(読み)オン

デジタル大辞泉 「恩」の意味・読み・例文・類語

おん【恩】[漢字項目]

[音]オン(呉)(漢)
学習漢字]6年
めぐみ。いつくしみ。情け。「恩愛おんあい・おんない恩恵恩師恩賜恩赦恩情恩人恩寵おんちょう恩典感恩旧恩君恩厚恩高恩鴻恩こうおん謝恩重恩大恩朝恩仏恩報恩忘恩
[名のり]おき・めぐみ

おん【恩】

人から受ける、感謝すべき行為。恵み。情け。「を施す」
[類語]恩義芳恩恩恵恩沢恵沢賜物たまもの恵みお蔭

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精選版 日本国語大辞典 「恩」の意味・読み・例文・類語

おん【恩】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 目上の人から受ける感謝すべき行為。めぐみ。なさけ。いつくしみ。
    1. [初出の実例]「仁及動植。恩蒙羽毛」(出典:続日本紀‐養老五年(721)七月庚午)
    2. 「いまにそのおんはわすれ侍らねど」(出典:源氏物語(1001‐14頃)帚木)
  3. 封建時代、主人への奉公に対する給付として所領などを得ること。御恩。
    1. [初出の実例]「伊豆乃国平井郷の事は、〈略〉長棟が養父憲基のかたよりおんに得て持ち候」(出典:上杉家文書‐文安四年(1447)九月一八日・上杉長棟置文)
  4. 給与。手当。扶持。
    1. [初出の実例]「かやうなる者どもを、世になければ、恩をもせで、はなれん事こそ無念なれ」(出典:曾我物語(南北朝頃)九)

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普及版 字通 「恩」の読み・字形・画数・意味


常用漢字 10画

[字音] オン
[字訓] めぐみ・いつくしむ

[説文解字]

[字形] 形声
声符は因(いん)。〔説文〕十下に「惠むなり」とあり、恩恵の意。

[訓義]
1. めぐむ、めぐみ。
2. 親しみ愛する情、いつくしむ。

[古辞書の訓]
名義抄〕恩 メグム・ネムコロ・ネムコロナリ・ウツクシム・アイス・ヲシム・カクル

[語系]
恩en、隱(隠)・慇in、iunは心に深く思う意があり、声義に通ずるところがある。因に(いんうん)の意を含むのであろう。

[熟語]
恩俸・恩哀・恩愛恩渥・恩意・恩慰・恩威・恩・恩引・恩隠・恩・恩栄・恩怨・恩仮・恩紀・恩義・恩誼・恩旧・恩勤・恩遇・恩恵・恩眷・恩光・恩幸・恩倖・恩賜・恩旨・恩慈・恩赦恩讎恩恤・恩奨・恩賞・恩情・恩信・恩審・恩沢・恩地・恩恩霑・恩徳・恩波恩撫・恩免・恩問・恩養恩賚・恩礼・恩霊
[下接語]
渥恩・加恩・荷恩・懐恩・感恩・旧恩・君恩・広恩・厚恩・洪恩・皇恩・浩恩・高恩・鴻恩・国恩・四恩・市恩・私恩・施恩・師恩・慈恩・謝恩・主恩・殊恩・重恩・少恩・深恩・仁恩・垂恩・推恩・崇恩・聖恩・昔恩・積恩・前恩・多恩・大恩・朝恩・天恩・芳恩・恩・報恩・恩・隆恩

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改訂新版 世界大百科事典 「恩」の意味・わかりやすい解説

恩 (おん)

恩はほんらい〈恵み〉を意味し,神の恵み(愛)や仏の恵み(慈悲)をさしたが,のち中国や日本では君主や親の恵みという考えが強調されるようになった。インドの仏教は縁起(相互依存)の思想によって人間の横の結びつきを重視したのにたいし,中国の儒教は忠孝を説く五倫五常(精神的秩序)の思想によって人間の縦の関係に注目したが,この考え方の違いが恩の観念にも反映した。仏教ではインド以来〈四恩〉が説かれたが,それは《正法念処経》では母,父,如来,説法の師の恩とされ,《大乗本生心地観経》では父母,衆生,国王,三宝の恩とされている。このうち父母と国王の恩を強調する《心地観経》の思想は中国や日本で重視され,封建道徳と結びつけられた。日本で恩の観念が鋭く意識されはじめたのは中世になってからであるが,そこには二つの考え方があった。一つは親鸞や道元などの場合で,父母の恩や国王への礼拝を否定して,如来や衆生の恩を強調する宗教的な考えである。もう一つは封建社会の主従関係にみられるもので,主君の恩と従者の奉仕(忠誠)が一種の契約関係にもとづくとされた場合である。だが日本では前者の宗教的な恩の観念は発展せず,後者の上下の権力関係にもとづく恩がしだいに重視されるようになった。もっとも日本の儒学は中国の場合と同様に恩をあまり問題にすることがなかったが,近世の中江藤樹や貝原益軒にいたって恩の考えが積極的にとりあげられ,忠孝があらゆる徳目の根源とされた。近世末になって二宮尊徳が天地人の三才の徳に報ずることを説いたのも,そのような精神がうけつがれたためと考えられる。

