掛ける(読み)カケル

デジタル大辞泉 「掛ける」の意味・読み・例文・類語

か・ける【掛ける/懸ける】

[動カ下一][文]か・く[カ下二]

㋐高い所からぶらさげる。上から下にさげる。垂らす。「すだれを―・ける」「バッグを肩に―・ける」
㋑目につくように高い所に掲げる。「看板を―・ける」「獄門に―・ける」
㋒高く上げて張る。「帆を―・ける」

㋐火に当てるために鍋などをつるしさげる。また、火の上にのせ置く。「ストーブやかんを―・ける」
㋑《竿秤さおばかりかぎにつるして重さをはかるところから》目方を量る。「はかりに―・ける」
物を一方から他方へ渡す。
㋐(「架ける」とも書く)またぐように渡す。かけわたす。「歩道橋を―・ける」
㋑細長いものを他の物のまわりに渡す。巻きつけて結ぶ。「たすきを―・ける」「リボンを―・けた箱」
㋒張り巡らすようにして組み、つくる。一時的に設営する。「クモが巣を―・ける」「小屋を―・ける」
㋓《仮小屋を作って行ったところから》芝居・見世物などを興行する。上演する。「母物を舞台に―・ける」

㋐他の物の上にかぶせるようにして物をのせ置く。全体におおう。「布団を―・ける」「テーブルクロスを―・ける」
㋑水や粉などを、物の上に注いだり物に打ち当たるようにしたりする。「こしょうを―・ける」「ホースで水を―・ける」
㋒建物などに火をつける。燃やす。「やかたに火を―・ける」
㋓矢を放つ。「敵陣に矢を―・ける」
曲がった物など、ある仕掛けで他の物を捕らえる。ひっかけて留める。「針に―・けて釣り上げる」「ボタンを―・ける」
たくらんで陥れる。はかりごとを用いてだます。「わなに―・ける」「ぺてんに―・ける」

