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株式会社の社員(株主)の会社に対する法律上の地位(株主権)をさす。細分化された割合的単位の形をとるところに特色がある。株主は、その有する株式数に応じて複数の地位を有する。これにより、株式会社においては、零細な資金による出資も可能となり、多数の者の参加が容易になり、大規模の資本の集中が可能となる。さらに、多数の社員からなる株式会社の法律関係を処理するうえで、さまざまな便益がもたらされる(株主平等の原則など)。
[戸田修三・福原紀彦]
株主はその有する株式につき、(1)剰余金の配当を受ける権利、(2)残余財産の分配を受ける権利、(3)株主総会における議決権、その他会社法の規定により認められた権利を有する(会社法105条1項)。株主に(1)および(2)に掲げる権利の全部を与えない旨の定款の定めは無効である(同法105条2項)。
株主の権利は、自益権と共益権に分けられる。自益権は、株主が会社から直接経済的な利益を受ける権利で、これには剰余金配当請求権(同法105条1項1号)、残余財産分配請求権(同法105条1項2号)、株式買取請求権(同法116条~119条)などが認められている。共益権は、会社の管理運営に参加し、不当な経営を防止・排除する権利をいい、株主総会における議決権(同法105条1項3号)、株主総会決議取消訴権(同法831条1項)、会社組織に関する行為の無効訴権(同法828条)、取締役の違法行為差止請求権(同法360条)などがある。
また、株主権は、すべての株主に与えられている単独株主権と、一定数または一定割合の株式を有する株主のみが行使することができる少数株主権に分けられる。自益権はすべて単独株主権であるが、共益権には双方があり、とくに権利が強力で濫用の危険が大きいものは少数株主権に分類されている。たとえば、提案権(同法303条、305条)、株主総会の招集権(同法297条)、取締役等の解任請求権(同法854条、479条)、帳薄閲覧権(同法433条)などがある。ただし、取締役会非設置会社では、総会の議題提案権は単独株主権となっており(同法303条1項、305条1項)、その他の少数株主権についても、すべての会社において、定款で要件の緩和または単独株主権化が許容されている。
[戸田修三・福原紀彦]
株主は、その有する株式の引受け価額を限度とする出資義務を会社に対して負うだけであって、会社債権者に対しては直接なんらの責任も負わないという原則(会社法104条)。この原則により、出資をしようとする者は将来的に自分が負わされる事業リスクの額を事前に知ることができるために、出資を促進させる効果がある。会社法では、全額払込制がとられており、株式を引き受けた者は株式発行の効力が発生する前に出資額を全額払い込まなければならないために(同法34条、63条、208条)、株式発行の効力が生じて株式引受人が株主となった時点では、株主は会社に対してなんらの義務を負うことはない。この原則は株式会社の本質的な性格にかかわる絶対的な原則であって、定款や株主総会の決議をもってしても、その例外を定めて株主の責任を加重することは認められない。
[戸田修三・福原紀彦]
株主は、その有する株式の内容および数に応じて、平等に取り扱わなければならないという原則(会社法109条1項)。以前は、持株数に応じた平等のみを言及していたが、2005年(平成17)制定の会社法によって、株式の内容に応じた平等についても言及するようになった(同一種類同一取扱原則)。これにより、種類株式も株主平等の原則の範疇(はんちゅう)に入るようになった。たとえば、有議決権株と無議決権株とでは、以前は議決権の有無により株主平等の原則の例外として扱われていたが、現在では、異なる種類の株式なので、それぞれその内容と数に応じて平等に取り扱われれば、平等原則の問題とはならなくなった。株主平等の原則の趣旨は、会社における多数決の濫用から少数派株主の利益を保護する点にある。会社法は、株式の数に応じた平等取扱いについては、議決権(同法308条1項本文)、剰余金配当(同法454条3項)、残余財産分配(同法504条3項)等において、株式の内容に応じた取扱いについては、会社法108条の種類株式において、それぞれ明定している。株主平等の原則は、法が許容する場合のほか、不利益を受ける株主が個別的に同意しない限り、その例外は認められないが、株主総会の大多数の賛成を得た敵対的企業買収防衛策を導入する場合には、個別同意が不要となる可能性もある。同原則の例外として、非公開会社においては、株主ごとに異なる取扱いを行う旨を定款で定めることができ(同法109条2項・3項)、属人的な定めが可能である。
[戸田修三・福原紀彦]
株主の権利のうち、株主の同意がなければ、株主総会の多数決をもってしても奪うことができない権利。この権利は、会社に参加する株主の本質的な利益を保護するために、多数決原則の限界として認められたものであり、たとえば剰余金配当請求権は一般に固有権であると解されている(会社法105条2項)。もっとも、現在では、多数決で奪いうる権利か否かは、具体的法規の解釈にゆだねられ、したがって固有権の意義はそれほど大きくはない。
[戸田修三・福原紀彦]
各株主が、その持株数に関係なく、単独に行使できる株主としての権利。少数株主権に対する概念である。自益権はすべて単独株主権である。共益権では、議決権(会社法308条)、株主総会決議取消訴権(同法831条)、新株発行無効訴権(同法828条1項2号)、会社設立無効訴権(同法828条1項1号)、合併無効訴権(同法828条1項7号)などの各種の訴権や、代表訴訟提起権(同法847条1項)、取締役等の違法行為差止請求権(同法360条、422条)などがこれに属する。
[戸田修三・福原紀彦]
一人または数人の株主が総株主の議決権の一定割合以上あるいは一定数以上の株式保有を要件として行使しうる権利。共益権のうち、とくに権利が強力で濫用の危険が大きいものが少数株主権に分類されている。たとえば、株主提案権(会社法303条、305条)、株主総会招集権(同法297条1項)、帳簿閲覧権(同法433条1項)、解散請求権(同法833条1項)などである。
[戸田修三・福原紀彦]
株主が株主総会に出席してその決議に加わる権利。株主は原則として、1株につき1議決権を有する(会社法308条1項本文)。ただし、例外として、以下の株式には議決権は認められない。
(1)単元未満株式(同法308条1項但書) 単元未満株式の議決権行使を排除することによって、株主に要する費用(株主管理コスト)を削減することができる。
(2)議決権制限株式(同法108条1項3号) 投資利回りだけに関心があって会社経営に興味がない株主側の必要、議決権数を増やしたくないという経営者側の必要に応じて、一定の株主総会決議事項について議決権を制限する株式・完全無議決権株式の発行を認める。
(3)取締役・監査役選解任株式(同法108条1項9号) 当該株式を発行した場合には当該種類株式によって選任される取締役・監査役についてはその他の株主には議決権がない。
