〘他サ五(四)〙
① 空をとぶようにする。空を翔(かけ)らせる。また、空中にとんで見えなくなる。
※
古本説話集(1130頃か)六五「鉢をとばし、さて居ながら、よろづのありがたき事をしさぶらふなれ」
② 魂などを空にとび去らせる。死なせる。
※
万葉(8C後)五・九〇四「手に持てる 吾
(あ)が児登婆之
(トバシ)つ 世間の道」
③ 空中にはねあげる。ひるがえす。
※続日本後紀‐嘉祥二年(849)三月庚辰「如二八百里一、磐根を、毗礼衣、裾垂飛波志(とハシ)、払人、不レ払成て」
④ 空中にちらす。散乱させる。
※大唐三蔵玄奘法師表啓平安初期点(850頃)「紫膏を貝闕に浮(うか)べ、白雲を玉検に霏(トハセ)り」
⑤ 射る。放つ。発する。
※十訓抄(1252)六「責よせ、箭をとばす事雨の如し」
⑥ とぶように速く進ませる。馬・車などを急いで走らせる。
※今昔(1120頃か)二八「亦返さの車飛ばし騒むに」
⑦ すみやかに伝える。あまねく広める。くばる。「檄をとばす」
※中右記‐嘉保二年(1095)五月七日「又以消息、
帥大納言、〈略〉江中納言、可
レ被
レ来之由、可告示者、則如仰飛書状了、逐電退出」
⑧ 人を遠方の勤務地などに移す。また、
下位に移す。左遷する。
※笹まくら(1966)〈丸谷才一〉六「誰か(たとえば西)をあの附属高校に飛ばすという話を」
※
我等の
一団と彼(1912)〈石川啄木〉五「要らないところはぐんぐん飛ばして行くしね」
⑩ 勢いよく言葉を発する。また、遠慮なくしゃべる。
⑪ 売りはらう。また、質に入れる。
※
浄瑠璃・吉野都女楠(1710頃か)二「阿彌陀仏迄質屋へとばし」
※評判記・もえくゐ(1677)「女のこころににくいおんさんと思はば、せんりの
ほかまでも、
ひんととばされぬべし」
※相撲講話(1919)〈日本青年教育会〉駒ケ嶽の
凋落と太刀山の独舞台「鳳は十八番
(おはこ)のケンケン、足を飛
(ト)ばし小手を振って引倒さうとする」
⑭ (動詞に付いて) その動作の勢いがはげしいことを表わす。「笑いとばす」「叱りとばす」
[補注]江戸時代には、終止・連体形が「とばする」の形をとることがある。