㋐自分で直接そのことをする。自分でそのことを扱う。「今まで手に―・けた仕事の数々」「手塩に―・けて育てる」
㋑(多く「手にかける」「人手にかける」の形で)みずから実行して始末する。殺す。「わが子を手に―・けてしまった」
目や耳などの感覚や心の働きにとめる。
㋐(多く「目にかける」「目をかける」の形で)目に触れさせる。目にとめる。見せる。また、面倒を見る。人の世話をする。「作品をお目に―・ける」「今後とも目を―・けてやってください」
㋑(「耳にかける」の形で)聞く。「いくら懇願しても耳に―・けてもくれない」
㋒(「心にかける」などの形で)心にとめておく。心配する。「気に―・ける」
からだのある部分で受けとめる。「教養を鼻に―・ける」「歯牙にも―・けない」
10
㋐ある働き・作用を仕向ける。また、こちらの気持ちなどを相手へ向ける。「催眠術を―・ける」「暗示に―・ける」「なぞを―・ける」「情けを―・ける」
㋑送って相手に届かせる。「電話を―・ける」「言葉を―・ける」
㋒取り付けてある仕掛けを働かせて、本体が動かないように固定する。「かぎを―・ける」
㋓操作を加えて機械・装置などを作動させる。「目覚ましを―・ける」「レコードを―・ける」「ブレーキを―・ける」
㋔道具を用いて他に作用を及ぼす。「アイロンを―・ける」「雑巾を―・けた廊下」
11
㋐望ましくないこと、不都合なことなどを他に与える。こうむらせる。負わせる。「苦労を―・ける」「疑いを―・ける」「迷惑を―・ける」
㋑負担すべきものとして押しつける。課する。「税金を―・ける」
12 時間・費用・労力などをそのために使う。費やす。つぎ込む。「内装に金を―・ける」「手間暇―・けて」
13
㋐(多く「…から…にかけて」の形で)ある地域・時間から他の地域・時間までずっと続く。「ただ今東海地方から関東地方に―・けて地震を感じました」「今夜半から明朝に―・けて断水します」
㋑(多く「…にかけては」の形で)そのことに関する。「外交手腕に―・けては定評がある」
14 力・重みなどを一方に加えのせる。力などを仕向ける。「体重を―・けて浴びせ倒す」「もみけしの圧力を―・ける」
15 手などを他の物に当て添える。あてがう。「引き戸に手を―・ける」
16
㋐物のある部分を他の物の上に置いて支える。「いすにお―・けください」「肩に手を―・ける」
㋑物の上端を他の物に支えさせるようにして立てる。「屋根にはしごを―・ける」
17 それに頼る。ゆだねる。また、頼って処置・世話を受けさせる。「がんを―・ける」「期待を―・ける」「病人を医者に―・ける」
18 議案などを取り上げるために公の場に持ち出す。「公聴会に―・ける」「裁判に―・ける」
19 そこで受け止めて処理する。そこに持ち込んで取り扱う。「ふるいに―・ける」「印刷機に―・ける」「取り立ての野菜を朝市に―・ける」
20
㋐(多く「…にかけて」の形で)きわめて大切なものを証拠としてあげて、あることを約束する。「神に―・けて誓う」「面目に―・けてもあとへ引けない」
㋑保証の契約をして掛け金を払う。「保険を―・ける」
21 二つ以上のものを同時に併せ持つ。兼ねる。「二股ふたまたを―・ける」
22 同音を利用して一つの語句に二つの意味を持たせる。掛け詞にする。「和歌では多く『海松布みるめ』に『見る目』を―・けて用いられる」
23
㋐さらに増し加える。「馬力を―・ける」「磨きを―・ける」
㋑定まった値段にさらに加えのせる。掛け値をする。「原価に五割を―・けた値段で売る」
掛け算をする。「二に三を―・けると六になる」
24 交配をする。「ラバは、雌の馬に雄のロバを―・けてできた雑種である」
25 ものにある性質・傾向を与える。「サーブに回転を―・ける」「シュートを―・けた内角球」
26 芸妓などをよぶ。
「その芸者を―・けろ」〈荷風つゆのあとさき
27 測って比べる。
「筒井つの井筒に―・けしまろがたけ過ぎにけらしないも見ざる間に」〈伊勢・二三〉
28 たとえる。かこつける。
細石さざれいしにたとへ、筑波山に―・けて君を願ひ」〈古今・仮名序〉
29 目標にする。
「眉のごと雲居に見ゆる阿波の山―・けて漕ぐ舟泊り知らずも」〈・九九八〉
30 船を停泊させる。係留する。
「港ニ船ヲ―・クル」〈日葡
31 掛け売りにする。
「―・くるとは二文や五文のこと候ふよ」〈咄・醒睡笑・四〉
32 他の動詞の連用形のあとに付いて用いる。
㋐…しはじめる、途中まで…する、今にも…しそうになるの意を表す。「言い―・けてやめる」「死に―・ける」
㋑他へ働きを仕向ける意を表す。「仲間に呼び―・ける」「押し―・ける」
[下接句]後足で砂をかける命を懸ける腕にりを掛ける御土砂おどしゃを掛ける御目おめに掛ける思いを掛けるかまを掛ける・口に掛ける・口を掛ける口のに掛ける財布のひもくびに懸けるよりは心に懸けよ歯牙しがにもかけないしりに帆を掛ける後目しりめに懸ける之繞しんにゅうを掛ける手に掛ける手を掛ける手塩に掛ける天秤てんびんに掛けるなぞを掛ける縄を掛けるはかりに掛ける拍車を掛ける橋を掛ける発破を掛ける鼻に掛ける馬力を掛けるふるいに掛けるまたに掛ける磨きを掛ける水を掛ける目に掛ける目を掛けるモーションを掛ける山を掛ける輪に輪を掛ける輪を掛ける
[類語](4㋐)被せるおっかぶせる包む覆うくるむくるめる覆いかぶせる被覆する包装するパックする/(16㋐)座る着く腰掛ける腰を下ろす座する跪く着座する着席する安座する正座する端座する静座する黙座する

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精選版 日本国語大辞典 「掛ける」の意味・読み・例文・類語

