穴・孔(読み)あな

精選版 日本国語大辞典 「穴・孔」の意味・読み・例文・類語

あな【穴・孔】

〘名〙
① 低くくぼんだ所。また、うつろに貫いた所。特に、鼻孔、陰門、また獣などがすむ洞穴や落とし穴、墓穴をもいう。
※古事記(712)上「其の矢を取りて、其の矢の穴より衝(つ)き返し下したまへば」
今昔(1120頃か)一一「我が死なむ日は穴を同くして共に可埋(うづむべ)し」
② 欠けたためにできた空白状態。欠陥や損失。
(イ) 金銭上の損失。会計上の欠損
※雑俳・柳多留‐二四(1791)「借金の穴へ娘をうめるなり」
(ロ) あるはずの物や人間が欠けたために生じた空白状態。
※滑稽本・八笑人(1820‐49)四「彌五郎出ざれば、穴をふさがんと」
③ 不完全な点。欠点。欠陥。過失。あら。
※談義本・教訓不弁舌(1754)序「人の仕落したる事をから名に穴と唱ふ」
吾輩は猫である(1905‐06)〈夏目漱石〉八「主人の論理には大なる穴がある」
④ 人の性癖、また、世間の裏面や内情などを広くさす江戸後期の流行語。
※洒落本・風俗七遊談(1756)二「女郎衆の穴(アナ)見附て悪くいふが」
⑤ 人に知られていない所や物事。
(イ) 人の知らない重要な点。急所要点。こつ。
※浄瑠璃・蝶花形名歌島台(1793)三「惚れささうと思へば、女の好(すき)へ持って行くが色事の穴(アナ)
(ロ) 隠れ家。隠れている秘密の場所。特に情人のところ。
※人情本・仮名文章娘節用(1831‐34)前「お帰んなすったとぞんじましたら、また、ここの穴へお這入なさいましたネ」
(ハ) 釣りや遊び場などで、人の知らない良い場所。穴場
※七つの街道(1957)〈井伏鱒二〉ささやま街道「釣のアナを確保できた」
⑥ 劇場用語。
(イ) 芝居小屋の見物席で土間の一間(ひとま)。一枡(ひとます)
※東京風俗志(1899‐1902)〈平出鏗二郎〉下「客席は総べて枡形に劃れば、これを枡または穴(アナ)といふ。(多くは平土間についていへり)」
(ロ) 芝居や寄席などで、大入り満員の際、ぽっかりあいた空席
※伝奇作書(1851)後集「中古江戸三座通詞の事〈略〉穴とは(土間桟敷の明てある事)」
(ハ) 芝居で花道の切り穴をいう。すっぽん
⑦ 競馬、競輪などで番狂わせの勝負。また、番狂わせで勝ちそうな馬や選手。
※冬の宿(1936)〈阿部知二〉一四「穴といふやうな馬を、つねに単式で買ひ」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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