言・謂(読み)いう

精選版 日本国語大辞典 「言・謂」の意味・読み・例文・類語

い・う いふ【言・謂】

[1] 〘他ワ五(ハ四)〙
① 言葉として表現する。述べる。しゃべる。
(イ) (…と)口に出す。口をきく。
※古事記(712)上・歌謡「泣かじとは 汝(な)は伊布(イフ)とも」
万葉(8C後)一五・三七七二「帰りける人来れりと伊比(イヒ)しかばほとほと死にき君かと思ひて」
(ロ) (目的語をとって) 思うこと、見聞したことなどを言葉に表わす。
※万葉(8C後)二〇・四三六四「防人(さきむり)に発(た)たむ騒きに家の妹(いむ)がなるべきことを伊波(イハ)ず来ぬかも」
源氏(1001‐14頃)帚木「残りをいはせむとて」
(ハ) (「物を言う」の形で) 力のあることを表わす。発揮する。効力を示す。→もの(物)を言うもの(物)を言わす
② (ある人、物、事柄などを、…と)呼ぶ。名づける。称する。
※万葉(8C後)一四・三三七九「わが背子をあどかも伊波(イハ)武蔵野のうけらが花の時無きものを」
※竹取(9C末‐10C初)「たけとりの翁といふもの有けり」
③ 世間の人が口にする。伝聞する。
※万葉(8C後)五・八九七「重き馬荷に 表荷(うはに)打つと 伊布(イフ)ことの如(ごと)
④ 詩や歌を詠む。また、声を出してうたう。
古今(905‐914)仮名序「歌をいひてぞ、なぐさめける」
⑤ (手紙、歌などで)愛情を告げる。求婚する。言い寄る。
※竹取(9C末‐10C初)「其中に猶(なほ)いひけるは色好といはるる限五人」
[2] 〘自ワ五(ハ四)〙
① 鳥や獣などが鳴く。
蜻蛉(974頃)中「あやしき声するを、こはなにぞととひたれば、鹿のいふなりといふ」
② (擬声語に付いて) そういう音を立てる。
滑稽本浮世風呂(1809‐13)四「いまだに心(むね)がドッキドッキと云(イフ)て」
③ (擬態語に付いて) そういう刺激性の状態が現われる。
怪談牡丹燈籠(1884)〈三遊亭円朝〉一「まだ抜刀(ひっこぬき)は仕(しま)ひと思(おもっ)たに、閃々(ぴかぴか)といったから、ホラ抜たと」
④ (様態を表わす語と熟して) そのさまであることを示す。「こういう」「そういう」「ああいう」「どういう」など。
⑤ (助詞「と」に付いて) 「と」の受ける事柄を取りたてて、それに関して下に述べる場合に用いる。具体的な意味の薄れた補助的用法
※万葉(8C後)二〇・四三〇七「秋と伊閇(イヘ)ば心そ痛きうたて異(け)に花になそへて見まく欲(ほ)りかも」
[語誌](1)現代仮名づかいで「いう」と表記するが、発音はユウ。謡曲では「いふ(言)」と「ゆふ(夕)」との掛詞が行なわれ、さかのぼって、「斯道文庫蔵帝範応安元年点」に、「云(ユふ)こと」とあるなど、南北朝期には、イをユとした例を認めることができる。
(2)音声によって相手にある内容を聞かせる「かたる」、音声を出している行為そのものを描写する「しゃべる」、音声による相互のコミュニケーションを示す「はなす」などは、それぞれ「いう」より具体的で、かつ音声を中心とした意味を持つ。それに対し、「いう」は「太郎という人」のように形式化した用法を古くから持つように、より抽象的な動作である。また、「目は口ほどに物を言い」という言い方があるように、必ずしも音声による必要はない。

いい いひ【言・謂】

〘名〙 (動詞「いう」の連用形名詞化)
① 言うこと。言ったこと。
※栄花(1028‐92頃)後悔の大将「それをよろづにいひのままにせさせ給ひしほどに」
② (「…のいい」の形で) …についての表現、根拠、いわれ。また、…という意味、…のこと。
※大慈恩寺三蔵法師伝承徳三年点(1099)七「謂所(いはゆる)、上の下を化すること、風の草を靡かすがごとし、其れ斯の謂(イヒ)(か)
※俳諧・小太郎(1715)「行基菩薩は、栗の木を杖にも柱にもし給ふとかや。西方に縁ありとの謂なるべし」 〔孟子‐梁恵王・下〕

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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