デジタル大辞泉 「律」の意味・読み・例文・類語
りつ【律】[漢字項目]
[学習漢字]6年
〈リツ〉
1 行動を秩序づけるためのおきて。さだめ。「
2 物事の法則。「因果律・矛盾律」
3 仏教で、僧の守るべき規則。「律師・律宗/戒律」
4 ある基準に照らして処置する。「自律・他律」
5 音楽の調子。「律動/一律・韻律・音律・楽律・旋律・調律」
6 雅楽などで、陽の調子。「
7 漢詩の一体。「律詩/排律」
〈リチ〉おきて。きまりに従う。「律儀」
[名のり]おと・ただし・ただす
[難読]
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
仏教の戒律およびそれを示す書物。サンスクリット語のビナヤvinaya(毘奈耶(びなや)、毘尼(びに)と音写)の訳。調伏(ちょうぶく)ともいう。仏教の出家修行者は男女それぞれ集団生活をしていたが、この集団をサンガsagha(僧伽(そうぎゃ)、僧)といい、律はサンガの規則であり、2種に分かれる。サンガの運営の規則と、修行僧個人の守るべき規則とである。前者を羯磨(こんま)(議決方法の意)とよび、入団許可の規則(具足戒羯磨)、半月1回の集会の規則(布薩(ふさつ)羯磨)など、ほぼ100種(百一羯磨)がある。第二の修行僧の守る規則は、男性(比丘(びく))にほぼ250条(二百五十戒)、女性(比丘尼(びくに))に350条ほど(『四分律』では348であるが、数は不定。俗に比丘尼の五百戒という)ある。この条文を集めたものを『波羅提木叉(はらだいもくしゃ)』といい、『戒経』と訳し、インドの仏教教団でもっとも重要視されたものである。二百五十戒は8節に分かれ、軽重の罪が決められている。もっとも重罪を波羅夷(はらい)といい、貞潔の破棄・盗み・殺人・大妄語(だいもうご)の4条で、これを破るとサンガから追放される。比丘尼の条文では波羅夷は8条ある。
律は釈迦(しゃか)の制定した規則が母胎となり、それに解釈が付加され整備されて、仏滅100年ごろまでに聖典の形にまとめられ、さらに紀元前1世紀に書写され、書物になった。これを律蔵という。セイロン(スリランカ)に伝わった『パーリ律』(ビナヤピタカVinaya-Piaka)、紀元後5世紀に中国に伝わった『十誦(じゅうじゅう)律』『四分(しぶん)律』『五分律』『摩訶僧祇(まかそうぎ)律』、さらに7世紀に義浄(ぎじょう)によって伝えられた『根本説一切有部(せついっさいうぶ)律』(チベット訳もある)がある。これらはそれぞれの部派仏教で伝持された律蔵であるので、細部には違いがあるが、大綱は合致しており、スリランカ、ミャンマー(ビルマ)、タイなどでは、現在もこの律蔵で教団の秩序を維持している。
律は強制的な規則であるが、修行僧はこれを自発的に守るので、これを戒といい、律と合して戒律ともいう。在家信者はサンガをつくらないから律はなく、五戒などの戒だけがある。大乗仏教徒も最初は在家教団であったが、のちに出家教団もでき、部派仏教の律蔵を採用して教団の規則とした。中国仏教や日本の律宗は『四分律』を所依として一宗をたてている。
[平川 彰]
中国や日本の音楽用語。音の高さ,およびその規定。楽律ともいう。中国では古来国家体制の変革とともに度量衡の改定が行われ,その規準として音律を定め,その音律を出すことのできる律管の長さや容積を度量衡の規準としたために音律が重視され,音律の意味で単に〈律〉とも称した。たとえば十二律という語は,理論的に無限に存在する音の中から1オクターブ内の12の音律を取り出した場合の総称として用いられた。また,十二律の奇数番目の6音律(黄鐘(こうしよう),太簇(たいそう)/(たいぞく),姑洗(こせん),蕤賓(すいひん),夷則(いそく),無射(むしや)/(ぶえき))を律といい,残りの6音律を呂(りよ)という。なお法律用語の律については〈律令格式〉の項を参照。
→律呂 →呂
執筆者:三谷 陽子
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古代の法。律令のうちの律。今日の刑法にあたるもので,犯罪と刑罰を規定した法。中国では早くから発達し,隋・唐時代には高度で体系的な法として大成された。日本では7世紀後半から導入をめざしたが,条文の改変はわずかで,結果として中国と大差のない法典となった。日本最初の律は浄御原(きよみはら)律といわれてきたが,制定施行説・非施行説・未完成説・唐律代用説など諸説あって明らかでない。その後は大宝律・養老律が作成・頒行された。ただし,実際に律にもとづいて犯罪と刑罰が処断されたかどうかは疑問が多い。大宝律は全巻が散逸,養老律も全10巻のうち3巻を伝えるのみだが,逸文の収集によって,今日では大宝律のごく一部と養老律のかなりの部分を知ることができる。
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【詩歌と韻律】
文を形づくる音韻の配列に一定の人為的な規則を設け,これによって律動感や音の響き合いなど,聴覚上の美感をもたらそうとすることは,古くから行われていた。こうした規則の総体を韻律と呼ぶ。…