 こうして主君にたいする報恩()と父母にたいする報恩()の強調は,制度的には人倫の上下関係を秩序づけるとともに,家父長制と封建体制の安定化に貢献した。そして心理的には上位のものが下位のものに恩恵をほどこす半強制的な温情主義パターナリズム)を生みだした。アメリカの文化人類学者R.ベネディクトは《菊と刀》のなかで,近世以降に発達をみた恩のあり方に注目し,人が全力をあげて背負わなければならない負担,債務,重荷であると分析した。上位のものが下位のものにほどこす恩も,下位のものがその恩に報ずる行為も,ともにけっして普遍的な道徳的義務であるのではなく,むしろ借金とその返済という関係に還元することができると考えた。しかもそこにみられる恩返し(借金返し)の義務は無限の義務と感じられており,そこに日本人に固有の支配服従の諸関係が胚胎するのだという。これは要するに〈恩〉と〈恩返し〉の行為には,もともと経済関係的側面と心理関係的側面が重層していたということなのである。経済関係的側面でいえば恩は返済可能の債務であるが,心理関係的側面でいえば返済不可能という負担感覚が底流しているのであって,その矛盾する反対感情の共存が日本人の義理と人情の世界を方向づけていると考えられる。
恩寵 →御恩・奉公
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「恩」の意味・わかりやすい解説


おん

『日本書紀』や『古語拾遺(しゅうい)』などの日本の古典に出ている「恩」は「めぐみ」「みいつくしみ」「みうつくしみ」などと訓(よ)まれている。そして「めぐみ」は、草木が芽ぐむなどというときの芽ぐむを名詞形にしたものとされているが、草木が芽ぐむのは冬眠していた草木の生命力が陽春の気にはぐくまれて目覚めることによる。そのようにある者が他の者に生命を与えたり生命の発展を助けることが恩を施すことであり、その逆が恩を受けることであるとみられる。したがって恩の存在するのは人間の間だけでなく、われわれは天地人の三者から広く恩を受けていることになる。しかしこれは広義の「恩」で、普通にはある人によって示された好意とその良好な結果とに対して感謝するという狭義の感恩が考えられ、この感恩の対象は父母と君主であると貝原益軒(かいばらえきけん)などは考えていた。つまり感恩の究極は忠孝にあるというわけであるが、日本思想における感恩の観念は仏教の影響によるところが大きく、中国の儒教は恩を説くことはまれであった。

[古川哲史]

仏教における恩

サンスクリットのウパカーラupakāra(他の者を思いやること)、またはクルタkrta(他の者から自分になされた恵み)の漢訳。仏教では、人は恩を知り(知恩)、心に感じ(感恩)、それに報いなければいけない(報恩)とされる。具体的に、『正法念処経(しょうぼうねんしょきょう)』では母、父、如来(にょらい)、説法の法師から受ける四種の恩があげられ、さらにのちには『心地観経(しんちかんぎょう)』で父母、衆生(しゅじょう)、国王、三宝(さんぼう)の四種の恩が説かれた。いわゆる四恩思想である。親子や夫婦間の愛は恩愛といい、出家修行者には断ち切るべきものとされる。中国では親から受ける恩が孝の思想と関連して強調され、『父母恩重経(ふぼおんじゅうきょう)』の偽経が制作されるに至った。

[新井慧誉]

『仏教思想研究会編『仏教思想4 恩』(1979・平楽寺書店)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「恩」の意味・わかりやすい解説


おん

仏教用語。『大乗本生心地観経』では,父母の恩,国王の恩,衆生の恩,三宝の恩などの四恩を心に深く感じ大切に思うことが,仏道修行の要素であると説く。また一切衆生を救うという如来の誓願に対する恩徳を思い,感謝すべきであるとも説いている。恩の思想は,中国,チベット,日本に特に重んじられているものであるが,インド仏教にも恩を意味する原語が存在している。それはパーリ語のカタンニュー kataññūで,なされたことを知る者という意味で「知恩」と訳される。この反面,親子,夫婦間の愛情や執着を恩愛 (おんない) という言葉を使って,仏道修行には妨げとなるから断ち切らなければならないものとして,恩とは区別している。


おん

社会的地位の高い主人が,従者や従者の家族に与えた精神的,物質的な給与一切を意味した。この主従関係が続くかぎり,給与一切は,従者がいかに奉仕を積重ねても等しくなりえない従者の終生かつ子孫の負い目と観念された。したがって受恩者には無限の義務が生じ,そのあかしとして主人への無限の忠誠が必要となった。恩はこうして,日本の封建社会の主従関係を支えた。 (→御恩 , 奉公 )

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【日本社会論】より

…この二元論的対比が,非欧米社会の典型としてとらえられた日本に機械的に適用されて,恥辱回避傾向としての〈恥の文化〉という類型化がなされたのではあるまいか。
[〈恩〉と〈義理〉]
 〈恥〉という文化型の中核としてのエートスethosが,必ずしも日本文化を特色づけるものでないとしたら,何が日本の文化型を規定しているのであろうか。日本人の対人関係を規制するモラルとして,古来,〈恩義〉という観念が存在している。…

※「恩」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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