況んや(読み)イワンヤ

デジタル大辞泉 「況んや」の意味・読み・例文・類語

いわん‐や〔いはん‐〕【況んや】

[副]《動詞「い(言)う」の未然形推量助動詞」+係助詞」から。漢文訓読から生じた語。もと文頭に「況」があれば、文末に「…といはむや」を補って訓読したが、のちに「況」の訓として扱われるようになったもの》前に述べたことから考えて、この件については言うまでもなく自明のことであるという気持ちを表す。まして。なおさら。
あとに、用言を伴わずに「をや」「においてをや」の形がくるもの。
「辺鄙な新開町に在ってすら、時勢に伴う盛衰の変は免れないのであった。―人の一生に於いてをや」〈荷風濹東綺譚
「上古かくのごとし、―末代においてをや」〈平家・二〉
あとに、特別の呼応の形を伴わないもの。「この問題は先生でも解けない。況んや生徒に解けるはずがない」
異様ことやうの田舎法師の論議をせむに、からぬ事なり。―我を罵る事、極めて安からぬ事なり」〈今昔・一一・二〉
あとに「用言+むや」「用言+む」の形がくるもの。
「この玉たはやすくえ取らじを、―竜の頸の玉はいかが取らむ」〈竹取
「―和国南北両門の衆徒、なんぞ謀臣の邪類をはらはざらんや」〈平家・四〉
[類語]なおさらまして更に余計一層もっとますますいよいよよりも少しもう少しずっと余計なお一段といやが上に数段段違い層一層しのぐもそっと今少しぐんとぐっとうんとだいぶ余程遥かひとしおうたた尚尚なおなおなお以て更なるひときわいや増すなお且つかてて加えてそれどころそればかりかしかのみならずのみならず加うるにおまけにまた且つまた且つこの上その上しかもさてはさなきだに

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精選版 日本国語大辞典 「況んや」の意味・読み・例文・類語

いわん‐やいはん‥【況や】

  1. 〘 副詞 〙 ( 動詞「いう(言)」の未然形に、推量の助動詞「む」と反語の助詞「や」とが付いてできた語 ) 下文の文頭において、上文の叙述からすれば、下文で叙述することは、ことばでいう必要があろうか、いうまでもなく、自明のことであるという意味を表わす。なおさら。まして。
  2. (イ) あとに述語用言に「む」「むや」を添えて用いる。
    1. [初出の実例]「設ひ百千人をして、時三月を経とも、亦断(を)ふること能はじ。況(いわんや)我れ一身のみにして、而も堪へて済(な)し辨(はた)さむや」(出典:西大寺本金光明最勝王経平安初期点(830頃)九)
    2. 「道を学する人、〈略〉かさねてねんごろに修せんことを期す。況(いわんや)一刹那のうちにおいて懈怠の心ある事を知らんや」(出典:徒然草(1331頃)九二)
  3. (ロ) あとに述語を省略し「はや」「をや」「においてをや」などを添えて用いる。
    1. [初出の実例]「仮令ひ我が舌を百千有らしめて、一仏の一の功徳を讚歎すとも、於(これ)が中に少分をば尚知ること難けむ。況や諸仏の徳の辺際無きはや」(出典:西大寺本金光明最勝王経平安初期点(830頃)五)
    2. 「近境の源氏猶参候せず。況や遠境においてをや」(出典:平家物語(13C前)七)
  4. (ハ) 特に呼応のないもの。
    1. [初出の実例]「されど、若ければ、文もをさをさしからず、ことばもいひ知らず、いはむや歌はよまざりければ、かのあるじなる人、案を書きてかかせてやりけり」(出典:伊勢物語(10C前)一〇七)

況んやの語誌

元来は、漢文訓読に用いられ、はじめ、文末に、「…といはむや」と補読されたものが、文頭の「況」字の訓に移行したもの。

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