デジタル大辞泉
「ニュートリノ」の意味・読み・例文・類語
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ニュートリノ
物質を構成する最小単位である素粒子の一つで極めて軽く、あらゆる物をすり抜けてまっすぐ飛ぶ。恒星が一生を終えて起こす超新星爆発や太陽内部の核融合反応、宇宙線の地球大気との衝突などで生じる。超新星爆発のニュートリノを初めて観測した小柴昌俊氏(故人)や、大気ニュートリノを観測して質量があることを発見した梶田隆章東京大教授にノーベル物理学賞が贈られた。アイスキューブは遠い宇宙から飛来する高エネルギーのニュートリノが観測対象で、日本からは千葉大が参加している。
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ニュートリノ
- 〘 名詞 〙 ( [英語] neutrino ) =ちゅうせいびし(中性微子)
- [初出の実例]「電気的に中性で且つ固有質量の極めて小さい中性微子(ニュートリノ)なるものの存在が仮定せられ」(出典:自然科学的世界像(1938)〈石原純〉一)
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ニュートリノ
neutrino
電荷 0,スピン 1/2の素粒子でレプトンの一種。中性微子ともいう。電子ニュートリノ(νe),μニュートリノ(νμ),τニュートリノ(ντ)の 3種類が存在する。質量は非常に小さいため観測が難しく,今日わかっている質量の上限はおのおの<2eV,<0.19MeV,<18MeVである。1931年ウォルフガング・パウリはβ崩壊の際にエネルギー,運動量,角運動量の保存則(→エネルギー保存則,運動量保存則,角運動量保存則)が成り立つためには前述の性質をもつ中性の粒子が電子と同時に放出されなければならないとしてニュートリノを仮定的に導入した。その存在が実験的に確認されたのは,1956年クライド・L.コーワンとフレデリック・ライネスが,原子炉から放出されるはずであると予想された強力なニュートリノビームによって起こされたβ崩壊の逆過程を見出したときである。確認がこれほど遅れたのは,ニュートリノが電気的に中性でほかの素粒子との相互作用(→素粒子の相互作用)が弱いからである。
コーワンらの実験結果によれば,地球に突入したニュートリノがほかの粒子と反応する確率は 1兆分の1以下で,ほとんど全部が反対側の地点から飛び出し,また太陽からのニュートリノは毎秒 100兆個も人体を貫通するが,反応を起こすのは一生に 1回程度と評価されている。1942年に坂田昌一,谷川安孝は二中間子論(→中間子論)でニュートリノに 2種類あると仮定したが,これは 1962年ブルックヘブン研究所で実証された。今日は 3種類あることがわかっており,β崩壊で電子とともに放出されるものを電子ニュートリノ,π中間子の崩壊でμ粒子とともに放出されるものをμニュートリノ,τ粒子の崩壊に伴うものをτニュートリノという。これらは弱い相互作用でそれぞれ組となって現れ,それぞれの組に対して定義された電子レプトン数,μレプトン数,τレプトン数が保存される。1956年李政道と楊振寧は弱い相互作用では物理現象が左右非対称(パリティ非保存)であるという理論を提唱した。その後電子ニュートリノもμニュートリノも,ニュートリノは左巻き(スピンと運動方向が逆),反ニュートリノは右巻き(スピンと運動方向が同じ)だけであることが実験により観測されたが,この事実は前述の理論を実証している。これによればニュートリノの質量は 0となると思われたが,1962~63年に坂田,牧二郎,中川昌美は種類の異なるニュートリノは 0ではない異なる質量をもち,その結果として相互に移り合うニュートリノ振動をする可能性を予測した。この予測は 20世紀末から 21世紀初頭,実験的に確認された。ただ,ニュートリノの微小な質量の起源,振動の程度を決める原理など,素粒子の根本理論にかかわると思われる重要な問題は,まだ理論的に解明されていない。
日本では,岐阜県にある東京大学宇宙線研究所付属神岡宇宙素粒子研究施設を中心に,ニュートリノの研究が世界の先頭を切って行なわれている。1987年2月,大マゼラン雲(→マゼラン雲)で起こった超新星爆発で発生したニュートリノが同施設内のカミオカンデでとらえられた(→小柴昌俊)。1998年には,宇宙線によって地球の表側と裏側での大気中で発生したニュートリノの割合が,スーパーカミオカンデに到達した時点で同じではないことが確定され,ニュートリノ振動がまちがいなく起こっていることが国際的に承認された(→梶田隆章)。(→ニュートリノ天文学)
