国際関係論(読み)こくさいかんけいろん(英語表記)International Relations

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「国際関係論」の意味・わかりやすい解説

国際関係論
こくさいかんけいろん
International Relations

国家と国家,および国家と国際機構や一部の準国家的主体(官僚機構や政党,利益団体など)との関係に関する研究。政治学地理学歴史学経済学法学社会学心理学哲学などさまざまな学術分野と関連している。
国際関係の研究は 20世紀初頭にアメリカ合衆国やヨーロッパで始まり,1920年代から本格化した。第1次世界大戦後,帝政ロシアドイツ帝国の政府公文書の大部分が公開されたことで外交史の研究が進み,新たに国際連盟が設置されたことで,平和な世界秩序の確立という期待がもたらされ,国際機関国際法などの研究が行なわれた。両大戦間期の初期における国際関係論は平和運動副産物であり,主として戦争の原因と費用,および戦争の政治的,社会的,経済的,心理的側面の理解に関するものだった。しかし,第2次世界大戦の勃発が国際関係論における平和重視に対する反発を招き,国際政治の厳しい現実を無視していると批判された。こういった自由主義的理想主義への対抗理論として登場したのが現実主義リアリズム)である。1948年に出版されたハンス・モーゲンソーの『国際政治学』Politics Among Nationsは,現実主義の教科書として半世紀にわたって大きな影響を与えた。現実主義には多くの立場があるが,すべてに共通するのは国益(→ナショナル・インタレスト)と権力闘争を中心概念に据えていることである。
1970年代以降は,国際体系の構造と制度の関係に関する新たな議論が注目された。議論の一端は,1979年に出版されたアメリカの国際政治学者ケネス・ウォルツの著書『国際政治の理論』Theory of International Politicsで提示された新現実主義(ネオリアリズム)である。新現実主義は権力中心の概念を保持しつつ,力や能力が異なる国家間の同盟関係などに反映された構造の理論を取り入れ,国際体系の構造は国家が利用しうる外交政策の選択肢を制限し,国際機関にも大きな影響を及ぼすと主張した。一方,国際機関は単に国際体系の権力構造を反映したり体系化したりするだけではないと主張したのが新自由主義(ネオリベラリズム)である。新自由主義は,現実主義者の無政府的な国際体系自体は否定しないが,国家のふるまいは,ヨーロッパ連合 EUや北大西洋条約機構 NATO世界貿易機関 WTO,国際連合 UNといった国際機関との相互作用によって変化しうるものであり,長期的にはこうした相互作用が国際紛争の可能性を減じると主張した。
20世紀後半の国際関係論は,しだいに構成主義(コンストラクティビズム)の影響を受けるようになった。構成主義は,歴史的,社会的に形成された複数の主観からなる共通の認識(→間主観性)に着目して国際関係を分析する。国際関係論における近年の思想の一部分は,ポスト・モダニズム(→ポスト・モダン)と批判理論によって形成されている。ポスト・モダニズムによれば,現実主義などにおいて仮定される国際的構造は,エリート層の利益に資する世界観を反映した社会的構造である。批判理論は,マルクス主義的な階級支配のみならず,ジェンダー人種宗教民族国民性などに基づく支配といった抑圧的な社会的制度や慣習から,いかにして人間を解放するかという点を本質的な問題としており,これらの支配形態は世界各地に実例がみられることから,21世紀初頭の国際関係論において重要な洞察をもたらすものと考えられた。
国際関係論における研究領域は幅広く,国際政治学国際政治経済学などの学問分野や,対外政策決定理論,紛争理論,ゲームの理論国際体系論,民主的平和論,相互依存論(→相互依存),国際レジーム論(→国際レジーム)といったさまざまな理論や概念が含まれる。国際関係論を国際政治学と比較するときには,両者の関係はやや混乱しており,両者を同一視する説,国際政治学を国際関係論の中心ではあってもその一部とみなす説など,明確にはなっていない。国際関係論における研究課題は時代の文脈から生じるものであり,その時代に最も差し迫った問題に焦点があてられる。21世紀初頭には,テロリズムや宗教・民族紛争,国家の分裂,準国家や非国家主体の出現,大量破壊兵器の拡散や核兵器拡散防止の取り組み,国際機関の発展などの問題に焦点をあてた研究が数多く行なわれた。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「国際関係論」の意味・わかりやすい解説

