(読み)こく

精選版 日本国語大辞典 「刻」の意味・読み・例文・類語

こく【刻】

〘名〙
[一] きざむこと。彫りつけること。
読本・椿説弓張月(1807‐11)残「その残篇五冊、ここに刻(コク)成て、初て全部す」 〔史記‐始皇本紀〕
[二] (「剋」とも) 旧暦における時間および時刻の単位。水時計の一種である漏刻の漏壺内の箭(や)の示す刻んだ目盛に由来する。十二支また序数の下に付いて助数詞として用いられる。
一昼夜等分に分けて示す定時法の場合。
(イ) 一昼夜を十二等分した一つ。午前零時を子の刻に置き、以下順次十二支に配するもの。「時(とき)」ともいう。
※日本後紀‐延暦二四年(805)六月乙巳「七日戌刻、第三第四両船、火信不応」
(ロ) 一昼夜を四十八等分した一つ。十二支の各各に四刻ずつを配し、それぞれを一・二・三・四、また初・一・二・三の序数でよぶ。朝廷行事、日月食等に関して広く用いられた。「点」ともいう。〔令集解(868)〕
(ハ) 一昼夜を百等分した一つ。天文、暦法上の記述に広く用いられた時法で、十二支の各々に八刻三分の一ずつを配するものと、十二支の各々を初・正に分け、その各々に四刻六分の一ずつを配するものがある。
※左経記‐長元元年(1028)三月一日「日蝕十五分三半弱、虧初寅七刻八十三分、加時卯一刻六分、復末卯三刻卅七分」
(ニ) 一昼夜を五十等分した一つ。十二支の各々に四刻六分の一ずつを配するもの。具注暦の太陽の出入時刻の表示に見られる。
(ホ) 一昼夜を九十六等分した一つ。十二支の各々を初・正に分け、その各々に四刻ずつを配するもの。江戸後期に見られる。
(ヘ) 一昼夜を百二十等分した一つ。十二支の各々に十刻ずつを配するもの。
② 昼と夜をそれぞれ六等分して示す不定時法の場合。昼夜の境が季節によって一定しないので、季節により昼夜により一刻の長さを異にする。
(イ) 一日を十二支に配した一つ。
※ロドリゲス日本大文典(1604‐08)「昼と夜とは十二の時刻に分割される。昼が六つ、夜が六つに分けられ、その時刻を Cocu(コク)またはトキと呼ぶ」
(ロ) 十二支の各々に三刻ずつを配した一つ。それぞれ上・中・下の序数でよぶ。
実隆公記‐文明一八年(1486)四月三日「今夜丑下刻、東隣放火、猛勢襲来揚時声
[三] (形動) =こく(酷)②③
※文明本節用集(室町中)「徳莫仁、禍莫(コク)
[語誌](1)(二)の時法として古く用いられたものは①(イ)(ロ)における定時法の「刻」で、朝廷内や暦法上では江戸中期まで行なわれた。室町期以降は不定時法、すなわち②(イ)(ロ)の「刻」が広くみられ、江戸時代に一般にみられるものはこれである。
(2)この不定時法の「刻」は、朝の薄明の始め、夕方の薄明の終わりを、それぞれ卯・酉の真中とするか、あるいは卯・酉の始めとするかによって二様の解釈があり、この違いによって半刻の相違が生じてくる。

きざ・む【刻】

〘他マ五(四)〙
① 切って細かくする。こまぎれにする。
※伊勢物語(10C前)七八「青き苔をきざみて、まき絵のかたに、此の歌を附けて奉りける」
※幼学読本(1887)〈西邨貞〉五「日本にては葉を細かに刻みて糸の如くにし、烟管につめて火を点じ、其の烟を吸ふを常とす」
② 物の形を彫りつける。彫って形づくる。彫刻する。
※東大寺諷誦文平安初期点(830頃)「丁蘭は木を雕(キサみ)て母と為(せ)り」
古本説話集(1130頃か)七〇「やうやう仏のみかたにきざみたてまつるあひだ」
③ 刻み目をつける。また、そのような形につくる。また、比喩的に、顔の表面にしわなどができる。顔に、ある表情や雰囲気をつくる。
※霊異記(810‐824)中「情(こころ)の惷(おろか)なること船を刻(キサミ)しに同じく〈国会図書館本訓釈 刻 キサミシニ〉」
※夏の終り(1962)〈瀬戸内晴美〉「目尻に皺をきざんだ三十八歳という女の年齢が」
④ いれずみをする。黥刑(げいけい)に処す。
※書紀(720)雄略一一年一〇月(前田本訓)「天皇瞋て。面を黥(キサミ)て鳥養部と為」
⑤ 分割する。細かくわける。
⑥ 細かく区切るようにして、継続的に動作や状態を続ける。「時をきざむ」「年輪をきざむ」
随筆槐記‐享保九年(1724)八月二二日「その僕の門を出るより、返るまで大鼓をきざみて」
※婉という女(1960)〈大原富枝〉五「数十年の歴史を刻み」
⑦ 責め苦しめる。さいなむ。
※大智度論平安初期点(850頃か)一三「或は後世福楽を期して、己を剋(キサミ)自を勉め」
※浮世草子・万の文反古(1696)五「わが身を只今までいろいろにきざまれ」
⑧ 心に深く記憶する。刻みこむ。
※遺言(1900)〈国木田独歩〉「今生の遺言とも心得て深く心にきざみ置かれ度候」

