精選版 日本国語大辞典「平」の解説
ひら【平】
[1] 〘名〙
① (形動) たいらであること。平坦ででこぼこがないこと。また、そのさま。
※枕(10C終)一六一「屋のさまいとひらにみじかく瓦ぶきにて、唐めき」
② (形動) なみであること。普通であること。特別でないこと。また、そのさまやそのもの。
※玉塵抄(1563)七「平のほしい時にせうずる酒のわるいを魯薄と異名に云たぞ」
※今年竹(1919‐27)〈里見弴〉夏霜枯「平(ヒラ)の座敷では可なり我儘に振舞ってゐる春代も、旦那の前には」
③ ある組織のなかにいて、役職につかず指揮権をもっていないこと。また、そのさまやその人。
※桐畑(1920)〈里見弴〉好敵手「むかうは支店長の令嬢で、こっちは平(ヒラ)の書記だった」
※浮世草子・好色五人女(1686)二「近所の出入のかかども集り椀家具壺平(ヒラ)るすちゃつ迄取さばき」
⑦ 「ひらどま(平土間)」の略。
※談義本・八景聞取法問(1754)二「此中も太夫の一より平(ヒラ)の三迄続きさじき、客は大身とおぼしく」
⑧ 「ひらがわら(平瓦)」の略。
※滑稽本・大千世界楽屋探(1817)下「棟も平(ヒラ)も指替に為ったが、爰で昔瓦の根性骨を見せる所さ」
⑨ 「ひらてん(平点)」の略。
※俳諧・染糸(1704)「添削古法は、長・珍重・平、この三つの外なし。〈略〉平は勿論点の通りにして、別の子細なし」
⑩ 「ひらしゅう(平衆)」「ひらざむらい(平侍)」などの略。
※光台一覧(1775か)三「諸家之内、平と申衆中は、花園(園家)、橋本(三条家)〈略〉藤原、源家の庶流、家筋に依て役も無レ之故、平と申なり」
⑪ 魚「たい(鯛)」の異名。
※日本釈名(1699)中「鯛(たい)〈略〉又俗語に、ひらと云」
⑫ ⇒ひら(曹白魚)
[2] 〘語素〙
① 名詞の上に付けて、平らである意を表わす。「平茶碗」「平屋」など。
② 名詞の上に付けて、なみである、特別でないの意を表わす。「平百姓」「平侍」など。
[3] 〘接頭〙 動作性の意をもった語の上に付けて、ただいちずに、ひたすらにの意を添える。「ひらあやまり」「ひら押し」など。
た‐いら ‥ひら【平】
(「ひら(平)」に接頭語「た」の付いたものか)
[1] 〘形動〙
① 高低・凹凸のないさま。傾斜や起伏のないさま。ひらたいさま。たいらか。
※書紀(720)神代下「浮渚在(うきじまり)平処(タヒラ)に立たして〈立於浮渚在平処、此をば羽企爾磨梨陀毗邏而陀陀志(うきじまりタヒラにたたし)と云ふ〉」
※伊勢物語(10C前)八二「おしなべて峯もたひらになりななむ山の端なくは月も入らじを」
② 平均であるさま。
※新浦島(1895)〈幸田露伴〉八「此の公債の利子が〈略〉五分と平(タヒラ)に定ったで」
③ 性格が落ち着いているさま。気分などにむらがなく安定しているさま。
※都会(1908)〈生田葵山〉荒野「幾分か心が平坦(タヒラ)になった」
④ ひざや足などの構えをくずして、楽なすわり方をするさま。
※洒落本・辰巳之園(1770)「さあ、みんな平(タイラ)に平(タイラ)に。〈略〉是是、屋敷はやしき、爰はここじゃ、平(タイラ)にし給へ」
[2] 〘名〙 暦の十二直の一つ。婚礼、転宅等には吉、種まき、みぞほり等には凶という日。
※人情本・春色梅児誉美(1832‐33)序「建とは仕立の切形よく、平(タイラ)は表紙に凹(むら)もなく」
[3] 福島県いわき市の地名。旧平市。夏井川の下流域を占める。慶長七年(一六〇二)鳥居氏一〇万石の城下町となり、のち、内藤氏七万石、井上氏六万石、安藤氏五万石が入封。常磐炭田の開発が進むにつれて浜通り第一の消費都市に発展した。昭和一二年(一九三七)市制。同四一年周辺市町村と合併していわき市が成立、市役所が置かれ市の中心となる。
[語誌](1)「名義抄」や「色葉字類抄」では「平」に「タヒラ」と「タヒラカ」の訓が併記されているが、訓点資料などでは平・夷をタヒラカと訓む例が多い。
(2)「たいら」と「たいらか」の意味の違いははっきりしないが、抽象的な物事については多く「たいらか」が用いられた。
(2)「たいら」と「たいらか」の意味の違いははっきりしないが、抽象的な物事については多く「たいらか」が用いられた。
ひら‐た・い【平】
〘形口〙 ひらた・し 〘形ク〙
① 厚さが少なくて、横に広い。また、平坦で凹凸がない。たいらである。ひらったい。
※浮世草子・好色三代男(1686)四「茶屋染のかたびらに黒の帯ひらたく、木綿たびの清きをはいて行を」
※開化の入口(1873‐74)〈横河秋濤〉下「頭尖り鼻平坦(ヒラタ)く、唇厚く」