(4)相互保有株式(同法308条1項括弧(かっこ)書) たとえばA社がその株主であるB社の総株主の議決権の4分の1を超える株式を有しているときには、B社はその有するA社株式について議決権を有しない。議決権行使の公正さを確保し、その歪曲(わいきょく)化を防止するためである。
(5)自己株式(同法308条2項) 取締役等による会社支配が強化され株主の意思が総会に反映されない危険を防止するために、議決権を認めない。
(6)特別利害関係人である株主の株式(同法140条3項、160条4項) 特別利害関係人とは、決議内容について個人的な利益を有する者のことをいう。ただし、株主総会の決議について特別利害関係を有する株主であっても、一般的には議決権を排除されることはなく、一定の場合に決議取消事由が生じうるだけである(同法831条1項3号)。
(7)基準日後に取得された株式(同法124条) 株主が多数存在する会社において、どの時点において株主である者に議決権等の権利行使を認めるかを判断するために、基準日を設定する。
[戸田修三・福原紀彦]
株式すなわち株主の地位(株主権)を表章する有価証券。目に見えない存在である株式をこれによって目に見える形にして、これを流通させることによって株式譲渡を容易にすることができる。ただ、会社法では、株券を発行したくないとの実際の要求を踏まえて、株式会社においては株券不発行が原則であり、株券を発行する旨が定款で定められている場合には、株券が発行される(会社法214条)としている。定款で株券発行を定める株券発行会社は、株式発行日以後遅滞なく株券の発行を要する(同法215条1項)。ただし、非公開会社では、株主の請求があるまで株券を発行しないことができる(同法215条4項)。
[戸田修三・福原紀彦]
会社法は、各株主の権利の内容が同一であることを原則としつつも、資金調達および支配関係の多様化に応じて、一定の範囲と要件のもとに、株式の多様化を許容している。
〔1〕会社が発行するすべての株式について、特別の内容の株式とすることができる(会社法107条1項)。特別の内容の株式を発行できるのは、以下の3種である。
(1)譲渡制限株式 譲渡による株式の取得について株式会社の承認を要する株式。
(2)取得請求権付株式 株主が当該株式について株式会社に対して取得を請求できる株式。
(3)取得条項付株式 株式会社が当該株式について一定の事由が生じたことを条件として取得することができる株式、である。
〔2〕会社が発行する株式のうち、以下の9種については、権利内容の異なる種類の株式を発行することができる(同法108条1項)。すなわち、(1)剰余金配当、(2)残余財産分配、(3)議決権行使事項、(4)譲渡制限、(5)取得請求権、(6)取得条項、(7)全部取得条項、(8)種類株主総会による承認(いわゆる拒否権)、(9)種類株主総会における取締役・監査役選任、である。
[戸田修三・福原紀彦]
剰余金配当や残余財産分配について異なる種類の株式を発行する際に、標準となる株式を普通株といい、普通株式よりも優先的な扱いを受ける株式を優先株という。たとえば、業績不振の会社が剰余金配当優先株式を発行することによって、株主を容易に募集することができ、資本調達を図るうえで便宜な制度である。剰余金配当優先株は、普通株に優先して一定額または一定割合について優先的配当を受けるほか、さらに利益があるときは普通株とともにその残余の利益にもあずかることができるか否かにより、参加的優先株と非参加的優先株に分けられる。また、ある年度の剰余金配当が前記の一定額または一定割合に達しない場合、その不足分の配当を次年度以降の利益から補填(ほてん)されるか否かによって、累積的優先株と非累積的優先株に分けられる。一般に優先株は普通株よりも配当が確実である点において、社債に接近し、その傾向は非参加的、累積的の場合に顕著である。
[戸田修三・福原紀彦]
優先株とは反対に、普通株に対し劣後的取扱いを受ける株式を劣後株といい、剰余金配当や残余財産分配について普通株よりも低い地位しか与えられない。後配株ともいう。たとえば、剰余金の多い会社は新株を劣後株として発行することによって、既存の株主の剰余金配当額が低下することを避けるという利点もある。混合株は、剰余金配当または残余財産の分配のうち、ある点では優先的取扱いを受け、他の点では劣後的な取扱いを受ける株式である。
[戸田修三・福原紀彦]
株主総会の全部または一部の事項について議決権を行使することができない株式(会社法108条1項3号)。会社経営に興味はなく、ただリターンにのみ関心がある株主側の要求、および株主の議決権数を増やしたくないという経営者側の要求に応じる。2001年(平成13)の商法改正以前は利益配当優先株式に限って、定款の規定で議決権を有しないものとされた無議決権株式(議決権なき株式ともいう)を発行することが認められていたが、商法改正以来、株式の種類を問わずに、かつ、無議決権だけではなく一部の事項について議決権を行使できない議決権制限株式をも発行できるようになった。この株式を発行するには、発行可能種類株式総数と議決権行使の事項・条件を定款で定める(会社法108条2項3号)。この種類株式の株主は、議決権が制限される事項につき、その議決権の存在を前提とする権利を有しない(たとえば、株主総会招集通知を受ける権利。同法298条2項括弧書)が、それ以外の権利は認められる。公開会社では、議決権制限株式の総数は発行済株式総数の2分の1を超えてはならない(同法115条)。
[戸田修三・福原紀彦]
かつて株式は、株券上に券面額が記載されているか否かによって、額面株式と無額面株式とに分けられていた。しかし、額面株式の価値は企業自体の経済的価値によって決定され額面は株式の価値を表すものではないこと、額面が資本金額算定の基礎となる根拠が不明確であること、額面を基準に株主への配当額を算定することが低配当性向の理由となっていたこと、などの理由により、2001年(平成13)の商法改正によって額面株式制度を廃止し、株式は無額面株式のみとなった。
[戸田修三・福原紀彦]
2005年(平成17)の会社法制定以前に存在した制度であり、株主に配当しうべき利益をもって消却されることが予定されている特別の種類の株式であった。本来、株式は社債と異なり償還しないのが原則であるが、会社が一時的な資金調達の必要から配当優先株を発行する場合に、それがいつまでも残存すると経理上の負担が重くなるので、償還条項をつけて一定の時期以後それを償還しうることを法がとくに認めたものである。償還が株主の選択によってなされるものを義務償還株式、会社の選択によってなされるものを随意償還株式とよんでいた(義務か随意かは、会社の側にたった表現である)。2005年制定の会社法においては、前者は取得請求権付株式(会社法108条1項5号・2項5号)に、後者は取得条項付株式(108条1項6号・2項6号)に、それぞれ対価として金銭を交付する場合(108条2項5号イ・107条2項2号ホ、108条2項6号イ・107条2項3号ト)に相当する。
[戸田修三・福原紀彦]
