日本大百科全書(ニッポニカ) 「基(化学)」の意味・わかりやすい解説
基(化学)
き
radical
化学反応において分解せずに、一方の化合物から他方へそのまま移動するような原子団や、化合物のある種の化学的性質の原因となる原子団に対する呼称。硫酸H2SO4や硝酸HNO3などの酸の陰イオンは、酸基、酸根、あるいは単に根(こん)とよばれることがあり、歴史的には根のほうが古い用語である。陽イオンでも、アンモニウムイオンNH4+などの多原子イオンは基とよばれることがある。一般に基とよばれるものは、見かけ上は電気的に中性な共有結合性原子団であるが、無機化学と有機化学とで名称が異なることもある。一酸化炭素分子COは、金属カルボニル錯体[Fe(CO)5]や[Ni(CO)4]などではカルボニル基とよばれるが、有機化学でのカルボニル基はケトンなどにみられているO原子団をさす。
有機化合物では、基がその化合物の化学的性質に大きな影響を及ぼすので、官能基とよばれる。基が他の原子または原子団と結合しないで独立に存在するときは遊離基という。
基にはそれぞれ個別的名称が与えられているが、有機同族体から得られる基の群に対する一般的名称もあり、たとえば、カルボン酸RCOOHからOHを取り去った残基RCO-はアシル基、芳香族炭化水素から水素原子を1個除いた残基はアリール基と総称される。ヒドロキシ基-OHは、物質によって塩基性にも酸性にも作用することがある。
[岩本振武]