細胞(読み)サイボウ(その他表記)cell

翻訳|cell

デジタル大辞泉 「細胞」の意味・読み・例文・類語

さい‐ぼう〔‐バウ〕【細胞】

《「さいほう」とも》
生物体を構成する形態上・機能上の基本単位。真核細胞と原核細胞がある。真核細胞ではふつう1個のがあり、核膜によって細胞質と分けられ、細胞質は細胞膜でおおわれる。植物細胞ではその外側にさらに細胞壁をもつ。細胞質中にはミトコンドリア小胞体ゴルジ体などがあり、植物細胞ではさらに葉緑体液胞を含むことが多い。
共産党などが、職場・地域などを単位にして設けた党員の末端組織の旧称。
[類語]細胞膜細胞壁細胞質原形質単細胞核酸リボ核酸デオキシリボ核酸ディーエヌエー遺伝子染色体性染色体ミトコンドリア組織胚珠胚乳胚芽

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「細胞」の意味・読み・例文・類語

さい‐ぼう‥バウ【細胞】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「さいほう」とも )
  2. 生物体を構成する基本単位。
    1. [初出の実例]「材〈略〉檞材有五種之理〈略〉大約縦理、其質粗大、具細胞、横理則稍細、粗細各有差等、極細者、一寸内一百四十万理、粗者一寸内二万理」(出典:植学啓原(1833)一)
  3. ( 比喩的に ) ものごとを構成する要素の一つ一つ。
    1. [初出の実例]「信用箇条是れ吾国民党の精神、脳髄、神経、党員は特に之れが細胞たるのみ」(出典:一年有半(1901)〈中江兆民〉附録)
  4. 工場、学校、官公庁などに設けられる共産党の末端組織の旧称。現在は「支部」という。〔モダン用語辞典(1930)〕

細胞の語誌

( について ) 一六六五年イギリスのフックが自作の顕微鏡でコルク片の細胞を観察して cell と名づけた。形状や大きさは生物の種類およびその体の部分によって異なり、最も普通なもので大きさは〇・〇一~〇・一ミリメートル。その主体となるのは生命現象を行なう原形質で、核質と細胞質とに区分される。一般に中心に核が一個あり、その周りを細胞質がとりまく。最外層は植物細胞では細胞壁に包まれるが動物細胞には細胞壁はなくて細胞膜(形質膜)によって区画される。天保四年(一八三三)宇田川榕菴(ようあん)が「植学啓原」で cell の訳語として初めて用いた。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「細胞」の意味・わかりやすい解説

細胞 (さいぼう)
cell

生命の基本的単位。細胞は細胞膜によって包まれた原形質で,原則として自己増殖ができ,生体の構造単位でもある。細胞についての最初の記載は,R.フックによってなされた(1665)とされているが,それはコルク組織の死んだ細胞のあとの細胞壁で囲まれた小さな部屋cellを観察したものであった。19世紀中ごろの細胞説の確立によって,生体機能を営むのは仕切られた小部屋を満たしていた原形質であり,すべての生体は原形質を含む細胞からでき上がっていることがわかってきた。20世紀中ごろから電子顕微鏡による観察技術が急速に進歩して,細胞内部の微細構造が詳細に捕らえられるようになり,また,同じころに超遠心分離機を利用する細胞分画法が確立されたこととあいまって,生細胞から分離された各種細胞小器官の微細構造と,その代謝機能の局在性とが直接関連づけられるようになった。

 現在,いろいろな細胞の微細構造ならびにその代謝機能が明らかにされるに及んで,生物の違いや細胞の違いを超えた共通普遍性を基盤に,細胞の特異性を理解し,また,研究する細胞生物学cell biologyが大きな発展を遂げている。

細胞には,原則的に1個の核様体nucleoid,あるいはnucleusがあって,その生物種に固有の遺伝子(DNA)のすべてがそこに局在している。すべての細胞は,核様体をもつ〈原核細胞prokaryotic cell〉と核をもつ〈真核細胞eukaryotic cell〉の二つのグループに分けられる。この両者の違いは,核をもつもたないにとどまらず,多くの著しい相違があって,両者の中間にあるような細胞は見あたらない。明らかに原始的とされる原核細胞は,細胞の大きさが1μm程度で小さく,通常細胞壁の形成によって決まる単純な形態をとっており,一部を除いて原形質にはとくに発達した構造が見あたらない。原核細胞と名付けられるとおり,核膜によって囲まれる原形質の区分(核質と呼ぶ)がなく,遺伝子を配列する染色体は,ほとんどDNAの1分子と考えられ,核様体と呼ばれる構造をとって原形質中に広がっている。原始的な細胞生物である細菌類は,すべて原核細胞に属しているが,なかでも最小の細胞といわれる球形のマイコプラズマは直径0.1~0.25μmの範囲にあり,細胞壁はなく,細胞膜のみによって囲まれる原形質には微細構造がきわめて乏しく,最小の染色体(長さ500μmにも達しない環状DNA)と最少数のリボソームが含まれるにすぎない。