2005年(平成17)の会社法制定以前に存在した制度であり、「数種の株式」が発行される場合、他の種類の株式に転換することができる権利(転換権)を与えられた株式であった。たとえば、会社経営に興味がなく、もっぱら配当にしか興味がない株主のために最初は優先株を議決権を排除して発行するが、後日、営業成績いかんにより会社経営に関与したいと思えば普通株に転換して議決権を復活させられるものとすれば、新株の募集を容易に行える利点がある。転換が株主の請求によってなされるものを転換予約権付株式、会社が定款の定める事由の発生により転換することができるものを強制転換条項付株式とよんでいた。2005年制定の会社法においては、前者は取得請求権付株式(会社法108条1項5号・2項5号)に、後者は取得条項付株式(108条1項6号・2項6号)に、それぞれ対価として別の種類の株式を交付する場合(108条2項5号ロ、108条2項6号ロ)に相当する。
[戸田修三・福原紀彦]
株式は、基本的には会社設立時と会社成立後の増資の二つの場合に発行される。両者の特色における相違点としては、(1)成立後の株式発行は簡易迅速な手続が要求される、(2)成立後の株式発行では既存株主との利害調整が必要である、ことにある。なお、会社成立後の株式発行は、会社が保有する自己株式の処分を含めて、「募集株式の発行等」と称される(会社法199条以下)。
[戸田修三・福原紀彦]
会社設立に際し、発行する株式をすべて発起人が引き受け、それによって設立させる方法を発起設立といい(会社法25条1項1号)、発起人が一部を引き受け、残部については広く株主を募集する方法を募集設立という(同法25条1項2号)。株主を募集する手続(同法57条以下)が必要である、および株式会社の設立事項について決定するために創立総会を開催する(同法87条)など、募集設立のほうが手続は複雑である。
[戸田修三・福原紀彦]
会社設立後、会社が自己資本を増加することによって、長期資金の需要を満たすことを増資という。会社法における増資方法としては、募集株式発行が存在する。
〔1〕増資の量 会社の設立の際に、発行可能株式総数を定め、その4分の1以上を発行する(会社法37条)、残りの未発行株式については、取締役会などにその発行を授権する。さらに株式を発行したいときには、定款を変更して発行可能株式総数を増やせるが、発行済株式総数の4倍を超えて増やすことはできない(同法113条3項本文)。ただし、非公開会社では発行可能株式総数を増やす際に前記のような制約がない(同法37条3項但書、113条3項但書)。
〔2〕増資の決定機関 募集事項の決定はどこの機関が行うかは、会社の種類によって異なる。(1)非公開会社では、原則的に株主総会の特別決議で行う(同法199条2項、309条2項5号)が、取締役(取締役会設置会社では取締役会)に委任することもできる(同法200条1項。ただし、委任を決定するためには株主総会の特別決議が必要。同法200条1項、309条2項5号)。(2)公開会社では、発行可能株式総数の範囲内で取締役会の決議による(同法201条1項。ただし、第三者に対してとくに有利な価額で交付する場合には、株主総会の特別決議を要する。同法199条3項、201条1項、309条2項5号)。
持株数に比例して株式の割当てを受ける権利を株主に付与する株式募集の方法を株主割当てという。公開会社では取締役会決議により、非公開会社では株主総会の特別決議により、株主割当てをすることができる(同法202条)。
[戸田修三・福原紀彦]
株式の発行方法は、公募と非公募の二つの方式に分けられる。前者は、一般の不特定多数人から広く株主を募集する方式であり、後者は、特定の者または限定された縁故者などに株式を引き受けさせる方式である。
[戸田修三・福原紀彦]
増資にあたってだれに新株を引き受けさせるかにより、株主割当てと第三者割当てとに分けられる。株主に対して、その持株数に応じて株式の割当てを受ける権利を与えて行う募集株式の発行等を株主割当てといい、株主以外の者に対して株式の割当てを受ける権利を与えて行う募集株式の発行等を第三者割当てという。なお、株主にその持株数に応じずに株式を割当てるときも第三者割当てに該当する。また、第三者割当ては、割り当てる者を募集する範囲を、従業員・取引先など一定の者に限定する場合を縁故募集といい、限定しない場合を公募という。日本の場合には、慣行として全部あるいは一部を株主に割り当てる方法がとられてきた。また、公募の場合でも、株主に優先応募権が認められてきた。
[戸田修三・福原紀彦]
2001年(平成13)の商法改正によって額面株式が廃止される以前においては、新株を発行する際には、株式の市価とは関係なく額面金額で発行する方法(額面発行)、あるいは、株式の市価と額面金額との中間、あるいは額面金額を若干上回ったところで新株の発行価額を定める方法(プレミアム付発行)が一般的であった。現在では、募集株式を発行する際には、株式の時価を基準として、実際には時価より若干低いところで新株の発行価額を定める時価発行で行うのが一般的である。
[戸田修三・福原紀彦]
通常の株式発行では資金調達目的が伴うが、資金調達目的を伴わずに株式が発行されることを「特殊の株式発行」ということもある。株式の分割、取得請求権・取得条項行使の対価としての株式発行、新株予約権行使、合併対価としての株式発行などである。
[戸田修三・福原紀彦]
株式の分割とは、発行済の既存の株式を細分して従来よりも多数の株式とすることをいう。会社法上、同一の種類の株式について一定の割合で一律に数を増加させることである(株式の計数の増加。会社法183条1項)。たとえば、1株を2株に、また2株を3株とする。会社の純資産額をそのままにして発行済株式数だけを増加させるのであるから、1株あたりの純資産額を減少させ、株価を引き下げ、株式の市場性を高める効果がある。分割によって端数が生じない限り、既存株式の実質的地位に変更を生じないので、取締役会設置会社では取締役会決議によって決定できる(同法183条2項)。
[戸田修三・福原紀彦]
準備金の資本組入れまたは額面超過額の資本組入れ分につき、取締役会の決議により、その組入れ額の全部または一部を引当てに新株を発行し、これを株主に無償で交付すること。1990年(平成2)の商法改正で無償交付に関する条文が削除され、株式配当とともに「株式の分割」に一本化された。
[戸田修三・福原紀彦]
