(読み)ヤク

デジタル大辞泉 「厄」の意味・読み・例文・類語

やく【厄】

わざわい。災難。「にあう」「を払う」
厄年やくどし」の略。「が明ける」
《一生に一度はこうむる大きな災難である意から》疱瘡ほうそうのこと。
「お孫さまがお―を遊ばしたさうでございますね」〈滑・浮世風呂・三〉
[類語](1災禍災厄奇禍被害禍害惨害惨禍災害なん災い被災災難天変地異天災人災地変風害風水害冷害霜害雪害干害渇水旱魃水涸れ病虫害虫害煙害公害薬害凶事禍根舌禍筆禍試練危難国難水難水禍海難受難遭難罹災貧乏くじ馬鹿を見る弱り目にたたり目泣き面に蜂

やく【厄】[漢字項目]

常用漢字] [音]ヤク(呉)
わざわい。災難。「厄難困厄災厄
よくない巡り合わせ。「厄運厄年やくどし厄日やくび後厄あとやく大厄前厄まえやく

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精選版 日本国語大辞典 「厄」の意味・読み・例文・類語

やく【厄】

  1. 〘 名詞 〙
  2. わざわい。まがごと。災難。災厄。厄難。
    1. [初出の実例]「父の厄を救はむと請ふ」(出典:日本霊異記(810‐824)上)
  3. やくどし(厄年)」の略。〔色葉字類抄(1177‐81)〕
    1. [初出の実例]「当年御厄之間別而御願云々」(出典:実隆公記‐延徳二年(1490)二月七日)
    2. 「先づ是で十九の厄(ヤク)を免れて」(出典:社会百面相(1902)〈内田魯庵〉犬物語)
  4. 疱瘡(ほうそう)のこと。厄年と同じで、生涯に一度は経験するものであったところからいう。
    1. [初出の実例]「ホンニお千代さんもおやくをなすったそふで御座ります」(出典:洒落本・大劇場世界の幕なし(1782))

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普及版 字通 「厄」の読み・字形・画数・意味


常用漢字 4画

(異体字)
5画

[字音] ヤク・ガ(グヮ)
[字訓] くびき・わざわい・くるしむ

[説文解字]
[金文]

[字形] 象形
車馬に用いるくびきの形。〔説文〕九上に「科厄(くわやく)、木なり。卩(せつ)に從ひ、厂(かん)聲」とするが、声異なり、全体が象形の字。〔説文〕にまた「賈侍中説」として、「厄は裹(つつ)むなり。一に曰く、厄は蓋(おほ)ふなり」とする賈逵説を引く。〔詩、大雅、韓奕〕に「革(でうかく)金厄あり」と、馬具を歌う。災厄の意に用いるのは、(やく)との通用義である。

[訓義]
1. くびき。
2. 木のふし、木のふしくれ。
3. わざわい、くるしみ、くるしむ、あやうい。
4. つつむ、おおう。
5. 扼(やく)と通じ、つなぐ、かける。

[古辞書の訓]
名義抄〕厄 アヤフシ・ワヅラヒ・アヤフミ・タシナム/ 今の厄なり

[語系]
厄・・阨・・扼・・隘ekは同声。握eokも声義近く、すべて強くもち、くびる意がある。厄はくびきの形、(益)は紐を縊(くく)る意。握はにぎりしめる。屋はせまく小さな建物、もと喪屋をいう字であった。

[熟語]
厄運・厄会厄害・厄窮厄急厄境・厄困・厄挫・厄・厄日・厄閏厄塞・厄滞・厄難厄抑
[下接語]
科厄・危厄・窮厄・金厄・窘厄・困厄・災厄・書厄・人厄・世厄・厄・厄・幽厄

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改訂新版 世界大百科事典 「厄」の意味・わかりやすい解説

厄 (やく)

人間の生命や生活の健全と安定をそこなう要因になると考えられている災難・障害に関する心意現象をいう。時間の次元では厄日,厄月,厄年があり,空間的には厄の生ずるという場所があるが,厄をもたらすという神も考えられており,それらを避けるための呪的方法が多く生み出されている。