 真核細胞は,生物種や細胞種によっても異なるが,通常原核細胞に比べて体積で3桁以上は大きく,ヒトの細胞の体積は200~1万5000μm3の範囲にある。そもそも真核細胞の特徴は,原形質が二重の核膜によって囲まれる核質とその外側にある細胞質とに区分されていることである。核は,原核細胞に比べて100~1000倍も大きなゲノムDNAが結合する多数の染色体を保護し,遺伝情報の発現につごうのよい環境を形づくっている。核質のうち,染色体DNAを結合する染色質chromatinは,とくに遺伝情報発現とその調節を行っている重要な部分で,原核細胞の核様体とは違って,遺伝子DNAがヒストンというタンパク質8分子でつくる〈ヌクレオソームコアnucleosome core〉に巻きとられたビーズ状の構造を基本構造にして,スーパーコイルなどの高次な折りたたみ構造をとる染色糸がそこに位置している。また,核質には,RNAに富み,容易にそれとわかるボール状の核小体が通常1ないし数個分布しており,細胞質のリボソームに含まれる3種類のRNA分子(18S,5.8Sおよび28 Sr RNA)はつながった前駆体RNAとしてここで転写されている。真核細胞の細胞分裂は,原核細胞が最も簡単な2分裂によるのとは違って,核分裂と細胞質分裂とが区別される。核分裂の際には,複製したDNAをもつ染色分体chromatidの分離のために,光学顕微鏡で容易に観察されるコンパクトな染色体構造と紡錘糸がつくる分裂装置によって,遺伝子セットは両娘細胞(じようさいぼう)核に正確に分配される。続いて細胞質を二分する細胞質分裂が起こるのである。なお,真核細胞の分裂像は,染色体の挙動,動原体と紡錘糸の結合,紡錘体の極と中心体,核膜の状態など,複雑で多様なものであるが,真核細胞の系統進化を知る重要な手がかりになっている。核が傷つくことは細胞の死につながるが,細胞質は細胞の生活活性の場であり,核があれば細胞質は損なわれても残りの細胞質の物質代謝によって再生や生長が行われる。また,真核細胞の著しい特徴は,細胞質の各種代謝機能が細胞質の部分構造と結びついて細胞小器官となり,分業化によって効率的に行われていることである。細胞小器官としてミトコンドリア,小胞体膜系と各種小胞ゴルジ体などがあり,植物細胞には葉緑体色素体,また,しばしば大きな液胞が発達していることなどは,原核細胞との大きな相違である。この相違は,真核細胞の起源を問題にするとき,説明されなければならない。例えばミトコンドリアは好気的細菌を先祖とし,葉緑体はラン藻を先祖として,始原真核細胞の細胞質へ共生した結果であると説明しようとする内共生説endosymbiotic theoryはその仮説の一つである。真核細胞の細胞小器官のすべてが,膜分化によって直接に始原細胞の細胞質中に分化してきたとする膜分化説の立場もある。

 原核細胞は原核生物として単独で生育しているが,特殊に分化した真核細胞である原生生物も単細胞生物である。藻類の遊走子・配偶子,動物の卵細胞・精子のように細胞が遊離細胞として独立に機能している細胞もある。また,多核体や変形体のように通常の真核細胞とは著しく違う多細胞的生物やボルボックスのように多数の個体が集まって群体を形づくるものもある。多細胞生物の場合は,1個の卵細胞の受精によって発生を開始し,細胞分裂によって細胞数が増加して,それぞれの細胞が構造と機能の分化した組織を構成する組織細胞になる。組織細胞は種固有の構築にしたがって決められた位置関係をとっている。しかし,どの組織細胞もその生物種の完全なゲノムDNAをもっている等価な細胞と考えられる。したがって分化した細胞の特異な構造と機能は,特定の構造と機能を支配する遺伝子群の情報発現が特定の細胞で行われるように,細胞分化の機構が働くことによって実現される。通常,細胞の分化は不可逆的で決まった方向に起こるように見えるが,ゲノムDNAのすべてを細胞分化ののちにももち続けているので特定の条件が与えられれば,別の細胞へ分化しなおすことも可能なはずである。実際に,ニンジンの1組織細胞を適当な条件下で培養し続けると,ニンジンの植物体ができ上がることがこの典型的な証明とされている。なお,組織細胞のように分化した細胞の増殖は無限には続けられることがなく,したがって組織の大きさに限度がある。癌細胞は,分化した細胞とは違い,組織細胞のような行動をとらず,ほとんどかってに分裂し続ける。また,組織細胞は,細胞分裂によって絶えず再生されてはいるが,細胞分裂を繰り返しているうちに,この周期からそれて分裂が止まり,ついには細胞死に至る細胞の老化の過程が見られる。一方,原核細胞は,胞子形成のような特殊な場合を除いて,細胞分化にあたるものも,老化にあたるものも見られない細胞である。

真核細胞は生物種を超えて共通な細胞小器官としてミトコンドリア,小胞体,ゴルジ体などを含むが,分化した細胞には,このほかにその分化した機能を発揮するための細胞表層や内部形質に特異的な微細構造が発達する場合が多い。筋細胞に発達する筋原繊維と筋原繊維に興奮を伝達する筋小胞体とトリアドtriad,神経細胞の軸索突起や樹状突起および多数のシナプス,腸上皮細胞の微細絨毛(じゆうもう),精子の先体acrosome構造と鞭毛構造,色素細胞のメラノソームmelanosomeなどはその例である。

 細胞の物質交代は,酵素反応によって行われ,化学エネルギーを効率的に利用するために,きわめて巧妙に制御されている。その鍵を握る多くのアロステリック酵素は基質以外の作用物質によって代謝系ごとに,また,代謝系の間で,細胞環境に適応したエネルギー代謝の調節を行っている。糖の代謝やアミノ酸の代謝は細胞質の可溶性酵素系で行い,タンパク質合成はリボソーム上で,脂質の代謝は主として小胞体膜系とミトコンドリアで行う。生体物質の合成に必要なエネルギーはATPによって与えられるが,大部分のATPはミトコンドリアの酸化的リン酸化と,植物では光合成における葉緑体の光化学反応によって合成される。このATP合成は,いずれも化学浸透chemiosmosisの機構を利用したもので,ミトコンドリアや葉緑体の内膜の内外に電子伝達系と共役してプロトンの濃度こう配をつくり,そのポテンシャルエネルギーが,共役因子(ATPアーゼ)の働きによってATPの合成に使われている。生物はこの機構によって解糖系の酵素によるATP合成よりも多量なATPを合成している。

 真核細胞は,原核細胞と同様に原形質の可溶性分画によって細胞の基本的な代謝機能を果たしているが,そのほかにさらに高次な構造をもち,高次な制御系をもっている。とくに,細胞質に発達した異質の構造系として細胞内膜系と細胞骨格構造とがあり,高次な構造をつくり上げ,高次な機能を発揮できるのはこれらの構造のためである。