2005年(平成17)の会社法制定以前に用いられていた概念であり、その意味するところは商法改正の流れとともに微妙に変遷していた。従来は、新株発行の場合に優先的に株式を引き受けるという受動的な権利を意味していた。永続を予定せず、あくまでも増資期間中だけ機能する短命の権利を意味していた。しかし、1981年(昭和56)商法改正により新株引受権付社債(ワラント付社債、ワラント債)が導入された際に、このワラント部分にも新株引受権という概念があてられてしまったために、権利者がイニシアティブをもつオプション性のある権利であり、長期保有を予定しているものまで同概念に取り込まれてしまった。このような概念の混乱を受け、2001年の商法改正では、オプション性のある権利を独立させ、新株予約権と称した。2005年制定の会社法では、法律上は新株引受権概念が廃止され、「株式の割当てを受ける権利」という概念(会社法202条)が用いられている。新株の割当てを受ける権利は、株主に対してその持株比率に応じて与えられるとき(株主割当て。同法202条1項・2項)と、第三者に対して与えられるとき(第三者割当て)とがある。株主に株式の割当てを受ける権利を与えると、株主としては、新株を引き受ければ、新株発行による利益配当率の低下があっても、それを新株による利益で填補(てんぽ)できるし、また、株主総会における議決権の比率を保持でき、会社支配の面で勢力の変動を回避できるというメリットがある。しかし、他方、機動的な資金調達を図るためには、株主に株式の割当てを受ける権利を与えないで公募するほうが有利であるうえ、株式の時価に相応した発行価額で発行しうるため、会社はより多くの発行対価を収めうるという利点もある。そのため、株主に株式の割当てを受ける権利があるのを原則とすべきか否かについては立法論上の問題にかかわることであった。この点、会社法は、非公開会社でも株主に当然には株式の割当てを受ける権利を与えないが、公開会社では取締役会決議により、非公開会社では株主総会の特別決議により株主割当てをすることができる(同法202条3項4号、309条2項5号)とした。
[戸田修三・福原紀彦]
株式に対する利益分配額を配当という。投資家が株式に投資するおもな目的の一つは、配当の形で行われる株式に対する企業利益の分配分の受け取りである。株式配当は、広義では、現金配当を含む株式に対する配当のすべてをさすこともあるが、商法上、株式配当は、現金のかわりに、その会社の株式で行う配当だけをさす。株式配当は、株主総会の決議により、配当可能利益を資本に組み入れて新株を発行し、それを株主に交付することにより行われる。1990年(平成2)の商法改正で株式配当に関する条文は削除され、株式の分割として規定された。2005年の会社法制定後においても同様である。
[戸田修三・福原紀彦]
〔1〕株式の質入れ 株式は財産的価値があるから、担保権の対象となる。株式の担保の方法として、会社法では質権設定の方法を定め(会社法146条1項)、慣習法では譲渡担保の方法が利用されている。株式の質入れの方法としては二つ存在する。(1)質権設定の合意と株券の交付によって効力が生じ、その第三者対抗要件として株券の継続占有を要する略式質(同法146条2項、147条2項・3項)がある。この質権者には物上代位が認められる(同法151条)。(2)略式質の要件を満たしたうえで、会社が質権設定者の承諾を得て質権者の氏名・住所および質権の目的である株式を株主名簿に記載・記録する登録質(同法148条)がある。この質権者には一定の行為について物上代位が認められる(同法151条)。すなわち、一定の場合、登録質権者は会社から直接的に金銭等を受け取ることができる。なお、株券不発行会社では、株式の質権者の氏名・住所を株主名簿に記載・記録しなければ、質権を会社その他の第三者に対抗することができず(同法147条1項)、略式質を利用できない。
〔2〕株式の消却 会社がその存続中に特定の株式を絶対的に消滅させること。会社法では、株式の消却は、保有自己株式を消却する制度に統一している(同法178条)。
〔3〕株式の併合 数個の株式をあわせて従来よりも少数の株式とすること(同法180条1項)。たとえば、10株を1株に、3株を2株にする。株主の利益に重大な利害を及ぼすので、株主総会の特別決議(同法180条2項、309条2項4号)と株主・質権登録者への通知または公告を要する(同法181条)。減資、合併準備などのために使われる。また、株式の併合を行うことによって端数が生じると金銭処理されてしまう(同法234条)ので、少数派株主の排除に使われてしまう危険性もある。
[戸田修三・福原紀彦]
株式会社では原則的に、株式を自由に譲渡することができる(会社法127条)。株主にとっては、会社の解散や剰余金分配の機会を除くと、投下資本回収の方法として株式譲渡の自由が保障される意義は大きい。しかし、法律の規定による制限として次の場合がある。
〔1〕定款による譲渡制限(譲渡制限株式) 会社法は、すべての株式または一部の種類の株式の譲渡による取得について、会社の承認を要する旨を定款で定めることができる(同法107条1項1号、108条1項4号)。株主の個性を重視したいという会社の要望にこたえるためである。承認の決定は取締役会設置会社では取締役会決議、取締役会非設置会社では株主総会決議によるが、定款で別段の定めをすることも認められる(同法139条1項)。
〔2〕法律による譲渡制限 (1)権利株譲渡の制限 会社成立前または新株発行前における株式引受人の地位を権利株という。権利株の譲渡は、譲渡当事者間では有効であるが、会社に対して効力を生じない(同法35条、50条2項、63条2項、208条4項)。株主名簿の作成ないし株券発行に関する会社の事務処理上の便宜のためである。
(2)株券発行前の株式譲渡制限 株券発行前の株式譲渡は、譲渡当事者間では有効であるが、会社に対しては効力を生じない(同法128条2項)。株券発行に関する会社の事務処理上の便宜のためである。ただし、会社が株券の発行を不当に遅滞している場合には、株主の意思表示のみによる株式譲渡が、会社に対する関係においても有効であることが判例で認められている。
(3)親会社株式の取得制限 親子会社関係がある場合(同法2条3号・4号)、子会社による親会社株式の取得は原則として禁止される(同法135条1項)。子会社による親会社株式取得は資本充実の点から問題があり、また、子会社に対する親会社の支配力を用いて、親会社株式について株価操作等を行わせ、または親会社の経営者の支配的地位の固定化を図るなどの弊害が生じるおそれがあるからである。ただし、会社分割、合併または他の会社の事業の全部の譲受けなどによるときは、例外的に親会社株式取得が認められる(同法135条2項)。また、三角合併を行うために子会社によって親会社株式を取得することも認められる(同法800条1項)。なお、例外的に取得が許容された親会社株式は、相当な時期に処分しなければならない(同法135条3項、800条2項、802条2項)。
(4)特別法による株式譲渡制限 独占禁止法により、私的独占または不当な取引制限をもたらすおそれのある株式の取得および保有が制限される(独占禁止法9条~11条、14条)。
(5)自己株式の取得 会社が自己の発行した株式を自由に取得することを認めてしまうと、資本維持(出資金の払戻し)、株主平等(対価不均衡等)、会社支配の公正(現経営陣の支配権拡充)、株式取引の公正の観点(内部者取引・相場操縦の危険)から問題がある。そこで、会社法では一定の場合に限って、会社がその自己株式を取得することを認めている(会社法155条)。
〔3〕契約による譲渡制限 契約によって株式譲渡が制限される場合がある。たとえば、閉鎖会社の従業員持株制度のもとで、従業員が退職時に持株を取得価格と同一価格で、取締役会の指定する者や従業員持株会などの特定の者に売り渡す旨を会社と契約することがある。判例では、このような契約を有効としている。
[戸田修三・福原紀彦]
