ちり【塵】
〘名〙
① 粉末状や粒子状になってとびちるもの。くだけてとびちるもの。ほこり。
※
書紀(720)継体二二年一一月(寛文版訓)「
埃塵(チリ)相ひ接
(つ)けり機
(はかりこと)を両の陣
(いくさ)の間に決めて」
※
平家(13C前)一「たけき者も遂にはほろびぬ、偏
(ひとへ)に風の前の塵に同じ」
※枕(10C終)一五一「二つ三つばかりなるちごの、いそぎてはひ来る道に、いとちひさき
ちりのありけるを目ざとに見つけて」
③ ねうちのないもの。とるにたらないもの。→
塵の身。
※
新撰菟玖波集(1495)秋「ちりならぬ身もただ夢のうち 蝶のゐる花の常夏秋かけて〈
専順〉」
※新古今(1205)釈教・一九二六「にごりなきかめ井の水を結びあげて心のちりをすすぎつる哉〈
上東門院〉」
⑤
浄土に対して、人の住む世界を汚れたものとしていう語。俗世のけがれ。また、俗界。
塵界。
塵俗。ちりの世
(よ)。
※
常陸風土記(717‐724頃)
久慈「是
(これ)、人間
(ひとのよ)の遊びなれども、頓
(ひたぶる)に塵の中の煩
(うれひ)を忘る」
⑥ きわめてわずかな物事のたとえ。いささか。ほんの
少し。わずかばかり。
※
源氏(1001‐14頃)椎本「髪〈略〉末までちりのまよひなく、つやつやとこちたう美しげなり」
⑨ 残りもの。お流れ。
※年中定例記(1525頃)「御憑み今日悉く御返しすみて、残りたる物を右筆両人・御使人・
同朋、御ちりとて、鬮にて給候」
⑩
相撲で、
土俵上にあがり、清めの塩をまいたあと
徳俵(とくだわら)の内側にしゃがんで、
両手をすりあわせて塵をひねり落とし、ぱっとひらく
動作をいう。
※東京年中行事(1911)〈
若月紫蘭〉一月暦「やがて二力士は土俵口で例の
チリと云ふ挨拶をして、それから土俵の中へ進んだのださうな」
※
随筆・こがねぐさ(1830頃か)「なにとは知らず、ちりといへるいやしげなる紙に包みたるものを投げ入れて、その人はいづち行きけん。影だに見えず」
じん ヂン【塵】
〘名〙
① ちり。土ぼこり。ごみ。
※花柳春話(1878‐79)〈織田純一郎訳〉二「側らに在る塵(ヂン)を取って摘(つま)み」
② (「塵」は
artha または
viṣaya の旧訳。衆生の心を汚すところからいう。新訳では「境」) 仏語。六根の対象である六境。色、声、香、味、触、法の六つを六塵という。
※法華義疏(7C前)一「衆生従来迷レ塵。神根不レ利」
③ 六根のうちの眼根の対象となる極めて微細ないろをいう。
※正法眼蔵(1231‐53)自証三昧「乃至眼耳鼻舌身意、根・識・塵等もかくのごとし」
④ 一の十億分の一の数。沙の十分の一、埃の十倍の数。
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デジタル大辞泉
「塵」の意味・読み・例文・類語
ごみ【×塵/×芥】
1 利用価値のないこまごました汚いもの。ちり。あくた。塵芥。「―の山」「―捨て場」
2 水底にたまった泥状のもの。
「水田の―深かりける畔の上に」〈平家・九〉
[用法]ごみ・くず――「ごみ」は不要になり捨てられた物や、その辺にある汚いものをいう。「粗大ごみ」「川にごみを捨てる」などを普通「くず」とは言わない。◇「くず」は、切ったり削ったりして、良いところをとったりしたあとに残る役に立たない部分をいう。「パンくず」「糸くず」のように他の語に付いて、役にも立たないかけら、切れ端であることを示し、また、役に立たない意から比喩的に「あいつは人間のくずだ」などともいう。
[類語]屑・塵・埃・滓・芥・塵芥・塵芥・藻屑・がらくた・スクラップ・生ごみ・紙屑・おが屑・食べ滓・茶殻・粉塵・黄塵・砂塵・後塵・塵埃
じん〔ヂン〕【×塵】
1 ちり。ごみ。
「側らにある―を取って摘み」〈織田訳・花柳春話〉
2 仏語。
㋐感覚の対象。境。
㋑煩悩。
3 数の単位。1の10億分の1。→位[表]
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塵
ちり
相撲の仕切りに関することば。塵浄水 (ちりじょうず) の略で,昔,野天で相撲を取ったとき,雑草 (ちり) をむしりとって手を清めたのが始めとされる。かしわ手を打って,もみ手をしてから腕を左右に開き,初め上に向けた手のひらを下に返す動作を「塵を切る」といい,武器を持っていないことを示す意味があった。
塵
じん
仏教用語。六境すなわち感覚器官の対象である色,声,香,味,触,法のことで,真実の心性をけがすことから塵と呼ばれている。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
塵
2012年公開のドキュメンタリー映画。監督・撮影・編集:河瀬直美。出演:河瀬直美、河瀬宇乃(監督の養母)、光祈(監督の息子)ほか。「につつまれて」(1992)に始まる自伝的ドキュメンタリー群の集大成的な作品。
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