網目状に発達した複雑な膜構造で,分化した細胞の機能と密接な関係があり,その発達のようすは細胞の種類によってひじょうに違っている。細胞内膜系は全体として緊密な連絡を保ってはいるが,部分によってある程度の独自性をもつコンパートメントを形づくる。代謝系の酵素群は一様な分布をせず,効率のよい分業と流れ作業の工程ができ上がっている。このような膜系の構造と機能は,エクソサイトーシスexocytosis(細胞外への物質の放出)やエンドサイトーシスendocytosis(細胞内への物質の取り込み)の場合によく調べられており,GERL系(ゴルジ体Golgi apparatus→小胞体endoplasmic reticulum→リソソームlysosome)によってよく表されている。GERL系の各部分,粗面小胞体膜と滑面小胞体膜,ゴルジ体の膜系と小胞,食作用にともなうリソソームと食胞,分泌過程における分泌顆粒(かりゆう)と細胞膜の融合など一連のダイナミックな膜流動を行い,絶えず膜系の新生と再生をともなっている。GERL系は,原核細胞に比べて大きな真核細胞の細胞質が細胞外液との間の物質交換の機能を高めるために,細胞質中に網目状に発達させた運河系と考えられる。とくに,真核細胞の核は,内外二重の核膜によって取り囲まれており,その内腔は小胞体系を経て細胞外へ通じているから,細胞外の環境からの直接の影響を受け入れることができるようになっている。また,膜系自体は,親油性,疎水性物質の代謝系を結合しており,脂質,とくにリン脂質,コレステロールステロイドホルモンプロスタグランジンロイコトリエンなどの合成の場所になっている。

動物細胞の細胞内繊維構造は,細胞内膜構造とともに細胞の構造と機能を支える2本の主柱といえる。植物細胞では厚い細胞壁によって,外側から細胞形態のほとんどが決められてしまうので,細胞の骨格構造の発達を必要としない。これに対して,動物細胞は,広い自由表面を包む細胞膜自体に大きな細胞の形態を保つ働きがない。細胞質に網目状に発達した繊維構造は骨格として働き,また,細胞形態を変えたり,細胞運動に必要な張力圧力の伝達を行っている。多くの細胞で,核が細胞の中心に位置するように,細胞の繊維構造が核を係留し,細胞小器官やその他の微細構造の配分とその変化に対しても重要な役割を果たしている。さらに繊維構造は,デスモソームdesmosomeを介して細胞間の結合にも関係しており,細胞集団の形態形成は,各細胞内の繊維構造の再編成とその繊維構造による力の発生および伝達で実現される。

 このように多方面にわたる細胞機能に関係している細胞骨格cytoskeltonは,複雑で細胞種によっても微妙に違うが,それぞれ特色ある3グループの繊維(微小管,中間繊維,マイクロフィラメント)によってつくられる構造に大別される。これらの繊維構造は,それぞれの構成タンパク質を抗原として調製した蛍光抗体で,細胞を染めれば,蛍光顕微鏡によってこれらの細胞骨格構造を識別することができる。

(1)微小管microtubule 細胞骨格の中で最も太い250nmの中空の繊維構造で,おもな微小管タンパク質としてチューブリンα,βが重合してできたものである。そのほかに,微小管の重合や他の繊維構造との間の相互作用に必要なτタンパク質や微小管結合タンパク質(MAP)など少量のタンパク質がこの構造に加わっている。真核細胞の分裂には,微小管が紡錘体の両極に位置する中心粒から発する紡錘糸として,染色体の動原体kinetochoreに結合し,染色体分離の役割を果たす。分裂間期に入ると,微小管は核に近い細胞質に位置している微小管形成中心(microtubule-organizing centre=MOC)から発して,放射状に細胞周縁に向かって走る。また,同時に細胞核を網目の竹籠のように包み込み,それを宙づりにするような骨格構造に発達する。微小管構造はこのように細胞周期に連動した細胞形態に関係している。また,広く真核細胞に見られる鞭毛や繊毛は微小管が構成繊維となっており,その根もとにある基粒体basal bodyは中心粒と同じ構造をもつ自己増殖系である。内共生説の立場からすると,基粒体をもつ鞭毛や繊毛と中心粒はもともとスピロヘータが始原真核細胞へ共生したものであるという仮説に発展する。ある種のスピロヘータには,チューブリンと同種の抗原タンパク質が含まれ,細胞質を貫く繊維構造はこれが構成タンパク質になっているので,このような仮説を支持する証拠にあげられている。

(2)マイクロフィラメントmicrofilament 直径50nmほどの細い繊維構造で,Fアクチンが構成タンパク質である。筋細胞では筋原繊維の細繊維がα-アクチンの重合によってできており,これと平行に走る太いミオシン繊維との間の相互作用によって力を発生し,筋収縮が起こる。広く非筋細胞にも同族タンパク質のβ-アクチンおよびγ-アクチンが分布していて,マイクロフィラメントを形づくって細胞のダイナミックな形態変化を引き起こしている。マイクロフィラメントのあるものは,ミオシンと結合してストレス・ファイバーstress fiberと呼ばれる細胞質を直線的に走る太い繊維として分布するが,多数のマイクロフィラメントは細胞の伸長方向に平行に走る細繊維として,また,細胞表層に沿って平行に走る繊維束として分布する。細胞の形態変化や運動にとって重要なことは,細胞膜にも結合点をもつことである。アクチン繊維の特色は,分化した細胞形態や機能にかかわって,それぞれ異なった繊維構造の成分タンパク質と相互作用することであり,その状況によって機能の仕方が違ってくることである。

 細胞表層の構造について見ると,赤血球では,スペクトリンspectrinが細胞表層にあってアクチン繊維と相互作用し,赤血球以外では,ホドリンfodrin,α-アクチニンα-actinin,ビンキュリンvinculinがあってアクチン繊維と相互作用する。また,これらの相互作用には細胞膜と細胞表層のアクチン繊維の結合が関係する。一般に,細胞表層が変化して形づくられる微細絨毛,マイクロスパイク,皺状(しゆうじよう)突起,細胞分裂に見られる収縮環などいずれもアクチン繊維の配列の変化によって起こる現象である。癌化した細胞が丸くなるような形質転換には,細胞膜と細胞骨格の繊維タンパク質の間で相互作用が変化しているらしい。