か・ける【掛・懸・賭・架】

  1. 〘 他動詞 カ行下一段活用 〙
    [ 文語形 ]か・く 〘 他動詞 カ行下二段活用 〙
  2. [ 一 ] ある場所、ある物、人などに付けて事物や人をささえとめる。また、あるものにかぶせたり、もう一つのものを加えたりする。
    1. ある所に物の一部をつけてぶら下げる。つりさげる。ひっかける。
      1. [初出の実例]「斎杙(いくひ)には 鏡を加気(カケ) 真杙(まくひ)には 真玉を加気(カケ)」(出典:古事記(712)下・歌謡)
      2. 「近眼の所為(せゐ)か眼鏡を掛(カ)けて」(出典:永日小品(1909)〈夏目漱石〉クレイグ先生)
    2. 物の表面に覆いかぶせる。また、(自動詞のように用いて)霞や霧がかかる。
      1. [初出の実例]「わけゆかむ草はの露をかごとにてなほぬれぎぬをかけむとや思ふ」(出典:源氏物語(1001‐14頃)夕霧)
      2. 「葉山は火燵蒲団を剥いで、柳之助に被(カ)けて」(出典:多情多恨(1896)〈尾崎紅葉〉前)
    3. からだや物の端の部分を他の物の上にのせたり、側面にもたれさせたりする。手の場合は、つかむように触れることにもいう。
      1. [初出の実例]「すだれに手をかくれば」(出典:蜻蛉日記(974頃)下)
      2. 「廊のすのこだつものに尻かけて」(出典:源氏物語(1001‐14頃)帚木)
    4. 馬や牛を、車につなぐ。
      1. [初出の実例]「車かきおろして、馬ども浦にひきおろして冷しなどして〈略〉さて車かけて、その崎にさしいたり」(出典:蜻蛉日記(974頃)中)
    5. (いかり)をおろしたり、岸につないだりして船をとめる。
      1. [初出の実例]「ミナトニ フネヲ caquru(カクル)」(出典:日葡辞書(1603‐04))
    6. 開かないように、鍵や錠でとめる。また、取れないように、金具などでとめる。
      1. [初出の実例]「妻戸あららかにかけつる音すれば」(出典:狭衣物語(1069‐77頃か)二)
      2. 「ボタンをかけてなかった外套」(出典:浅草紅団(1929‐30)〈川端康成〉二六)
    7. ( 竿秤(さおばかり)にぶら下げることから ) はかりにのせる。目方をはかる。
      1. [初出の実例]「かけつればちぢのこがねも数知りぬなぞわが恋のあふはかりなき」(出典:古今和歌六帖(976‐987頃)五)
      2. [その他の文献]〔日葡辞書(1603‐04)〕
    8. 高い所につるしたり、とりつけたりする。掲げる。また、掲げて人に見せる。さらす。
      1. [初出の実例]「風はやきに帆かけたる舟」(出典:枕草子(10C終)一六四)
      2. 「主従三人が頸をば、備中国鷺が森にぞかけたりける」(出典:平家物語(13C前)八)
    9. ( 鍋など上からつるしたところから ) 煮たきをするために、火の上に置く。
      1. [初出の実例]「燗をつけるやら、鍋を懸けるやら、瞬く間に酒となった」(出典:浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉三)
    10. ひとりで二つ以上の働きや役目をする。兼ねる。
      1. [初出の実例]「国の守(かみ)、いつきの宮のかみかけたる」(出典:伊勢物語(10C前)六九)
      2. 「フタミチヲ caquru(カクル)〈訳〉ひとりの男がふたりの女と、またはひとりの女がふたりの男とまじわっている」(出典:日葡辞書(1603‐04))
    11. 一つの語句に第二の意味を帯びさせる。掛け詞を用いる。
      1. [初出の実例]「『は』をはじめ、『る』をはてにて、『ながめ』をかけて時の歌よめと人のいひければよみける」(出典:古今和歌集(905‐914)物名・四六八・詞書)
    12. 数量、力、重みなどをあわせ加える。
      1. [初出の実例]「家財かけて三拾壱貫五百目の大臣北浜の根づよい名題男と」(出典:浮世草子・傾城色三味線(1701)大坂)
  3. [ 二 ] ある機能を持つもののはたらきの支配下に置く。そのはたらきの対象にとり入れる。
