(読み)イン

デジタル大辞泉 「院」の意味・読み・例文・類語

いん【院】[漢字項目]

[音]イン(ヰン)(慣)
学習漢字]3年
役所・学校など、公共性のある施設・機関。「院長院内医院開院学院議院貴族院寺院修道院上院僧院登院病院衆議院大学院養老院
上皇や法皇などの御所。また、上皇・法皇・女院にょいんの尊称。「院号院政院宣院中新院門院
病院。「産院退院通院入院
「大学院」「日本美術院」の略。「院生院展
[補説]原義は、垣を巡らした大きな屋敷・建物。

いん〔ヰン〕【院】

[名]
大学院」の略。「卒」
上皇法皇女院にょいんの御所。転じて、上皇・法皇・女院の尊称。「の御所」
貴人の邸宅や別荘。
「その―の桜ことにおもしろし」〈伊勢・八二〉
[接尾]名詞に付く。
寺の名に添える。「回向」「寂光
国家機関や公共施設・団体などの名に添える。「国土地理」「少年
上皇・法皇・女院の諡号しごうなどに添える。「後白河」「建礼門
戒名に添える。中世近世では、将軍など身分のある人の戒名に限られた。「安国(=徳川家康)」「台徳(=徳川秀忠)」

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精選版 日本国語大辞典 「院」の意味・読み・例文・類語

いんヰン【院】

  1. [ 1 ]
    1. 周囲に垣や塀をめぐらした大きな構えの家。
      1. (イ) 寺の建物。
        1. [初出の実例]「新造の院(いん)一所、山代の郷の中に在り」(出典:出雲風土記(733)意宇)
        2. [その他の文献]〔喩鳧‐遊北山寺詩〕
      2. (ロ) 神社の建物。
        1. [初出の実例]「等由気太神宮院事今称度会宮。在度会郡沼木郷山田原村。合陸院」(出典:止由気宮儀式帳(804))
      3. (ハ) 高貴な人の邸宅や別荘。
        1. [初出の実例]「古記云。〈略〉謂国司巡部内。郡司待当郡院」(出典:令集解(738)戸)
        2. 「かのありし院にこの鳥のなきしを」(出典:源氏物語(1001‐14頃)夕顔)
      4. (ニ) 上皇、法皇、女院の御所。
        1. [初出の実例]「うせ給ひて後、かの院を見るにいとあはれなり」(出典:大和物語(947‐957頃)七二)
      5. (ホ) 学校や役所など、大きな建築物で、人の多く集まる所。また、その名称の下につける。
        1. [初出の実例]「かくて、勧学院のにしざうしに、〈略〉院のうちわらひさわぎて」(出典:宇津保物語(970‐999頃)祭の使)
    2. 上皇、法皇の尊称。上皇、法皇が同時に二人以上のときは、第一の上皇を一院または本院、次を中院、譲位したばかりの上皇を新院と称した。
      1. [初出の実例]「躬恒が院によみてたてまつりける」(出典:大和物語(947‐957頃)三三)
    3. 女院のこと。天皇后妃や皇女のうち、院号定をうけた者。
      1. [初出の実例]「歌などのをかしからむは、わが院よりほかに誰か見しり給ふ人のあらむ。世にをかしき人の生ひいでば、わが院こそ御覧じ知るべけれ」(出典:紫式部日記(1010頃か)寛弘六年正月三日)
    4. 大寺の境内にあって、その支配下に属する寺で、その大寺の寺務をつかさどる僧侶たちの居住する場所。
      1. [初出の実例]「堂を光堂と号し、院を光明院と号す」(出典:読本・椿説弓張月(1807‐11)拾遺)
    5. ( 古代の地方の田租を納めておくための倉院から転じて ) 中世、荘園制下に、郡、郷、庄などとともに成立した一種の私領地。特に、日向、大隅、薩摩地方に多い。「伊集(いじゅう)院」「入来(いりき)院」「山門(やまと)院」など。
    6. 弓術で、的の黒い輪。外部の黒い部分を外院、中の黒い部分を中院、内部の黒い部分を内院という。その的中した場所によって、射手の祿がきめられた。〔続日本紀‐慶雲三年(706)正月壬辰〕〔唐六典‐巻五〕
  2. [ 2 ] 〘 接尾語 〙
    1. 天皇、上皇、法皇、女院の諡号(しごう)に付ける語。
      1. [初出の実例]「嘉承二年〈略〉七月十九日〈略〉崩於堀川院。〈略〉同廿四日、追号堀河院」(出典:皇年代略記‐堀河院)
    2. 中世以降、将軍など身分のある者の戒名に付ける語。近代以後は庶民にも普及した。
      1. [初出の実例]「台徳院殿御諱は秀忠」(出典:徳川実紀‐慶長一〇年(1605)四月)
    3. 多く国家の施設、機関の名に付ける語。「人事院」「衆議院」「参議院」「学士院」「日本芸術院」など。また、習慣的に「大学院」「美容院」「養老院」など、さまざまに用いる。

