デジタル大辞泉 「糸」の意味・読み・例文・類語
し【糸〔絲〕】[漢字項目]
[学習漢字]1年
〈シ〉
1 いと。「絹糸・繭糸・蚕糸・製糸・
2 糸のように細いもの。「菌糸・柳糸」
3 弦楽器。「糸管・糸竹」
4 数の単位。一の一万分の一。「
〈いと〉「糸目/絹糸・毛糸・縦糸」
[補説]本来、「
[難読]
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
綿,羊毛などの比較的短い繊維をそろえて撚り(より)をかけた紡績糸(スパン糸spun yarn),および絹,ナイロンなどの長い繊維を集束して撚りをかけた繊条糸(フィラメント糸filament yarn)の総称。繊維をそろえて撚りをかけたものには,綱,縄,紐などがあるが,一般に糸は最も細いものをいい,また長い繊条,たとえばクモの糸,釣糸なども糸と呼ばれている。
人類は獣皮や木の皮を細くさいた紐や植物の蔓(つる)や茎などの利用から糸を考案するようになった。葛(くず),蔦(つた)など蔓草の皮,柳,藤,桑の皮などが最初に利用された。新石器時代になって,定住農耕生活のゆとりが,細長く裂いた繊維をつなぎ合わせ,長い糸を作り織物を織る技術を生んだ。最も重用された植物性の繊維は麻類である。次いで紀元前数千年には中国で絹が発見され,養蚕,製糸,絹織物が発達した。絹は紀元前後の数世紀にわたって〈シルクロード〉で知られるごとく,東方から西方にもたらされ,高価で貴重な糸として珍重された。綿も歴史は古く,古代インダス文明の遺跡モヘンジョ・ダロから,前3000年前後の綿織物が発見されている。綿はインドを原産地とするが,新大陸でもコロンブス以前から使用されていた。南アメリカのアンデス西海岸の遺跡からも,モヘンジョ・ダロと同時代の綿製品が出土している。非常に古い時代から,世界各地で綿糸が使われていたことがわかる。綿や羊毛は繊維としては短いもので,紡いで糸にする。紡ぐというのは,繊維を適当にさばいて平行に並べて撚りをかける作業で,3種類のやり方がある。最も原始的な方法は手のひらと股で撚りを与えて糸状にする方法である。次に紡錘を用いて,上部の先端に繊維をとりつけて手で独楽(こま)を回すように紡錘を回転させるやり方。そして第3にはアジアで発明されたやり方で,紡錘を横たえたまま軸の周囲に回転させる糸繰車を使うやり方である。紡錘は同じ太さの長い美しい糸を得たいという願望から発明された道具である。独楽の形をしたもので,中心に軸を通して,先端に繊維をとりつけて回転させる。回転するにしたがって撚りがかかる。最古の紡錘車は,新石器時代,前5000年ころのものと思われる北メソポタミアの遺跡で発掘された粘土製のものである。土器や石器の大小の紡錘車は,世界中いたるところから発掘されている。農耕と紡錘の出現は密接に関連しており,新石器時代の定住農耕民は,どこでも織る装置を所持し,紡織を行っていたことが知られている。
他の植物性繊維としては,スペインや南イタリアのエニシダ,北アジアのイラクサやアイヌの利用したニレ,アフリカやオセアニアのシュロやバナナ,古代メキシコのリュウゼツランなどがある。動物性繊維は,旧世界では羊毛,ヤギ毛,南半球ではラマ,アルパカの毛,アラブではラクダ,チベットではヤクの毛を利用する。変わったものとしては,人間の髪の毛を使って簡単なものを編む例がある。アボリジニーも,帯やベルトやネックレスを編むのに人間の毛髪を使っている。
執筆者:鍵谷 明子
糸は経糸(たていと),緯糸(よこいと)を組み合わせて織物を作るほか,編物,ししゅう,縫糸(表1参照)などに使われる。そのためには,繊維を一定の方向にそろえて撚りをかけ,均一の太さと連続した長さをもたせ,たわみ性のある,使用目的に耐えるような強伸度を保つように加工される。糸はフィラメント糸と紡績糸に大別される。フィラメント糸は生糸のような長い繊維であり,紡ぐ必要がなく,何本か何十本かを集めることで織物や編物用の糸になる。天然繊維では1000m以上にもなる絹だけがフィラメント糸であるが,化学繊維にはすべてフィラメント糸がある。例えばナイロンの婦人用ストッキングは1本のフィラメント糸(モノフィラメント)からできている。多くのフィラメントからできているものをマルチフィラメント(マルチ糸)という。
紡績糸は短い繊維を紡いで作った糸である。紡ぐということは昔の手紡(てつむぎ)も現代の機械紡績も原理には変りなく,短い繊維を長さ方向にそろえながら撚りをかけることである。紡績糸は,表面が平滑なフィラメント糸と違って,けばだった表面をもつ。表面のけばをガスの炎で焼いたり(ガス焼き),水酸化ナトリウムで少し溶かして絹の感じを出したり(シルケット加工)することもある。綿,毛,麻は紡績されて糸になり,ほとんどの化学繊維は短繊維のステープルファイバー(スフ)が製造されているので,これから紡績糸が作られている。糸を作る紡績工程は繊維原料によって,綿・スフ紡績法,麻紡績法,羊毛紡績法,絹紡績法,落綿紡績法のように分類される。