(3)中間繊維intermediate fiber 微小管とマイクロフィラメントの中間の太さに当たる100nmほどの繊維構造を総称したもの。おもに細胞の形態保持,細胞形態のゆがみにかかわり,張力,弾力が細胞間接着構造(デスモソーム)の中間繊維を介して細胞内および細胞間に伝播(でんぱ)すると考えられている。例えば,表皮組織に加えられる各方向の張力,弾力の伝播はその例である。

 中間繊維の構成タンパク質は,細胞種によって異なり,それぞれの細胞構造や機能の特異性に関係していると思われる。上皮細胞にはサイトケラチンcytokeratin,間充織細胞その他の細胞にはビメンチンvimentin,筋細胞にはデスミンdesmin,神経細胞にはニューロフィラメントタンパク質neurofilament protein,グリア細胞にはグリア細胞特異的フィラメントタンパク質があって,それぞれの細胞種における中間繊維を形づくっている。中間繊維の網目状構造は,まず核を取り囲む籠状の構造を形づくり,一方では,細胞膜上の付着点に発し,離れた細胞膜上の付着点に至るかすがい状に走る網目状の構造を形づくっている。細胞膜上の付着点は隣接細胞間の接着斑にあり,中間繊維はトノフィラメントtonofilamentと呼ばれているものである。

 なお,細胞骨格をつくる3種の繊維構造の間にも相互作用があり,細胞全体の構造ならびに機能に対して調節し合っていると考えられる。

細胞外液に面している細胞膜表面には,糖鎖が突き出してできる親水性の層glycocalyxがある。糖鎖は各種の単糖の配列の違いによって,生物種や細胞種の違いをよく表している。動物細胞は,細胞が合成し分泌したタンパク質であるコラーゲンcollagen,フィブロネクチンfibronectin,ラミンlaminなどによって覆われ,また,これらのタンパク質は細胞膜と相互作用することによって細胞の形態や機能に影響を与えている。ラミンはコネクチンconnectinを介して細胞表層のアクチン繊維と結合でき,フィブロネクチンは細胞膜を貫く結合タンパク質を介してアクチン繊維と結合でき,結果として,細胞骨格と連動しうる構造になっている。癌化に際して,細胞形態の変化と同時に,細胞の外側を包み込む形で発達しているフィブロネクチンの網目構造が著しく減少することが知られているが,この現象は細胞膜からアクチン繊維が離れ,ストレスファイバーが見えなくなるなど,アクチン繊維の分布の変化と関係がある。

多細胞生物では,まとまりのある個体としては欠かせない細胞間のコミュニケーションがいろいろなレベルで行われている。隣接細胞の間には,ギャップ結合と呼ばれる隣り合う細胞膜部分を貫いた多数の筒形タンパク質集合体がセットされている。筒形の中心は,隣り合う細胞の細胞質に通ずるトンネルになっており,分子量1000以下の分子は自由に通過できるので,このような低分子物質の往来が情報となりうる。また,この結合は電気的結合とよばれるように,低分子イオンによる通電性を高くしている。同一組織内の細胞間にはこのような結合が密に発達していて,細胞機能のグループ化に働いていると考えられる。

 遠く離れた細胞間のコミュニケーションには,体液の循環によって運ばれるホルモンや栄養物質が,標的器官の細胞にキャッチされるしくみがあって,それぞれの物質に特異的な受容体receptorが細胞膜の外側に分布している。受容体が分布する細胞だけがその物質を情報として受け入れられるので,少量で多数の情報物質があっても個々の情報は整理され,的確にとどけられているのである。インシュリン,β-メラノトロピン,絨毛性性腺刺激ホルモン,神経成長因子(NGF),上皮細胞増殖促進因子(EGF),ソマトメジンCなどのペプチドホルモン,また,栄養物質の輸送タンパク質として,低比重リポタンパク質(LDL),卵黄タンパク質(ホスビチン,リポビテリン),ハプトグロビントランスフェリンなどは細胞膜上の特異的受容体に結合して,レセプトソームreceptosomeと呼ばれる細胞膜の陥入によってできた小胞とともに,細胞質中に取り込まれていく(この過程がエンドサイトーシスである)。この機構によれば10⁻8~10⁻10molという低濃度の情報物質をも濃縮して標的細胞に伝えられる。

 多細胞生物の場合は,直接に隣接する細胞間の物理的結合や情報の伝達だけではなく,拡散するが,化学的に特異性の高い情報物質と結合する受容体によって遠くの細胞間にコミュニケーションを成立させ,個体の統合を果たす機構を著しく発達させているのである。

遺伝子操作の技術が容易になったため,細胞に外来の遺伝子を導入して,その遺伝子が他の細胞の中でどのような働きをするかを調べる研究が,いろいろな細胞の組合せで試みられている。遺伝子DNAの化学的な性質は,原核細胞から真核細胞に至るまで,まったく同じであるから,情報としての機能も基本的に同一と考えられる。しかし,情報発現の調節機構については種によってかなり違うので,遺伝子の導入に際しては調節機構を支配するDNA部分を含んだDNAが用いられる。この種の研究の一つとして,癌遺伝子を導入して癌化の機構を解明するという実験が盛んになされつつあり,近い将来,その全容が明らかにされることが期待されている。また,細胞融合法を用いて,違う種の間で自然界に存在しないような雑種細胞をつくり継代培養するという実験も行われている。ニンジンなどでは,単一培養細胞から完全な植物体をつくることが成功しているから,こうして生じた雑種細胞を培養することによって,全く新しい雑種植物を人為的につくりだすことが可能である。

 しかし,遺伝子の組換え操作は,人類にとって有用な生物を人為的につくりだす一方で,自然の生物界を混乱させることになる可能性があり,慎重に行われるべきものである。
執筆者:


