(読み)クセ

デジタル大辞泉 「癖」の意味・読み・例文・類語

くせ【癖】

《「くせ」と同語源》
無意識に出てしまうような、偏った好み傾向習慣化している、あまり好ましくない言行。「爪をかむ」「なくて七」「怠けぐせがつく」
習慣。ならわし。「早起きのをつける」
一般的でない、そのもの特有の性質・傾向。「のある味」「のある文章」
折れ曲がったりしわになったりしたまま、元に戻りにくくなっていること。「髪のをとる」「着物の畳みぐせ」→癖にその癖
[下接語]足癖髪癖み癖・酒癖しりの癖手癖難癖一癖筆癖読み癖(ぐせ)歌癖・着癖口癖抱き癖出癖寝癖・話し癖
[類語](1性癖病み付き悪癖悪習奇癖病癖へき欠陥難点短所遜色弱点欠点盲点瑕疵かし瑕瑾かきんあら弱み泣き所負い目引け目付け目デメリットウイークポイントハンディキャップ/(2習性常習習慣習癖性癖惰性習い習わし

へき【癖】[漢字項目]

常用漢字] [音]ヘキ(漢) [訓]くせ
〈ヘキ〉かたよった習性。くせ。「悪癖奇癖潔癖酒癖習癖書癖性癖盗癖病癖
〈くせ(ぐせ)〉「口癖酒癖手癖難癖なんくせ

へき【癖】

かたよった好みや習性。くせ。「放言のがある」「煙霞えんか
[類語]くせ性癖

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「癖」の意味・読み・例文・類語

くせ【癖】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「くせ(曲)」と同語源 )
  2. かたよりのある好みや傾向が習慣化したもの。かたよった個人的傾向。物事の考え方、感じ方の、その人独自の傾向から、からだの特殊な、また、無意識にでる動きまでを含んでいう。
    1. [初出の実例]「のどらかにうちおきたるものとみえぬくせなんありける」(出典:蜻蛉日記(974頃)上)
    2. 「心づくしなる事を、御心におぼしとどむるくせなむ、あやにくにて」(出典:源氏物語(1001‐14頃)帚木)
  3. 物事がいつもきまってそのようになること。ならい。
    1. [初出の実例]「あるじがら荒れたる宿のくせなれば、おろしこめても月は見えけり」(出典:頼政集(1178‐80頃)上)
    2. 「運の傾く僻(クセ)なれ共、臆病神の著きたる人程見苦き者はなし」(出典:太平記(14C後)二九)
  4. 人や表現における欠点。→癖をつける
    1. [初出の実例]「句の末、詞の末ごとにあれどもくせと聞えぬなり」(出典:新撰髄脳(11C初))
    2. 「吾身のくせをばかへり見ず、人のあやまちをば云物也」(出典:わらんべ草(1660)二)
  5. 曲がったり、折れたり、しわになったりして、もとに戻しにくくなること。また、その状態。
    1. [初出の実例]「Cuxeuo(クセヲ) スル」(出典:日葡辞書(1603‐04))
    2. 「眼立って曲(クセ)のある髪で」(出典:竹沢先生と云ふ人(1924‐25)〈長与善郎〉竹沢先生富士を観る)
  6. 習慣。習性。→癖をつける
    1. [初出の実例]「又他の鳥の巣をうばふくせあるものなり」(出典:尋常小学読本(1887)〈文部省〉五)
  7. 洋裁で、標準とは違った個人の体型の特徴。

へき【癖】

  1. 〘 名詞 〙
  2. かたよりのある好みや傾向が習慣化したもの。くせ。習性。
    1. [初出の実例]「予はやくより陸雲が癖(ヘキ)ありて、春は霞める山の端と共に笑ひ初め」(出典:談義本・風流志道軒伝(1763)跋)
    2. [その他の文献]〔晉書‐杜預伝〕
  3. けんぺき(痃癖)〔日葡辞書(1603‐04)〕

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「癖」の意味・わかりやすい解説


くせ
habit
custom

手足や体の動かし方、話し方などで同様な状況のもとでつねに自動的に繰り返される傾向。広い意味では習慣の一種とみられるが、極端な場合には通常よりも不必要に偏向した反応として現れる。

[小川 隆]

習慣と癖

一般に同じ状況下で繰り返される行動がその状況に適切な仕方で安定し、滞りなく進行することが習慣とよばれる。習慣は状況に適応するだけではなく、類似の状況に転移する積極的な意味をもつ一方、状況が実際には変化しても同じ行動を固執し、不適切な結果をきたすという消極的な意味をもつことがある。狭い意味では、癖はこの後者をさすが、この場合は新しい行動の習得を妨げることになる。たとえば、ドアのハンドルを引いて開けることに慣れていると、押して開けねばならないときにも引く動作が先行する場合である。

 このような動作の固定はどのようにして習得されたかが、かならずしも明らかでないこともある。幼児の指しゃぶり、児童の夜尿症、成人の吃音(きつおん)、貧乏ゆすり、赤面恐怖なども癖といわれるが、これらは適切な動作の固定とはみられない。これらの癖(悪癖(あくへき)ともいう)は成熟によって自然に消滅することもあるが、病的症候として強固に持続することもある。これらは常同反応stereotype responseともいわれ、欲求不満のもとに多く発生する。また、常同反応の禁止が欲求不満を結果することもある。

 癖は単なる身体運動についてだけでなく、広く、食事や他人に対する嗜好(しこう)、虚言、盗み、浮浪偏見、先入見などにもいわれる。癖となった晩酌、食後の喫煙などは、これらを禁止することによって心的ストレスを発生させるし、生活の糧(かて)のためとは関係のない盗癖は、心的ストレスの結果ともみられる。

[小川 隆]

集団と癖

人それぞれに癖があるという点で、癖は人間一般に共通の現象であるが、癖のレパートリーは文化によって非常に異なるという点では、癖は個別的であると同時に集団的現象でもある。癖のレパートリーは性、年齢、職業、階層などによっても異なる。癖のレパートリーの文化的相違は、癖としてのしぐさ姿勢などの面で顕著である。通常は無意識に自動的に出現する癖としてのしぐさは、集団内で認知される一定の明確な意味をもつ身ぶりとは区別される。ある集団では癖とみなされるしぐさも、他の集団では身ぶりとして理解される場合があり、ときにはその意味ゆえに人前ではタブーとされたりもする。立つ、座る、寝るといった姿勢にも、その身体技法としての側面と関連して、個別的変異(=癖)を超えた文化的な型が認められる。

[武井秀夫]

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