(読み)シ

デジタル大辞泉 「史」の意味・読み・例文・類語

し【史】[漢字項目]

[音](呉)(漢) [訓]ふみ ふひと さかん
学習漢字]5年
出来事の記録。また、その出来事。「史学史劇史実史跡外史先史戦史前史通史稗史はいし秘史有史歴史
出来事を記録する者。「史生しじょう侍史女史太史
[名のり]ちか・ちかし・ひと・ふの・み
[難読]令史さかん

し【史】

歴史。「をひもとく」「日本
律令制で、太政官だいじょうかん神祇官じんぎかん主典さかん。文書・庶務をつかさどった。
漢籍を経・史・子・集に分類した四部の一。歴史書の部門。
[類語](1歴史史実青史通史編年史年代記ヒストリークロニクル

ふ‐ひと【史】

《「ふみひと」の音変化。「ふびと」とも》
古代、朝廷で記録・文書をつかさどった役。また、その役人。
古代のかばねの一。多くは渡来人に与えられ、文筆に従事した者たちの姓。

ふみ‐ひと【史】

ふひと

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精選版 日本国語大辞典 「史」の意味・読み・例文・類語

ふみ‐ひと【史・主帳】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 令制前、諸国に置かれたという書記官。記録をあつかう官。ふびと。ふんひと。
    1. [初出の実例]「始めて諸国(くにくに)に、国史(フミヒト)を置く」(出典:日本書紀(720)履中四年八月(図書寮本訓))
  3. 古代の姓(かばね)の一つ。記録をつかさどった職掌が氏族の姓となったもので、ほとんどすべてが渡来人系氏族。陽胡史、竺志史、道祖史、田辺史など。ふびと。
  4. ( 主帳 ) 大化改新に際して設置された評司(こおりのつかさ)のうちの書記官。国造(くにのみやつこ)書道と算術にたくみなものをあてた。のちの令制の郡司の第四等官である主帳(しゅちょう)にあたる。ふびと。
    1. [初出の実例]「書に工なる者を主政(まつりことひと)、主帳(フミヒト)と為」(出典:日本書紀(720)大化二年正月(北野本訓))
  5. 天皇に近侍して記録をつかさどる書記官。
    1. [初出の実例]「勅して随史(フミヒト)に録入せしむ」(出典:天理本金剛般若経集験記平安初期点(850頃))

ふ‐びと【史】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「ふみひと(史)」の変化した語 )
  2. ふみひと(史)
    1. [初出の実例]「天皇高麗の表䟽(ふみ)を執りたまひて大臣に授けたまふ。諸の史(ふひと)を召し聚へて、読解(と)か令む」(出典:日本書紀(720)敏達元年五月)
  3. ふみひと(史)
    1. [初出の実例]「飛鳥(あすか)戸の郡の人田辺の史(フヒト)伯孫が女(むすめ)は」(出典:日本書紀(720)雄略九年七月(前田本訓))
  4. ふみひと(史)

ふん‐ひと【史】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「ふんびと」ともいう。「ふむひと」とも表記 )
  2. ふみひと(史)
  3. ふみひと(史)
    1. [初出の実例]「其れ阿直岐は阿直岐史(フムヒト)始祖なり」(出典:日本書紀(720)応神一五年八月(熱田本訓))
  4. 学問・記録にかかわる者。また、学問をしている人。
    1. [初出の実例]「是の時書生(フムヒト)(〈別訓〉ふみならふひと)三四人を選びて以て観勒に学習(いな)はしむ」(出典:日本書紀(720)推古一〇年一〇月(図書寮本訓))

し【史】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 人間社会の変遷・発達の過程を記録したもの。歴史。
    1. [初出の実例]「前漢一代の史を作るほどに、高帝から平帝までの君臣を皆紀列するぞ」(出典:史記抄(1477)七)
    2. [その他の文献]〔王融‐永嘉長公主墓銘〕
  3. 記録を受け持つ官。また、歴史を書く人。史官。〔論語‐衛霊公〕
  4. 神祇官太政官の主典(さかん)。文書をつかさどり、諸役所から上申した庶務を取り扱う。大史、少史がある。〔令義解(718)〕
    1. [初出の実例]「なにがしの史が、事にも侍らず。おのれ、かまへて、かの御事をとどめ侍らんと申しければ」(出典:大鏡(12C前)二)

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普及版 字通 「史」の読み・字形・画数・意味


常用漢字 5画

(旧字)
5画

[字音]
[字訓] まつり・ふみ

[説文解字]
[甲骨文]
[金文]