 厄日には暦にもとづく陰陽道によるものが多く,外出を忌む坎日(かんにち),葬式を忌む友引(ともびき),家屋の建築や旅立ちを忌む三隣亡(さんりんぼう),種まきや植樹を忌む不熟日(ふじゆくにち)・地火(じか)の日などがよく知られているが,二百十日とか二百二十日を厄日とする所も多い。また,新潟県の旧西頸城郡のように旧暦2月9日を厄日といって,山の神が山を回る日だからそこへ入るとけがをするというように,全国的に山の神の日を厄日としている。

 厄月は一般に正月,5月,9月があてられているが,これはむしろたいせつな神祭の月として不浄や穢(けがれ)のないように慎みの生活を送ることに重点がおかれている。正月に仏事を忌むとか,5月に機織をしないなどであるが,長崎県の対馬島では,正月,5月,9月を厄月といって,この月に結婚した嫁は月末の1日を実家に帰って1泊してくるという。

 厄年は古典にも見いだされる。《源氏物語》若菜巻では紫上(むらさきのうえ)が37歳の厄年になったので身を慎むということがみえ,中世の《拾芥抄》には13,25,37,61,85,99歳を厄年としており,男女の別はなかったようである。現代の日本でも地方によって厄年の年数は一定していないが,男の25歳と42歳,女の19歳と33歳,なかでも男の42歳と女の33歳を大厄とするのが一般であり,前厄・本厄・後厄といって前後3年間も続くというのである。これは33が〈さんざん〉,42が〈死に〉に通ずるところから近世あたりにはじまったといわれている。厄年になるとそれを避けるために厄払い厄よけなどの祈願や呪法を行う。年のはじめに親類や近隣の者を招いて年祝をするとか,神社や寺院に参って厄祓いの祈願をするのがふつうであるが,自分の年の数だけの銭を紙に包み,道の辻や橋などの境に持っていって捨てたのち,あとを振りかえらずに帰ってくる呪法が広く行われている。厄年は実子や友人にも影響をあたえると考えられた。親の厄年に生まれた子は育ちが悪いというので,箕(み)やたらいの中に入れて川や海に流したり,道の辻に捨てて他人に拾ってもらい,仮の親子関係(親子成り)を結ぶ所は多い。また香川県では厄年に近いときに死んだ者のために,生きておれば厄年にあたる正月に法事をしてやり,それを厄法事といっている。村や町の道の辻や境などの空間には厄病神がいて,通る人に災いをすると考えられていた。新潟県糸魚川市には厄病平(だいら)と呼ぶ所があり,伝染病患者を隔離した建物があった村境だという。魔のさす場所,妖怪の出る空間は厄の発生しやすい所と考えられていたのである。また,厄病神は自由に横行するので,大晦日の夜とか12月と2月の8日,節分などにそれを祭ったり,追い払う行事が行われている。

 厄の意味や内容が拡大されてくると,正体不明の者や迷惑のかかる者までも払いの対象となってくるが,元来,厄は役に通じていたとみることができる。神祭に特定の任務をもつ者を神役といい,村の政治を担う者を村役というのがそれで,彼らは集団の秩序を維持してその目的を達成させるための重要な役割をもっているから,身を慎む緊張した生活を送らねばならなかった。そのために身に災難がふりかかりやすい状態におかれたといえよう。厄年の者が集団の中で新しい地位と役割をあたえられる例が各地に見いだせるのは,厄年が役年に通じていることを示している。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「厄」の意味・わかりやすい解説


やく

災厄,苦しみ,特に病苦の意味。古く人間に災厄,特に疫病をもたらすのは神のなせる業であると信じられ,その神を厄病神,疫病神,厄神,行疫神などと呼んだ。このような神の来るのを防ぐために,あらかじめ路上でもてなすという道饗祭 (みちあえのまつり) ,村境の路上に注連縄 (しめなわ) を張る道切りなどの行事が行われた。花が散るとともに疫病神が分散するという信仰から,花を散らせないようにする行事もあった。平安時代から盛んに行われた御霊祭も同じような信仰に基づく厄よけの行事であった (→御霊信仰 ) 。

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