薬酒(読み)ヤクシュ

デジタル大辞泉 「薬酒」の意味・読み・例文・類語

やく‐しゅ【薬酒】

酒などに漢方薬を溶かし込み、香味をつけたもの。梅酒枸杞くこ酒・人参酒・五加皮ごかひ酒・まむし酒など。薬用酒薬味酒。くすりざけ。
[類語]酒類さけるい酒類しゅるい般若湯アルコール御酒お神酒銘酒美酒原酒地酒忘憂の物醸造酒蒸留酒混成酒合成酒日本酒清酒濁酒どぶろく濁り酒生酒新酒古酒樽酒純米酒灘の生一本本醸造酒吟醸酒大吟醸冷や卸し屠蘇とそ甘露酒卵酒白酒甘酒焼酎泡盛ビール葡萄酒ワインウイスキーブランデーウオツカラムテキーラジン焼酎リキュール果実酒梅酒みりん白酒しろざけ紹興酒ラオチューマオタイチューカクテルサワージントニックジンフィーズカイピリーニャマティーニ

くすり‐ざけ【薬酒】

からだの薬となる酒。薬を入れた酒。薬用酒。

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精選版 日本国語大辞典 「薬酒」の意味・読み・例文・類語

やく‐しゅ【薬酒】

  1. 〘 名詞 〙 薬となる酒。漢方薬などの薬を加えた酒。薬用酒。くすりざけ。
    1. [初出の実例]「心よく薬酒を勧めて深く酔はしめつ」(出典:三国伝記(1407‐46頃か)四)
    2. [その他の文献]〔史記‐倉公伝〕

くすり‐ざけ【薬酒】

  1. 〘 名詞 〙 からだの薬となる酒。薬をまぜた酒。薬用酒。
    1. [初出の実例]「色々の花をつみとってそれで酒を作たぞ。薬り酒にもならうぞ」(出典:玉塵抄(1563)三一)

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改訂新版 世界大百科事典 「薬酒」の意味・わかりやすい解説

薬酒 (やくしゅ)

生薬(しようやく)を原料の一部として醸造し,あるいは生薬を醸造酒または蒸留酒に浸して薬効成分を溶出させてつくった酒。

 中国の漢代ごろの成立と考えられる《神農本草》に薬草を酒に浸すことが記されているとされる。6世紀の《斉民要術》では酒の醪(もろみ)に薬材を入れていっしょに発酵させる〈発酵薬酒〉と,酒のなかに薬材を入れて浸出させる〈浸薬酒〉という,後世中国薬酒の製法の定型が完成している。その後,薬方の発達とともに薬酒の種類も増え,《本草綱目》(1580)には屠蘇(とそ)酒を含め69種にのぼる薬酒が記載されている。なお薬材としては蛇などの動物性生薬,ニンジンなどの植物性生薬のほか,石英や磁石などの鉱物性生薬も使われている。日本には漢方の伝来とともに薬酒も伝えられ,《延喜式》典薬寮の項に元日御薬として屠蘇酒があげられている。焼酎が普及し始めた元禄期(1688-1704)の《本朝食鑑》には16種の薬酒が記載され,そのうち3種が焼酎,11種が清酒を使用した〈浸薬酒〉であり,2種が薬材(桑の根皮,菊花の煮汁)と米こうじをまぜて発酵させた〈発酵薬酒〉である。また砂糖を加え調味した薬酒もあらわれている。現在は生薬成分の浸出に焼酎甲類または醸造用アルコールが多く用いられる。

 薬酒製造に普通用いられている生薬は,補血効果があるといわれる地黄(じおう)・当帰(とうき),利尿作用のある茯苓(ぶくりよう)・益母草(やくもそう),健胃・駆風作用のある丁字(ちようじ),茴香(ういきよう),鎮静・鎮痛作用のある川芎(せんきゆう),腎機能障害によいといわれる白朮(びやくじゆつ),滋養・強壮・強精の効果のある人参(にんじん)・枸杞子(くこし)・甘草(かんぞう)・鹿茸(ろくじよう)・蝮(まむし)・波布(はぶ)などである。

 古来薬酒は世界中でつくられており,日本でも前述のごとくいろいろの種類がつくられてきた。しかし,なんといっても薬酒の盛んなのは中国である。代表的なのは《斉民要術》以来の伝統をもつ五加皮酒(ウーカーピーチユウ)で,五加皮(ウコギの根の皮),陳皮(ちんぴ)(ミカンの皮),当帰,その他十数種の生薬の抽出成分を白酒(蒸留酒)に加え,不老長生の薬効をもつとされる。ほかに著名なものでは,虎骨酒(フークーチユウ),蛇胆酒(シヨータンチユウ),蛤蚧酒(コーチエチユウ)などがある。虎骨酒はトラの骨などを白酒に浸したもので,鎮痛や小児のひきつけに効能があるとされ,蛇胆酒は麻痺性の疾患にきくとされる。蛤蚧酒はトカゲを漬け込んだもので,3種の動物の陽根をつけるという三鞭酒(サンピエンチユウ)などとともに,強精剤としての効果を信ずる人も多いという。