会社が株式を発行し、株式の併合、分割等を行う場合、1株に満たない端数が生じることがある。たとえば、2株を1株に併合する場合には、1株は0.5株になってしまう。1981年(昭和56)の商法改正において、このような端数を端株(はかぶ)として扱い、端株原簿に記載し、自益権の一部を与えていた。2005年(平成17)制定の会社法においては、株式に端数が生じたときには、相当額の金銭を支払うことによって処理することとした(会社法234条)。
[戸田修三・福原紀彦]
1981年(昭和56)の商法改正では、株式の一定数をまとめて純資産5万円の株式を一単位とし、単位株には株式に認められているすべての権利を認めるが、単位未満の株式には自益権だけを認め共益権は認めないこととする制度である、単位株制度が導入されていた。2001年(平成13)の商法改正において、一単位5万円という純資産額規制を廃止し、共益権を与える規準となる株式数を会社に自由に決定させる制度を導入した。これを単元株制度と称している。
しかし、単元株制度と端株制度が並存していたことから、2005年制定の会社法では、端数処理方法を法定して(会社法234条)端株制度を廃止し、単元株制度単独の体制へ移行した。単元株制度は会社が定款により株式の一定数をまとめたものを一単元とし、株主の議決権は一単元に1個とする制度である(会社法188条1項、308条1項但書)。単元未満株式の株主は議決権の存在を前提とする権利を除いては、株主としての他の権利をすべて有するのが原則であるが、定款で全部または一部を行使することができないと定めることができる(同法189条2項)。会社は定款で単元未満株式の株券を発行しない旨を定めることができる(同法189条3項)。株主は単元未満株式について会社に買取請求権を有する(同法192条)。単元株式数(同法2条20号)の増加には株主総会での定款変更決議を要するのが原則であるが(同法466条、309条2項11号)、株式分割と同時の一定の場合の単元株式数の増加には総会決議は不要となる(同法191条。変更の場合、同法195条)。
[戸田修三・福原紀彦]
株券等の有価証券の発行と流通方法を合理化・近代化するために、証券会社、金融会社等の参加者が保管振替機関に口座を設け、所有株券を預託したうえで、売買取引などに伴う株券の受け渡しを実際に行うことなく、保管振替機関の口座上の振替で行う制度。「株券等の保管及び振替に関する法律」(昭和59年法律第30号)に基づいて実施され、配当金の支払い、新株式の割当て、議決権の行使などがこの制度を通じて処理されることになり、1991年(平成3)10月から、証券保管振替機構がその業務を行った。この株券保管振替制度は、株券の不動化によってペーパーレス化を図るものであった。しかし、2004年、商法改正による株券不発行制度を受け、株券の無券化による高度なペーパーレス化を図るべく、「社債、株式等の振替に関する法律(社債株式振替法)」(平成13年法律第75号)が公布され、株式を含めた総合的な振替制度への移行が予定された。社債株式振替法は、2009年1月に施行され、これに伴い、従来の株券保管振替制度は廃止され、新しい振替制度に移行することになった。
[戸田修三・福原紀彦]
株式と社債はともに会社の資金調達の手段であり、法律的・経済的に違いはあるが、いずれも細分化された均等額として、零細な大衆資金を吸収する技術的な特色を有している。
株式は自己資本を、社債は他人資本を調達する手段であり、また、法律上、株式は株主である地位であり、株主が会社の構成員であるのに対して、社債は会社に対する債権であり、社債権者は会社に対する債権者であるという点において両者は異なる。
前記の相違点を踏まえると、株主と社債権者の地位とは、以下のような点において具体的な相違がある。
(1)株主は会社に配当可能利益が生じない限り剰余金配当を受けることができない(会社法453条、461条)が、社債権者は会社の利益の有無にかかわらず約定された利息の支払いを請求できる(同法676条3項)。
(2)株主に対する出資の払戻しは原則として許されない(ただし、自己株式取得がある)が、社債権者は社債の償還期限が到来すれば、元本の償還を受ける。
(3)株主には会社経営に参加する権利(共益権)があり、議決権(同法308条1項、325条)や各種監督是正権を有するが、社債権者にはそのような参加する権利がない。
(4)株主の会社に対する経済的な請求権は債権者に対して劣後し、債権者への利息支払いをなした後で剰余金配当を受け、会社解散の場合には債権者に対する全債務を弁済した後に残余財産の分配を受ける(同法502条本文)が、社債権者の会社に対する経済的な請求権は通常の債権者と同一順位で弁済を受ける。
株式と社債には前記のような相違があるものの、近時は、社債的性質をもつ株式、株式的性質をもつ社債などが認められており、両者の接近状況にある。たとえば、非参加的累積的優先株式(同法108条1項1号)は、利益が多くても受け取れるのは優先配当分のみで普通株式の配当には参加できず(非参加的)、ある年度に優先配当がなされなくても次年度に優先権が繰り越される(累積的)ものであり、株主にとっては一定額の経済的利益を得られることが確保され、その性質は社債に近づく。また、新株予約権付社債とは新株予約権を付した社債である(同法2条22号)が、後に新株予約権が行使されると株式が発行され、新株予約権付社債権者は株主となる(なお、社債は償還されるときもあれば、されないときもある)。
[戸田修三・福原紀彦]
株式の国際化という表題の下で論ずべき点は二つある。一つは国際的に活動する企業が自国外においても資金調達を行えるようにする手法であり、もう一つは外国企業による他国企業の支配権の取得である。
〔1〕自国外における資金調達 (1)外国株の上場 企業が他国の取引所において上場し、外国の投資家を直接募る方法がある。たとえば、東京証券取引所は1973年(昭和48)以来、外国株式が上場している。外国株が日本の取引所に上場することによって、円建てで購入することができる。
(2)預託証券Depositary Receipt(DR) 外国企業の現物株にかわって売買される代替証券のことをいう。(1)で述べたような、現物株を外国の証券市場で直接売買するのは、各国の取引の慣習や制度の相違から、多くの支障をきたすおそれがある。そこで、現物株は発行国の銀行が保管しておいて、それと見返りに外国の受託機関である銀行がDRを発行し流通させる方式がとられる。アメリカ市場で売買されるアメリカ預託証券American Depositary Receipts(ADR)、ヨーロッパで売買されるグローバル預託証券Global Depositary Receipts(GDR)などがある。日本の証券に関するADRは、1961年(昭和36)にソニーが第1号として発行され、現在ではソニー、日本電信電話、日立製作所、トヨタ自動車をはじめ約150銘柄が流通している。なお、2007年(平成19)施行の改正信託法により導入された受益証券信託によって、日本預託証券Japanese Depositary Receipts(JDR)を導入する器ができあがった。
