(読み)マコト

デジタル大辞泉 「誠」の意味・読み・例文・類語

ま‐こと【誠/真/実】

《「ことこと)」の意》
[名]
本当のこと。うそ・偽りのないこと。「うそから出た―」「―の武士」
誠実で偽りのない心。すなおでまじめな心。「―の情」「―を尽くす」
歌論・俳論用語。作品に現れる作者の真情・真実性。
[副]本当に。実に。
「―済まん次第じゃが」〈有島カインの末裔
[感]話の間に気づいたことを言い出すとき、忘れていたのを思い出したとき、別の話題に転じるときなどに発する語。ほんとうにまあ。そうそう。まことや。
「―、人知れず心ひとつに思ひ給へあまること侍れ」〈狭衣・四〉
[類語](1真理真実現実事実本当真相実情実態実際事情実況実相得体現実的実際的実地現に臨場感リアル有りのまま有りよう史実真正実の正真正銘紛れもない他ならない/(2真心誠意真情誠心

せい【誠】[漢字項目]

[音]セイ(漢) [訓]まこと
学習漢字]6年
うそ偽りのない心。まごころ。まこと。「誠意誠実至誠赤誠丹誠忠誠熱誠
[名のり]あき・あきら・かね・さと・さね・しげ・すみ・たか・たかし・たね・とも・なが・なり・なる・のぶ・のり・まさ・み・もと・よし

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普及版 字通 「誠」の読み・字形・画数・意味


常用漢字 13画

(旧字)
14画

[字音] セイ・ジョウ(ジャウ)
[字訓] まこと・まごころ

[説文解字]

[字形] 形声
声符は(成)(せい)。〔説文〕三上に「信なり」と訓する。〔書、太甲下〕に「鬼に常享(じゃうきゃう)無し。克(よ)くなるものは享(う)く」とあり、誠信・誠実をいう。言は神に対する誓約、は戈に呪飾を施して聖化したもので、これを加えて、其の意を誠にすることをいう。

[訓義]
1. まこと、まことにする、神にちかう。
2. まごころ、純粋な心。
3. つつしむ、つまびらかにする。
4. まことに、まことの。

[古辞書の訓]
名義抄 マコト・サネ・コトゴトク・トモ・ノブ 〔字鏡集〕 コトゴトク・サネ・マコト・ウラヤム・ウヤマフ・ノブ・トモ

[語系]
zjiengは同声。は呪飾。呪飾を加えて神に誓うことを誠という。

[熟語]
誠意・誠壱・誠愨・誠感・誠貫・誠款・誠願・誠偽・誠恐・誠謹・誠慊・誠言・誠語・誠悃・誠懇・誠士・誠至・誠実・誠心・誠信・誠・誠切・誠節・誠善・誠素・誠荘・誠端・誠直・誠道・誠服・誠勇・誠烈・誠廉
[下接語]
款誠・帰誠・義誠・潔誠・虔誠・献誠・悃誠・懇誠・至誠・純誠・淳誠・信誠・真誠・推誠・寸誠・精誠・赤誠・拙誠・素誠・存誠・達誠・丹誠・致誠・忠誠・衷誠・貞誠・熱誠・立誠

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改訂新版 世界大百科事典 「誠」の意味・わかりやすい解説

誠 (まこと)

和語の〈まこと〉は,〈事〉〈言〉に接頭語の〈ま(真)〉が付いたもので,〈本当のこと〉〈真実の言葉〉の意である。上代では,言と事は未分化であったから,〈まこと〉は,そのいずれにも通じる言葉として用いられた。心の〈まこと〉すなわちいつわりない忠実な心,誠意という意味での〈まこと〉の用例も存在する(《日本書紀》崇神天皇紀)が,この用法が一般的であったか否か確証はない。ただし,《続日本紀》宣命(せんみよう)に〈明き浄き直き誠の心〉とあるように,倫理的な色彩をともなう言葉としても古くから使われていたといえる。一方,漢語の〈誠〉は,《説文》に〈信なり〉とある。〈誠〉は誓約を成就する意で,〈誠〉のみが鬼神に通ずる道であり,《中庸》の〈誠者天之道也〉とはその意味であるという(白川静《字統》)。戦国時代の子思孟子はこれを重要な徳目とした。

