怪・妖・奇(読み)あやしい

精選版 日本国語大辞典 「怪・妖・奇」の意味・読み・例文・類語

あや‐し・い【怪・妖・奇】

〘形口〙 あやし 〘形シク〙 (驚きの声「あや」を活用させた語) 正体のはっきりわからない物事、普通でない物事に対して持つ奇異な感じをいう。
① 人の知恵でははかれないような不思議さである。神秘的である。霊妙である。
書紀(720)神武即位前戊午一二月(北野本訓)「金色(こがね)の霊(アヤシキ)(とび)有て、飛来て皇弓(みゆみ)の弭に止れり」
古今(905‐914)仮名序「山の辺のあか人といふ人ありけり。歌にあやしく、たへなりけり」
② 普通と違うところがある。変わっている。珍しい。
※西大寺本金光明最勝王経平安初期点(830頃)一〇「函には舎利有り。色妙にして異常(アヤシ)
※伊勢物語(10C前)八一陸奥(みち)の国にいきたりけるに、あやしくおもしろき所々多かりけり」
③ 物の正体、物事の真相、原因、理由などがはっきりとつかめない状態である。いぶかしい。変だ。
万葉(8C後)一四・三三六四「足柄箱根の山に粟まきて実とはなれるを逢はなくも安夜思(アヤシ)
※枕(10C終)二六八「いと清げなる人を捨てて、にくげなる人を持たるもあやしかし」
※日本読本(1887)〈新保磐次〉三「かく云はば、あやしき物とおもふならん。然れどもあやしき物にはあらず、蚕と云ふ虫なり」
道理礼儀にはずれたことをしていて、非難されるべきである。けしからん。よくない。
※枕(10C終)二八「遣戸をあらくたてあくるもいとあやし」
※宇治拾遺(1221頃)一一「ただ給(た)ばん物をば給はらで、かく返し参らする。あやしきことなり」
⑤ (貴族の目から見て理解しがたく、奇異なさまである意から)
(イ) 乱雑だったり、粗末だったりして見苦しい。みすぼらしい
※土左(935頃)承平四年一二月二二日「かみなかしも、酔(ゑ)ひあきて、いとあやしく潮海のほとりにてあざれあへり」
徒然草(1331頃)四四「あやしの竹のあみ戸のうちより」
(ロ) 身分が低い。素姓がはっきりしない。いやしい。
※枕(10C終)三三「あやしからん女だに、いみじう聞くめるものを」
源氏(1001‐14頃)明石「あやしき海士(あま)どもなどの、たかき人おはする所とて、集まり参りて」
⑥ 物事が十分信頼できない状態である。おぼつかない。
西洋道中膝栗毛(1870‐76)〈仮名垣魯文〉六「人力車で飛せべし。しかし、『コスト』があやしいはへ」
※行人(1912‐13)〈夏目漱石〉兄「昇降器へ乗るのは好いが、ある目的地へ行けるか何うか夫(それ)が危(アヤ)しかった」
⑦ ある男女の間に、秘密な関係がありそうだ。
御伽草子・小式部(室町時代物語大成所収)(室町末)「いづみしきぶときどき哥のだひじどもをならひければ、すでにあやしきうたがひをゑたりしほどに」
※落語・ズッコケ(1891)〈三代目三遊亭円遊〉「何だかお前と家(うち)の嚊アと怪しいや」
[語誌]普通とは異なると判断した対象に対する感情を表わす点で「けし(怪)」と共通するが、「けし」が、もっぱら対象に対してマイナスの評価しか行なわないのに対して、「あやし」は、場面によってプラスにもマイナスにも評価が変わってくる点が、大きく異なるところである。
あやし‐が・る
〘動ラ五(四)〙
あやし‐げ
〘形動〙
あやし‐さ
〘名〙

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報