〔2〕外国企業による支配権取得 外国企業が日本企業の支配権を取得し、経営に介入してくる手法としてはいくつか存在する。
(1)市場買付 金融商品取引市場において株式を買い集め、支配権を取得する手段である。なお、株式の5%を超えて保有するようになると大量保有報告書の提出義務が生じる(金融商品取引法27条の23第1項)。
(2)公開買付 市場外で大量に株式を買い付ける際には、とかく不透明な取引になりやすい。そこで、発行会社・他の株主に対して情報提供をする趣旨から、(a)60日間に多数の者から市場外で株券等を買い付け、その結果、株券等の所有割合が5%を超える場合(同法27条の2第1項1号)、(b)60日間に少数の者から株式を買い付け、所有割合が3分の1を超える場合(同法27条の2第1項2号)、(c)ある者による公開買付期間中に、株券等所有割合がすでに3分の1を超える他の者が対象会社株式を取得する場合(同法27条の2第1項5号)には、公開買付手続を踏む必要がある。公開買付を行う場合には、公開買付開始公告を行い、同時に内閣総理大臣に公開買付届出書を提出する義務を負うなど、通常の買付けよりも厳格な情報開示が要求される。
〔3〕三角合併 三角合併とは、ある会社Aの子会社Bが他社Cを吸収合併する際に、存続会社Bが消滅会社Cの株主に、存続会社B自身の株式ではなく、自己の親会社Aの株式を対価として交付する方法での合併をいう。この方法により、外国会社は日本に設立した子会社を使い、内国会社を吸収合併することができる。そもそも、外国会社にとっては、時価総額がきわめて高い自社株式を対価として、時価総額が相対的に低い日本会社をじかに吸収合併できれば容易である。しかし、会社法の伝統的解釈によると、外国会社は日本会社をじかに吸収合併できず、仮に合併したとしても、登記を受け付けない。よって、直接的な吸収合併によらずに日本会社を自己の支配下に収める制度が要求されてきた。三角合併の導入の一端には、このような背景も存在する。
[福原紀彦]
『鴻常夫・河本一郎・竹内昭夫他著『株式』(1982・有斐閣)』▽『渡邊顯・西村賢著『会社役員これだけは知っておきたい新会社法3 株式制度の要点』(2005・商事法務)』▽『中嶋克久・野口真人・棟田裕幸著『種類株式・新株予約権の活用法と会計・税務』(2006・中央経済社)』▽『新日本監査法人編『会社法実践ガイド2 株式・新株予約権・組織再編』(2006・中央経済社)』▽『三宅茂久著『資本・株式の会計・税務』(2006・中央経済社)』▽『橋本正明著、アーティス編『株式の基礎知識』6訂版(2006・ビジネス教育出版社)』▽『あずさ監査法人著『株式実務ハンドブック』新版(2007・清文社)』▽『あずさ監査法人著『種類株式ガイドブック――完全活用と会計・税務』(2007・清文社)』▽『日本経済新聞社編・刊『株式用語辞典』第9版(日経文庫)』
株主の地位を株式という。株券のことを株式ということもあるが,法律上の用語ではない。株主の地位には,利益配当請求権,残余財産分配請求権などのいわゆる自益権と,株主総会における議決権,総会決議取消訴権,代表訴訟提起権などのいわゆる共益権が含まれる。株主の地位は,均一の割合的単位をとることが要求され(商法202条1項参照),したがって,各株の包含する権利は原則として(例外は後述する〈数種の株式〉の場合)同一である。株主はこのように均一の株式を複数有することができる(持分複数主義)。このように株主の地位を均一の割合的単位としたのは,個性を捨象して多数の者を容易に会社に参加させることができるようにするためである。株式は額面株式・無額面株式に分けられるが,株式は前述のように均一の割合的単位をとるので,いずれも1株は1株として等価値である。株主がその持株数に応じて平等の取扱いを受けること(株主平等の原則)も,このように1株の包含する権利が同一であることのあらわれである。
各株式の包含する権利の内容が同一であることの例外として,会社は,定款の定めによる範囲内で,権利の内容の異なる〈数種の株式〉を発行することができる(222条)。数種の株式は,(1)利益または利息の配当,(2)残余財産の分配,または(3)利益をもってする株式の消却について認められる。(1)または(2)につき,他の種類の株式に対し,優先的取扱いを受ける株式を優先株,劣後的取扱いを受ける株式を劣後株という(優先株・劣後株)。(3)の利益をもって消却されることが予定されている株式を償還株式という。またこのような数種の株式を発行する場合において,ある種類の株式を他の種類の株式に転換することを請求できる株式を発行することも認められ(222条ノ2以下),これを転換株式という。さらに,利益配当に関する優先株については,その株主に議決権がないものとすることができ(242条),これを議決権のない株式という。数種の株式は,日本では第2次世界大戦後,ある会社が2度にわたって発行した例があるにすぎない。
株式と社債とを比較すると,いずれも会社資金調達の手段として発行され,その流通性を高めるために有価証券(株式の場合は株券,社債の場合には社債券)に表章される点で共通しているが,次のような差異がある。第1に,株式の所有者(株主)は,株主総会の議決権その他各種の共益権を有するのに対して,社債の所有者(社債権者)は,そのような権利を有せず,社債の償還および利息の支払に関連する権利を有するにすぎない。第2に,株主は,配当可能利益が生じた場合にのみ利益配当を受けることができ,またその額も確定していないのに対して,社債権者は,配当可能利益の有無にかかわりなく,確定額の利息の支払を受けることができる。第3に,株式の場合には,原則として株金の払戻しをすることが許されないのに対して(上述の償還株式はその例外),社債の場合には償還期限がくれば償還を受けることができる。以上のような差異は,株主が実際にみずから議決権を行使する例が少ないこと,また株主に対する利益配当も経営者ができるだけ一定額の安定的配当をするように努めていること等によって,事実上減少している。また法律的にも,利益配当に関する優先株で償還権があり,かつ議決権のない株式は,社債にきわめて類似することになる。
株式の発行は,会社設立時に,また成立後は新株発行によってなされる。会社設立時の株式の発行については,設立に際して発行する株式を発起人が全部引き受ける方法(発起設立)と,一部を発起人が引き受け,残部につき他に株式引受人を募集する方法(募集設立)との二つに分けられる。会社成立後に新株を発行する場合には,既存の株主の利益に対する配慮が必要である。すなわち,既存の株主に新株引受権(発行される新株を優先的に引き受ける権利)を与えて新株を発行する場合には,既存の株主の利益を損なう可能性がないから問題はないが,そうでない場合には,時価で発行しないと,既存の株主に経済的損失を与える可能性がある。たとえば,株式の時価が1000円している場合に,発行価額を500円にして倍額増資(従来発行されている株式数と同数の新株を発行すること)すると,理論上,株式の時価は750円に下がることになり,既存の株主はその有している株式1株につき250円の損失をこうむることになる。そこで株主に新株引受権を与えないで,しかも時価より低い発行価額で(もっとも,時価より10%程度低い価額までは許されると解されており,現に時価発行では数%のディスカウントが行われている)新株を発行する場合には,そのような価額で新株を発行することを必要とする理由を示して,株主総会の特別決議がなければならないものとされている(280条ノ2-2項)。株式の発行の対価としては,金銭を払い込ませる場合(この場合のことを金銭出資という)のほかに,金銭以外の現物を給付させる場合(この場合のことを現物出資という)があり,後者の場合には,現物の過大評価がなされていないかどうかにつき原則として裁判所の選任する検査役による調査がある。