綿紡糸には,短繊維などを強制的に除いて繊維をよく分離して平行に並べる工程を経て作るコーマ糸と,コーマを通さないカード糸があり,前者は60番以上の細い糸やミシン糸(カタン糸)のように均一な強い糸になる。
羊毛は紡績法により梳毛(そもう)糸と紡毛糸に分かれる。梳毛糸は比較的長い羊毛をよく梳(す)いて繊維を平行に並べて作るので糸筋はけばなく整っている。紡毛糸は比較的短い羊毛や回収繊維を調合,カーディング,精紡という工程で作ったけばだった糸である。高級背広地の色糸は,トップ染糸と呼ばれる多色繊維の混合糸である。これは繊維束(スライバー)のまま染色した色の異なる束を合わせて伸ばして1本の糸の中に数種の色繊維をむらなく混合した梳毛糸である。
フィラメント糸では異形断面糸,伸縮性嵩高(かさだか)加工糸(バルキーヤーン),スプリット繊維など,平滑な表面を改良して吸湿性やふっくらした感じをもたせた糸が作られるようになった。
混紡糸は2種類以上の異なった繊維を混ぜて紡いだ糸である。混繊糸は2種以上の繊維のマルチフィラメント糸を平均化して混ぜ合わせて作った糸であり,ナイロンとアセテート,トリアセテートとポリエステルを混繊したものが日本で1967年に開発され販売されている。意匠糸は織物に変わった外観を与えようという意図で作られた飾糸であり,2本以上の色違い糸を撚り合わせた杢糸(もくいと),ところどころに輪を作ったループ糸やリング糸などが含まれる。
撚りは紡績するときに1m当り数十から数千の撚りが自動的にかかるが,強い撚りのことを強撚(きようねん),メリヤス糸のような弱い撚りを甘撚り(あまより)と呼ぶ。フィラメント糸には撚りのまったくないものがあるが,強撚,甘撚りのものもある。撚りには左撚り(Z撚り)と右撚り(S撚り)がある(図参照)。撚りの強さは1インチ(2.54cm)間にかけた撚りの数で表される。2本の糸を撚り合わせて作った糸を双糸(そうし)(二子糸(ふたこいと)),3本を三子糸(みこいと)という。細い糸を芯にして太い糸を撚り合わせた壁糸(かべいと)があり,これは夏用の衣料品に多く使われる。異なる種類の糸を撚り合わせた糸を交撚糸(こうねんし)と呼ぶ。
糸の太さは長さと重さの相関関係によって示され,デニール(記号D。恒長式)と番手(恒重式)とがある。恒長式は一定の長さに対して重さがいくらかで糸の太さを表す。長さ9000mで重さ1gの糸の太さを1デニールとする。デニールは数字が大きくなるほど糸は太くなる。恒重式は一定の重さに対して長さがいくらあるかで表す。番手数が大きいほど糸は細い。番手は綿番手と毛番手が多く使われる。綿番手は重さ1ポンド(453.6g)で長さが840ヤード(768.1m)の糸を1番手といい,同じ重さで長さが8400ヤードあれば10番手という。毛番手(メートル番手)は重さ1000gで長さが1000mあるものを1番手といい1万mであれば10番手という。ちなみに,日本産の白繭はほぼ2.3デニールの細い糸である。デニールと番手の換算を表2に示す。
→化学繊維 →繊維 →紡糸 →紡績
執筆者:瓜生 敏之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
各種の繊維を一定の方向にそろえ、適当な必要とする細さに引き伸ばしたのち、必要とする品質のために適当な撚(よ)りをかけ、均一な強伸度を保つように加工したもの。織物、編物、紐(ひも)、縫い糸など、広い範囲に使われる材料として主要な位置を占めている。糸は、大別して製造方法により、紡績工程からつくられる紡績糸(スパン・ヤーン)と、紡糸工程から生まれる繊条糸(フィラメント・ヤーン)に分けられ、さらに繊維原料の種類、紡績方法などにより細分される。また糸の構成方法により、単糸、双糸(双子糸)、三子糸、飾り糸や、加工方法により、シルケット糸、擬毛糸、擬麻糸や、織糸、メリヤス糸、編み糸などに分けられる。