国際関係論
こくさいかんけいろん

日本の大学において国際関係論という名の学科が初めて設けられたのは、1951年(昭和26)東京大学においてである。続いて他の諸大学でも国際関係論という名の講座・学科目を設置するところが多くなった。この名称はイギリスやアメリカで第一次世界大戦後設置されたinternational relationsの翻訳で、内容のうえでも欧米とくにアメリカの影響を強く受けている。

 国際関係論は国際政治学international politicsとほぼ似た内容をもつが、しかしその扱うべき範囲について広狭の差が生じている。すなわち、国際関係論を国際政治学(国際政治史を含む)と同一の内容をもつものと理解する立場と、より広く国際政治学とともに国際経済学、国際法学、地域研究など、いわば国際と名のつく学問を総合的にとらえようとする立場とである。

 しかし、国際関係ということば自体は同義語の反復である。日本語の国際ということばにすでに諸国間の関係という意味がある。さらに国際関係学ではなく国際関係論という名が用いられたことも、この学問の未熟さを物語っている。日本の大学では19世紀のドイツ風の学問分類によって対象と方法の明確な学問を「学」とよぶことから、第二次大戦後の新制度において出発した新学科を、その未熟さを自覚して「論」と称したのであろう。しかし一面では、「論」とは、たとえば政治学における「国家論」や歴史学における「封建社会論」のように、ある学問分野においてより細かい研究テーマをさすこともある。したがって国際関係論という名称は不適切であることが反省され、最近では国際学などという語も用いられている。

 国際関係論とは、こうして学問的に未確立であり、多くの問題を残している。その名称はともかく、実際には国際問題を共同研究する学問的組織あるいは教育組織として機能している、いわゆる学際的分野である。したがって、国際関係に独特の学問的方法はないともいえよう。それは、農学とか薬学などといった分野と同じく応用的な分野である。農学や薬学に従事する者は、その対象は農作物であれ、新薬であれ、その方法についてみれば、生物学なり、化学なりといった方法、あるいは生化学といった組合せによる方法である。国際関係論は、対象が複雑多様な国際問題であり、現在進行中の事象であるので、自らこの方法の組合せ、あるいは新たな方法の開拓といった点に重きを置かざるをえない。

 現在、国際関係論の方法的研究に意欲的なのはアメリカの学界であり、実証的研究と並んで理論的研究も盛んに行われている。しかし、そこに提唱される理論の多くは、国際関係のなかのきわめて限られたテーマに関する部分理論であり、巨大な国際関係の現実を総括しうる全体理論ではない。ヘーゲルマルクス、あるいはマックスウェーバーといった古典的な全体理論は、そのままでは今日の現実に対応できないが、しかし、彼らのもっていた、できる限りの事象を説明し尽くそうという情熱は、現在の国際関係論に欠けるところである。それは単に国際関係論に限らず、現在の社会科学に共通するところである。しかし、国際関係の現実は、いよいよ諸学の総合による解明を必要としている。国際関係論は、日本にあっては輸入学問という色彩が濃い。また、国際関係を研究する者のなかには、微細な専門研究に没頭するのあまり、その研究の意義について無反省な傾向がなしとしない。このような反省にたって、平和に貢献するという目的意識の明確な平和研究の方向に、研究の前途をみいだす立場が有力となりつつある。

[斉藤 孝]

『日本国際政治学会編『戦後日本の国際政治学』(1979・有斐閣)』『J・フランケル著、田中治男訳『国際関係論』(1972・東京大学出版会)』

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改訂新版 世界大百科事典 「国際関係論」の意味・わかりやすい解説

国際関係論 (こくさいかんけいろん)
international relations

国際社会を構成しているあらゆる要因の相互作用を研究対象とする学問。国際社会を立体的に認識すべく諸科学の総合研究を意図して,第1次大戦以降,アングロ・サクソン系国家を中心に発展した。伝統的社会諸科学はいくつかのヘゲモニー国家で生まれた学問を普遍化して発達してきたため,国家拘束性が強く,学問領域としての国際関係の部分は全体として研究が進んでいなかった。そのため諸科学を横断的に関連させ,実証的・包括的研究対象としてしめくくる努力が国際関係論のひとつの出発点となった。すなわち,政治,経済,法律,軍事,科学技術,文化,コミュニケーション,人口,資源,エネルギー,食料,人種,環境などの諸要因を,国家の枠を超えて相互的に研究するには伝統的な社会諸科学間の学際的協力を必要としたのである。国際関係論はその定義上国際政治学よりも広い視野に立つが,いかなる社会科学も国家拘束性をもつという性格上,実際には区別しがたい。
国際政治学
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