[字形] 会意
中+(又)(ゆう)。中は祝を収める器である口((さい))を木に著けて捧げ、神に祝告して祭る意で、卜辞にみえるとは内祭をいう。卜辞に「」という語としてみえる。外に出て祭ることを「事(まつ)る」といい、その字はまた使の意にも用いる。事は吹き流しをつけた形で、が内祭であるのに対して、外祭であることを示す。王使が祭の使者として行うことが王事であり、その王事に服することが祭政的支配の古い形態であった。(使)・事はもと一系の字である。祝詞を扱うものを巫史(ふし)といい、その文章を史といい、文の実に過ぎることをまた史という。巫史の文には史に過ぎることが多かったのである。祭祀の記録が、その祭政的支配の記録でもあった。〔説文〕三下に「は事を記すなり。(手)の、中を持するに從ふ。中は正なり」とあって、史官が事を記すのにその中正を守る意であるとするが、中正のような抽象的観念を手に執ることは不可能である。それで江永は中を簿書にして簿書を奉ずる形とし、また王国維内藤湖南は中を矢の容器の形とし、郷射礼などにおける的中の数を記録するものがであるとする。卜辞にを内祭とし、また・事の系列字の用義から考えると、が祭祀を意味する字であったことは疑いがない。

[訓義]
1. まつり、内祭。
2. 巫史、内祭を司るもの。
3. 祭祀の記録、ふみ、その記録者、公事の記録者、ふひと、史官。
4. 文筆にあずかる者。
5. 天文を司るもの、大史。
6. 獄官、属官。
7. かざり、修飾にすぎる、巫史の辞にかざりが多いこと。
8. 経史子集、四部の一。

[古辞書の訓]
〔字鏡集〕 ツカサ

[部首]
〔説文〕〔玉〕に事をこの部に属し、〔説文〕に「の省聲に從ふ」とするが、の上に吹き流しのような偃(えんゆう)を加えた形である。金文にみえる古い使役形は「~をして事(つかひ)せしむ」を「~~事~」の形式にしるす。事がが令の字にあたる。

[声系]
〔説文〕に声として(吏)・のほか鬯(ちよう)部の字を録し、事にもの省声とする。事はの演化した字、には古く事を用い、使役の義にはを用いた。

[語系]
shi、事dzhiはみな祭事、祭事に従うことを意味する字。事はのち士・仕dzhiの義に近づいて、政治・行政を意味する語となった。

[熟語]
史家・史閣・史・史官・史館・史局・史劇・史才・史策・史冊・史氏・史詩・史事・史書・史匠・史鈔・史乗・史職・史臣・史籍・史蹟・史体・史談史籀史牒・史伝・史筆・史評史巫・史部・史文・史編・史法・史料・史林・史例・史録・史論・史話
[下接語]
哀史・詠史・佳史・家史・外史・旧史・御史・経史・瞽史・国史・左史・子史・私史・刺史・師史・詩史・侍史・修史・祝史・胥史・書史・女史・正史・青史・先史・戦史・太史・談史・籀史・長史・通史・内史・史・巫史・墳史・良史・令史・歴史・穢史

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改訂新版 世界大百科事典 「史」の意味・わかりやすい解説

史 (し)

日本古代の姓(かばね)および官職の名称。古く〈史〉は〈ふみひと,ふひと〉と読んで,文筆を業とする人を意味した。5世紀ないし6世紀の大和朝廷でそうした業務にたずさわる者はもっぱら渡来人であったが,彼らは氏族ごとにその職業を世襲したので,氏姓制度が発達すると,史は渡来系氏族に与えられる姓として用いられるようになる(〈史(ふひと)〉の項参照)。しかし〈ふみひと〉の原義はのちまで残り,701年大宝令施行直前に〈民官(のちの民部省)の戸籍を勘(かんが)える史(ふみひと)〉が置かれ,また静岡県伊場遺跡からは〈評(のちの郡)史(こおりのふみひと)〉と書かれた木簡が出土していて,史が官職名として用いられたことが知られる。律令制の官制では,神祇官の主典(四等官の第4等官)に大史1人(正八位下相当)・少史1人(従八位上相当),太政官の左右の弁官にそれぞれ大史2人(正六位上相当)・少史2人(正七位上相当)が属している。いずれも文書の作成などを職掌とする官職であるが,平安時代になると,弁官の大史に五位を帯する者が任ずるようになり,やがて大史の上席を官務(かんむ)と称し,小槻(おづき)氏(のちの壬生家)が世襲するにいたった。
執筆者:


史 (ふひと)