出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「細胞」の意味・わかりやすい解説

細胞
さいぼう
cell

生物体を構成する形態上の基本単位で、生命現象を表す機能上の最小単位でもある。細菌、下等藻類、原生動物などの単細胞生物は、一個の生命そのものであり、多細胞動植物の体は、種々の分化した細胞集団の統制と調和ある有機体である。一般に、生命現象を表す生物体であると判断する理由には、(1)細胞分裂による増殖、(2)細胞の分化、(3)エネルギー産生と物質合成(物質代謝)、(4)外部環境や内部環境からの刺激や変化に対する反応(被刺激性)、(5)運動性、などがあげられる。

[小林靖夫]

研究史

1665年、イギリスの物理学者R・フックが、コルクの薄片を顕微鏡で見て、多数の小部屋からできていることを認め、これを細胞cellとよんだ。ついで1674年に生きた細胞を最初に顕微鏡で観察したのは、オランダのレンズ磨きの達人レーウェンフックである。彼は精子、原虫、細菌、横紋筋、赤血球などを観察し報告した。イタリアの解剖学者マルピーギは各種の動物組織を観察した。彼の名を冠した腎臓(じんぞう)のマルピーギ小体(腎小体)、脾臓(ひぞう)のマルピーギ小体(リンパ小節)、表皮のマルピーギ層(胚芽(はいが)層)、昆虫のマルピーギ管(排出器官)などは有名である。1682年にイギリスの医師N・グルーは植物解剖学の大著を著し、植物細胞のきわめて精密な図を出している。1801年にフランスの解剖学者ビシャは、顕微鏡を用いず肉眼観察によって体の組織を21に分類し、組織学の創始者とされている。ついでドイツの植物学者シュライデンにより1838年に、動物学者シュワンによって翌1839年に「細胞説」が確立された。すなわち、(1)生物体はすべて細胞または細胞の生産物によって構成されている、(2)個々の細胞は生命を有し、それぞれ一定の寿命をもっている、(3)個々の細胞の生命は、生物個体の生命の下に置かれている、というものである。1866年にドイツの動物学者E・H・ヘッケルは系統樹をつくり、個体発生と系統発生の関係について生物発生の原則をたてた。スイスの動物学者ケリカーは、精子は寄生虫ではないことを示し、精子と卵子はともに単細胞であることを明らかにした。また、神経繊維が神経細胞の突起であることを明確にし、ノイロン説を確立した。ドイツの病理学者ヘンレは、腎尿細管のヘンレの係蹄(けいてい)の発見、および大脳の灰白質が神経細胞体を含み白質が主として神経繊維からなることを示したことで知られる。細胞学説に基づいて細胞病理学の体系を樹立したドイツの病理学者ウィルヒョウは、「細胞は細胞から生ず」Omnis cellula e cellulaという有名なことばを残し、細胞の基本的な働きを栄養、機能(運動、分泌など)、形成の三つに分けた。生物の自然発生の考え方を根本的に否定したのは、フランスの微生物学者パスツールである。まさに19世紀は細胞学の開花期であった。

 核分裂の詳細な研究は、ドイツの植物学者シュトラスブルガー、同じくドイツの解剖学者W・フレミングによってなされた。オーストリアの修道院の司祭メンデルは、修道院の庭でエンドウの遺伝実験を行い、1865年発表のその論文は、遺伝学の基礎を定めた古典的なものであるが、その当時は価値を認められなかった。しかし、彼の得た遺伝の法則は、1900年にオランダのド・フリース、ドイツのコレンス、オーストリアのE・S・チェルマクによってそれぞれ再発見されるに及んで世の光を浴びるようになった。20世紀に入ってアメリカのT・H・モーガンは、ショウジョウバエの染色体および遺伝の研究を行い、メンデルの推定した遺伝要素が、染色体上に線状配列する遺伝子であることを明らかにして遺伝子説を確立した。さらに、近年では電子顕微鏡の開発により、19世紀後半の細胞学が超微細構造のレベルでふたたび見直されるようになった。

[小林靖夫]

細胞の微細構造とその機能

生きている細胞をつくっている物質を原形質という。原形質は、細胞質と核質とからできている。細胞質(広義)には細胞膜と細胞質(狭義)が含まれ、核質(広義)には核膜と核質(狭義)が含まれる。現在では、原形質を構成する細胞膜(形質膜)、細胞質、核という語が用いられることが多い。

(1)細胞膜(形質膜) 厚さが約8ナノメートルで、三層構造の単位膜からなる。膜の表面には多糖類の糖衣が付着している。植物細胞の細胞壁は糖衣の高度に分化したものである。細胞膜には、細胞の境界、物質の輸送、膜内受容体による情報の受容、および興奮性などの働きがある。細胞膜の局所的分化として、微絨毛(びじゅうもう)、繊毛、接着装置複合体、ギャップ結合および隣接細胞どうしのかみ合いなどがある。微絨毛は、直径が約0.2マイクロメートル、長さが約1マイクロメートルで、小腸上皮細胞や腎臓の近位尿細管上皮細胞の管腔(こう)に向かう表面上に密生しており、上皮細胞の吸収表面を広くしている。繊毛は、呼吸器の上皮細胞や原生動物の表面などにみられ、繊毛運動を行う。接着装置複合体は、隣接する上皮細胞の表面近くを帯状に取り囲む構造で、光学顕微鏡で見た場合に閉鎖堤とよばれるものである。これは単一の構造ではなく、閉鎖小帯、接着小帯、接着斑(はん)(デスモゾーム)の3種の構造要素からできている。ギャップ結合は、電気シナプスまたはネキサスともよばれ、隣接細胞間に電気的興奮の伝わる部分で、平滑筋細胞や心筋細胞にみられる。細胞のかみ合いとは、隣接する細胞が互いに指を組み合わせたように細胞膜のひだを絡ませて接着する結合様式で、心筋細胞の介在板や小腸上皮細胞にみられる。