    1. 心や耳目にとめて関心事とする。
      1. (イ) 単独に用いる。
        1. [初出の実例]「かしこきや 天(あめ)のみかどを 可気(カケ)つれば 哭(ね)のみし泣かゆ 朝よひにして」(出典:万葉集(8C後)二〇・四四八〇)
      2. (ロ) 「心(耳・目)にかく」などの形で用いる。
        1. [初出の実例]「わが聞きに繋(かけて)ないひそかりこもの乱れて思ふ君が直香(ただか)そ」(出典:万葉集(8C後)四・六九七)
        2. 「ヒトヲ シリメニ caquru(カクル)〈訳〉横目で見る」(出典:日葡辞書(1603‐04))
    2. 言葉に出して言う。言葉に表わす。
      1. (イ) 単独に用いる。
        1. [初出の実例]「武蔵嶺の 小峯見かくし 忘れゆく 君が名可気(カケ)て 吾をねし泣くる」(出典:万葉集(8C後)一四・三三六二(或本歌))
      2. (ロ) 「口のはにかく」「言葉にかく」の形で用いる。
        1. [初出の実例]「おのれが上はそこになん、口のはにかけて言はるなる」(出典:後撰和歌集(951‐953頃)雑二・一一七九・詞書)
    3. 関係づけて言う。かこつける。
      1. [初出の実例]「さざれ石にたとへ、筑波山にかけて君をねがひ」(出典:古今和歌集(905‐914)仮名序)
    4. とがった物や、囲み込むような物で捕えて、自由に動けないようにする。特に、獣、鳥、魚などを、わな、網、針などで捕える。
      1. [初出の実例]「之亮、僚属等と皆獄に繋(カケ)られて惶り懼く」(出典:石山寺本金剛般若経集験記平安初期点(850頃))
      2. 「トリヲ caquru(カクル)〈訳〉飛びあがろうとしている鳥の上に網を投げる」(出典:日葡辞書(1603‐04))
    5. ( の比喩的用法 ) 仕組んだ計画にはめこむ。だます。
      1. [初出の実例]「自ら雪めて道理を立つること能はぬをもちて、他を誣(かこ)ち罔(カケ)て言はく」(出典:大乗掌珍論承和嘉祥点(834‐849))
      2. 「忍(しのび)巡査が地方人の風をして甘(うま)っく奴をかけたンです」(出典:内地雑居未来之夢(1886)〈坪内逍遙〉五)
    6. 力を持つもので危害を及ぼす。
      1. (イ) ( 刀、きば、ひづめなどで ) 傷つけたり殺したりする。
        1. [初出の実例]「人手に懸けて御覧候はんより、同じくは御手にかけ参らせて」(出典:保元物語(1220頃か)中)
      2. (ロ) ( 魔法・催眠術などで ) 判断力を奪う。
        1. [初出の実例]「オレはヒメの魔法にかけられてトリコになってしまったように思った」(出典:夜長姫と耳男(1952)〈坂口安吾〉)
    7. 問題になるものとして裁判、会議などに持ち出す。「裁判にかける」
      1. [初出の実例]「クジ サタヲ caquru(カクル)〈訳〉訴えをおこす」(出典:日葡辞書(1603‐04))
      2. 「法律は帝国議会にかけなくてはならなかったが」(出典:憲法講話(1967)〈宮沢俊義〉一)
    8. 材料、素材などを機械、器具などで処理する。
      1. [初出の実例]「それらの切れ屑をすぐにミシンにかけられるやうに裁つこと」(出典:子を貸し屋(1923)〈宇野浩二〉一)
    9. 権威のあるものや、大切なものを約束の保証にする。
      1. [初出の実例]「いつはりをただすの森のゆふだすきかけて誓へよわれを思はば」(出典:平中物語(965頃)三四)
  4. [ 三 ] 生命や財産など大切なものを、相手やなりゆきにまかす。
    1. 神仏や人や物事に、希望、生命などを託する。あてにしてまかせる。
      1. [初出の実例]「渋き菓、苦き菜(くさびら)を採(つ)みて危命を係(カケ)」(出典:東大寺諷誦文平安初期点(830頃))
      2. 「若(もし)生て帰らばと、定なき頼の末をかけ」(出典:俳諧・奥の細道(1693‐94頃)草加)