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普及版 字通 「院」の読み・字形・画数・意味


常用漢字 10画

(異体字)
12画

[字音] イン(ヰン)・カン(クヮン)
[字訓] おくごてん・かき・その・かたい

[説文解字]

[字形] 形声
声符は完(かん)。〔説文〕七下を正字とし、「垣なり」という。また或る体として院を加える。両字はのち、その慣用の異なる字となった。

[訓義]
1. かきのあるたてもの、のち学校・工・仏寺・道観・妓楼・劇場の名とする。
2. 宮掖、おくごてん。
3. かき、その建物に附属する庭、園。
4. かたい。

[古辞書の訓]
名義抄〕院 カキ・ツカサ・ヤク・オツ・カタシ

[語系]
院はもと完声であるが、のち垣(えん)の音でよまれた。完huan、院・垣hiuan、huanはそれぞれの声が近い。

[熟語]
院宇・院画・院君・院公・院号・院子院使・院試・院主・院牆・院体・院台院批・院本・院落
[下接語]
医院・学院・諫院・棊院・妓院・議院・後院・斎院・産院・寺院・春院・書院・小院・深院・僧院・竹院・庭院・道院・尼院・病院・分院・別院・本院・薬院・幽院

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改訂新版 世界大百科事典 「院」の意味・わかりやすい解説

院 (いん)

太上天皇上皇)の別称。元来一区画をなす建物をいい,とくに朝堂院,穀倉院勧学院などのように,宮殿,官舎,倉庫,学校,寺院などの名称につけられたが,平安時代中ごろから単に〈院〉といえば上皇の御所をさす用語となり,転じて上皇の別称ともなった。上皇が複数のときは,退位の先後により本院(一院),中院,新院などと区別した。また倉院の名称がその所在地の地名となり,さらに人名化した例が九州南部地方に多く見られる(伊集院入来院など)。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「院」の意味・わかりやすい解説


いん

元来,垣などで囲まれた家屋,特に内裏の朝堂院,倉庫の正倉院,興福寺の大乗院,藤原氏一族の大学別曹の勧学院のように宮殿,役所,寺,学校などの家屋をさした。しかし古代の倉庫に与えられた院号が地名に転化した鹿児島県の伊集院,入来 (いりき) 院の例もある。また平安時代には,皇后,中宮,女御,皇女などの尊称として大内裏の門の名前から取った女院号が用いられた。たとえば上東門院藤原彰子,建礼門院平徳子などがそれである。院政の時代になると上皇,法皇の居住場所にも使われ,転じて上皇,法皇をもさすようになった。白河院,後白河院などで,一時に2人以上の上皇が存在した場合は,第1の上皇を一院または本院,次を中院,新しい上皇を新院といって区別した。院号の起源は,嵯峨天皇が譲位して嵯峨院に遷居したことに始る。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「院」の意味・わかりやすい解説


いん

上皇の居所の称。転じて上皇をさす呼称となった。家屋に巡らした垣の意味から、一区画をなす建物を意味し、たとえば豊楽(ぶらく)院、正倉院などのように、宮殿、倉庫、学校、寺院などの名称につけられたが、平安時代中ごろから、ただ「院」といえば上皇の居所をいい、さらに上皇の称ともなった。「院のうへ」「院御方」「院のみかど」など類似の呼称もある。上皇が同時に2人以上在世した場合には、退位の前後によって、一院(または本院)、中院、新院とよんで区別し、また上皇を神仙になぞらえて仙院ともいった。なお、倉院の名称がその所在地の地名となり、さらに人名に転じたものもある。伊集院(いじゅういん)、入来院(いりきいん)など九州地方に多くみられる。

