妻(配偶者)(読み)つま

日本大百科全書(ニッポニカ) 「妻(配偶者)」の意味・わかりやすい解説

妻(配偶者)
つま

結婚している女を夫に対する関係でいう。法律上は、法律上の婚姻をしている妻だけをいい、内縁の妻を含まない。夫婦間における妻の法律上の地位は、社会組織、風俗、伝統などによって規定されることが多いが、概していえば、妻の隷属的地位から、夫との対等の地位の獲得という方向に向かって発展してきたといっていい。古くは、女性は男性より「劣った性」であるという理由のほか、女性が結婚して妻となった場合には、夫婦共同体の一体性を保持するという目的から、妻は夫に従属させられていた。法的にいえば、妻は一般的に行為無能力者とされ(夫の同意なしには法律行為ができない)、夫婦財産制のうえでも不利益を受け(妻が婚姻前からもっている財産に夫が管理権をもつなど)、離婚法、相続法、親権法などの分野においても不利な地位に置かれていた。

 しかし20世紀初頭ごろから、文明諸国においては、人権思想の発展と職業をもつ女性層の拡大などから、妻の地位はしだいに向上し、妻の無能力制度の撤廃、親権者として夫との平等化、配偶者相続権の確立家事労働の評価(日本の財産分与制度など)が、次々と立法によって獲得されていった。今日の日本では、一方では憲法がその第14条で法の下の平等を規定し、とくに第24条では家族生活における個人の尊厳および両性の平等を規定しており、他方では民法は、夫と妻とを区別して規定していない。したがって、法律上、夫と妻は平等である。しかし夫と妻との実質的な平等を確保するために、現在の法制で十分であるかどうかについては、なお検討が必要であろう。たとえば、夫婦同姓原則は妻が婚姻前の姓を名のることを事実上妨げていないか、離婚の際の財産分与や死亡の場合の損害賠償額の算定などに妻の家事労働は十分に評価されているか、などである。夫婦同姓の原則に対しては、1996年(平成8)に法制審議会は選択的夫婦別姓制度を提案した。しかし、夫婦別姓は夫婦の一体性を害するという国会内部の一部の声に阻まれて、この制度の採用は見送られた。法制審議会は同時に、離婚の際の財産分与についてもある基準を定めることを提案しているが、これも実現していない。

[高橋康之・野澤正充]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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