日本大百科全書(ニッポニカ) 「川上(狂言)」の意味・わかりやすい解説
川上(狂言)
かわかみ
狂言の曲名。座頭狂言。和泉(いずみ)流だけの曲。大和(やまと)の国吉野に住む盲目の夫(シテ)が、その山奥の川上という所に眼病に効く地蔵があると聞いて出かける。さて地蔵に着き参籠(さんろう)すると、夢のお告げを受けて目が明く。帰途についた夫は、迎えにきた妻と途中で出会い喜びあうが、地蔵が開眼の条件として悪縁ある妻と離別せよといったので承諾したと話す。怒った妻は、地蔵をののしり夫を恨み、どうしても別れないと言い張る。夫もしかたなく連れ添い続ける決心をすると、たちまち盲目に戻ってしまう。夫婦は泣き沈むが、これも前世の因果かとあきらめ、手を取り合って帰って行く。真の幸福とは何かを問いかける、悲哀の漂う深刻な曲。この地蔵は奈良県吉野郡川上村に現存する金剛寺のことらしい。
[小林 責]