紡績糸の製作は、旧石器時代にまでさかのぼり、人類はつる、樹皮、草皮などの繊維を裂いてつなぎ合わせて長い連続体とし、身体の装飾や紐衣(ちゅうい)として使用した。北アフリカ、タッシリの洞窟(どうくつ)遺跡に描かれた人物などには、その使用状況が伝えられている。しかし繊維自体には自然的制約があるため、これを加工して適当な細さに裂き、両端を絡み合わせ(績(う)むという)、長い連続体とした。繊維の利用は動物界にも及び、比較的長い動物繊維が使われ、照葉樹に寄生する野蚕(やさん)(山蚕)やクモの糸、人間の毛髪までが利用された。そして動物の家畜化が進行すると、繊維の短い羊毛や、野蚕を家蚕化して利用されだした。短繊維はよくほぐしたのち、刷毛(はけ)、櫛(くし)などを使って繊維をそろえ、十分な強度を出すために撚りをかけることが必要であった。このため手と膝(ひざ)、手の指先で擦り合わせて撚っていたが、十分な均一糸が得られなかった。ついで、紡錘車とよぶ木、骨、土製の円盤状のものに軸を通し、その一端に糸をくくり空中で回転させて撚る方法が生まれた。日本では縄文時代の土器や土偶に縄文の圧痕(あっこん)がみられるが、まだ紡錘車の出土をみないことから、手で撚りをかけたらしい。圧痕には1本の撚り紐だけでなく、三つ組み、四つ組みの紐もあり、また土偶の文様から紐衣をつけていたと推定するものもある。弥生(やよい)時代の遺跡からは紡錘車が出土しているが、糸を材料として網、編物、織物へ発展するためには、さらに紡績技術の向上と製織技術が導入されねばならなかった。ニューギニア高地人のように、現在なお編物文化しかもたない種族も、まだ世界各地にみられる。日本では、紡錘を台上でこすり合わせ回転を与える「手すりつむ」が、古代から中世にかけて一般に行われたが、中世末には中国から紡車が舶載されて紡績の能率は著しく向上し、また縮緬(ちりめん)のための強撚糸(きょうねんし)をつくる撚糸八丁車(はっちょうぐるま)も幕末には発明された。蚕糸は長繊維であるため撚りをかける必要はなかったが、近世にはすべて一定の撚りがかけられることになり、独特の光沢を増加させた。18世紀後半に始まる産業革命は、紡績機械に画期的発明をもたらし、ミュール・リング紡績機などにより大量生産化と均一な品質の糸を生産した。また日本では西欧の技術に依存せずに、臥雲辰致(がうんたっち)によりガラ紡(和紡績)が発明されている。さらに化学繊維・合成繊維の発明は、絹にかわる繊条糸を生み出し、飛躍的発展によって近代繊維工業は確立した。現在では綿花から糸まで生産が連続している一貫連続処理装置が完成し、製造設備の合理化と更新への道を歩んでいる。
糸の撚りは、その性能を維持するため適度の撚り回数が必要である。撚り方向は右(S)撚りと左(Z)撚りに分けられるが、繊維の種類や製織、仕上げ方法の違いによって一定していない。原始的手紡法では地域的に統一した方向をとるが、日本では右撚りが弥生時代からの特徴であったが、近代的機械紡績では一般に左撚りのものが多い。撚り回数は、織物の強伸度や風合いとも関係するので、普通糸の太さに応じて決められるが、特殊なメリヤス糸などには撚りの少ない甘撚り糸、縮緬などには強撚糸(こわより糸)を使う。この撚りを単糸にかけたものが片撚り糸で、いく本も撚り合わせると諸(もろ)撚り糸となる。またその撚りかけの順序によって、下(した)撚り、上(うわ)撚りと区別している。
糸の太さは、一定の重量または長さを標準として決められているが、糸の種類や慣習的事情により異なる。
(1)恒重式による番手は、おもに綿糸、化繊糸などに使われ、標準重量に対する糸の単位長をその糸の番手としている。たとえば重さ1ポンド(約0.45キログラム)で長さ840ヤード(約768メートル)の糸を1番手とし、同じ重量で1680ヤードの糸は2番手となり、番手数が多くなると糸は細くなる。毛糸、麻糸では、この標準重量、単位長が異なる。
(2)恒長式によるデニールは、おもに長繊維の生糸、ナイロンなどに使われ、標準長の重量中に含まれる単位重量の数値で表す。たとえば標準長450メートルで単位重量0.05グラムのものを1デニールとするので、9000メートルの重量をグラムで表す数値がデニールとなる。
[角山幸洋]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…古代中国から,また日本でも大宝令以前から用いられてきた。1/10尺に等しく,1891年制定の度量衡法では1/33m,すなわち約3.03cmで,分量単位は1/10寸の厘,以下,十進法による毛,糸である。また鯨尺1寸は鯨尺1/10尺に等しく,約3.8mmで,分量単位は1/10寸の鯨尺分である。…
…(1)長さの単位。1/10寸に等しく,1891年制定の度量衡法では,曲尺(かねじやく)の場合約3.03mmであり,分量単位は十進法による厘,毛,糸である。また鯨尺1分は約3.8mmである。…
※「糸」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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