デジタル大辞泉
「童」の意味・読み・例文・類語
わらん‐べ【▽童/▽童▽部】
《「わらわべ」の音変化》「わらべ」に同じ。
「―に還り愚に及ぶ」〈根無草・後〉
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わらわわらは【童】
- 〘 名詞 〙
- ① 稚児(ちご)より年長で、まだ元服しない者。一〇歳前後の子ども。童子。
- [初出の実例]「老人(おいひと)も 女(をみな)童児(わらは)も しが願ふ 心だらひに」(出典:万葉集(8C後)一八・四〇九四)
- 「わらはに侍し時、女房などの物語よみしを聞きて、いとあはれにかなしく」(出典:源氏物語(1001‐14頃)帚木)
- ② 子どもの髪のように、束ねないで下げ垂らした髪。童形(どうぎょう)の髪。
- [初出の実例]「蜷(みな)の腸(わた) か黒し髪を ま櫛もち ここにかき垂れ 取り束(つか)ね あげてもまきみ とき乱り 童児(わらは)になしみ」(出典:万葉集(8C後)一六・三七九一)
- ③ 召使の童男、童女。また、童姿の召使。相当な年齢の者にもいう。
- [初出の実例]「小児(わらは)等(ども)草はな刈りそ八穂蓼(やほたで)を穂積の朝臣が腋草(わきくさ)を刈れ」(出典:万葉集(8C後)一六・三八四二)
- 「無動寺法師乗円律師がわらは、鶴丸」(出典:平家物語(13C前)二)
- ④ 特に、五節(ごせち)の童女(わらわ)の称。
- [初出の実例]「丹波の守のわらはの、青い白橡(しらつるばみ)の汗衫(かざみ)、をかしと思ひたるに」(出典:紫式部日記(1010頃か)寛弘五年一一月二二日)
- ⑤ 寺院で召使う少年。
- [初出の実例]「然して後に少子元興寺の童子(ワラハ)と作る〈興福寺本訓釈 童 和良波〉」(出典:日本霊異記(810‐824)上)
- 「これも仁和寺の法師、童(わらは)の法師にならんとする名残りとて、おのおのあそぶ事ありけるに」(出典:徒然草(1331頃)五三)
わらべ【童】
- 〘 名詞 〙 ( 「わらわべ」の変化した「わらんべ」の撥音「ん」の無表記から )
- ① 子ども。子どもら。児童。
- [初出の実例]「童部をば、わらべ、下部をば、しもべなど、よめり」(出典:名語記(1275)二)
- ② 召し使う子ども。また、召し使う童姿の男女。
- [初出の実例]「ことに上らふにはあらぬわかき人、わらべなど、おのかじしものぬひけさうなどしつつ」(出典:源氏物語(1001‐14頃)若菜下)
- ③ 自分の妻をへりくだっていう語。
- [初出の実例]「これはそののちあひそひてはべるわらべなり」(出典:大鏡(12C前)一)
童の補助注記
( 1 )②の挙例の「源氏物語」は「わらはべ」とする異本もあり、「わらべ」は作品成立時の語形ではないとする説がある。
( 2 )「日葡辞書」には、「Varabe(ワラベ)、または、ワランベ」とのせて、いずれも子どもの意とする。
わっぱ【童】
- 〘 名詞 〙 ( 「わらわ(童)」の変化した語 )
- ① 子どもをののしっていう語。また一般に、子どものこと。
- [初出の実例]「あのわっぱめを弟とおぼしめされ」(出典:曾我物語(南北朝頃)八)
- ② 男子が、自分のことを卑下していう語。
- [初出の実例]「御身のなむもあるまじき、わっぱがとがものがるべし」(出典:幸若・烏帽子折(室町末‐近世初))
- ③ 男をののしっていう語。
- [初出の実例]「音に聞く不敵のわっぱよな」(出典:浄瑠璃・関八州繋馬(1724)四)
- ④ 年少の奉公人。年若い下僕。
- [初出の実例]「ノトドノノ vappa(ワッパ) キクワウト ユウモノ」(出典:天草本平家(1592)四)
わらん‐べ【童・童部】
- 〘 名詞 〙 「わらわべ(童部)」の変化した語。
- [初出の実例]「童部(ハランヘ)どもいくらともなく尻に立て笑ののしる」(出典:発心集(1216頃か)一)
- 「我を忘れ人を忘れ、童(ワランベ)に還り愚に及ぶ」(出典:談義本・根無草(1763‐69)後)
わらし【童】
- 〘 名詞 〙 子ども。小児。
- [初出の実例]「女児(ワラシ)の身」(出典:人情本・春色梅美婦禰(1841‐42頃)二)
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普及版 字通
「童」の読み・字形・画数・意味
童
常用漢字 12画
(旧字)
12画
[字音] ドウ
[字訓] しもべ・わらべ
[説文解字]
[金文]
[字形] 形声