新株の発行には,以上のように対価の払込みまたは給付をさせてする場合のほかに,株式配当(293条ノ2),準備金の資本組入れによる無償交付(293条ノ3)および額面超過額の資本組入分による無償交付(293条ノ3ノ2)など,会社がすでに保有している財産を引当てにして,既存の株主にその持株数に応じて無償で新株を発行する場合もある。
株式は,相続・合併等によって移転するほかに,その譲渡によって移転される。株式の譲渡は株券の交付によってなされる。株式会社では,原則として,株主数が多数でだれが株主になるかは問題にならないし(株主の個性が問題にならない),株主に対して投下資本を回収する手段を与えなければならないから,株式の譲渡は自由とされるが,次のような制限がある。
まず法律上の制限として,第1に,会社成立前または新株発行前の株式引受人の地位(権利株)の譲渡(190条,280条ノ14-1項)および株券発行前の株式の譲渡(204条2項)は,当事者間では自由であるが,会社に対しては効力が認められない。株主名簿の名義書換えおよび株券発行に関する事務手続上の便宜のためである。もっとも,そうすると,会社がいつまでも株券を発行しないと株主が株式を譲渡できないという不都合が生ずるので,会社が株券の印刷に必要な合理的期間を経過しても株券を発行しないときは,株券なしの株式の譲渡を会社に対して主張できると解されている。
第2に,会社は,一定の例外の場合を除き,自分の会社の株式(自己株式)を取得し,または発行済株式総数の20分の1を超えてこれを質権の目的として受けることができない(210条)。
第3に,子会社による親会社の株式の取得も,一定の場合を除き禁止される(211条ノ2)。ここで親会社・子会社の関係は,ある会社(親会社)が他の会社(子会社)の株式または持分(有限会社の場合)の過半数を有する場合,ある会社(親会社)およびその子会社が合わせて他の会社(子会社)の株式または持分の過半数を有している場合,ある会社(親会社)の子会社が他の会社(子会社)の株式または持分の過半数を有している場合に認められる(211条ノ2-1項・3項)。さらに,定款によって株式の譲渡を制限することが認められている(204条1項但書)。株式会社のなかにも,小規模で株主数が少なく,株主の個性を無視しえない企業も少なくないので,そのような会社については,定款で株式の譲渡には取締役会の承認を要する旨の定めをすることを認めたのである。しかし,株式の譲渡の制限は株主に不利益を与えるので,この場合の定款変更のための株主総会の決議要件は特別に厳格になっている(348条)ほか,反対株主に対して株式買取請求権を認め(349条),さらに株式取引の安全の見地から,そのような定款の定めがあることは登記および株券の記載事項とされる(188条2項3号,175条2項4号ノ2,225条8号)。そのうえ,株主に投下資本の回収の手段を保障しなければならないから,株主がある者に対して株式を譲渡したい場合において取締役会がその者に対する譲渡を承認しないときは,他に譲渡の相手方を指定しなければならないものとされ(204条ノ2),かつ株主とその譲渡の相手方として指定された者との間の売買の決済方法についても定めがなされており(204条ノ3,204条ノ4),同じ趣旨の定めは,競売・公売による株式の取得者に関しても設けられている(204条ノ5)。
株式は分割することができる。株式分割とは,1株を2株にするように,既存の株式を細分化して従来よりも多数の株式にすることである。たとえば,株価がいちじるしく高くなった場合に,その時価を低くして流通性を高めるためなどに利用される。株式を分割すると,各株主の有する持株数は増加するが(1株を2株に分割すると持株数は2倍),発行済株式総数に対する比率は従来どおりであり,会社財産が増減するわけでもないから,各株主の有する地位に変更をきたすわけではない。このように株式分割は,株主の実質的地位に変更を及ぼさないから,それ自身は取締役会の決議だけですることができる(218条1項)。もっとも,額面株式の場合には,定款で1株の金額が定められているから(166条1項4号),定款変更のための株主総会決議が必要である。また額面株式の場合に,株券には1株の金額が記載されているので(225条4号),株式分割によって券面額の修正が必要になるが,そのために旧株券を提出させて新株券を交付するという煩雑な手続を省略するために,1株の金額の読替えの規定が設けられている(219条4項,218条3項)。たとえば,1株の金額が10万円とされていた株式1株を1株の金額5万円の株式2株に分割する場合には,その株券は分割後の1株の金額5万円と記載したものとみなされ,したがってあらたに1株の金額5万円の株券をそれまでと同じ株式数だけ発行すればよいことになる。無額面株式の場合には,額面金額が存在しないから定款変更決議の必要がなく,株券の交換の必要もなく,株式分割によって増加した株式数を記載した株券を株主に交付すればよい。このように,株式分割のためには無額面株式のほうが簡単なので,株式を分割しようという会社が取締役会の決議により額面株式を無額面株式に転換する例が見受けられる(213条1項)。また,後述するように,株式分割後の1株または1単位当りの純資産額は5万円以上でなければならない。
株式は併合することができる。株式併合とは,数個の株式を合わせてそれよりも少数の株式にすることである。資本減少の場合(377条)および合併の場合(416条3項)のほか,株式の単位を引き上げる手段としてなされる(214~217条以下)。すなわち,1株当りの純資産が5万円未満である会社がこれを5万円以上とするために,株主総会の特別決議で株式の併合がなされる。株式併合の場合には,株式分割と異なり,併合に適する株式の数を記載した株券(3株を1株に併合するときは3の整数倍の株式の数を記載した株券)については,併合後の株式数を記載したものとみなすことができ,株券の交換を要しない。
株式数が減少するもう一つの場合に株式消却がある。特定の株式を消滅させることであり,株主に配当すべき利益をもってする場合(212条1項但書・2項)および資本減少の場合(212条1項・2項)がある。利益をもってする消却にも,前述した償還株式の場合(222条)および定款の定め(原始定款の定めまたは総株主の同意によって変更されたものと解するのが多数説)のほか,定時総会の決議による場合(212条12)および定款の規定に基づき取締役会の決議による場合(株式の消却の手続に関する商法の特例に関する法律3条)とがある。