    2. 医者に診察や治療を頼む。
      1. [初出の実例]「よいよいがかって、一としきりぶらぶらしたのを治さしったって、功者な噂だからかけて見たが」(出典:滑稽本・浮世風呂(1809‐13)二)
    3. 勝負事などで、負けた者が勝った者に金品などを払うことを約束する。また、問題を解いた者、くじに当たった者、勝った者、ある要求をみたした者などに賞を出す。
      1. [初出の実例]「『なにをかくべからん。まさより、むすめ一人かけん。〈略〉』『かねまさは、侍るにしたがひて、なかただをかけ侍らん』など、これかれ子どもをかけ物にて」(出典:宇津保物語(970‐999頃)内侍督)
      2. 「当港同家の支店長しんぷるなる者が賞を懸(カケ)て亢龍を索(もとむ)るの文なり」(出典:露団々(1889)〈幸田露伴〉二〇)
    4. 大切なものを代償にする。
      1. [初出の実例]「をとこの『わすれじ』とよろづのことをかけてちかひけれど」(出典:大和物語(947‐957頃)八四)
      2. 「命をかけて、なにの契りにかかる目を見るらむ」(出典:源氏物語(1001‐14頃)夕顔)
    5. 一定期間の後に代金をもらう約束で、物を売る。〔日葡辞書(1603‐04)〕
    6. 費用、時間、人手などを用いる。
      1. [初出の実例]「カネヲ kakete(カケテ) コシラエタ」(出典:和英語林集成(初版)(1867))
      2. 「何を倹約しても斯娘(これ)には掛けたいと思ひまして」(出典:家(1910‐11)〈島崎藤村〉上)
    7. ある定まった期間ごとに、納める金銭を出す。掛け金を払う。
      1. [初出の実例]「保険満期を十ケ年として満期まで掛続いたものには」(出典:社会百面相(1902)〈内田魯庵〉投機)
  5. [ 四 ] 相手を作用の目標にする。また、その相手に影響力の大きい作用を及ぼす。
    1. あるはたらきかけを相手に向ける。
      1. (イ) 心をそれに向ける。めざす。
        1. [初出の実例]「眉のごと雲居に見ゆる阿波の山懸(かけ)て漕ぐ舟とまり知らずも」(出典:万葉集(8C後)六・九九八)
      2. (ロ) 相手に反応を求めるような作用を及ぼす。しかけを発する。
        1. [初出の実例]「『あやまちすな。心しておりよ』と言葉をかけ侍りしを」(出典:徒然草(1331頃)一〇九)
        2. 「其処へ電話を掛(カ)ければ君の居るか居ないかは、すぐ分るんだね」(出典:行人(1912‐13)〈夏目漱石〉友達)
      3. (ハ) (芸妓を)呼び出す。
        1. [初出の実例]「下女を手招きして次の間に至り、何か私語(ささや)き座に返るは跡の芸妓(げいしゃ)を掛けしと知られたり」(出典:雪中梅(1886)〈末広鉄腸〉下)
    2. ある場所、時期から他の場所、時期にまで及ぼす。また、ある時期の初めに至らせる。
      1. [初出の実例]「梅が枝に来ゐる鶯春かけてなけどもいまだ雪は降りつつ」(出典:古今和歌集(905‐914)春上・五)
      2. 「縦横に本郷から下谷、神田を掛(カ)けて歩いて」(出典:雁(1911‐13)〈森鴎外〉一)
    3. 湯、水などを浴びせる。また、(自動詞のように用いて)雨や波が物の上にかかる。
      1. [初出の実例]「船に浪のかけたるさまなど」(出典:枕草子(10C終)三〇六)
      2. 「なにさまで思ひいでけむなほざりの木の葉にかけし時雨(しぐれ)ばかりを」(出典:更級日記(1059頃))
    4. あるものに支配的な影響を及ぼす。
      1. [初出の実例]「七人の人〈略〉いささかなる法をつくりかけつ」(出典:宇津保物語(970‐999頃)俊蔭)
    5. 情愛、恩恵などを他に及ぼす。また、目下の者に祝儀を与える。
      1. [初出の実例]「我に露あはれをかけば立ちかへり共にを消えようきはなれなん」(出典:落窪物語(10C後)一)
      2. 「余所(よそ)ながら、彼奴めが恵みを懸(カ)けたるに疑ひなし」(出典:人情本・恩愛二葉草(1834)三)
