抜・貫(読み)ぬく

精選版 日本国語大辞典 「抜・貫」の意味・読み・例文・類語

ぬ・く【抜・貫】

[1] 〘他カ五(四)〙
[一] 突き破ったり、しみ通らせたりして向こう側へ出す。また、ある位置や標準の上に出るようにする。
① (貫) こちらからあちらへ突いて通す。突き抜く。また、ひもなどを穴に通す。つらぬく。
書紀(720)天智一〇年正月・歌謡「橘は 己(おの)が枝々 生(な)れれども 玉に農矩(ヌク)とき 同(おや)じ緒に農倶(ヌク)
古今(905‐914)春下・一一四「惜しと思ふ心は糸によられなん散る花ごとにぬきてとどめん〈素性〉」
小児が尿をもらして、おしめや衣類を濡らし通す。また、脱糞する。
咄本・当世手打笑(1681)三「うちでぬいてきましたれば、へさへでぬ」
③ 城などを攻め落とす。
随筆癇癖談(1791か)上「金城を抜く」
④ 先にいる者に追いついてその先に出る。追い越す。また、他より先に行なう。出し抜く。
※随筆・癇癖談(1791か)上「いかにもしておやまに思はれんと心をつくしけれど、ややもすれば茶屋あげやの亭主子息、役者、牽頭持などにぬかれけり」
歌舞伎・黄門記童幼講釈(1877)序幕「一寸先きも見えねへ闇に、先きへ抜いたを知らねえ様子だ」
⑤ 新聞報道などで、スクープする。すっぱ抜く。
※新聞(1950)〈毎日新聞図書編集部編〉二「他社が全然知らない特ダネを抜く」
⑥ 一対一で行なう試合で、対戦相手を続けて負かす。「五人抜く」
球技で、守っている者の間や上を通って、球を向こうへ進める。
※ベースボール(攻撃篇)(1927)〈飛田穂洲〉一「内野の頭上を抜(ヌ)く種類の打球も」
⑧ 基準となるものより上になる。
※米欧回覧実記(1877)〈久米邦武〉一「海を抜く三十尺の卑地にて」
⑨ 動詞の連用形に付けて、補助動詞的に用いる。終りまでする。し通す。また、すっかり…する。し切る。
滑稽本・浮世風呂(1809‐13)二「色々な無理八百ウ言ての、こまらせぬいたはな」
[二] はいりこんでいるものを引き出す。また、いくつかあるものの中からとり出す。
① はまっているものを引き出す。
※書紀(720)顕宗二年九月「大太刀を 垂れ佩(は)き立ちて 農哿(ヌカ)ずとも 末果たしても 闘(あ)はむとぞ思ふ」
※浮世草子・世間娘容気(1717)五「把木(たばねぎ)も絶てけさから簀子の竹をぬきて焼(たく)など」
② 選んで取り出す。一部分を取り出す。
※大慈恩寺三蔵法師伝永久四年点(1116)四「諸国抄(ヌキ)写すに、最も以て貴しとす」
小説神髄(1885‐86)〈坪内逍遙〉上「今証例の便をはかりて只其粋をぬきたるのみ」
③ ひそかにすり取る。ぬすみ取る。
※浄瑠璃・国性爺後日合戦(1717)二「よう年寄の目を抜いた、舅を抜くからは何を抜かうも知れまい」
④ 能力などを認めてとりたてる。抜擢する。
江戸繁昌記(1832‐36)四「他の甘羅張童(〈注〉りこふなこども)、多からずとせず。然も終に擢かれず」
⑤ 二組に分かれてとり合うカルタなどで、相手の前にある札をとる。
※鳥影(1908)〈石川啄木〉四「富江は一人で噪(はしゃ)ぎ切って、遠慮もなく対手の札を抜く」
⑥ 囲碁で、相手の石を打ち抜く。アタリになっている石の残された最後の空点に打って、ハマとして盤上から取り上げる。
⑦ 釣針にかかった魚を水中から引き上げる。
⑧ なくなるようにする。とり除く。消し去る。
※古本説話集(1130頃か)五五「一切衆生の苦をぬかんと思ひてこそ」
※社会百面相(1902)〈内田魯庵〉犬物語「封建道徳の遺習が牢乎として抜くべからざる国で」
⑨ すべき事、また、労力や手間などをへらしたり省いたりする。また、勢いや力をなくす。
※洒落本・傾城買指南所(1778)「とかく此内気をぬかぬ事だ」
※近世紀聞(1875‐81)〈染崎延房〉五「此勢ひを抜(ヌカ)ずして彼処にいたり本懐を達せんものと勇み立」
⑩ ある部分だけ白く残して他の部分を染める。染め抜く。また、型にはめて、その形として取り出す。「クッキーの生地を型で抜く」
※良人の自白(1904‐06)〈木下尚江〉前「紅く塗った中に『社会糖』の三字を鮮かに抜いてある」
⑪ 寄席などで、出演を休む。
※人情本・春色江戸紫(1864)初「夜講は休(ヌイ)いたのか」
⑫ ごまかす。だます。
※俳諧・竹馬狂吟集(1499)六「折々人にぬかるるはうし 竹の子のとなりのにはに根をさして」
※虎明本狂言・末広がり(室町末‐近世初)「まんまとぬかれてうせた」
[2] 〘自カ下二〙 ⇒ぬける(抜)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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