(2)細胞質 この中には小胞体、ゴルジ装置、リソゾーム(水解小体)、ミクロボディ(ペルオキシゾーム、過酸化酵素小体)、ミトコンドリア、中心子、被覆小胞などが含まれる。小胞体は、小管または袋の形をした膜構造が互いに連絡して網目状をしており、形や大きさは細胞の機能状態によって異なる。植物細胞の液胞や原生動物の収縮胞も小胞体に由来する。小胞体にリボゾーム(リボ核タンパク質顆粒(かりゅう))が付着しているものを粗面小胞体、リボゾームが付着していないものを滑面小胞体とよぶ。核膜と粗面小胞体が連続していることがあるが、これは粗面小胞体が核膜由来であることを示す。また、滑面小胞体は粗面小胞体が変化してできるといわれている。粗面小胞体は、タンパク性分泌物を合成する細胞によく発達しており、小胞体に付着していない遊離リボゾームは、細胞自身によって利用される構造タンパク質の合成を行う。グリコーゲン顆粒や脂肪滴は滑面小胞体の発達した細胞に多くみられる。すなわち、滑面小胞体は、コレステロール代謝、グリコーゲン分解、脂溶性物質の分解・解毒などの働きがある。ゴルジ装置は、扁平(へんぺい)な袋状の膜が数層に積み重なったゴルジ層板と、ゴルジ空胞およびゴルジ小胞の3要素からできており、主として分泌顆粒の形成、多糖類の合成、リソゾームの形成などの働きがある。ミクロボディは、過酸化に関係した小体という意味でペルオキシゾームともよばれる。動物だけでなく植物にも存在することが知られ、植物ではグリオキシゾームともよばれる。大きさは約0.5マイクロメートルで、ほぼ球形をしており、過酸化水素の産生と分解がおもな働きである。ミトコンドリアは、内外2枚の膜と二つの腔からできている。外側の膜は外周を包み、内側の膜は内腔に向けてクリスタとよばれる板状の落ち込みをつくる。ミトコンドリアの外形やクリスタの形状は細胞の種類によって異なる。ミトコンドリアの内膜には電子伝達系とATP(アデノシン三リン酸)合成を行う酵素系が存在し、ミトコンドリアの基質にはクエン酸回路の酵素系が存在する。緑色植物と藻類に存在する葉緑体は、光合成を行う小器官で、内外2枚の膜と、扁平な袋の重なりである内膜系からできている。また、白色体は根、地下茎、胚細胞にみられ、デンプン粒を含んでいる。中心子は、有糸核分裂のときに相対する細胞極に移動して紡錘糸をつくる。植物細胞では、中心子はコケ、シダ、ソテツなどの鞭毛(べんもう)をもった精細胞に認められる。繊毛は、細胞表面に集まった中心子からできたもので、繊毛の基底部にある中心子は基底小体とよばれる。被覆小胞は、細胞の取り込みに関係する。

 微小管は直径約25ナノメートルで、ほとんどの細胞に存在し、とくに細胞分裂の際は紡錘糸として多量に認められる。微小管は細胞内物質の移動に関係し、細胞内骨格としての働きもある。細胞内繊維には、筋原繊維、神経原繊維、上皮原繊維などがある。骨格筋の筋原繊維にはアクチンとミオシンの2種類の細繊維があり、周期性のある横紋構造を示す。神経原繊維は、神経細胞の細胞体や突起の中にみられ、細胞の支柱装置と考えられている。皮膚の表皮細胞内には上皮原繊維(張原繊維)が細胞質を満たしており、表皮細胞の角化に関係している。

(3)核質 単に核ともよび、核質(広義)は核膜と核質(狭義)とからなる。休止核は内外2枚の膜で包まれ、外膜の表面にはリボゾームが付着している。核分裂の終期に核膜がふたたびつくられるときは小さな小胞体が娘核(じょうかく)の周りに集合し、それらが癒合して新しい核膜ができる。すなわち、核膜は小胞体からつくられる。核膜には直径約50~80ナノメートルの核膜孔があり、核質と細胞質は核膜孔を通して連絡している。核膜を除いた狭義の核質は染色質(クロマチン)と核小体および核基質とからなる。染色質はDNA(デオキシリボ核酸)とタンパク質からできており、塩基性色素に染まる。染色部分はDNAが凝集した不活性な部分である。活発に機能しているDNAは、ほぐれて広がっているため塩基性色素にはほとんど染まらず、核質の明るい部分として認められる。核小体は核質の中で網目構造の部分と無構造の部分とからなり、多量のRNA(リボ核酸)を含む。核小体ではリボゾームRNAがつくられる。

[小林靖夫]

細胞の種類

細胞には、原核細胞(前核細胞)と真核細胞(有核細胞)とがある。すべての細菌と藍藻(らんそう)植物は原核細胞であり、その特徴は、(1)核膜がない、(2)染色体は1個で有糸分裂は行わない、(3)ミトコンドリアや葉緑体などの細胞小器官の分化はない、(4)形質膜が細胞内に入り込みメソゾーム(渦状の膜構造)を形成している、などである。これに対して真核細胞は、核膜に包まれた核をもち、有糸分裂を行う、といった特性がある。細胞の大きさは、一般に10~20マイクロメートルの直径をもつものが多く、もっとも小さい細胞はマイコプラズマとよばれる単細胞生物で、直径が0.1~0.25マイクロメートルである。アメーバは直径が100マイクロメートルもあり、ヒト坐骨(ざこつ)神経の細胞突起は1メートルに達するものがある。ダチョウの卵は17×13.5センチメートルもあり、最大の体積をもつ細胞である。体の大きさと細胞の大きさには関係がなく、たとえばゾウとマウスの肝細胞の大きさはほぼ同じである。発生の間に細胞は特定の構造と機能をもつ細胞に分化する。動物の細胞には、体表面を覆う上皮細胞、支持組織を構成する繊維芽細胞や骨細胞、筋肉組織の筋細胞(筋繊維ともいう)および神経組織の神経細胞などがある。

[小林靖夫]