古代日本の(かばね)の一つ。文書記録の仕事を朝廷で担当した文人(ふみひと)が転じて史と呼ばれ,それが姓となったもの。史の姓を賜った記事の《日本書紀》における初見は,欽明14年7月条の〈王辰爾(おうしんに)を以て船長とす。因りて姓を賜いて船史とす〉である。史の姓を帯びる氏族には,船史のほか,阿直岐(あちき)史,田辺史,白猪(しらい)史,津史などの諸氏族があり,いずれも渡来系の氏族であった。これらの氏族が文書記録の仕事に携わっていたことは,船史を賜姓された王辰爾が船に関する税の計算記録に当たったという伝承,白猪史を賜姓された王辰爾の甥胆津(いつ)が白猪屯倉の田部の賦課対象者の籍を検定したという伝承などによって知られる。なお史を氏名とする氏族がおり,摂津,河内,備中などの国に史戸氏が,また越前国には,史部氏が居住していたことが知られている。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「史」の意味・わかりやすい解説


ふひと

大和(やまと)朝廷の官職名で、のちに姓(かばね)となった。語源は「書人(ふみひと)」。史姓69氏のほとんどが帰化系氏族で、文筆や計算の技能をもって朝廷に仕えた。朝廷の機構の拡充された5世紀後半の雄略(ゆうりゃく)朝以降、外交や財政の分野で活躍し、6世紀なかばごろより官職名から姓(かばね)へ転化した。その後、大宝律令(たいほうりつりょう)の編纂(へんさん)にも田辺史(たなべのふひと)が参加して功績があった。757年(天平宝字1)に藤原不比等(ふひと)の諱(いみな)(実名)を避けて毗登(びと)に改められたが、770年(宝亀1)にもとに復した。

[前之園亮一]

『太田亮著『全訂日本上代社会組織の研究』(1955・邦光書房)』

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「史」の解説


ふひと

古代のカバネ。史人(フミヒト)の略という。大和政権の文筆をつかさどる職業名がカバネとなったとみられる。史姓を称する氏族は約70氏あるが,すべて渡来系。代表的なものは王辰爾(おうしんに)の後裔の船史・白猪史(しらいのふひと)・津史などであるが,文直(ふみのあたい)・文首(ふみのおびと)など文筆にたずさわりながら史姓を称さなかった氏族もある。757年(天平宝字元)藤原不比等(ふひと)の諱を避けて毗登(ひと)としたが,770年(宝亀元)に史に復した。



(1)左右弁官の下で書記官を勤めた令制官。左右それぞれ大史2人(正六位上)・少史2人(正七位上)。行政の実務にたずさわったことから,平安中期以後,実務官として外記(げき)とともに重要性を増し,左大史が五位に任じられて大夫史と称し,小槻氏が世襲して官務(かんむ)と称するようになった。(2)神祇官の主典(さかん)の称。大史・少史各1人。

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旺文社日本史事典 三訂版 「史」の解説


ふひと

大和政権の姓 (かばね) の一つ
政権の文筆活動にたずさわった職名がそのまま姓となった。渡来人に多い。阿知使主 (あちのおみ) の子孫東漢氏 (やまとのあやうじ) ,王仁 (わに) の子孫西文氏 (かわちのふみうじ) は有名で,わが国学問の発達に貢献した。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「史」の意味・わかりやすい解説


ふひと

古代のの一つ。記録を司る官にあった書人(ふみひと)が詰まってそのまま姓となったと考えられる。多くは渡来人の子孫。8世紀中頃,毗登(ひと)と一時改められた。

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【書記】より

…また,かつてのソビエト連邦共産党中央委員会書記長,国際連合事務総長などの職名はsecretary‐generalと呼ばれる。日本の古代においては,文書の記録という意味では〈史〉がこれにあたり(〈史(し)〉〈史(ふひと)〉の項目参照),律令制下では四等官の一つ〈主典〉がおもに文書の記草・記録にあたった。中世・近世の武家社会では〈右筆〉が書記の役割をになった。…

【歴史】より

…歴史を表すhistoryという語は,historia(探究)というギリシア語に由来している。歴史が単に人間世界で生起する諸事件の連続や総和なのではなく,その諸事件の意味連関を探究する人間の作業でもあるということを,その語の由来が示している。…

【史】より

…日本古代の姓(かばね)および官職の名称。古く〈史〉は〈ふみひと,ふひと〉と読んで,文筆を業とする人を意味した。5世紀ないし6世紀の大和朝廷でそうした業務にたずさわる者はもっぱら渡来人であったが,彼らは氏族ごとにその職業を世襲したので,氏姓制度が発達すると,史は渡来系氏族に与えられる姓として用いられるようになる(〈史(ふひと)〉の項参照)。…

【史】より

…日本古代の姓(かばね)および官職の名称。古く〈史〉は〈ふみひと,ふひと〉と読んで,文筆を業とする人を意味した。5世紀ないし6世紀の大和朝廷でそうした業務にたずさわる者はもっぱら渡来人であったが,彼らは氏族ごとにその職業を世襲したので,氏姓制度が発達すると,史は渡来系氏族に与えられる姓として用いられるようになる(〈史(ふひと)〉の項参照)。…

※「史」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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