(読み)あん

精選版 日本国語大辞典 「案」の意味・読み・例文・類語

あん【案】

〘名〙
① 物を載せる台。机。膳。楉案(しもとあん)書案、大案の類がある。案几(あんき)
※後二条師通記‐寛治二年(1088)四月一七日「小将書初、敷左右座一枚、横有座、有案」
今昔(1120頃か)六「一の鹿有て、門を突て入来て、此の経の案の前に立て、頭を挙て舐(ねぶ)る」 〔後漢書‐梁鴻伝〕
② 下書き。草案。あんじぶみ。あんしょ。あんもん。
※延喜式(927)一一「凡御体卜者、神祇官中臣率卜部等〈略〉神祇副若祐、持奏案、進大臣
※伊勢物語(10C前)一〇七「かのあるじなる人、あんを書きて、かかせてやりけり」
③ 控え書き。留め書き。
※令義解(718)公式「凡案成者。具条納目
※東寺百合文書‐は・正和三年(1314)一〇月四日・僧頼尊奉書案「わかさよりのかさねたるじゃう、又ゐんせんのあんひろう申候ぬ」
④ まだ確定していないで、調査や相談を要する事柄。計画。もくろみ。また、それを書いた文書。「案を立てる」「予算案」「議案」
※宮内省官制‐明治四〇年(1907)三条宮内大臣は〈略〉案を具へて上奏すべし」
⑤ 思案。考え。くふう。計略
※栄花(1028‐92頃)初花「さ思はせんとたばかりたる事なれば、案にははかられにけり」
浄瑠璃・頼光跡目論(1661‐73頃)五「あん深き剛のものなれば」

あん‐・ずる【案】

〘他サ変〙 あん・ず 〘他サ変〙
① あれこれと考えをめぐらす。心中いろいろと考える。「一計を案ずる」
※竹取(9C末‐10C初)「これを、この頃安ずるに」
物事の成り行きなどをあれこれと心配する。
中務内侍(1292頃か)弘安七年七月五日「そらおそろしくあんせられて」
歌謡・松の葉(1703)四・几帳「宿の首尾のみあんずれば、我が黒髪も白髪となる」
③ はっきりしない点を問いただす。調べる。
[語誌](1)当初は、ある不確定な情報の実態を明確にするために、さまざまな分析・総合する思索の働きを表現し、学問行政など社会の公的な文脈にのみ現われる語であった。
(2)鎌倉時代以降、不可解な実態に直面した際に、対処できずに思い悩む心の動きを表わす表現として一般化した。
(3)江戸時代以降「案じる」と上一段活用に移り、将来の心配などのマイナスの心的状況を表現する形式に固定された。

あん・じる【案】

〘他ザ上一〙 (サ変の「案ずる」が上一段活用に転じた語。近世以降に見られる)
※俳諧・三冊子(1702)白双紙「切字をいるる事を案じられし傍にありて」
※浄瑠璃・心中宵庚申(1722)中「身のおとろふる程いやましに案じらるるは子の身の上

あん‐じ【案】

〘名〙 (動詞「あんず」の連用形の名詞化)
① 思案。計画。工夫。
※咄本・春袋(1777)水馬「その時は、とふ云あんじだろう」
② 心配。懸念。恐れ。
※浄瑠璃・仮名手本忠臣蔵(1748)二「たがいふとなくお耳に入それはそれはきついお案(アン)じ」

あ【案】

〘名〙 (「あん」の撥音が表記されなかったもの) 前もって考えていたこと。予想。あん。
※源氏(1001‐14頃)若菜下「あのごとく桐壺の御方より伝へて聞こえさせ給ひければ」

あん‐・ず【案】

〘他サ変〙 ⇒あんずる(案)

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デジタル大辞泉 「案」の意味・読み・例文・類語

あん【案】

考え。計画。「を練る」
予想。推量。
文書の下書き。草案。「を提出する」
物を載せる台。机。
「此の経の―の前に立ちて」〈今昔・六・四五〉
[類語]原案たたき台代案対案試案腹案懸案法案草案私案素案成案決議案愚案新案良案妙案名案アイデア考え計画もくろみくわだはかりごと一計企図企画立案構想設計プランプロジェクト青写真筋書手の内予定もくろむたくらむ策するかくする

あん【案】[漢字項目]

[音]アン(呉)(漢)
学習漢字]4年
机。台。「案下あんか几案玉案
調べる。調べる事柄。「案件公案
考える。「案出考案思案創案
考えた内容。計画。「新案提案発案腹案翻案妙案名案
考えた内容を盛りこんだ下書き。「議案教案原案試案図案草案答案文案法案
[難読]案山子かかし

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「案」の意味・わかりやすい解説


あん
an

中国の机台や食盤のこと。長方形の板に概して短い足がつく。漆が施されているのが普通で,板上には菱形文,雲気文,動物文などが描かれることがある。戦国時代の古墓から出土している。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「案」の解説


あん

案文(あんもん)

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