細胞増殖

生体内の細胞は、DNA合成能から次の3群に分けられる。(1)神経細胞のようにDNA合成も細胞分裂もしない静細胞群、(2)肝細胞や腺(せん)細胞のように一部の細胞がDNA合成と分裂を行う成長細胞群、(3)小腸上皮細胞、造血細胞、表皮細胞、精子のように絶えず新しい細胞を交代している更新細胞群、である。細胞分裂には、体細胞分裂と生殖細胞の減数分裂(還元分裂)とがある。体細胞の有糸分裂では、分裂間期(休止期)と分裂期とに分けられる。分裂間期に核の中のDNAが合成されて2倍になり、続いて分裂期に突入する。まず分裂前期では、核の中の染色質は一定数の染色体(ヒトでは46個)の形をとる。分裂中期には、染色体は赤道面に紡錘糸に垂直に並ぶ。核膜は消失し、中心子は両極へ移動する。分裂後期には、染色体は縦裂し、動原体に付着した紡錘糸に引かれて両方の極へ移動する。分裂終期には、娘染色体は輪郭が不明瞭(ふめいりょう)となり、核膜および核小体がふたたび現れる。細胞分裂に要する時間は、細胞によりまちまちである。哺乳(ほにゅう)動物の培養細胞では、15~24時間に1回分裂するが、そのほとんどは分裂間期で、分裂期は3分~2時間といわれる。

 減数分裂は、精子または卵子を形成するための細胞分裂で、第1分裂と第2分裂とから構成されている。この2回の分裂により生殖細胞の染色体は半数体となり、DNAは半減する。半数体の精子と卵子は合して発生を開始し、細胞は元の倍数体となる。ヒトでは、卵巣の卵母細胞は出生前に分裂を停止し、第一減数分裂の前期の状態で出生する。その後、思春期に達して排卵がおこるまで、少なくとも十数年間は分裂前期のまま卵巣の中に潜んでいる。

 ヒト胎児の培養繊維芽細胞は、約50回の分裂で死滅する。すなわち、細胞には寿命がある。ヒト子宮の腫瘍(しゅよう)細胞であるヒーラ細胞が1952年以来世界中で継代培養されているのは例外である。細胞の寿命の原因としては、遺伝子の中に寿命のプログラムが組み込まれているという説、DNAの複写に誤りを犯すという説、DNAに傷がついて老化するという説、核内のヒストンというタンパク質がDNAの働きを抑えるという説、細胞内に老廃物が蓄積して老化するという説、DNAやRNAの情報の転写や翻訳に誤りをおこすという説などが考えられている。

[小林靖夫]

『黒住一昌他編『細胞学大系1 概説 細胞膜』(1972・朝倉書店)』『浜清著『岩波講座 現代生物科学3 細胞の構造と機能Ⅰ』(1975・岩波書店)』『藤田尚男・藤田恒夫著『標準組織学 総論』第2版(1981・医学書院)』『小川和朗著『細胞――しくみとはたらき』(1981・朝倉書店)』『八杉龍一・小関治男・古谷雅樹他編『岩波 生物学辞典』第3版(1983・岩波書店)』


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「細胞」の意味・わかりやすい解説

細胞
さいぼう
cell

生物体の構造と代謝の基本単位。動植物を通じ,細胞の基本的な組成,形態,および機能はみな共通している。イギリスの物理学者ロバート・フックがコルク片の構造(→コルク組織)を顕微鏡で調べていたところ,小さな方形の穴が密集していることを発見,1665年この穴を「小室」という意味で cellと名づけた。しかしフックが見たのは細胞が死滅したあとの穴であり,生細胞が生物の単位として重要なことはドイツの植物学者マティアス・シュライデンと生理学者で解剖学者のテオドール・シュワンによって 1839年に唱えられた細胞説を待って確立した。
細胞には原核細胞真核細胞の 2種類がある。原核細胞は藍藻類細菌類が属し,細胞膜細胞質をもつが,核をもたず細胞器官がない。遺伝物質は核のかたちをとらず単一の染色体として細胞内に存在し,有糸分裂は行なわない。真核細胞は藍藻類,細菌類以外のすべての生物が属し,さまざまな細胞器官を含む細胞質と遺伝子をのせた染色体を包含する核で構成されている。細胞は半透過性の細胞膜で包まれ,外部環境との間で種々の物質をやりとりしている。植物においては細胞膜は堅固なセルロースでできた細胞壁に覆われている。細胞と細胞との間隙は,水分子で膨潤した多糖類ゲルである細胞外基質で満たされており,その中には細胞同士を結びつけ組織を形成する役割を果たす蛋白質繊維が散在している。
細胞膜の内側は真核細胞では細胞質と核,原核細胞では細胞質と単一の染色体でできた核質で構成されている。蛋白質合成の場となる顆粒状のリボソームは原核細胞と真核細胞のどちらの細胞質にも存在する。真核細胞には小胞体ゴルジ体,リゾソーム,ミトコンドリア色素体等のさまざまな細胞器官がある。小胞体は,細胞内の物質移動に関与する輸送路網であり,これらの輸送路に連結して細胞のつくり出した分子を小胞体から細胞外へ搬送していると考えられているゴルジ体がある。リゾソームは各種の消化酵素を多量に包含する嚢胞で,これらの酵素により,傷んだ細胞成分や細胞に入り込んできた非細胞性物質を分解することができる。ミトコンドリアは細胞のエネルギー発生装置として働き,内部にはアデノシン三リン酸 ATPを合成する酵素系がある。色素体はほとんどの植物細胞中に見出されるが,動物細胞には存在しない。色素体のうち最も重要なものは,光合成の機能をもつ葉緑体である。核は真核細胞の指令中枢で,核膜で包まれた核の中には遺伝情報を含む染色体が入っており,染色体のもつデオキシリボ核酸 DNAは細胞内の蛋白質合成を支配している。DNAの指示は,メッセンジャーRNAによって核から細胞質へ運ばれる。細胞の主要な高分子としては DNA,リボ核酸 RNA,蛋白質多糖類がある。DNAは世代から世代へと生物の本質的性質を運ぶ遺伝暗号を含んでいる。RNAは遺伝情報を蛋白質へ移しかえる。蛋白質は特定の分子を認識して細胞内や細胞外へ輸送したり,細胞内のすべての化学反応を触媒するといった生命維持に必要な細胞の機能を遂行する。多糖類は細菌類や植物細胞の堅固な細胞壁,動物細胞の柔軟な細胞外被など細胞外表面の構成成分である。細胞の低分子成分のなかで重要なものは,脂質,ATP,サイクリックAMPポルフィリン,そして水である。脂質は細胞膜の主要成分をなす脂肪性物質である。ATPは細胞の高エネルギー運搬化合物で細胞がエネルギーを貯蔵するために生成され,エネルギーを必要とするときに分解される。サイクリックAMPは細胞活動の調整役として機能する。ポルフィリンは酸化反応と光合成に必須な色素である。細胞のおよそ 70%から 80%は水であり,水は生命の化学反応に欠かせないものである。水分含量が 50%を下回ると,細胞の生命活動は失われる。原核細胞はさまざまな方法で増殖するが,最も一般的なものは細胞のもつ唯一の染色体の複製から始まり親細胞の娘細胞への分裂にいたる二分裂方式である。真核細胞は体細胞分裂と減数分裂とからなる有糸分裂によって増殖する。体細胞分裂は分裂に先立ち各染色体が自己複製により倍加し,その複製ひとつずつがそれぞれの娘細胞へ完全な遺伝情報のセットとして分配され,遺伝的に同一な娘細胞が 2個形成される。減数分裂は有性生殖をする生物の配偶子形成過程でみられる。1個の親細胞から半数の染色体が含まれる 4個の配偶子がつくられ,雄性配偶子と雌性配偶子が接合することで完全な数の染色体をもつ新しい個体がつくられる。(→細胞学