平安時代になると〈まこと〉は,歌の表現における〈〉(ことば)に対し,内容となる心の真実性として新しく注目されるようになった。その後中世では,歌ごころの真実としての〈まこと〉が,仏道修行上の真摯(しんし)さ,誠実さと習合し,その歌境をいっそう深める働きを果たした。また近世では,ときの教学としての儒学,とりわけ朱子学がもてはやされた結果,〈誠者天之道也〉(《中庸》)の考えが広まり,〈誠〉は天地自然を生成運行する根源的な力,ないし人間の諸活動の源となる創造力の原理・本体として位置づけられるようになった。そして,芸術の分野では,あらゆる対象の中に宇宙の生命(小宇宙)を認め,その生命と感合することで自己の本性を明らかにしようとする芭蕉の〈風雅の誠〉論,あるいは〈まことの外に俳諧なし〉(《独ごと》)と喝破した鬼貫の俳諧論を生み出している。一方,和歌の世界でも新しい動きがみられ,復古神道の荷田春満(かだのあずままろ)は人情のまことを重んじ,その門下の賀茂真淵は心に思うことを理・非理にとらわれることなくそのまま表現すべきだという〈歌の真言(まこと)〉説を主張するようになった。その真淵のまこと説は以後その門流に広く継承されていくが,下っては〈今わが思う心の真実を歌う〉ことを説いた小沢蘆庵(おざわろあん),〈自分の真心の誠をやすらかに調べととのえる〉ことを説いた香川景樹(かがわかげき)らの歌論となった。さらに,これらの諸説を総合する位置に,富士谷御杖(ふじたにみつえ)の〈まことは真言であり,神道によっても慰め難い人間の一向心(ひたぶるごころ)が,これを歌うことによって真心の境に至ることを可能にするのであり,また時宜(じぎ)を全うすることにもなる〉という《真言弁(まことのべん)》がある。
執筆者:

誠という概念がとくに近世の武士たちの間で一つの意味を実質として獲得するに至ったことについては,近世的精神風土とかかわるところがさまざまな点で大きい。近世という時代の位相がこの語に意味を与えずにはおかない内在的な要因となった。その局面は二つある。一つは現世的な場を離れたところに価値を見いだす考え方の傾向が姿を消し,現実の人間関係の場の中で事を処することが人々に要請されたこと,もう一つは君臣関係のあり方を軸にして事を処することの意味づけがとりわけ武士に要請されたことである。こうして,誠が,人間関係における真,君臣関係における真として使われることになった。伊藤仁斎は誠を定義して〈誠は実なり。一毫の虚仮なく,一毫の偽飾なき,まさに是れ誠〉(《語孟字義》)とするが,ここで意味として託されているものは人間の交わりにおける心情の偽りのなさにほかならないのである。仁斎においてこのように考えられた積極的な意味は,市井の人間のつながりのうちに問題の場を開こうとした点にある。しかし,町人として市井に住む立場での仁斎の誠についての見方ののち,この語は武士が事を語る際の一つの中枢を占めることになる。それは,〈誠の心があるときは,つくろいかざりはない〉(細井平洲《細井先生講釈聞書》)のごとくであり,ここで,きわだつのは他者(ときに君主)に対する内面的心情の純一性にすべての意味を託しきろうとする姿勢である。自己の外側に規範とするものを見いだしえないまま,やがて,幕末の解体状況の中で〈至誠〉という観念におのれの行為の根拠を見いだすほかないとする発想にまで進むことになる。
執筆者:


