抜く(読み)ヌク

デジタル大辞泉 「抜く」の意味・読み・例文・類語

ぬ・く【抜く】

[動カ五(四)]
中にはいっているもの、はまっているもの、刺さっているものを引っ張って取る。「刀を―・く」「歯を―・く」「とげを―・く」
中に満ちていたり含まれていたりするものを外へ出す。「浮き袋の空気を―・く」「プールの水を―・く」「力を―・いて楽にする」
中にはいっている金品をこっそり盗み取る。「車中で財布を―・かれた」「積み荷を―・かれる」
多くのものの中から必要なものを選び取る。全体から一部分を取り出す。「書棚から読みたい本を―・く」「秀歌を―・いて詞華集を編む」
今まであったもの、付いていたものを除き去る。不要のものとして取り除く。「染みを―・く」「籍を―・く」「不良品を―・く」「さびを―・いたにぎりずし」
手順などを省く。また、それなしで済ませる。省略する。「仕事の手を―・く」「朝食を―・く」
前にいる者や上位の者に追いつき、さらにその先に出たり、その上位になったりする。「先頭走者を一気に―・く」「すでに師匠の芸を―・いている」
新聞報道やテレビ報道などで、他社に先駆けて特ダネを報道する。すっぱ抜く。「スクープを―・く」「他紙に―・かれる」
力などが他よりすぐれている。基準よりも上である。「実力が群を―・いている」
10 (「貫く」とも書く)突き通して向こう側へ出るようにする。一方から他方へ通じさせる。つらぬく。「山を―・いてトンネルをつくる」「一、二塁間を―・くヒット
11 型にはめて、ある形として取り出す。また、ある部分だけ残して他の部分を染める。「ハート形に―・く」「紫紺の地に白く―・いた紋」
12 攻め落とす。「城を―・く」「堅塁を―・く」
13 和服の着方で、抜き衣紋にする。「襟を―・く」
14 囲碁で、相手の死んだ石を取る。
15 (動詞の連用形に付いて)そのことを最後までする。しとおす。また、すっかり…する。しきる。「難工事をやり―・く」「がんばり―・く」「ほとほと困り―・く」
[可能]ぬける
[動カ下二]ぬける」の文語形
[下接句]足を抜く荒肝あらぎもを抜く息を抜く生き馬の目を抜く生き肝を抜く一頭地を抜く肩を抜く気を抜く群を抜く尻毛しりげを抜く筋骨すじぼねを抜かれたよう月夜にかまを抜かれる手を抜く度肝を抜く毒気どっけを抜かれる鼻毛を抜く山を抜く
[類語]取り出す抜き出す抜き取る引き抜く越える