金文の字形は東((ふくろ))に従い、東(とう)声。のち重に従う字形があり、重(じゅう)声。里はその省略形。上部の立の部分は、古くは辛と目とに従い、目の上に入墨する意で、受刑者をいう。は(どう)の初文。〔説文〕三上に「男の(つみ)るを奴と曰ふ。奴をと曰ひ、女を妾と曰ふ」とし、字は(けん)に従って重の省声であるという。結髪を許されず、それで童髪のものをという。童幼の義はのちの転義。金文の〔毛公鼎〕に「死(をさ)めてせしむること毋(なか)れ」とあり、動の意に用いる。童謡はもと童僕の徒の労働の歌。〔左伝〕や〔史記〕〔漢書〕にみえる童謡は、服役者が労働のときに歌ったもので、これを歌占(うたうら)として用いることがあった。わが国の〔天智紀〕などにみえる童謡も、その類のものである。は農奴的な身分のものをいう。
[訓義]
1. しもべ、刑余の者、奴隷。
2. 髪を結びあげないもの、わらべ、わらわ、幼童。
3. 山に草がない、はげ山、はげる、牛羊の角なきもの。
4. おさない、おろか、くらい。
[古辞書の訓]
〔和名抄〕 和良波(わらは) 〔名義抄〕 ワラハ・カブロ
[声系]
〔説文〕に声として・・(鐘)など十三字を収める。動を〔説文〕に重声とするが、もとに従い、動とは耕作に従うものをいう。また衝(しよう)を声とするが、もと重に従う字。と重に従う字形には、ときに互易するものがある。*語彙は字条参照。
[熟語]
童歌▶・童▶・童▶・童▶・童観▶・童冠▶・童顔▶・童牛▶・童▶・童昏▶・童山▶・童子▶・童児▶・童孺▶・童豎▶・童女▶・童心▶・童▶・童然▶・童男▶・童稚▶・童穉▶・童貞▶・童土▶・童奴▶・童童▶・童年▶・童馬▶・童髪▶・童僕▶・童牧▶・童昧▶・童▶・童幼▶・童容▶・童謡▶・童粱▶・童伶▶・童隷▶
[下接語]
河童・歌童・怪童・童・学童・丱童・頑童・奇童・牛童・狂童・奚童・狡童・黄童・山童・児童・孺童・女童・小童・樵童・神童・童・成童・聖童・仙童・村童・牧童・遊童・幼童・妖童
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
童 (わらべ)
わらんべ,わらわ,わらわべ,わろうべともいい,童部とも表記した。普通には男女を問わず元服以前の児童(童子・子ども)をさした。童というのは10歳前後とする考え方もあるが,そのように限定してしまうと,かえって童の語にふくまれていた豊富な内容が見失われかねないともいえる。なぜならば,成人女性は謙遜して自分をさすのに〈わらわ〉の語をもちいたし,また,年齢的にはけっして児童ではないにもかかわらず,髪風もふくめて姿形が〈童形(どうぎよう)〉(後述)であるものを童・童子などと呼んだ。ちなみに,現行の法律,児童福祉法では満18歳未満のものを児童とし,乳児・幼児・少年に区分している。また,労働基準法では,特例を除き満15歳未満の児童を労働者として使用することを禁止している。ともに,法・制度によって健康保全・福祉の面で〈保護〉されるべき対象として児童を位置づけている。
児童が一般に〈童〉と称されていた時代には,それらは,こんにちの感覚では容易には推しはかれない意味をもって見られていた。とりわけて古代・中世においては,童のもつ自由奔放さ,闊達(かつたつ)さ,率直さ,いたずら好み,乱暴さかげんなどの特性が,信仰とも深く結びつきながら,現実の俗世間を超越した別世界にあいかよう力のあらわれと考えられ,童のつぶやき一つにもなにかの予兆をくみとり,成人には理解しかねるような童の不可思議な行動一つにも神の憑依(ひようい)を感じとっていた。そして,一定の年齢に達するまでは〈産神(うぶがみ)〉の加護のもとに童が置かれているものと信じ込んでいたのであった。その年齢は,おおむね7歳であり,これをすぎると〈産神〉の霊力が弱まり,危険に遭遇すると予測されていたらしい。また,女子の場合には,生理のことにかかわって,13歳が重視された。能楽の大成者として名高い世阿弥は,《風姿花伝》の〈年来稽古条々〉で芸と年ごろのことを説き,稽古始めの歳を7歳としたあとは,12,13歳,17,18歳,24,25歳というふうに区切っている。むろん,風情・体格・音声などの条件に照らしての区分ではあるが,こうした年齢階梯意識の基礎にも,奥深い習俗の世界が存在していたことが推察される。
血縁集団・地域社会において,童が一人前の成人として扱われるようになるのは,おおむね15,16歳であった。このことは,史上に聞こえた室町時代の〈山城国一揆〉にさいして,寄合の合議に参加した一揆衆の年齢の下限が15,16歳であった事実や,荘園領主のもとでの〈落書起請(らくしよきしよう)〉で責任能力者として認定されたのが,やはり同様の年ごろであった事実からも容易に察せられる。この年齢に達すると,各自が文書に添える〈書き判(花押・略押)〉が公的に効力を発したし,垂髪(長い垂れ髪)を特徴とする〈童形〉を脱して成人の風体へと変身したのである。この区切りは,近世社会にもうけつがれて,〈若者組〉への加入が認められもした。