 現在の日本の酒税法では,アルコール分1%(容量百分比)以上を含む嗜好(しこう)飲料は酒とみなされており,ビタミン剤などアルコール分を含むが嗜好性のないものは酒として取り扱われない。酒類としての薬酒には酒販店で売られている〈薬味酒(やくみしゆ)〉と薬局で販売されている〈薬用酒〉とがある。後者はその薬効について薬事法の規定により厚生大臣の認可をうけた酒である。
執筆者:

西洋ではパラケルススが出現するまで,医薬品の原料となるものは主として植物に限られていた。植物の薬効を識別してこれを摘む専門の職業集団rhizotomoiが古代ギリシアから存在しており,中世には占星術や魔術的儀礼に即して草を摘み取ることが薬効を発揮させる上で必須の手続ともなった。一方,ブドウ酒は利尿,疲労回復,天然痘の薬,ウィスキー,ブランデーなどの蒸留酒は〈生命の水〉,またビールは強壮薬や胃痛止めなど,それ自体も有益な薬品とみなされてきた。したがって薬草を酒に浸けこみ薬酒とする技術も古くから開発された。ディオスコリデスの《薬物誌》にみえる例では,白い海藻をブドウ酒に入れ3ヵ月間放置して作る海藻酒(水腫,黄疸,脾臓病薬),過熟しないヨウナシをナナカマド類の実とともにブドウ酒に入れたナシ酒(胃病薬),バラの花を乾燥させてから粉砕し,ブドウ酒に加えたバラ酒(下痢止め),松やにを樹皮とともに細かく刻んで調合したロジン酒(咳止め,浣腸剤),ニガヨモギをブドウ酒に入れて作ったアブサン(肝臓病,黄疸,ヒポコンドリーに有効)など約50種を数える。また野生のキュウリなどを混ぜて作った堕胎酒も載せられている。これらの薬酒は中世から近世にかけて広く民間で利用されつづけたが,アブサンのように中毒症状を呈するとして禁止されたものもある。毒とされた薬酒の中にはマンドラゴラ酒マンドラゴラ)などもあり,適切に用いれば深い眠りや痛感の麻痺をもたらすが,使い方を誤れば死に至ると信じられた。今日,これらの薬酒はリキュールに含められ,原料アルコールに加えた各種の植物の香りや味を楽しむ嗜好品としても普及している。
リキュール
執筆者:

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百科事典マイペディア 「薬酒」の意味・わかりやすい解説

薬酒【やくしゅ】

原料の一部に生薬(しょうやく)を加えて醸造するか,または蒸留酒や醸造酒に生薬を浸してその成分を溶出させた酒。中国では古くから植物性の生薬や動物性の生薬を使った薬酒が数多く作られている。その代表格は五加皮酒(ウーカーピーチュウ)で,五加皮(ウコギの根の皮),陳皮(ミカンの皮),当帰など十数種の生薬の抽出成分を蒸留酒に加えていて,不老長生の薬とされている。ほかにトラの骨を浸した虎骨酒(フークーチュウ),トカゲを浸したコーチエチュウなどもある。朝鮮ではチョウセンニンジンを浸した人参酒が有名。日本にも漢方とともに薬酒が伝えられ,新年に屠蘇(とそ)を飲んだりする。またマムシ酒やハブ酒なども作られる。西洋でも古くからあり,現在ではリキュールとして知られているものも多い。
→関連項目中国酒

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普及版 字通 「薬酒」の読み・字形・画数・意味

【薬酒】やくしゆ

薬入りの酒。〔塩鉄論、国病〕夫(そ)れ酒は口に(にが)きも、に利(よろ)し。忠言は耳に(さから)ふも、行ひに利し。

字通「薬」の項目を見る

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飲み物がわかる辞典 「薬酒」の解説

やくしゅ【薬酒】


酒に生薬を浸漬するなどして、その薬効成分を浸出させたもの。五加皮酒(ごかひしゅ)、まむし酒、朝鮮人参酒など。◇「薬用酒」ともいう。

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世界大百科事典(旧版)内の薬酒の言及

【中国酒】より

…ただ,在来の大麴白酒にくらべると,香味ともに単純化のうらみがある。
[分類,種類]
 中国酒の分類は文献によってさまざまであるが,ここでは黒竜江商学院ほか編著の1979年版《中国酒》にしたがって,白酒,黄酒,啤酒,ブドウ酒,果酒,配製酒・薬酒に分けて概観する。ちなみに,中国軽工業省は1953年,63年,79年の3回,全国評酒会議を開いて全国の酒を品評し,現在では〈全国名酒〉に18銘柄,それにつづく〈全国優質酒〉に47銘柄が認定されている。…

※「薬酒」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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