…絶句とならぶ中国の今(近)体詩の一分野。略して律とのみいうこともある。第1聯と最終聯とをのぞいて,各聯がすべて対句で,4聯・8句以上から構成される。…
…中国の法典は大別して刑法典と行政法典の二つとすることができる。刑法典はすなわち〈律〉であり,行政法典はすなわち〈令〉と〈会典〉(《六典》をも含む)である。唐の開元年間(713‐741)に編纂された《六典》は,各官庁ごとに関係の諸法規(律令格式および勅など)を集めたもので,主として吏部・戸部・礼部・兵部・刑部・工部の六部の下にこれを分載した。…
…犯罪に対する法律上の効果として,犯罪を行った者に科せられる制裁をいう。日本の現行法は刑罰という語を用いないで刑と呼んでいる(刑法第二章)。…
…中国,清代の基本行政法典である会典の運用上とくに生じた新例・疑義・補足などを各官庁ごとに編集して刊行した行政法典。中国には古来種々な法令があり,清代に及んで律・会典・例となった。律とは刑法典のこと,会典とは行政法典のことであるが,この二つは諸法令の骨子となるもので,変更しないのを原則とする。…
…数千年の古い歴史をもつ中国の法制は,刑法たる律を中心とし,社会とともに変遷してきたので,その経過の大体をとくに政治経済と関連せしめて叙述したい。対象は近代以前に限る。…
… キリスト教では,罰は神の権威によって下された。旧約聖書では律法に対する違犯は律法にもとづいて罰せられるとしたが,新約聖書では,とくに〈最後の審判〉のときに神によって下される永遠の刑罰が重要視された。またインドでは,一般に業(ごう)(行為,カルマン)の理論と因果応報の観念が成立することによって,現世における悪しき行為はそれにふさわしい報い(罰)をうけるという考えが発達し,それが世俗法(《マヌ法典》)と宗教法(仏教の〈律〉)に影響を与えた。…
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【中国】
律・令・格・式なる4種の法典は歴代の政府が発布した六法全書のごときもので,古くは戦国時代に淵源し,唐代に至って最も完備されたが,宋以後変化が起こり,あるいはその重要性を失って新出の法典に座を譲り,あるいは形式名称を変えて旧面目を失うものが多いなかに,ただ律は明代に復興して大明律となり,さらに大清律となって清朝末期にいたった。 現今目睹しうる最古の刑法である律は秦律であり,1975年湖北省雲夢県の睡虎地で秦代の墓から1000余枚の竹簡を発見した中に,占卜書2種を除くほかはおおむね政治,法律に関する文書であり,数種類の秦律が含まれていることがわかった(睡虎地秦墓)。…
…宗教用語の一つ。教団内部の諚として,一般法や道徳律に先んじて,教団構成員を拘束し,救済の基本条件となる。原始仏教では,戒(シーラśīla)と律(ビナヤvinaya)を分けるのが普通で,律は教団の規則を意味し,男僧250条,尼僧348条の禁制条項を指す。…
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[パーリ語三蔵]
〈三蔵〉とはティピタカtipiṭakaの訳,三つの容器の意。経・律・論の三部よりなるところからこう呼ばれる。経(スッタsutta)は釈迦や弟子たちの言行録,律(ビナヤvinaya)は教団の戒律規定,論(アビダンマabhidhamma)は哲学的理論を展開したものである。…
…遺骸は信者たちの手で火葬され,遺骨は信者たちに分けられ,塔(ストゥーパ,舎利塔,仏塔)にまつられた。 弟子たちは最長老のマハーカッサパ(摩訶迦葉)を中心に集まって会議を開き,釈迦の遺言に従って,生前に説かれた教え(法)と制定された教団の規則(律)とを編集し入滅後のよりどころとして,教団の結束をはかった。これを結集(けつじゆう)と呼ぶ。…
…仏教徒の用いる聖典。国により宗派により多種多様であるが,基本的には経,律,論の〈三蔵〉にまとめられる。〈経蔵〉は釈迦の教説の集成で,〈法〉とも〈阿含(あごん)〉(聖なる伝承)ともいわれる。…
…中国,朝鮮,日本の音楽理論用語。互いに半音の音程をもってオクターブ内に収められた12個の音律をいう。中国では古く周代から行われ,漢代以後その算定法が確立した。…
…なお衡と類縁の文字で権(けん)というのもあるが,これは,はかりそのものではなく,分銅のほうを指す。これら4文字をさまざまに組み合わせた語が古くから用いられており,例えば度量という語は,人の心の広さを指すのに用いられ,また他方では度量衡,度量権衡などの語と同義的にも用いられて,〈長さ,面積,体積,質量をはかること,これらの量をはかるための道具や基準,また,それらにかかわる法律的,行政的な制度ないし公共的な協約〉を指すものと解されてきている。 これらの語の出典として,中国の史書や古典のうち《書経》《国語》《礼記(らいき)》《周礼(しゆらい)》《史記》などもあげられるが,この種の書では,度量衡を正しく定めることの政治的な意義が強調されている場合が多いようである。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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