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ニュートリノ
にゅーとりの
素粒子の一つ。電荷をもたず、強い相互作用をしないので中性微子ともいう。スピン1/2でフェルミ‐ディラック統計に従う粒子である。名称の由来は中性のものという意味である。
素粒子は、強い相互作用をするハドロンと、それをしないレプトン(軽粒子)、相互作用を媒介する媒介子(ゲージ粒子、ヒッグス粒子)に分類できるが、ニュートリノはレプトンに属する。レプトンはワインバーグ‐サラムの理論によれば、負の電荷をもった荷電レプトンと中性のレプトンが組となって二重項をつくっているが、ニュートリノはこの中性レプトンの総称であり、電子(e)、μ(ミュー)粒子、τ(タウ)粒子と組をなしているものを、それぞれ、電子ニュートリノ(νe)、μニュートリノ(νμ)、τニュートリノ(ντ)とよび、現在この三つが知られている。
歴史的には、β(ベータ)崩壊は中性子が電子と反ニュートリノを放出して陽子に変わる過程であるが、電磁相互作用ならびに強い相互作用をしないニュートリノは観測にかかりにくく、それの持ち去る分だけエネルギーが非保存のようにみえた。パウリはこの困難を回避するためニュートリノの存在に気づいた(1931)。その実験的検証はたいへん遅れた(ライネスとコーワンClyde Cowan1919―1974による。1956年)。ニュートリノの質量は小さいことが知られている。今日ではニュートリノ振動現象により質量があることは確かである。
[益川敏英]
『川崎雅裕著『謎の粒子――ニュートリノ』(1996・丸善)』▽『日本物理学会編『ニュートリノと重力波――実験室と宇宙を結ぶ新しいメディア』(1997・裳華房)』▽『山田克哉著『はたして神は左利きか?――ニュートリノの質量と「弱い力」の謎』(講談社・ブルーバックス)』
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「ニュートリノ」の意味・わかりやすい解説
ニュートリノ
中性微子とも。素粒子の一つ。レプトンに属し,電気的に中性,質量は1998年にその存在が確認された。スピン1/2。1930年W.パウリがβ崩壊の際エネルギーとスピンの保存法則を維持するため理論的に予言,フェルミがこれに基づいてβ崩壊の理論をたてた(1934年)。物質との相互作用がきわめて小さいため観測困難で,1953年F.レインズとC.L.コーワンが原子炉から出る(反)ニュートリノを陽子に衝突させて中性子と陽電子に変え,その存在を実証した。β崩壊のほかπ中間子,K中間子,μ粒子等の崩壊の際にも発生するが,1962年β崩壊の際生じるもの(電子ニュートリノ,記号ν(/e))とπ中間子の崩壊の際生じるもの(μニュートリノ,ν(/μ))は別種であることが確認された。さらに現在はν(/τ)(τ粒子に対応)も発見されている。→宇宙線/素粒子
→関連項目K中間子|小柴昌俊|スーパーカミオカンデ|素粒子原子核研究所|中性子|陽子
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知恵蔵
「ニュートリノ」の解説
ニュートリノ
物質を構成する最小の単位である素粒子の一つ。電気的に中性(ニュートラル)であることから、イタリアの物理学者フェルミによって名付けられた。
素粒子には、大きく分けると、原子核の陽子や中性子を構成する粒子の仲間である「クォーク」、電子の仲間である「レプトン」、及び「ゲージ粒子」の三つのグループ及びヒッグス粒子がある。レプトンのうち、電気を持たない粒子がニュートリノで、電子型、ミュー型、タウ型の3種類がある。レプトンには他に、電子、タウ粒子、ミュー粒子がある。
1931年、ユダヤ系物理学者のパウリが理論的にニュートリノの存在を予言し、仮想的な素粒子として知られるようになったが、他の物質と相互作用がほとんどないため観測するのが難しく、質量の有無も長い間不明で、標準理論においては質量はゼロとして扱われてきた。
56年、アメリカの物理学者ライネスらによって原子炉から発生するニュートリノが捉えられた。アメリカの物理学者デービスは、68年までに太陽から放出されるニュートリノを確認したが、その後の観測により、ニュートリノは理論値の約3分の1しか発見されず、「太陽ニュートリノ問題」と呼ばれる物理学上の大問題となった。
