(読み)ゲキ

デジタル大辞泉 「隙」の意味・読み・例文・類語

げき【隙】

物と物との間のすきま。間隙
仲たがいをすること。不和。「を生ずる」
つけ入る機会。すき。
「軍国多事の―に乗じて此事をなす」〈木下尚江火の柱
[類語]わだかまりしこり隔たりギャップ疎隔懸隔不一致ずれ行き違い食い違い相容れない対立もやもや

ひま【隙】

《「ひま」と同語源》
物と物との間の空所。すきま。すき。
「―漏る夜寒の風に」〈木下尚江良人の自白
人と人との間にできた気持ちの隔たり。不和。
「長州の危急に及ぶを傍観なして居たると言うより―を生ぜし事なれば」〈染崎延房・近世紀聞〉
手抜かり。油断。すき。
「いささかの―なく用意したりと思ふが」〈・七五〉
[類語]あわいはざま合間あいますきま間隙かんげき

げき【隙】[漢字項目]

常用漢字] [音]ゲキ(慣) [訓]すき ひま
物のすきま。「間隙空隙
あいた時間。「寸隙

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精選版 日本国語大辞典 「隙」の意味・読み・例文・類語

ひ‐ま【隙・暇・閑】

  1. [ 1 ] 〘 名詞 〙
    1. [ 一 ] 空間的なすきま。間隙(かんげき)
      1. 物の割れたり、裂けたりした箇所にできた空間。また、事柄のゆるみや欠如など。
        1. [初出の実例]「白衣の家の内に在りて、嚮の孔(ヒマ)の中より看る」(出典:斯道文庫本願経四分律平安初期点(810頃))
      2. 合わせたり、並べたりした物と物との間にできたすきま。すきま。また、密集した中にできた空所。あき地。余地。
        1. [初出の実例]「吹く風にわか身をなさば玉すだれひまもとめつついるべきものを」(出典:伊勢物語(10C前)六四)
        2. 「女房のひまなくさぶらふを」(出典:枕草子(10C終)一二九)
      3. 官職のあき。空位。闕官。
        1. [初出の実例]「ひまなくて大将にえなり給はざりしぞ口をしかりしや」(出典:岩瀬本大鏡(12C前)三)
      4. 人と人との交わりに生じたすきま。仲たがいによってできたへだて。不仲。不和。
        1. [初出の実例]「是に由りて韓子宿禰と大磐宿禰と隙(ひま)有り」(出典:日本書紀(720)雄略九年五月(前田本訓))
    2. [ 二 ] 継続する動作、状態の絶え間。事のとぎれた時間、または状態。
      1. 連続して行なわれる動作のあいま。間断。
        1. [初出の実例]「ひまなき御前渡りに、人の御心を尽し給ふも」(出典:源氏物語(1001‐14頃)桐壺)
      2. 仕事のあいま、手すきの時間。閑暇。また、生活に追われないゆとりやのどかさをいう。
        1. [初出の実例]「孔子のひまあって吾所にしづかにしていられたぞ」(出典:玉塵抄(1563)二四)
      3. 心のすき。また、それから生ずる態度、体勢のすき。配慮、注意、警戒などの心が行き届かなかったり、ゆるんだりしたためにできるすき。
        1. [初出の実例]「王の閑(ヒマ)を候うて従容に言て曰く」(出典:大唐西域記長寛元年点(1163)三)
      4. 継続している状態が中断したり、勢いが衰えたりした間、また、その状態。雨の降りやんだ間、病が小康を保っている間など。
        1. [初出の実例]「かまど山雪はひまなくふりしけど火のけをちかみたまらざりけり」(出典:曾丹集(11C初か))
      5. 事を行なう時期。行動をするのに都合のよい時。機会。
        1. [初出の実例]「これ、よきひまなれば奉りてん」(出典:宇津保物語(970‐999頃)国譲上)
      6. 勤務、奉公を休む間。休暇。特に雇われている者の場合にいう。また、一時婚家を去って里帰りをすることにもいう。
        1. [初出の実例]「三日のひまのほしさよな、よき御きげんを、まもりてに、ひま、こはばやと、おぼしめし」(出典:説経節・をくり(御物絵巻)(17C中)一二)
      7. ( から転じて ) 雇用主従、夫婦、養子などの関係を絶って、勤めをやめ、また里に帰ること。長のいとま。
        1. [初出の実例]「あねごさまとそれがしに、ひまをたまはり候へや」(出典:説経節・説経苅萱(1631)中)
      8. 限られた時間。わずかな時間。転じて、事をなすための時間。「手まひまをかける」
        1. [初出の実例]「羊一疋我とともに乗りて渡る。残りの羊、数多ければ、そのひまいくばくの費へぞや」(出典:仮名草子・伊曾保物語(1639頃)中)
  2. [ 2 ] 〘 形容動詞ナリ活用 〙 やるべきことがなくて余裕のあるさま。格別の行為や仕事がなくて漫然としているさま。
    1. [初出の実例]「ヒマナ のどけき いとまある」(出典:詞葉新雅(1792))
    2. 「ありとある雑言を唄って彼等の閑(ヒマ)な時間をつぶさうとする」(出典:道程(1914)〈高村光太郎〉或る宵)