1981年の改正商法において,それまでは株式の単位が小さすぎる会社が大部分であったので(大部分の会社は1株の金額(額面)が50円であった),これを改めるため,株式の単位が法律で強制的に引き上げられた。すなわち,以後,新設される会社については,設立時の額面株式の1株の金額は5万円以上とされ(166条2項),同様に設立時の無額面株式の発行価額も5万円以上とされ(168条ノ3),結局,設立時の1株の単位は5万円以上とされることになった。このように設立時に1株の単位の大きさを規制しても,その後にその単位が小さくされることを阻止するため,株式分割は,これにより株式数が増加した後の1株当りの純資産額(純資産額を増加した後の発行済株式総数で割った額)が5万円以上となる場合に限ってすることが認められる(218条2項)。このように1株の単位が大きくなると,新株発行により生ずる1株未満の端数も無視できないので,端株制度が設けられた。
既存の会社については,株式併合により株式の単位を大きくすることを強制することは,株券の交換等の手続が煩雑で事実上不可能なので,上場会社に限ってではあるが単位株制度を強制している。すなわち,券面額が5万円になる数の株式(1株の金額50円の会社の場合は1000株)を1単位として(定款で別に1単位となる株式数を定めてもよいが,その場合には1単位当りの純資産額は5万円以上にならなくてはならない),単位未満の株式を有する株主に対しては利益配当請求権など法定の権利(それは議決権などのいわゆる共益権を含まず,自益権に限定されている)しか行使することができない(1981年改正商法付則15条1項1号,16条,18条1項)。この単位株制度は上場会社以外の会社でも定款でこれを採用することが認められている(1981年改正商法付則15条1項2号)。単位未満株式はその譲渡が不自由なので(会社はあらたに単位未満株券を発行することができず(同付則18条2項),したがってその譲渡も不可能である),会社に対する株式買取請求権が認められている(同付則19条)。この単位株制度は経過的なものであり(付則に定められているのもそのためである),単位株制度の採用が強制された会社および定款の定めによりこれを採用した会社については,別に法律で定める日に1単位の株式を1株に併合する旨の株主総会の決議があったものとみなして,株式併合の手続をとることが強制されることになっている(1981年改正商法付則15条1項)。
→株主 →社債
執筆者:前田 庸
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(熊井泰明 証券アナリスト / 2008年)
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出典 株式公開支援専門会社(株)イーコンサルタント株式公開用語辞典について 情報
…火成岩の産状の一つ。深成岩や浅成貫入岩はさまざまな形で地表に露出するが,その露出規模が小さいものが岩株,大きいものがバソリスと呼ばれる。北米大陸では40平方マイル(約100km2)以下に対して用いられるが,日本ではさらに小規模な岩体に用いられることが多い。岩株はおもに同一系列のマグマが固結したものであるが,一部には2系列のマグマからなる複合体から構成されることもある。【石原 舜三】…
…地球が太陽を1周する時間の1/12を1単位として時間を測っても,月が地球を1周する時間を1単位として時間を測っても,われわれの今保有する現金の量は変わらない。現金保有量のように,時間を測る単位の変更によってもその大きさが変わらない変数をストックと経済学では呼ぶ。したがってストックとは,会計学,簿記において〈残高〉と呼ぶ概念と同じであり,また物理学での位置に対応する概念である。ストックに属する概念は,マクロ的な変数では国富,貨幣供給量,外貨準備高等が代表的であり,ミクロ的な変数では各企業の負債残高,資本金,棚卸資産,固定資産等の貸借対照表の項目や,家計の保有する貨幣量,預金量が代表的なものである。…
…接木のさいに,接木植物の地下部となる部分をいう。台木に接着させる部分は接穂または穂木といい,台木と接穂は相互に影響を及ぼし合う。栽培的に重要なのは,台木の種類によって地上部の大きさ,結実までの期間,種々の不良環境に対する適応性が異なることである。また,根に寄生する病虫害に対して抵抗性をもつ台木(免疫性台木)に接木すれば,それらの被害を回避することができる。リンゴ栽培では,近年樹高を低くして果実を収穫しやすくするために,枝の伸長を抑え,地上部を小型化する台木(矮性(わいせい)台)を利用することが多くなっている。…
…クラバットの流行は19世紀初期まで続いた。18世紀初期にはストックstockと呼ばれる衿飾が現れた。これはあらかじめ結び目や蝶結びがつくられていて,帯状の布をシャツの衿に回し,後ろで結ぶかバックル留めにするものであった。…
…株式会社は会社の一種で,会社の構成員である社員(株式会社においては,株主と呼ばれる)の地位が株式という細分化された割合的単位の形をとり,同時に,すべての株主が,会社に対して,その出資額を限度とする有限責任を負担するだけ(いいかえると,株主は会社の債権者に対してはなんらの責任を負わない)の形態のものである。
【法的にみた株式会社】
上記のような株式会社の制度的特質は,個性を喪失した大衆投資家を株主とすることによって,大規模な資本の集中を図るための必要から生じている。…
…株式会社の構成員たる社員の地位は均等な割合的単位に細分化されるため株式といわれ,株主とは,かかる株式の帰属主体をいう。株主は,実質的には会社企業の共同所有者であるから,企業支配と企業利潤に参与する権利を有する。…
…資本の商品化とは,建物や機械などの企業資産そのものが売却されることではなく,そうした現実資本に対する出資持分(株式)が価格を与えられて売買される関係をいう。 株式会社の資本は払い込まれると同時に,現実的な機能資本と擬制的な株式資本という,二重の存在を与えられる。…
…株式会社が,その成立後,発行予定株式数(授権株式数)の範囲内で新たに株式を発行すること。その株式を新株または子株(これに対しすでに発行している株式は旧株または親株)という。…
…証券取引所には立会場があって,そこで組織的な売買が行われているが,店頭市場には一定の集会場所はなく,証券会社間あるいは証券会社と顧客との相対(あいたい)で取引が行われている状態を,抽象的にとらえたものである。このような店頭市場は,債券と株式に分けられる。 債券は取引所での売買もあるが,その比率は数%であり,ほとんどが店頭市場で売買されている。…
…有限会社社員の持分は,細分化された割合的単位の形をとり,社員は出資1口ごとに1個の持分を有する(複数持分主義)。なお,社団法人のうち株式会社における持分は株式と呼ばれる。株式共有組合【青竹 正一】。…
※「株式」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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