床・懐(読み)ゆかしい

精選版 日本国語大辞典 「床・懐」の意味・読み・例文・類語

ゆかし・い【床・懐】

〘形口〙 ゆかし 〘形シク〙 (動詞「ゆく(行)」の形容詞化。心ひかれ、そこに行きたいと思う意。「床」「懐」はあて字)
① それに心がひかれ、実際に自分で接してみたいという気持を表わす。
(イ) どんな様子か見たい。行って、それを見たい。また、心ひかれている人に、会いたい。
※竹取(9C末‐10C初)「五人の中に、ゆかしき物をみせ給へらんに、御心ざしまさりたりとてつかうまつらん」
(ロ) 何であるか知りたい。誰であるか知りたい。どんな様子や状態か知りたい。
大和(947‐957頃)四「四位にもなるべき年にあたりければ、むつきの加階たまはりの事、いとゆかしうおぼえけれど、京よりくだる人もをさをさきこえず」
更級日記(1059頃)「いかなるひさごのいかになびくならむと、いみじうゆかしくおぼされければ」
(ハ) 演奏、声などを聞きたい。
源氏(1001‐14頃)若菜下「琴は習はしたてまつり給はざりければ、この折をさをさ耳なれぬ手ども弾き給ふらんを、ゆかしとおぼして」
(ニ) 人や物を、自分のものにしたい。欲しい。
落窪(10C後)二「これもよも忘れ侍らじ、又もゆかしう侍り」
② なつかしい。恋しい。慕わしい。
梁塵秘抄(1179頃)二「恋しとよ君恋しとよゆかしとよ、逢はばや見ばや見ばや見えばや」
平家(13C前)六「むかしの名残もさすがゆかしくて、手なれし琴をひく程に、やすうもきき出されけりな」
情趣気品、優美さなどがあって何となく心がひかれる。上品で深みがある。
※俳諧・野ざらし紀行(1685‐86頃)「山路来てなにやらゆかしすみれ草」
人情本・春色梅美婦禰(1841‐42頃)三「さすが唄女(げいしゃ)となりぬれど、元は医学(くすし)の娘にて〈略〉昔が知れてゆかしけれ」
ゆかし‐が・る
〘他ラ四〙
ゆかし‐げ
〘形動〙
ゆかし‐さ
〘名〙

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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