87年2月、ニュートリノ観測装置カミオカンデ(岐阜県飛騨市神岡鉱山内)が超新星から飛んできたニュートリノ11個を世界で初めて捉えた。このニュートリノは、16万光年かなたの大マゼラン星雲で起きた超新星爆発SN1987Aによって生じたもので、この功績により小柴昌俊とデービスは2002年、ノーベル物理学賞を受賞した。
95年、カミオカンデ(タンク容積3000トン)を大幅に増強したスーパーカミオカンデ(同5万トン)が完成。翌96年から観測が始まり、98年に「ニュートリノ振動」を捉える。ニュートリノ振動とは、ニュートリノがある距離を飛行する間に別の種類のニュートリノに変化する現象で、変化の前後で2種類のニュートリノの質量が異なる場合にのみ起こることから、ニュートリノに質量があることの証拠となる。観測では、スーパーカミオカンデの上空でできた大気ニュートリノと、地球の裏側でできて地球を貫通してきた大気ニュートリノを比較したところ、地球の裏側から来るミュー型ニュートリノが上空からの半分であることが判明した。これは、地球を通る間にミュー型ニュートリノが、スーパーカミオカンデで観測できないタウ型に変化したこと、すなわちニュートリノ振動の証左である。
標準理論に修正を迫るこの発見の功績により、2015年、梶田隆章にノーベル物理学賞が授与された。
ニュートリノ
物質をつくる基本粒子レプトンの仲間。電気的に中性で、ほかの粒子と反応しにくい。宇宙に遍く1立方センチ当たり300個ほどあるらしい。中性微子の名も。弱い力の現象で、どのレプトンと対をなして現れるかにより、電子型、ミュー(μ)型、タウ(τ)型がある。電子型の存在は1930年代初め、W.パウリがベータ(β)崩壊でエネルギー保存則が破れてみえることから予言、56年にF.ライネスらが検出した。残る2つも確認済み。質量はないか極めて小さいとされ、標準理論はゼロとしているが、70年代から太陽ニュートリノ観測が「質量あり」を示唆、98年、東大宇宙線研究所などの日米グループがスーパーカミオカンデの大気ニュートリノ観測でも、質量があれば起こる異型間変身(ニュートリノ振動)を見た。
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
ニュートリノ
ニュートリノ
neutrino
中性微子ともいう.記号ν.レプトンに属する素粒子.質量 ≈ 0,荷電 = 0,スピン = 1/2.現在3種類あることが知られており,電子ニュートリノ νe,ミューニュートリノ νμ,タウニュートリノ ντ と表され,それぞれに反粒子が存在する.ニュートリノは1930年に,原子核のβ崩壊の際のエネルギー保存則を満足させるために,W. Pauliによって提案された.その後中性子が発見され,その陽子と電子への崩壊の説明に用いられて,存在が確立された.ニュートリノはほかの粒子との相互作用が小さいので,観測が難しいが,現在では観測方法も進歩し,3種類のニュートリノの存在も確立している.現在のところ,化学との直接的接点はないが,ミュオニウムやポジトロニウムが化学反応の研究に役割りを果たしはじめているので,今後,重要性が増すと考えられている.[別用語参照]スーパーカミオカンデ,ミュオニウムの化学
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
世界大百科事典(旧版)内のニュートリノの言及
【素粒子】より
…このように物理学が対象とした万物が原子からなり,その原子がすべてこの3種類の小さな粒子(陽子,中性子,電子)でできているとすれば,これらの小さな粒子こそ,もっとも基本的なものであり,このためこれらの粒子は自然を構成する素元的な粒子という意味で〈素粒子〉と呼ばれるに至ったのである。第2次世界大戦前までに,この3種類の粒子のほかにも,光子(フォトン),中性微子(ニュートリノ),電子の反粒子である陽電子などが素粒子の仲間に加えられ,素粒子の種類も増えていったのであるが,素粒子の存在が明らかになったことでミクロの世界の探究は一段落し,素粒子がミクロの世界の主役となった。 第2次大戦後は宇宙線研究の進歩や加速器の発達もあって続々と新しい素粒子が発見され,現在ではその数は何百にも達している。…
※「ニュートリノ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」