誠 (せい)
chéng

中国思想の概念。偽(いつわり)の対語で,うそいつわりのない言行をいうが,この語が哲学的概念として登場するのは《大学》《中庸》においてである。《大学》では〈格物〉〈致知〉〈誠意〉〈正心〉〈修身〉〈斉家〉〈治国〉〈平天下〉のいわゆる8条目の一つとして,《大学》の一翼をになっている。《中庸》では,前半で〈中庸〉が説かれるのに対し,後半は〈誠は天の道なり,これを誠にするは人の道なり〉という有名な句にはじまって,もっぱら誠を中心に議論が展開する。この句にうかがわれるように,誠は《中庸》においては対人関係の徳目の域を超え,宇宙論的・存在論的なカテゴリーになっている。《大学》《中庸》を重んじた宋学では誠も注目され,朱熹(しゆき)はこれを〈実〉,または敷衍(ふえん)して〈真実無妄(むぼう)〉と定義した。その場合,誠のモデルになったのは,冬がゆけばあやまたず春がめぐり,牛にはかならず牛の子が生まれるといった〈天の道〉であるが,そのような自発的・自然的でいつわりなきものをすべて誠の名で呼んだ。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「誠」の意味・わかりやすい解説


まこと

儒教の徳目。敬が外面的恭順をいうのに対して精神態度の誠実をいう。『大学』の8条目に誠意があり、『中庸(ちゅうよう)』には「誠とは天の道なり。これを誠にするは人の道なり」とある。朱熹(しゅき)(朱子)は、この誠を真実で邪心のないこと、天の理法の本来の姿と解釈した。つまり天の理法は人間の道徳実践の目標としてあり、その内容は真実無妄(むぼう)だというのである。聖人はこの境地に達しているが、凡人は道徳実践によって天の理法と合一することが求められた。『大学』の誠意章は、朱熹が臨終の数日前まで補訂の筆をとるほど重視したが、ただ朱子学では、誠意の前段階である「物に格(いた)り、知を致(いた)す」という認識方法に重点が置かれていた。明(みん)代の王陽明(守仁(しゅじん))は『大学』の古いテキストの再評価を通して、誠意が学問の中心テーマであることを明らかにした。このようにして誠意は宋明(そうみん)代思想の重要な問題点の一つとなったのである。

[佐野公治]

日本

近世の日本儒教のもっとも基本的な徳目である。また日本で強調された誠は、中国の誠と異なり、天の理法との合一に誠をみるものではなく、人と交わり事をなすときにおける心情の純粋さそのものを内容とした。この誠を重視する傾向は「已(や)むことを得ざる、これを誠と謂(い)う」とした山鹿素行(やまがそこう)に始まるが、人と交わり事をなすときの欺かず偽らざる真実さを実践倫理の根本とした伊藤仁斎(じんさい)によって強力に推し進められた。後期において、誠は表裏一体・内外一致という仕方で一般に理解されたが、誠を重視する傾向がもっとも高まったのは幕末である。吉田松陰(しょういん)は、心に思うことを実行に移すこと(実)、その一事に集中すること(1)、事が成就(じょうじゅ)するまで持続すること(久)を誠の三大義とした。このような誠重視の傾向は、清明心などを重んじた古来の日本人の伝統的心情が儒教概念の理解に反映したものである。

[相良 亨]

『武内義雄著『日本の儒教』(『易と中庸の研究』所収・1943×・岩波書店)』『相良亨著『近世の儒教思想――「敬」と「誠」について』(1966・塙書房)』

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【蕉風俳諧】より

…しかし,景をして言外の情を語らしめる理想は,現実には景に情を託そうとはかる作為的な句作りに落ちやすい。景情融合の句作りを保証するものは表現主体が表現対象と合一する境地であり,合一をもたらすものは〈(まこと)〉,妨げるものは私意であるという芭蕉は,誠を責めれば句作りは自然に成ると説いたが,その高度な抽象論を理解し,実践できる者はまれであった。晩年の芭蕉は,私意の介入する余地のないまでに情の表出を抑え,〈軽み〉と称して日常の景を淡々と描き出す作風を唱導したが,そのために浪漫的な香気が失せたことも否めない。…

【日本】より

…矛盾が明らかなときには,彼らは彼らの立場を固執する。彼らの立場は,戦国武士団の理想であり,仲間の団結と主君への忠誠である。彼らにとっては,その所属する共同体を超えるいかなる絶対的価値も存在しなかった。…

※「誠」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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