隙の語誌

( 1 )ひび(皹)」と同根の「ひ」と、「はざま」「まほらま」などに見られる、場所を表わす接尾辞「ま(間)」から成る語。なお、「日本書紀」の古訓には「間」を「ひ」と訓んだものがあり、「ひのあし隙駟)」などとも合わせ、古形「ひ」が存在したと考えられる。
( 2 )語構成から、空間的な意味が原義となる。しかし、[ 一 ]のように空間的な意味でも、[ 一 ]のように人間関係のすきまでも、[ 二 ]のように時間的な意味でも使われていることからも、平安時代では用法が拡大していたことがうかがわれる。中世以降は、主として時間的意味に用いられるようになり、空間的意味はしだいに衰退していった。


げき【隙】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 物と物との間のすきま。間隙。空隙。〔荀子‐礼論〕
  3. 仲たがいをすること。不和。
    1. [初出の実例]「高野天皇与帝有隙。於是、車駕還平城宮」(出典:続日本紀‐天平宝字六年(762)五月辛丑)
    2. [その他の文献]〔戦国策‐燕策〕
  4. 乗じる機会。ちょうどいい機会。好機。
    1. [初出の実例]「軍国多事の隙(ゲキ)に乗じて此事をなす先づ売国の奸賊を誅して」(出典:火の柱(1904)〈木下尚江〉一八)

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普及版 字通 「隙」の読み・字形・画数・意味


常用漢字 13画

(異体字)
14画

[字音] ゲキ・ケキ
[字訓] ひま・すき

[説文解字]

[字形] 会意
(ふ)+(げき)。は神の陟降する神梯。は玉光が上下に放射する形。神の降下するところに玉をおいて、神霊の示現することを示す。〔説文〕十四下に「壁際(へきさい)の孔なり」とするのは、七下を「際見(さいけん)の白なり」とする義と対応するものであるが、隙はもと壁孔をいうような字ではない。際が神霊を祭る神人の境を示す字であるように、隙も神霊の示現するところ、神人の間をいう。その玉光が他に及ぶことから、間隙の意となる。

[訓義]
1. 玉光のもれる意。ひま、すき。
2. 間隙、あいだ、すきま、われめ、きず。
3. 欠落したところ、不和、あらそい、なかたがい。
4. 他と接するさかい、つづく。
5. ・郤と通じる。

[古辞書の訓]
名義抄〕隙 ヒマ・ムクユ・タマノキズ・スクナシ 〔字鏡集〕隙 タマノキズ・スクナシ・アヒダ・アタヲロカナリ・シヅカ・ツラヌ・ウガツ・ムクユ・ヒマ

[語系]
隙・khyak、(間)keanは声義近く、は〔説文〕十二上に「隙なり」という。金文の字形は門と(肉)とに従い、門に肉を供えて祭る儀礼をいう。隙はその字形においては際と、また字の声義においてはと、連なるところのある字である。

[熟語]
隙宇・隙屋・隙罅隙壊・隙間隙駒・隙欠・隙穴・隙孔・隙駟隙積・隙地隙蠹・隙末
[下接語]
怨隙・過隙・罅隙・間隙・竅隙・隙・駒隙・空隙・隅隙・穴隙・決隙・寸隙・繊隙・争隙・内隙・農隙・辺隙・余隙

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