入・容・納(読み)いれる

精選版 日本国語大辞典 「入・容・納」の意味・読み・例文・類語

い・れる【入・容・納】

〘他ラ下一〙 い・る 〘他ラ下二〙
① 外部から、ある場所、環境などに移す。
(イ) 外から、ある物の中、場所の内などへ移す。はいらせる。また、移して中に置く。
万葉(8C後)一五・三六二七「わたつみの 手纏(たまき)の玉を 家づとに 妹にやらむと 拾(ひり)ひ取り 袖には伊礼(イレ)て 帰しやる 使無ければ」
茶話(1915‐30)〈薄田泣菫〉それ猫が「風を納(イ)れようと思って、団扇(うちわ)を片手に」
(ロ) 見える所から、物陰に引っ込ませる。
古今(905‐914)雑上・八八四「あかなくにまだきも月のかくるるか山のはにげていれずもあらなん〈在原業平〉」
(ハ) 特定の環境の中に移す。
※風流仏(1889)〈幸田露伴〉八「行末は似つかはしい御縁を求めて何れかの貴族の若君(わかぎみ)を納れらるる御積り
② ある限られた範囲内に取り込む。
(イ) 仲間に加える。含める。また、書物などに載せる。
※古今(905‐914)仮名序「いま、この事をいふに、つかさくらゐ、高き人をば、たやすきやうなればいれず」
平家(13C前)一「此歌は金葉集にぞ入(いれ)られける」
(ロ) 心、目、耳などの知覚に取り入れる。また、知覚できる範囲内に置く。
※枕(10C終)八七「かう心にいれて思ひたることをたがへたれば罪得(う)らん」
椀久物語(1899)〈幸田露伴〉五「御聞きに入れたいことも万とござるが」
③ (心や力などを)その方へ注ぎ込む。集中する。こめる。
※古今(905‐914)仮名序「力をもいれずして、あめつちを動かし」
④ 外部からある作用を加える。
(イ) あるものに、別のものを加えてなおしたり変えたりする。
落窪(10C後)四「こまかにと口入(いれ)給へ。爰にて事はじめたる事なれば、おろかならん、いとほし」
※門(1910)〈夏目漱石〉一四「それを読み直したり、手を入れたりした事は滅多になかった」
(ロ) (ある作用を加えて)筋、線、裂けめ、くぼみなどをつける。
※大鏡(12C前)三「骨にまきゑをし、あるは金、銀、沈(ぢん)紫檀の骨になん筋をいれ、ほり物をし」
(ハ) (ある作用を加えて)そのものが活動を開始するようにする。「スイッチを入れる」
※青草(1914)〈近松秋江〉六「ついこの間まで炬燵を入れて寝てゐたのに」
⑤ ある時間の経過の中にさしはさむ。時間をとる。「一服入れる」
咄本・軽口露がはなし(1691)三「よも山の物語にとりまぎれ、しばらく隙(ひま)を入(いれ)ける所へ客来(きたり)
⑥ (腹に入れる意から) 食べる。また、人形浄瑠璃社会で、酒を飲む意にいう。
※浄瑠璃・蘆屋道満大内鑑(1734)一「けふはびっくりの仕つづけ、それゆへか腹もがっくり、年寄紙袋は入れにゃたてらぬ。内へいんで入れませふ」
⑦ (物や金銭、情報などを)受取り手に渡す。納める。また、(資金などを)つぎ込む。
人情本・英対暖語(1838)五「私の持て居たものを、宗さんに入(イレ)てくらして居るのに」
俳諧師(1908)〈高浜虚子〉五七「和服ではもう入質(イレ)る物が無いのですって」
⑧ (広い空間があったり、設備を整えたりして)人や物がその中に納まるようにする。収容する。
※徒然草(1331頃)二三五「虚空よく物をいる」
⑨ (相手の言い分や行動を)よいと認める。容認する。聞き入れる。
※近世紀聞(1875‐81)〈条野有人〉初「凡(およそ)(この)五罪神人共に容(イ)れず臣等一死天に代りて之を誅せり」
⑩ 選挙、採決、売買、請負などで、定めに従って紙に書いて差し出す。投票、入札する。
※太政官(1915)〈上司小剣〉五「百五十両下では落札(おち)んで、官も商売上手やが、損知ってて高う入れる忠義もんが何んであないに多いやろ」
⑪ 謡曲や義太夫節で、高い音階へ突くように、声を張り上げる。〔申楽談儀(1430)〕
⑫ (「淹」とも書く) (茶などに湯を注いで)飲めるように整える。
※人情本・閑情末摘花(1839‐41)一「誰ぞに煑花(にばな)を一つ入(イレ)させて呉(くん)なな」
⑬ (自動詞的に用いて) 光が差し込む。
※雁(1911‐13)〈森鴎外〉七「どうも暮れてしまひますまでは夕日が入れますので」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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