain 風食作用によって生じた土砂や塵埃(じんあい)が、いったん空中に運ばれて遠い地方にまで運ばれ、風成層をつくり、その風成層からなる平野である。雨の少ない乾燥地域にみられる砂丘からなる平野で、きわめて遠方に運ばれて堆積した黄土からなる平野は風成平野である。中国の華北平野の広大な地域にわたって厚く堆積した黄土はもっとも典型的な風成平野である。関東平野も関東ローム(火山灰)層に覆われている台地が広いので、その意味では風成平野の部分が広いともいえる。

(4)海岸平野coastal plain 陸地に沿った海岸の一部が海面上に現れて生じた低く平らな地域で、おもに海底の堆積物によって覆われている。アメリカ合衆国の大西洋岸からメキシコ湾岸に沿う帯状の平野は、世界でももっとも著名な海岸平野である。日本では、越後(えちご)平野(新潟県)、九十九里浜(くじゅうくりはま)海岸(千葉県)、宮崎平野(宮崎県)などは、海岸平野の好例である。同じ海岸平野という名称でも、いわゆる堆積平野と異なる海岸平野もある。すなわち、海側に傾く硬軟の互層からなるケスタ状の開析された海岸平野があり、これをとくに帯状海岸平野(おびじょうかいがんへいや)と称する。これは侵食によって形成された海岸平野で、通常の海岸平野と区別する。

[市川正巳]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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