精選版 日本国語大辞典 「懐」の意味・読み・例文・類語
なつかし・い【懐】
[一] 心がひかれ、離れたくないさま。愛着を覚えるさま。魅力的だ。慕わしい。
(イ) 人、人の心や姿をはじめ、音・香などを含め、広い対象についていう。
※大鏡(12C前)一「御心ばへいとなつかしう、おいらかにおはしまして、世の人いみじう恋申めり」
(ロ) 衣服が、着馴れて程よくのり気がとれて、からだになじんでいるさま。
[二] (中世以後に生じた意味) 過去の思い出に心がひかれて慕わしいさま。離れている人や物に覚える慕情についていう。
なつかし‐が・る
〘他ラ五(四)〙
なつかし‐げ
〘形動〙
なつかし‐さ
〘名〙
なつかし‐み
〘名〙
ふところ【懐】
〘名〙
① 着物と胸とのあいだ。懐中。ふつころ。
※書紀(720)允恭七年一二月(北野本訓)「密(しのひ)て懐中(フトコロのうち)の糒(かれいひ)を食(くら)ふ」
② 比喩的に、あたたかく迎え入れてくれる所、情をかけ庇護してくれる所の意。膝下。
※栄花(1028‐92頃)月の宴「童なる君のとのの御ふところはなれ給はぬぞ」
③ =ふところご(懐子)(一)
※宇津保(970‐999頃)蔵開下「そこをば、ふところといふばかりにほしたて奉りしかば」
⑤ 物などに囲まれて奥深くなったところ。
※源氏(1001‐14頃)蜻蛉「山のふところより出で来たる人々のかたほなるは」
※浮世草子・色里三所世帯(1688)下「問ずがたりに此所の太夫たちの懐をうちあけていへり」
⑦ 所持金。財産。また、それらの都合。金回り。
⑧ 鼓の胴の乳袋(ちちぶくろ)の内部。
な‐つ・く【懐】
[1] 〘自カ五(四)〙 (馴れ付くの意。後世「なづく」とも) 馴れて付き従う。馴れ親しむ。親しみよる。慕う。
※万葉(8C後)六・一〇四九「名付(なつき)にし奈良の都の荒れゆけば出で立つごとに嘆きしまさる」
※源氏(1001‐14頃)若菜上「猫はまだよく人にもなつかぬにや、綱いと長くつきたりけるを」
※桐一葉(1894‐95)〈坪内逍遙〉三「去就定まらぬ天下の諸侯、当家になづきしたがふべきか」
[2] 〘他カ下二〙 ⇒なつける(懐)
な‐つ・ける【懐】
〘他カ下一〙 なつ・く 〘他カ下二〙 (後世「なづける」とも) なつくようにする。親しみなつかせる。てなずけて従わせる。
※万葉(8C後)五・八三七「春の野に鳴くやうぐひす奈都気(ナツケ)むとわが家(へ)の園に梅が花咲く」
※浄瑠璃・国性爺後日合戦(1717)三「己に靡き従ふ者には、〈略〉金子を与へなつくる故」
※小公子(1890‐92)〈若松賤子訳〉前編「自分の後を継ぐ可きものを懐(ナヅ)けて置くは」
なつかし‐・む【懐】
〘他マ五(四)〙 なつかしく思う。親しく思い出す。なつかしぶ。
※書陵部本公任集(1044頃)「なつかしみ袂にかかる梅がかをかぜにしられぬことをこそ思へ」
※思出の記(1900‐01)〈徳富蘆花〉三「随分心に母を恋(した)い姉妹を懐しむ者があっても其を表するのを憚って」
かい クヮイ【懐】
〘名〙
① ふところ。
② 心の内。思いや考え。「懐を述べる」
※伊沢蘭軒(1916‐17)〈森鴎外〉二八「茶山の事は蘭軒の懐(クヮイ)に往来してゐたと見えて」 〔詩経‐小雅・谷風〕
ふつころ【懐】
〘名〙 =ふところ(懐)
※書紀(720)允恭七年一二月(図書寮本訓)「密(しのひ)に懐(フツコロ)の中の糒(ほしひ)を食(くら)ふ」
なつかしび【懐】
〘名〙 (動詞「なつかしぶ(懐)」の連用形の名詞化) なつかしく思うこと。また、馴れ親しむ気持。親愛の情。なつかしみ。
※浜松中納言(11C中)二「我をばさまことなるものにたゆみて、うらなくなつかしひを通はい給ひしに」
なつかしん‐・ず【懐】
〘他サ変〙 (「なつかしみす」の変化したもの) 馴れ親しむ。慕う。〔書陵部本名義抄(1081頃)〕
※仮名草子・伊曾保物語(1639頃)中「権威をもって人を従へんよりは、しかじ、柔かにして人になつかしんぜられよ」
な‐つけ【懐】
〘名〙 (動詞「なつける(懐)」の連用形の名詞化。「なづけ」とも) なつかせること。
※躬恒集(924頃)「春の野に荒れたる駒のなづけには草葉にみをもなさんとぞ思ふ」
なつっこ・い【懐】
〘形口〙 「なつこい(懐)」の変化した語。
※二人女房(1891‐92)〈尾崎紅葉〉中「懐(ナツ)っこい言をいふ口と腹とは反対で」
ほほ【懐】
〘名〙 ふところ。懐中。
※仮名草子・竹斎(1621‐23)上「文を受け取ほほに入」
なつこ・い【懐】
〘形口〙 人見知りしないで、すぐ人になつくさま。人なつこい。なつっこい。〔浜荻(仙台)(1813頃)〕
なず・ける なづける【懐】
〘他カ下一〙 ⇒なつける(懐)
なつか
し【懐】
〘形シク〙 ⇒なつかしい(懐)
なつかし‐・ぶ【懐】
〘他バ四〙 =なつかしむ(懐)
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