きざみ【刻】

〘名〙 (動詞「きざむ(刻)」の連用形の名詞化)
① 切って細かくすること。また、刻み目。きだみ。
※書紀(720)大化二年正月(北野本訓)「凡そ駅馬・伝馬給ふことは、皆鈴・傅の符(しるし)の剋(キサミ)の数に依れ」
※オールド・ノース・ブリッジの一片(1968)〈島尾敏雄〉「時計の針は三時を指し終わって次の一分目のきざみに移ろうとしていた」
② 階級。等級。身分。
源氏(1001‐14頃)桐壺「今一きざみの位をだにと、贈らせ給ふなりけり」
③ 折。時。場合。時節
※源氏(1001‐14頃)帚木「とあらむ折も、かからんきざみをも、見過ぐしたらん中こそ、契深くあはれならめ」
※太平記(14C後)四「笠置の城攻め落さるる刻(キサミ)、召し捕られ給ひし人々の事」
※読本・昔話稲妻表紙(1806)四「若殿桂之助どの在京の刻(キザミ)、藤浪どのの艷色に迷ひ」
④ 時間、長さなどにおいて、規則正しく短い間隔をとること。また、その一つ一つの間隔。「五分刻み」のように、接尾語的用法もある。
邪宗門(1909)〈北原白秋〉魔睡・室内庭園「腐れたる黄金の縁の中、自鳴鐘(とけい)の刻み」
※浮世草子・好色旅日記(1687)二「山科、藪の下たはこの名物、此きざみをのんで輪をふけば」
能楽で、撥(ばち)を低く扱い、太鼓、鼓などを小刻みに軽く打つこと。また、その音。
※禅鳳雑談(1513頃)中「鼓、其うたいのやうに打つべし。京がかりは、きざみに力を入れてかしらのごとし」
⑦ 歌舞伎で、幕になる時、拍子木を小刻みに、しだいにゆるやかに打つこと。
※歌舞伎・梅柳若葉加賀染(1819)四立「これをキザミにて拍子。幕」
⑧ 浄瑠璃で、文句を一語一語、区切って語ること。
⑨ 為替相場の高低する単位。あゆみ。
⑩ 病人や老人向けに、細かくきざんで出す食事のおかず。

こく‐・する【刻】

〘他サ変〙 こく・す 〘他サ変〙
① 刃物などで石、木などに彫刻する。きざむ。彫りつける。彫りこむ。ちりばめる。
※花柳春話(1878‐79)〈織田純一郎訳〉一「眉上に八字の皺を刻し」
② こまかく区切る。きざむ。
※花柳春話(1878‐79)〈織田純一郎訳〉四七「分秒を刻(コク)する音(いん)は」
③ 書きしるす。本にして出す。出版する。
※花柳春話(1878‐79)〈織田純一郎訳〉二三「僕曾て書を刻(コク)せり」
④ 苦しめる。いためつける。

きだみ【刻】

〘名〙 =きざみ(刻)
※史料編纂所本人天眼目抄(1471‐73)三「語云刻ぬ事は勿論なれどもきたみがなうてわ五の惣頌ぢゃほどに五位参尋して切に要知」
※四河入海(17C前)九「天中にきだみの度が三百六十五あるぞ」

きざ【刻】

〘名〙 きざみつけた筋。きざみめ。
※古活字本毛詩抄(17C前)五「剋と云は矢に百剋のきさをする程にぞ」
※高野聖(1900)〈泉鏡花〉一七「木の丸太を渡る〈略〉引かかるやう、刻(キザ)が入れてあるのぢゃから」

きざめ【刻】

〘名〙 (「きざみ(刻)」の変化した語) 時。折。時節。場合。
※栄花(1028‐92頃)御裳着「皆女房の数、大人・若人のきざめなど、おぼし知り集めさせ給へり」

こく‐・す【刻】

〘他サ変〙 ⇒こくする(刻)

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デジタル大辞泉 「刻」の意味・読み・例文・類語

こく【刻】[漢字項目]

[音]コク(呉)(漢) [訓]きざむ
学習漢字]6年
刃物で切れ目を入れる。きざむ。「刻印印刻陰刻彫刻篆刻てんこく
版木に彫る。書物を刊行する。「板刻復刻覆刻翻刻
身をきざむようである。きびしい。「刻苦刻薄深刻
水時計のきざみ目。「漏刻
時間。「刻限刻刻一刻時刻先刻即刻遅刻定刻夕刻
昔の時間の単位。「下刻上刻
[名のり]とき

こく【刻】

きざむこと。彫りつけること。
(「剋」とも書く)旧暦の時間および時刻の単位。漏刻漏壺ろうこ内のに刻んである目盛りから。
㋐一昼夜を48等分した一。一時いっときの4分の1。
㋑一昼夜を100等分した一。1日を一二ときとし、日の長短によって差はあるが、平均して一時は8刻3分の1にあたる。春分秋分は昼夜各50刻、冬至は昼40刻で夜60刻、夏至はその逆となる。
㋒一昼夜を12等分した一。午前零時をの刻とし、以下順次うしの刻、とらの刻のように十二支に配する。ときともいう。1刻をさらに四つに分け、丑三つなどといい、また、1刻を上・中・下に3分し、寅の上刻、寅の下刻などの言い方をする。不定時法の場合は、昼(夜明けから日暮れまで)と夜(日暮れから夜明けまで)をそれぞれ6等分する。季節によって昼夜の長さが異なるため、昼と夜で一刻の長さが異なる。
[補説]書名別項。→

きざ【刻/段】

きざみつけた筋。きざみめ。
「引かかるよう、―が入れてあるのじゃから」〈鏡花高野聖

こく【刻】[書名]

李良枝イヤンジの長編私小説。昭和60年(1985)刊行。

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占い用語集 「刻」の解説

時間・時刻の単位のこと。様々な長さの「刻」があり、時代や地域によっても、複数の刻が使用されていた。基本的に、一刻は二時間としている。

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百科事典マイペディア 「刻」の意味・わかりやすい解説

刻【こく】

(とき)

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