怪しい(読み)アヤシイ

デジタル大辞泉 「怪しい」の意味・読み・例文・類語

あやし・い【怪しい】

[形][文]あや・し[シク]感動詞「あや」の形容詞化》普通ではない事物、正体のはっきりしない事物に対する不可解な気持ちを表す。
(「妖しい」とも書く)不思議な力がある。神秘的な感じがする。「―・い魅力」「宝石が―・く光る」
気味な感じがする。気味が悪い。「―・い鳴き声」

㋐行動や状況が不審である。疑わしい。「―・い男がうろつく」
㋑男女の間に、隠された関係があるらしいさま。「あの二人は近ごろ―・いね」
よくないほうに変わりそうである。不安である。「雲行きが―・くなる」
全面的には信用できない。疑う余地がある。「その説はちょっと―・い」「彼の英語は―・いものだ」
事物の状態が普通でない。見慣れない。珍しい。
「―・しくおもしろき処どころ多かりけり」〈伊勢・八一〉
普通と違って粗末である。見苦しい。
「あないみじや。いと―・しきさまを人や見つらむ」〈・若紫〉
礼儀にはずれていて不都合である。けしからぬ。見苦しい。
「遣戸をあらくたてあくるもいと―・し」〈・二八〉
貴族から見て、その状況が理解しにくいものというところから》身分が低い。いやしい。
「―・しき家の見所もなき梅の木などには」〈・四一〉
[派生]あやしがる[動ラ五]あやしげ[形動]あやしさ[名]
[用法]あやしい・うたがわしい――「怪しい」は、何であるか、どうであるかがはっきりせず、不気味であったり、信用できなかったりという、受け取り手の気持ちを表す。「疑わしい」は何らかの根拠があって、確かではない、疑わざるをえないという判断を示す。◇「明日は晴れるかどうか怪しい」は、はっきりしない空模様から、晴れるということに対して信用できない気持ちを表す。この場合、「疑わしい」といえば、現在の天候や天気図から、明日は晴れそうもないと判断したことになる。◇「怪しい人影」「雲行きが怪しい」などの「怪しい」は、「疑わしい」で置き換えることはできない。「疑わしきは罰せず」は「あやしき」で置き換えることができない。
[類語](1)(2奇怪不思議奇妙奇異怪奇怪異不可思議面妖奇天烈摩訶不思議けったい奇っ怪奇奇怪怪伝奇謎めく神秘霊妙不可解ミステリアス異常異様不審不自然奇態風変わり特異異状異例非常別条変ちくりん変てこ変てこりん妙ちきりんおかしいおかしな珍奇新奇珍妙奇抜奇警奇想天外突飛ファンシー突拍子もない/(3㋑)お安くない/(5疑わしいいぶかしいいかがわしい胡散臭い臭い怪訝眉唾物不明朗

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「怪しい」の意味・読み・例文・類語

あや‐し・い【怪・妖・奇】

  1. 〘 形容詞口語形活用 〙
    [ 文語形 ]あや〘 形容詞シク活用 〙 ( 驚きの声「あや」を活用させた語 ) 正体のはっきりわからない物事、普通でない物事に対して持つ奇異な感じをいう。
  2. 人の知恵でははかれないような不思議さである。神秘的である。霊妙である。
    1. [初出の実例]「金色(こがね)の霊(アヤシキ)(とび)有て、飛来て皇弓(みゆみ)の弭に止れり」(出典:日本書紀(720)神武即位前戊午一二月(北野本訓))
    2. 「山の辺のあか人といふ人ありけり。歌にあやしく、たへなりけり」(出典:古今和歌集(905‐914)仮名序)
  3. 普通と違うところがある。変わっている。珍しい。
    1. [初出の実例]「函には舎利有り。色妙にして異常(アヤシ)」(出典:西大寺本金光明最勝王経平安初期点(830頃)一〇)
    2. 「陸奥(みち)の国にいきたりけるに、あやしくおもしろき所々多かりけり」(出典:伊勢物語(10C前)八一)
  4. 物の正体、物事の真相、原因、理由などがはっきりとつかめない状態である。いぶかしい。変だ。
    1. [初出の実例]「足柄の箱根の山に粟まきて実とはなれるを逢はなくも安夜思(アヤシ)」(出典:万葉集(8C後)一四・三三六四)
    2. 「いと清げなる人を捨てて、にくげなる人を持たるもあやしかし」(出典:枕草子(10C終)二六八)
    3. 「かく云はば、あやしき物とおもふならん。然れどもあやしき物にはあらず、蚕と云ふ虫なり」(出典:日本読本(1887)〈新保磐次〉三)
  5. 道理や礼儀にはずれたことをしていて、非難されるべきである。けしからん。よくない。
    1. [初出の実例]「遣戸をあらくたてあくるもいとあやし」(出典:枕草子(10C終)二八)
    2. 「ただ給(た)ばん物をば給はらで、かく返し参らする。あやしきことなり」(出典:宇治拾遺物語(1221頃)一一)
  6. ( 貴族の目から見て理解しがたく、奇異なさまである意から )
    1. (イ) 乱雑だったり、粗末だったりして見苦しい。みすぼらしい。
      1. [初出の実例]「かみなかしも、酔(ゑ)ひあきて、いとあやしく潮海のほとりにてあざれあへり」(出典:土左日記(935頃)承平四年一二月二二日)
      2. 「あやしの竹のあみ戸のうちより」(出典:徒然草(1331頃)四四)
    2. (ロ) 身分が低い。素姓がはっきりしない。いやしい。
      1. [初出の実例]「あやしからん女だに、いみじう聞くめるものを」(出典:枕草子(10C終)三三)
      2. 「あやしき海士(あま)どもなどの、たかき人おはする所とて、集まり参りて」(出典:源氏物語(1001‐14頃)明石)
  7. 物事が十分信頼できない状態である。おぼつかない。
    1. [初出の実例]「人力車で飛せべし。しかし、『コスト』があやしいはへ」(出典:西洋道中膝栗毛(1870‐76)〈仮名垣魯文〉六)
    2. 「昇降器へ乗るのは好いが、ある目的地へ行けるか何うか夫(それ)が危(アヤ)しかった」(出典:行人(1912‐13)〈夏目漱石〉兄)
  8. ある男女の間に、秘密な関係がありそうだ。
    1. [初出の実例]「いづみしきぶときどき哥のだひじどもをならひければ、すでにあやしきうたがひをゑたりしほどに」(出典:御伽草子・小式部(室町時代物語大成所収)(室町末))
    2. 「何だかお前と家(うち)の嚊アと怪しいや」(出典:落語・ズッコケ(1891)〈三代目三遊亭円遊〉)

怪しいの語誌

普通とは異なると判断した対象に対する感情を表わす点で「けし(怪)」と共通するが、「けし」が、もっぱら対象に対してマイナスの評価しか行なわないのに対して、「あやし」は、場面によってプラスにもマイナスにも評価が変わってくる点が、大きく異なるところである。

怪しいの派生語

あやし‐が・る
  1. 〘 動ラ五(四) 〙

怪しいの派生語

あやし‐げ
  1. 〘 形容動詞ナリ活用 〙

怪しいの派生語

あやし‐さ
  1. 〘 名詞 〙

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

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