影・景(読み)かげ

精選版 日本国語大辞典 「影・景」の意味・読み・例文・類語

かげ【影・景】

〘名〙 (「かげ(陰)」と同語源)
[一] 日、月、星や、ともし火、電灯などの光。
万葉(8C後)二〇・四四六九「渡る日の加気(カゲ)に競(きほ)ひて尋ねてな清きその道またも遇はむため」
日葡辞書(1603‐04)「Cague(カゲ)。〈訳〉太陽、月などの光」
※魔風恋風(1903)〈小杉天外〉後「街燈の光(カゲ)を透して近付く人影を視詰めた」
[二] 光を反射したことによって見える物体の姿。
① 目に映ずる実際の物の姿や形。
※万葉(8C後)一九・四一八一「さ夜ふけて暁月(あかときづき)に影見えて鳴くほととぎす聞けばなつかし」
太平記(14C後)二「互に隔たる御影(カケ)の、隠るるまでに顧て、泣々東西へ別させ給ふ、御心の中こそ悲しけれ」
② 鏡や水の面などに物の形や色が映って見えるもの。
※万葉(8C後)二〇・四五一二「池水に可気(カゲ)さへ見えて咲きにほふ馬酔木(あしび)の花を袖に扱入(こきれ)な」
③ 心に思い浮かべた、目の前にいない人の姿。おもかげ
※万葉(8C後)二・一四九「人はよし思ひやむとも玉かづら影(かげ)に見えつつ忘らえぬかも」
源氏(1001‐14頃)桐壺「母みやす所も、かげだにおぼえ給はぬを、いとよう似給へりと、内侍のすけの聞えけるを」
[三] 光を吸収したことによってうつし出される物体の輪郭。また、実体のうつしとりと見なされるもの。
① 物体が光をさえぎった結果、光と反対側にできる、その物体の黒い形。投影影法師
※万葉(8C後)二・一二五「橘の蔭ふむ道の八ちまたに物をそ思ふ妹にあはずして」
ストマイつんぼ(1956)〈大原富枝〉「レントゲン写真にかげが映ったために」
② いつも付き添っていて離れないもの。
古今(905‐914)恋三・六一九「よるべなみ身をこそ遠くへだてつれ心は君が影となりにき〈よみ人しらず〉」
和歌連歌、能などで作品の持つ含蓄、奥深さなどをいう。
※正徹物語(1448‐50頃)下「作者の哥は詞の外に、かげがそひて何となく打ち詠ずるに哀れに覚ゆる也」
④ やせ細った姿。やつれた姿。朝蔭(あさかげ)。→影のごとく
※新撰万葉(893‐913)下「こひすれば我が身ぞ影となりにけるさりとて人にそはぬものゆへ」
⑤ 実体がなくて薄くぼんやりと見えるもの。→影のごとく
※竹取(9C末‐10C初)「御門『などかさあらん。猶ゐておはしまさなん』とて、御こしを寄せ給ふに、このかぐや姫、きとかげになりぬ」
死者の霊。魂。
※源氏(1001‐14頃)宿木「亡き御かげどもも、我をばいかにこよなきあはつけさと見給らんとはつかしく」
⑦ 実物によく似せて作ったり描いたりしたもの。模造品。肖像画。
※中華若木詩抄(1520頃)下「わかき時に坐禅する処を影に写してをいたぞ」
浄瑠璃・唐船噺今国性爺(1722)中「惣じて劔をうつには、先(まづ)かげと申して、焼刃、寸尺微塵も違はず打ち立つる」
⑧ ある心理状態や内面の様子などが、表にちらとあらわれたもの。
※地平線上の幻想曲(1948)〈佐々木基一〉「タイム短縮のために性急な焦燥の影などみじんもなく」
⑨ 空想などによって心に思い描く、実体のないもの。
※浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉三「そのころの幸福は現在の幸福ではなくて、未来の幸福の影を楽しむ幸福で」
⑩ 以前に経験したことの影響として見えたり感じたりするもの。
※太郎坊(1900)〈幸田露伴〉「ただ往昔(むかし)の感情(おもひ)を遺した余影(カゲ)が太郎坊の湛へる酒の上に時々浮ぶといふばかりだ」
[四] 特殊な対象に限った用法。
① (謡曲「松風」の「月はひとつ影はふたつみつ潮の」という詞章による) 江戸時代、大坂新町の遊女の階級の一つで、揚げ代二匁の下級の女郎。
※浮世草子・好色万金丹(1694)五「難波にては、端(はし)の女郎も汐・影(カゲ)・月などやさしくいふに」
※雑俳・高天鶯(1696)「雛形造る影のまじなひ」

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