    6. 好ましくないこと、迷惑、苦労、損害などを与える。
      1. [初出の実例]「女郎花みだるる野辺にまじるとも露のあだなをわれにかけめや」(出典:源氏物語(1001‐14頃)蜻蛉)
      2. 「他(ひと)に迷惑をかけながら」(出典:西洋道中膝栗毛(1870‐76)〈仮名垣魯文〉一〇)
    7. 強制力を加える。
      1. [初出の実例]「車に税を掛(カ)けることなどは止めて呉れるだらう」(出典:花間鶯(1887‐88)〈末広鉄腸〉上)
    8. (建物、船、山などに)火をつける。
      1. [初出の実例]「白河の在家に火をかけて焼きあげば」(出典:平家物語(13C前)四)
    9. 機械、道具、薬品などにその機能を発揮させる。
      1. [初出の実例]「イタ ナドニ カンナヲ caquru(カクル)」(出典:日葡辞書(1603‐04))
      2. 「殆んど布巾をかけた事がないのだから」(出典:吾輩は猫である(1905‐06)〈夏目漱石〉一〇)
    10. 掛け算をする。
      1. [初出の実例]「ククヲ caquru(カクル)」(出典:日葡辞書(1603‐04))
    11. 交尾させる。
      1. [初出の実例]「一口に馬って云ふけれど、本当に大抵な物ぢゃありませんやねえ…。一回(ど)交尾(カケ)るに何百円だなんて」(出典:コブシ(1906‐08)〈小杉天外〉前)
    12. ( 多く「…にかけては」「…にかけると」の形で用いる ) 関する。関係のある事柄となる。
      1. [初出の実例]「そこにかけちゃアしらくらなし」(出典:滑稽本・浮世床(1813‐23)初)
      2. 「此点に掛(カ)けると、東京へ帰ってからも、矢張り仕合せとは云へなかった」(出典:門(1910)〈夏目漱石〉一一)
  6. [ 五 ] 造作や設備をある場に作り設ける。
    1. 両端を支えて間に渡す。糸、なわなどを張り渡す。橋、電線などを架設する。
      1. [初出の実例]「あたらしき 猪名部の工匠 柯該(カケ)し墨縄」(出典:日本書紀(720)雄略一三年・歌謡)
      2. 「中々にいひもはなたで信濃なる木曾路の橋のかけたるやなぞ〈源頼光〉」(出典:拾遺和歌集(1005‐07頃か)恋四)
    2. (なわ、紐などを)他の物の回りに巻きつける。
      1. [初出の実例]「白たへの たすきを可気(カケ)」(出典:万葉集(8C後)五・九〇四)
      2. 「申分け仕るか、すぐに縄をかけうか」(出典:浄瑠璃・傾城反魂香(1708頃)上)
    3. ( 「罫(け)かく」の形で ) 碁盤の目や行間の線などを引く。
      1. [初出の実例]「けかけたる金の筋よりも、墨つきの上にかかやくさまなども、いとなむめづらかなりける」(出典:源氏物語(1001‐14頃)鈴虫)
    4. 張りめぐらしたり、組み立てたりして作る。〔日葡辞書(1603‐04)〕
      1. [初出の実例]「二郎は三の木戸に小屋を掛(カ)けさせて」(出典:山椒大夫(1915)〈森鴎外〉)
    5. ( 小屋を組み立てて行なったところから ) 芝居、演芸、見世物などを興行する。また、ある出し物を上演する。
      1. [初出の実例]「まだ寄席の高座へ一度も掛けませんが」(出典:落語・初夢(1892)〈三代目三遊亭円遊〉)
  7. [ 六 ] 他の動詞の連用形に付けて補助動詞的に用いる。
    1. 上の動詞の表わす動作や作用を、ある物に向ける意を表わす。
      1. [初出の実例]「昔、をとこ〈略〉斎宮(いつきのみや)のわらはべにいひかけける」(出典:伊勢物語(10C前)七〇)
    2. 上の動詞の表わす動作や作用を、始めそうになる。また、始めてその途中である意を表わす。
      1. [初出の実例]「しどけなく帯とき掛(カケ)て」(出典:浮世草子好色一代女(1686)三)
      2. 「一番大に弁じてやらうと思って、半分尻をあげかけたら」(出典:坊っちゃん(1906)〈夏目漱石〉六)

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