争・諍(読み)あらがい

精選版 日本国語大辞典の解説

あらがい あらがひ【争・諍】

〘名〙 (動詞「あらがう(争)」の連用形の名詞化)
① 相手のことばを否定して、自分の考えを言い張ること。言い争うこと。
※金光明最勝王経音義(1079)「諍 アラカヒ」
② 賭け事の争い。
※宇治拾遺(1221頃)一二「聖宝僧正の、〈略〉、この上座の、もの惜しむ罪のあさましきにとて、わざとあらがひをせられけり」
※徒然草(1331頃)一三五「興あるあらがひなり。〈略〉負けたらん人は、供御をまうけらるべし」
③ 力ずくで張り合うこと。抵抗すること。
※文学の饗宴(1941)〈岩上順一〉省察と抑制「歴史に於ける生活は、歴史的諸条件との絶えざるあらがひ、成長と抑制の流れにいろどられたものである」

あらが・う あらがふ【争・諍】

〘自ワ五(ハ四)〙
① 相手の言うことを否定して自分の考えを言い張る。言い争う。
※書紀(720)敏達一四年六月(前田本訓)「馬子宿禰諍(アラカヒ)て従はず」
※後撰(951‐953頃)恋二・七八一「ちはやぶる神ひきかけて誓ひてしこともゆゆしくあらがふなゆめ〈藤原滋幹〉」
② 賭け事で張り合う。賭で確かにこうなると主張する。
※枕(10C終)八七「一日などぞいふべかりけると、下には思へど、〈略〉いひそめてんことはとて、かたうあらがひつ」
※平家(13C前)一一「かけ鳥なんどあらがうて、三に二つは必ず射おとす物で候」
③ 力ずくで張り合う。争う。抵抗する。
※浄瑠璃・妹背山婦女庭訓(1771)一「その一巻ここへ出せば、苦痛せずに一思ひ、あらがふとなぶり殺し」
※風立ちぬ(1936‐38)〈堀辰雄〉冬「抗(アラガ)ひがたい運命の前にしづかに頭を項低(うなだ)れたまま」
[語誌]→「あらそう(争)」の語誌

あらそい あらそひ【争・諍】

〘名〙 (動詞「あらそう(争)」の連用形の名詞化)
① 自分の気持を通そうとして張り合うこと。相手に勝とうとして競争すること。また、互いにすぐれていることを誇示しあうこと。いさかい。闘争。けんか。時に、口争い。口論。
※万葉(8C後)一九・四二一一「たまきはる 命も捨てて 相争(あらそひ)に 妻問ひしける」
※徒然草(1331頃)一三〇「されば、始め興宴より起りて、長き恨を結ぶ類多し。これみな、あらそひを好む失なり」
② 権利関係または事実関係のあるなしに関する、当事者間の意見、主張の不一致。〔民事訴訟法(明治二三年)(1890)〕

あらそ・う あらそふ【争・諍】

[1] 〘自ワ五(ハ四)〙
① 自分の気持を通そうとして抵抗する。いやだといって拒む。さからう。
※古事記(712)中・歌謡「道の後(しり) 古波陀嬢子(こはだをとめ)は 阿良蘇波(アラソハ)ず 寝しくをしぞも 愛(うるは)しみ思ふ」
② 相手と競う。張り合う。戦う。
※万葉(8C後)二・一九九「行く鳥の 相競(あらそふ)(はし)に 〈一云〈略〉うつせみと 安良蘇布(アラソフ)はしに〉」
※平家(13C前)四「昔は源平左右(さう)にあらそひて、朝家の御まぼりたりしかども」
③ 自分の言い分を正しいとして、それを押し通そうとする。言い争いをする。議論する。言い合う。主張する。〔新撰字鏡(898‐901頃)〕
※徒然草(1331頃)二一「ある人の『月ばかり面白きものはあらじ』と言ひしに、またひとり『露こそあはれなれ』とあらそひしこそをかしけれ」
[2] 〘他ワ五(ハ四)〙
① 何かをしようとして、また、何かを得ようとして、張り合う。互いに相手に勝とうとする。また、互いにすぐれていることを誇示しあって張りあう。競争する。戦う。「争いて(争うて・争って)」の形で副詞的にも用いる。
※万葉(8C後)一・一三「香具山は 畝火(うねび)ををしと 耳梨と 相(あひ)諍競(あらそひ)き〈略〉うつせみも 嬬(つま)を 相挌(あらそふ)らしき」
※平家(13C前)一〇「漢高祖と楚項羽と位をあらそひて、合戦する事七十二度」
② (特に、時を表わすことばを受けて) すこしの時間をも先行しようとする。事の成否がその時間にかかっている場合などに用いる。
※開化自慢(1874)〈山口又市郎〉初「出舩入舟半ときの、時間あらそふ行かひに〈略〉府下のちまたぞいさましき」
[語誌]同源と思われる「あらがう」「あらそう」は、自身を強く押し出して他者に対抗する意が共通するが、「あらがう」が他者の言動に直接向かう否定や拒否をいうのに対し、「あらそう」は自己の目的の実現のために他者と張り合うことをいう。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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