橋本義彦

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百科事典マイペディア 「院」の意味・わかりやすい解説

院【いん】

太上天皇(上皇)の別称。元来は一区画を占める建物の称であるが,平安中期から上皇の御所,さらに上皇の称となる。本院(一院)・中院・新院は上皇が複数の時の退位の順による区別。九州南部には開発の拠点とされた倉院の名称が所領名(地名)になった例が多い。→入来院
→関連項目近木荘

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「院」の解説


いん

原意は倉庫のような建物のことだが,譲位した天皇の居住地をさすようになり,転じて譲位した天皇そのものをさす語となった。複数の上皇が同時に存在する場合,本院(ほんいん)・中院・新院などとそれぞれを区別してよぶ。皇后・中宮(ちゅうぐう)などで女院(にょいん)号の宣下(せんげ)をうけた者も院とよばれ,さらに平安時代以降は在位中の天皇も院号でよばれるようになった。



いん

平安後期に形成された国衙(こくが)領の所領単位の一つ。律令制下において諸郷に設置された郡衙の収納施設(正倉)を基礎として,従来の郡郷を再編したものと考えられる。薩摩・大隅・日向の南九州諸国の事例が著名だが,能登・紀伊などの国にもみられる。

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旺文社日本史事典 三訂版 「院」の解説


いん

上皇・法皇・女院の別称
元来は,廊や築地 (ついじ) 塀等をめぐらした建物。上皇・法皇・女院の居所からその人の尊称となった。平安中期以降の天皇を後に院といったこともある。

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【寺院】より

…精舎(しようじや),僧伽藍(そうぎやらん)(伽藍(がらん)),仏刹(ぶつさつ),寺(てら)などとも呼ばれ,仏舎利をまつる塔,仏像や諸尊像をまつり仏事供養を行う諸堂,僧侶の修行のための諸施設,布教のための諸施設などを含む。
[インド]
 仏教寺院は,釈迦が比丘(びく)たちの修行のため,雨季に一定の土地を画して(結界)止住させた(安居(あんご))ことに始まる。この止住地をビハーラといい精舎と訳す。…

【寺院建築】より

…塔殿と僧房その他を有する建築群に官衙(かんが)や宮宅の形が応用されて,官庁の意である寺という呼び方が使われ,外来宗教(今日ではキリスト教を除く)の施設が寺と呼ばれた。院は障壁で包まれた一部の意で,寺の一部分を指したものである。迦葉摩騰(かしようまとう)が白馬に経典を積んで来って初めて漢に仏典をもたらし,外客接待施設の鴻臚寺に入り,後に仏寺を建立して白馬寺と呼ばれたという説話がある。…

【上皇】より

…大宝令制定以後は,譲位した天皇は自動的に太上天皇と称され,持統より平城まで7人の上皇が出現したが,823年(弘仁14)嵯峨天皇が譲位に当たり太上天皇の尊号を辞退したため,淳和天皇が詔して尊号をたてまつり,以後これが常例となり,譲位後数日ないし十数日の間に新帝から尊号をたてまつる詔を発する儀制が成立し,嵯峨より江戸末期の光格まで,北朝の上皇を含めて53人の上皇が尊号をうけた。そのほか,皇位につかずして太上天皇の尊号をうけた例に,後堀河天皇の父守貞親王(後高倉院)と後花園天皇の父貞成親王(後崇光院)があり,没後に尊号を追贈された例に,後陽成天皇の父誠仁親王(陽光院)と光格天皇の父典仁親王(慶光天皇)がある。太上天皇の異称には,上記の略称のほか,〈おりゐのみかど〉〈もとのうへ〉〈むなしきふね〉などの和風のものもあり,みな譲位の意による称で,〈むなしきふね〉は中国に出典のある〈虚舟〉の和訓である。…

【塔頭】より

…禅宗寺院の子院で塔中とも書く。高僧の住房や庵居から発展し,その墓(塔)を守って弟子が相伝した。…

【禰寝院】より

…大隅国大隅郡から分出した古代・中世の行政所領単位。一般に院とは,平安時代に一国内未開地の開発がすすみ,既成の郡から事実上独立して国衙に直属する公領行政単位が形成されたさい,開発拠点の官衙(院)が行政単位名に転化したものと理解されている。禰寝院もすでに《和名抄》に郷名として現れ,本来の大隅郡の南端すなわち大隅半島最南端辺境に位置しているので,同様の経路で成立したものと考えられている。…

※「院」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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