開・披・拓(読み)ひらく

精選版 日本国語大辞典の解説

ひら・く【開・披・拓】

[1] 〘他カ五(四)〙
[一] 閉じふさがったものを押し広げる。まとまっているものをほぐして広げる。
① あけひろげる。開放する。
(イ) 開き戸、門などをあける。
※万葉(8C後)二〇・四四六五「ひさかたの 天の戸比良伎(ヒラキ) 高千穂の 嶽に天降(あも)りし」
(ロ) 瞼(まぶた)、口、手、足などを広げる。
※日葡辞書(1603‐04)「マナコヲ firaqu(ヒラク)
(ハ) 閉ざされた場所、建物などを人がはいれる状態にする。「広く門戸を開く」「開かれた世界」
※書紀(720)応神一六年八月(北野本南北朝期訓)「汝等(いましたち)〈略〉新羅(しらき)を撃(う)ちて其(そ)の道路(みち)を披(ヒラケ)
(ニ) (「心を開く」「胸襟を開く」などの形で) 自分の殻を解き放って、隠すところなくする。
※蔭凉軒日録‐寛正五年(1464)九月七日「小斎会、并日譚笑開老懐也。殆不快乎」
② (「披」「展」とも)
(イ) たたんであるもの、くっついているものなどを広げる。
※守護国界主陀羅尼経平安中期点(1000頃)一〇「袈裟を披(ヒラキ)挂け」
(ロ) 文書・書籍などを見るために広げる。
※浄瑠璃・吉野忠信(1697頃)二「判官文をひらいて御覧ずるに」
(ハ) 魚の腹または背から刃を入れて切って広げる。
※多情多恨(1896)〈尾崎紅葉〉後「不断着が魚を開いたやうに日南に並べて干してある」
③ 横風帆走に適するように、帆を片寄せてのばし広げることをいう、船方ことば。
※日葡辞書(1603‐04)「Firaite(ヒライテ) ハシル」
④ 「割る」「砕く」などの意で用いる忌み詞。→鏡開き
※歌舞伎・裏表柳団画(柳沢騒動)(1875)六幕「力を入れて鏡餠を開(ヒラ)かうと」
⑤ 酒杯をからにする。飲みほす。
※歌舞伎・盟三五大切(1825)大詰「その酒を開(ヒラ)いてくりやれ」
⑥ 数学で、開平・開立をする。累乗根を求める。一般に、n乗根を求めることをn乗に開くといい、平方根を求めることを平方に開く、立方根を求めることを立方に開くという。
※舶用機械学独案内(1881)〈馬場新八・吉田貞一〉附録「四百四十八なる数あり之を平方并立方に開(ヒラ)けば各何程なるや」
⑦ (「括弧を開く」の形で) 数学で、括弧のつかない式に変える。
⑧ 印刷物の校正などで、漢字を平仮名に改める。平仮名にする。
[二] 物事を新たに興す。創設する。また、物事を良い方に展開させる。
① (「拓」とも) 未開拓の場所・土地などに手を加えて整える。
※漢書楊雄伝天暦二年点(948)「桂椒を(ヒラ)き、移楊をあつむ」
② 新しい流儀・学説などをたてる。「一派を開く」
※大唐三蔵玄奘法師表啓平安初期点(850頃)「法門を闢(ヒラケリ)
③ 事柄を開始する。
(イ) 事業、商売、会合などを始める。起こす。
※滑稽本・浮世風呂(1809‐13)前「銭湯天明(よあけ)ていまだ店を開(ヒラ)かず」
(ロ) もよおす。開催する。
※満韓ところどころ(1909)〈夏目漱石〉二〇「寄席もしくは講演を開(ヒラ)く様な設備もある」
(ハ) 托鉢を始める。→鉢開き
※日葡辞書(1603‐04)「ハチヲ firaqu(ヒラク)
(ニ) 器物などを初めて使う。
※日葡辞書(1603‐04)「ダウグヲ firaqu(ヒラク)
④ 繁栄、幸福、幸運などを求めて、その状態になるようにする。
※大鏡(12C前)六「門をひらき、栄花をひらかせ給へば」
⑤ (木版印刷で) 開板する。出版する。
※御湯殿上日記‐享祿五年(1532)六月七日「さかいにてちかき比あたらしくひらきたる年代記のはんき」
[三] (「啓」とも) 事柄を明らかにする。解き明かす。
① 疑念などを晴らす。弁明する。
※守護国界主陀羅尼経平安中期点(1000頃)三「四方の衆生に斉しく疑ひを啓(ヒラカ)しめたまふ」
② 無知蒙昧(もうまい)を教えただす。「蒙を開く」
※太政官第二一四号‐明治五年(1872)八月二日(法令全書)「身を修め智を開き才芸を長するによるなり」
③ 真理・道理などを明らかにする。また、その奥義や悟りの域に到達する。
※大唐西域記長寛元年点(1163)四「世親菩薩書を覧論を閲(ヒライ)て沈吟することやや久くして」
④ 反駁(はんばく)する。弁駁(べんばく)する。
※敬斎箴講義(17C後)「頓(とみ)に難説と云は、是孟子の所謂遁辞たりと闢くべし」
[四] 米相場で、高値になってから売り埋める。〔稲の穂(1842‐幕末頃)〕
[2] 〘自カ五(四)〙
① 閉じふさがったものが広がりあく。
※松浦宮(12C終)二四「ひらけるかどよりうちいる道もさりあへず、人はうち散らされ」
② 花などがほころびる。開花する。
※日葡辞書(1603‐04)「ハナガ firaqu(ヒラク)
③ 物事が良い方向にゆく。繁栄したり幸運な状態になったりする。
※浄瑠璃・源頼家源実朝鎌倉三代記(1781)七「開(ヒラ)く御運が定ならば」
④ (敵の攻撃などに対して) 身を引いて構える。また、身をかわす。
※太平記(14C後)三二「件の鉞(まさかり)を以て開き〈略〉思様に打ける処を」
⑤ (武士が用いる「落ちる」「ひく」などの意の忌み詞) 退陣する。退散する。逃げる。
※保元(1220頃か)中「いそぎいづ方へも御ひらき候べし」
⑥ 転じて、宴会、会合などが終わって帰る。また、解散する。→お開き
※咄本・さとすゞめ(1777)婚礼「こんれいにわ、かゑるといふ事を、ひらくといふ物だ」
※心の闇(1893)〈尾崎紅葉〉九「席は一先(ひとまづ)十時に開(ヒラ)きて」
⑦ ものとものの間に隔たりができる。
(イ) 距離や年齢が隔たる。
※鶸(1972)〈三木卓〉「二人は姉弟なのだろうか? 年はいくつひらいているだろう?」
(ロ) 差がつく。格が違う。
※当世花詞粋仙人(1832)「よほど上な事、ひらく」
※絵合せ(1970)〈庄野潤三〉一六「あんまり明夫が勝つので、二位との差がひらき過ぎた」
(ハ) 値段に違いが出る。値が離れる。
[3] 〘自カ下二〙 ⇒ひらける(開)
[補注]古くは、四段活用の「ひらく」は、他動詞としての用法に限られ、自動詞の用法は、下二段活用の「ひらく」が対応していた。→ひらける

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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