実際には児童の域を超えているにもかかわらず〈童形〉姿のままで生きた人々もいて,これもやはり童・童子と呼ばれた。牛車(ぎつしや)を扱った〈牛飼童(うしかいのわらわ)〉もその一例であるが,ほかには公家・武家に仕えた小舎人童(こどねりわらわ)も児童(少年)に限らず,さらには大寺院には〈稚児(ちご)〉とは別に,〈堂童子(どうどうじ)〉など〈童子〉と呼ばれる人々がおり,〈童形〉であった。また,京都の北,八瀬(やせ)の地には往古〈八瀬童子〉と称される集団があり,男女を分かたず長髪の〈童形〉姿であった。また,説話のなかにも壮年・老年の童がしばしば登場する。〈大江山の酒呑童子(しゆてんどうじ)〉というのもその一例であろうが,そうした〈童形〉のものたちは,共通して別の世界との交流を明示するか暗示するかして,この世のものならぬ,ただならぬ霊力・呪能を身に備えている場合が多い。仏教説話や寺社縁起にしきりと現れて活躍する〈護法童子(護法)〉もその好例の一つといえようが,虚構のなかに生きる〈童形〉のものたちと,現実の社会に生きたそれとのかかわりはどのようであったのか,その意味するところがなにであったのかについては未解明な点が多く,文字どおり児童としての童のこともあわせて,今後の研究にまたねばならない。そして,現代社会における児童観にたいしても,有益な示唆がもたらされるよう望まれる。
→京童(きょうわらべ) →子ども →落書(らくしょ)
執筆者:横井 清
仏教行事における童子
特定の仏教行事において,半僧半俗の立場で法要の進行を把握する重要な役割をいう。子どもを神聖視する思想からか童子と記すが,幼児が担当するとは限らない。むしろ複雑な作法を伴うので特定の家筋の成人による例が多く,〈堂子〉とも記す。悔過(けか)系の行事(東大寺修二会,薬師寺修二会など)には欠くことのできない役割で,東大寺修二会の場合は,参勤僧の随伴諸役の筆頭に堂童子が挙げられている。僧侶の掌握の及ばない堂の内外を整え,法要の進行に即してもろもろの所作をこなしていくが,東大寺修二会には単に童子と記す役も十数名設けられており,参勤僧と堂童子にも配属されて,上堂や下堂に付き従うなど蔭の仕事に従事する。四天王寺聖霊会の舞楽法要では,盛装した堂童子役の幼児を抱きあげて,行事の区切りとなる鐘を打たせる例が残されている。
また能面の〈童子〉と呼ばれる面は,妖精的な少年の面で,《田村》《小鍛冶》の前ジテなどに用いられる。
執筆者:高橋 美都
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
童
わらわ
幼児より年長で未成年の子供の称。元服前の少年と裳着(もぎ)前の少女をいうが、10歳前後の者をさす場合が多く、女子をとくに区別して「女(め)の童」「童女(わらわめ)」などということもある。限定的には、雑役に従事したり、供として従う召使いの少年や、小間使いの少女などをさすほか、寺院の召使いとして雑用や給仕の任にあたる少年の称でもあった。また、これらの童は髪を束ねないで下げ垂らしていたので、この童形の髪型の称でもあった。
[宇田敏彦]
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世界大百科事典(旧版)内の童の言及
【子ども(子供)】より
…子どもという言葉と概念について考えようとする際に,まず注目されるのは,その意味の多様性であろう。現在最も一般的なのは,おとな(成人)の対概念としての子どもであり,この場合は,個体としての生命の発生から成人するまでのあらゆる段階にあるもの,すなわち,胎児,乳幼児,児童,少年少女などを総称する。次いで親の対概念としてのそれは,年齢や生物的・社会的成熟度とは無関係に,先行世代の個体によって生み出されたもの,もしくはそれと同等の役割をとる者の総称である。…
【成年】より
…代表的な成年式として[元服]があり,男児が肉体的,精神的に一応の発達段階に達したと認められたときに行われる。平安時代の清和天皇の元服の折には4尺5寸以上の藤原氏の児童13人を加冠のうえ引見されたが,身長が一応の規準とされていたのは興味深く,身長を年齢の目安とするこの考え方は今日でも中国に生きている。平安時代の女子にあっては年ごろになると,歯を黒く染め(歯黒め),眉毛を抜いて眉墨(黛)(まゆずみ)で眉をかいた(引き眉・かき眉)。…
【子ども(子供)】より
…子どもという言葉と概念について考えようとする際に,まず注目されるのは,その意味の多様性であろう。現在最も一般的なのは,おとな(成人)の対概念としての子どもであり,この場合は,個体としての生命の発生から成人するまでのあらゆる段階にあるもの,すなわち,胎児,乳幼児,児童,少年少女などを総称する。次いで親の対概念としてのそれは,年齢や生物的・社会的成熟度とは無関係に,先行世代の個体によって生み出されたもの,もしくはそれと同等の役割をとる者の総称である。…
※「童」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」