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「抜く」の意味・読み・例文・類語

ぬ・く【抜・貫】

  1. [ 1 ] 〘 他動詞 カ行五(四) 〙
    1. [ 一 ] 突き破ったり、しみ通らせたりして向こう側へ出す。また、ある位置や標準の上に出るようにする。
      1. ( 貫 ) こちらからあちらへ突いて通す。突き抜く。また、ひもなどを穴に通す。つらぬく。
        1. [初出の実例]「橘は 己(おの)が枝々 生(な)れれども 玉に農矩(ヌク)とき 同(おや)じ緒に農倶(ヌク)」(出典:日本書紀(720)天智一〇年正月・歌謡)
        2. 「惜しと思ふ心は糸によられなん散る花ごとにぬきてとどめん〈素性〉」(出典:古今和歌集(905‐914)春下・一一四)
      2. 小児が尿をもらして、おしめや衣類を濡らし通す。また、脱糞する。
        1. [初出の実例]「うちでぬいてきましたれば、へさへでぬ」(出典:咄本・当世手打笑(1681)三)
      3. 城などを攻め落とす。
        1. [初出の実例]「金城を抜く」(出典:随筆・癇癖談(1791か)上)
      4. 先にいる者に追いついてその先に出る。追い越す。また、他より先に行なう。出し抜く。
        1. [初出の実例]「いかにもしておやまに思はれんと心をつくしけれど、ややもすれば茶屋あげやの亭主、子息、役者、牽頭持などにぬかれけり」(出典:随筆・癇癖談(1791か)上)
        2. 「一寸先きも見えねへ闇に、先きへ抜いたを知らねえ様子だ」(出典:歌舞伎・黄門記童幼講釈(1877)序幕)
      5. 新聞報道などで、スクープする。すっぱ抜く。
        1. [初出の実例]「他社が全然知らない特ダネを抜く」(出典:新聞(1950)〈毎日新聞図書編集部編〉二)
      6. 一対一で行なう試合で、対戦相手を続けて負かす。「五人抜く」
      7. 球技で、守っている者の間や上を通って、球を向こうへ進める。
        1. [初出の実例]「内野の頭上を抜(ヌ)く種類の打球も」(出典:ベースボール(攻撃篇)(1927)〈飛田穂洲〉一)
      8. 基準となるものより上になる。
        1. [初出の実例]「海を抜く三十尺の卑地にて」(出典:米欧回覧実記(1877)〈久米邦武〉一)
      9. 動詞の連用形に付けて、補助動詞的に用いる。終りまでする。し通す。また、すっかり…する。し切る。
        1. [初出の実例]「色々な無理八百ウ言ての、こまらせぬいたはな」(出典:滑稽本・浮世風呂(1809‐13)二)
    2. [ 二 ] はいりこんでいるものを引き出す。また、いくつかあるものの中からとり出す。
      1. はまっているものを引き出す。
        1. [初出の実例]「大太刀を 垂れ佩(は)き立ちて 農哿(ヌカ)ずとも 末果たしても 闘(あ)はむとぞ思ふ」(出典:日本書紀(720)顕宗二年九月)
        2. 「把木(たばねぎ)も絶てけさから簀子の竹をぬきて焼(たく)など」(出典:浮世草子・世間娘容気(1717)五)
      2. 選んで取り出す。一部分を取り出す。
        1. [初出の実例]「諸国抄(ヌキ)写すに、最も以て貴しとす」(出典:大慈恩寺三蔵法師伝永久四年点(1116)四)
        2. 「今証例の便をはかりて只其粋をぬきたるのみ」(出典:小説神髄(1885‐86)〈坪内逍遙〉上)
      3. ひそかにすり取る。ぬすみ取る。
        1. [初出の実例]「よう年寄の目を抜いた、舅を抜くからは何を抜かうも知れまい」(出典:浄瑠璃・国性爺後日合戦(1717)二)
      4. 能力などを認めてとりたてる。抜擢する。
        1. [初出の実例]「他の甘羅張童(〈注〉りこふなこども)、多からずとせず。然も終に擢かれず」(出典:江戸繁昌記(1832‐36)四)
      5. 二組に分かれてとり合うカルタなどで、相手の前にある札をとる。
        1. [初出の実例]「富江は一人で噪(はしゃ)ぎ切って、遠慮もなく対手の札を抜く」(出典:鳥影(1908)〈石川啄木〉四)
      6. 囲碁で、相手の石を打ち抜く。アタリになっている石の残された最後の空点に打って、ハマとして盤上から取り上げる。
      7. 釣針にかかった魚を水中から引き上げる。
      8. なくなるようにする。とり除く。消し去る。
        1. [初出の実例]「一切衆生の苦をぬかんと思ひてこそ」(出典:古本説話集(1130頃か)五五)
        2. 「封建道徳の遺習が牢乎として抜くべからざる国で」(出典:社会百面相(1902)〈内田魯庵〉犬物語)
      9. すべき事、また、労力や手間などをへらしたり省いたりする。また、勢いや力をなくす。
        1. [初出の実例]「とかく此内気をぬかぬ事だ」(出典:洒落本・傾城買指南所(1778))
        2. 「此勢ひを抜(ヌカ)ずして彼処にいたり本懐を達せんものと勇み立」(出典:近世紀聞(1875‐81)〈染崎延房〉五)
      10. ある部分だけ白く残して他の部分を染める。染め抜く。また、型にはめて、その形として取り出す。「クッキーの生地を型で抜く」
        1. [初出の実例]「紅く塗った中に『社会糖』の三字を鮮かに抜いてある」(出典:良人の自白(1904‐06)〈木下尚江〉前)
      11. 寄席などで、出演を休む。
        1. [初出の実例]「夜講は休(ヌイ)いたのか」(出典:人情本・春色江戸紫(1864)初)
      12. ごまかす。だます。
        1. [初出の実例]「折々人にぬかるるはうし 竹の子のとなりのにはに根をさして」(出典:俳諧・竹馬狂吟集(1499)六)
        2. 「まんまとぬかれてうせた」(出典:虎明本狂言・末広がり(室町末‐近世初))
  2. [ 2 ] 〘 自動詞 カ行下二段活用 〙ぬける(抜)

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