(読み)それがし

精選版 日本国語大辞典「某」の解説

それ‐がし【某】

名〙
① 他称。名の不明な人・事物をばくぜんとさし示す。また、故意に名を伏せたり、名を明示する必要のない場合にも用いる。
蜻蛉(974頃)下「帯刀(たちはき)の長(をさ)それがしなどいふ人、使にて、夜に入りてものしけり」
自称。他称から自称に転用されたもの。もっぱら男性が謙遜して用い、後には主として武士威厳をもって用いた。わたくし。
※半井本保元(1220頃か)中「某候ふ某候ふと、音々に名乗り申しければ」
[補注]「それがし」が自称にも用いられはじめたのは、「なにがし」の場合よりやや遅い。

ぼう【某】

[1] 〘名〙 人の名前や、地名、場所、時などについて、それとはっきりわからない場合、あるいは、それとはっきり示さず表現する場合に用いる。他の名詞とともに使われることも多い。「学生某」「田中某」「某教師」「某会社」など。
※恋慕ながし(1898)〈小栗風葉〉一三「勇名赫々たる某(ボウ)将軍」
[2] 〘代名〙 自称。男性が自己をへりくだっていう。それがし。
※明衡往来(11C中か)中本「某稽首敬白」 〔孟棨‐人面桃花〕

くれ【某】

〘代名〙 不定称の人称代名詞。「何」という語と並べて用い、名を知らない人、それと定めない人、または名がわかっていてもぼかしていう場合に使う。事物にも使用する。「くれがし」「なにくれ」と熟しても用いられる。
源氏(1001‐14頃)乙女「今の世にまことしう伝へたる人をさをさ侍らずなりにたり。なにのみこくれの氏などかぞへひて」

か‐がし【某】

〘代名〙 不定称。名のわからない人、または、いちいち名をあげない人をさす。だれそれ。「なにがし」とにして用いることが多い。くれがし。
※大鏡(12C前)三「一番にはなにがし、二番にはかがしなどいひしかど、その名こそおぼえね」

くれ‐がし【某】

〘代名〙 人称代名詞。不定称。人の名を誰とはっきり指示しないでいう語。だれそれ。なにがし。それがし。くれ。
※源氏(1001‐14頃)夕顔「なにがしくれかしとかずへしは頭中将の随身、その小舎人童をなんしるしにいひはべりし」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉「某」の解説

なに‐がし【某/何某】

[名]数量、特に、金銭の額があまり多くないことを漠然と表す。「―かの金を寄付する」
[代]
不定称の指示代名詞。人・事物・場所などについて名などがはっきりしないことを表し、あるいはそれをぼかしたままに示す。どこそこ。だれそれ。何とかいう人・物。「鈴木―という男性」
「―の右馬四郎とかや云ふ者ありけり」〈沙石集・六〉
一人称の人代名詞。わたし。それがし。拙者。卑下した気持ちで用いる。
「―らが、私の君と思ひ申して、頂きになむ捧げて奉るべき」〈・玉鬘〉
[類語]多少少し少ない幾らか幾分やや何等か大なり小なり多かれ少なかれ1誰それ誰誰誰がしそれがし某氏何某

それ‐がし【某】

[代]
不定称の指示代名詞。その名がわからない人や事物をさす。また、その名をわざとぼかしていう場合にも用いる。だれそれ。なになに。ぼう。なにがし。
「内大臣、右大将藤原朝臣―」〈宇津保・楼上下〉
一人称の人代名詞。わたくし。
「―が栗毛の馬は」〈沙石集・八〉
[補説]2は中世以降の用法。もとは謙譲の意であったが、のちには尊大の意を表す。主に男子の用語。
[類語](1誰それ誰誰なにがし誰がし某氏何某/(2吾人我が輩自分わたくしわたしあたくしあたしあたいあっしわらわあちきおれ俺等おいらおらわし当方此方こちらこっちこちとら手前てめえ・愚輩・拙者身共不肖ふしょう小生愚生迂生うせい

ぼう【某】

[名]その人物の名前、その場所・時などが不明であるか、またはわざと示さない場合に代わりに用いる語。「田中の手紙」「作曲家」「大学」「月」
[代]一人称の人代名詞。男性が自分をへりくだっていう。わたくし。それがし。
「―稽首敬白」〈明衡往来
[類語]誰それ誰誰なにがし誰がしそれがし某氏何某わたくしわたしあたくしあたしあたいあっしわらわあちき自分おれ俺等おいらおらわし当方此方こちらこっちこちとら吾人ごじん我がはい手前てめえ・愚輩・拙者身共それがし不肖ふしょう小生愚生迂生うせい

ぼう【某】[漢字項目]

常用漢字] [音]ボウ(漢) [訓]それがし なにがし
人や物の名、場所・時などがわからないとき、または、わざと隠すときに添える語。「某国某氏某所・某女・某地某年某某何某なにぼう
[名のり]いろ
[難読]誰某だれそれ何某なにがし

くれ【某】

[代]不定称の人代名詞。名を知らない人、また、それとは定めない人、名をわざとぼかしていう場合などに用いる。
「なにの親王みこ、―の源氏など数へ給ひて」〈少女
[補説]「くれがし」「なにくれ」と熟しても用いる。

くれ‐がし【某】

[代]不定称の人代名詞。人の名をはっきり指示しないでいう語。それがし。なにがし。くれ。
「―の夫人マダムのように気儘きままならず」〈紅葉金色夜叉

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