② 角だたずまるみがある。柔らかい。やさしい。また、腰が低い。
※歌舞伎・宿無団七時雨傘(1768)一「情婦(いろ)に離れるに依って厭ぢゃ、何と平(ヒラ)たいものか」
※明暗(1916)〈夏目漱石〉一〇四「彼は何時の間にかお延に対して平(ヒラ)たい旦那様になってゐた」
③ わかりやすい。通俗である。平易である。ひらったい。
※浄瑠璃・伽羅先代萩(1785)七「表裏を以て郡内を貪掠(むさぼりかすめ)る明衡殿。ひらたう言ばマア国賊」
※社会百面相(1902)〈内田魯庵〉鉄道国有「私しの考を平たくお咄し申すと」
④ 押しが強い。無遠慮である。ずぶとい。ひらたくたい。
※評判記・吉原すずめ(1667)上「いんぎん過たるも、何とやらん、しょしんめきたり、又、あまりひらたきもわろし」
ひらた‐さ
〘名〙
へい【平】
〘名〙
① (形動) 高低やでこぼこがないこと。また、水平であること。また、そのさま。たいら。
※小学読本(1874)〈榊原・那珂・稲垣〉二「方を度るには、矩を法とし、平を取るには準を以てし、直を知るには、縄を則とす」 〔淮南子‐本経訓〕
② (形動) ごくあたりまえであること。特にかわったことがなく、おだやかであること。わだかまりのないこと。また、そのさま。平穏。
※正法眼蔵(1231‐53)夢中説夢「平をうるに平をみるなり」 〔荘子‐盗跖〕
③ (形動) 力などの平衡を保つこと。また、そのさま。
※経国美談(1883‐84)〈矢野龍渓〉後「希臘の平和は列国の権衡其の平を得るに在り」
④ 熱、寒などの四気のいずれをも兼ね備えたもの。転じて、いろいろな要素を兼ね備えながら、くせのないこと。
※随筆・独寝(1724頃)上「地女は熱の物也。女郎さまは平のものなり」 〔本草綱目‐序例上・升降浮沈〕
たいら・げる たひらげる【平】
〘他ガ下一〙 たひら・ぐ 〘他ガ下二〙
① 物の起伏をなくす。高低をなくす。平らにする。ならす。
※万葉(8C後)一七・三九五七「夕庭に 踏み多比良気(タヒラゲ)ず」
※栄花(1028‐92頃)うたがひ「この山の頂をたいらげさせ給て」
② さまたげとなるものを、平定する。討ちしずめる。退治する。取り除く。
※書紀(720)神代下(兼方本訓)「経津主神、岐(くなと)の神を以て郷導(くにのみちひき)と為て、周流(めぐり)つつ削平(タヒラク)」
※平家(13C前)一〇「度々の朝敵をたいらげ」
③ 食べ物や飲み物を、残らず食べつくす、または飲みつくす。
※雑俳・柳多留拾遺(1801)巻一九「ひやめしをたいらげて行下女がはは」
たいら・ぐ たひらぐ【平】
[1] 〘自ガ四〙
① 起伏がなく平らになる。平坦になる。
※更級日記(1059頃)「山の頂の少し平ぎたるより、煙は立ちのぼる」
② 乱れやさわぎなどが平穏にしずまる。また、乱れやさわぎが起こらないで平安である。
※栄花(1028‐92頃)玉の飾「御もののけたひらぎたるさまなれば」
③ 病気がなおる。平癒する。
※天理本金剛般若経集験記平安初期点(850頃)「了然(さやか)に痊復(タヒラキ)ぬ」
※読本・南総里見八犬伝(1814‐42)九「病着(いたつき)いよよ平(タヒラ)ぎ給へば」
[2] 〘他ガ下二〙 ⇒たいらげる(平)
たいら たひら【平】
[一] 姓氏の一つ。
ひら‐・む【平】
[1] 〘自マ四〙
① 平たくなる。ひらぶ。
※竹取(9C末‐10C初)「手にひらめる物さはる時に」
② 平伏する。ひらぶ。
※今昔(1120頃か)二七「文挟に文を指て、目の上に捧て平みて」
③ 恐れて勢いが弱る。気力がくじける。
※幸若・ほり川(室町末‐近世初)「大のまなこににらまれて、すこしひらむ其隙に」
[2] 〘他マ下二〙 ⇒ひらめる(平)
ひらっ‐た・い【平】
〘形口〙 (「ひらたい」の変化した語)
① =ひらたい(平)①
※滑稽本・八笑人(1820‐49)初「眼のしょぼしょぼした鼻のひらったい、歯の黄ろい」
② =ひらたい(平)③
ひらった‐さ
〘名〙
ひょう ヒャウ【平】
〘名〙 (「ひょう」は「平」の慣用音)
① =ひょうしょう(平声)
※作文大体(1108頃か)「鶴膝病者五言上句第二字与二不句第九字一、下同平上去入是也」
② 「ひょうじょう(平調)」の略。〔拾芥抄(13‐14C)〕
ひら‐・める【平】
〘他マ下一〙 ひら・む 〘他マ下二〙 ひらたくする。たいらにする。
※平治(1220頃か)上「弓をひらめ、矢をそばめて通し奉る」
ひら・し【平】
〘形ク〙 ⇒ひらい(平)
ひら‐た・し【平】
〘形ク〙 ⇒ひらたい(平)
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報