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

百科事典マイペディア 「細胞」の意味・わかりやすい解説

細胞【さいぼう】

生物体を構成している単位。細胞膜につつまれた原形質の塊で,原則として自己増殖能をもつ。多くの細胞はをもち,真核細胞と呼ばれるが,細菌やラン藻のように核をもたず,遺伝子が核様体として原形質中に散在するものもあり,これらは原核細胞と呼ばれる。卵,精子,遊走子などの遊離細胞は球形かそれに近い形をしているが,組織を形成している組織細胞はおのおのが押し合って多面体になることが多い。植物細胞は一般に細胞壁につつまれる。大きさは高等植物の組織細胞では直径15〜70μm,動物では10〜100μmが普通。細菌のように小さなものから,ダチョウの卵細胞のように直径8cmに達するものもある。細胞の構造は一般に原形質,後形質に分けられる。原形質は普通核と細胞質に分かれ,細胞質にはミトコンドリア,ゴルジ体,小胞体などの細胞小器官が含まれる。核は核膜で囲まれ,内部に仁,染色糸があり,核液で満たされている。原形質が一時的あるいは永続的に特殊な働きをもった構造を示すとき,これを異形質と呼ぶことがあり,筋原繊維,神経繊維などがその例である。核は遺伝子の本体であるDNAを含み,細胞の遺伝形質発現を調節する。単細胞生物を除き,一般に数多くの細胞が集まって生物体を構成しているが,1個の卵細胞が細胞分裂によって数を増す過程で,さまざまな機能をもつ細胞へと分化する。
→関連項目ゴルジ体細胞融合真核生物組織

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

知恵蔵 「細胞」の解説

細胞

生物体を構成する基本単位。細胞膜の内部に細胞質、核および各種の細胞小器官をもつ。核は遺伝情報の貯蔵所で、核が膜に包まれているかいないかによって、真核細胞と原核細胞に大別される。原核細胞をもつのは原核生物だけで、それ以外のすべての生物は真核細胞をもち、真核生物と呼ばれる。真核細胞のうち植物細胞は、一般に細胞膜の外をセルロースやペクチンを主成分とする細胞壁に囲まれ、葉緑体などの色素体のほか大きな液胞をもつことが多いなどの点で動物細胞と異なる。1つの細胞のみで生物体を構成しているものを単細胞生物、複数の細胞からなるものを多細胞生物と呼ぶが、高等な多細胞生物では各細胞は形態上も機能上も多様に分化し、同種の細胞が集まって組織を形成する。

(垂水雄二 科学ジャーナリスト / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

化学辞典 第2版 「細胞」の解説

細胞
サイボウ
cell

生命体の基本単位で,分裂によって増殖できる.細胞膜で覆われており,内部にDNAとその収納装置,タンパク質合成装置,エネルギー変換装置,異物分解装置などの細胞内小器官,さらには物質代謝系や細胞内の物質輸送系を備えている.核の有無により,真核細胞と原核細胞に分類される.真核細胞(約10 μm)に比べて原核細胞(約1 μm)は小さい.葉緑体や液胞や細胞壁の有無により,動物細胞と植物細胞が区別される.同じ動物細胞でも筋肉細胞や神経細胞,さらには接着性の細胞や血球のような浮遊性細胞など形態・機能ともに多種多様であり,数百種類に及ぶ.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

栄養・生化学辞典 「細胞」の解説

細胞

 生物の最も基本的な単位.細胞一つの生物から億を超える数の細胞をもつ生物まである.ヒトでは数十兆個とされている.普通一つの細胞には一セットの遺伝子すなわちDNAがあり,細胞分裂のときに複製される.核をもたない細胞を原核細胞,もつ細胞を真核細胞とよんで区別する.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の細胞の言及

【電池】より

…光,熱,化学エネルギーなどを電気エネルギーに変換する装置。化学電池と物理電池に大別される。化学電池は電気化学反応を利用して化学エネルギーを電気エネルギーに変換する装置で,単に電池といった場合は通常化学電池を指す。ほとんどの化学電池では,装置に用いられる化学物質に必要なときだけ化学反応を起こさせて電気エネルギーを取り出すことができるので,電気エネルギーの貯蔵装置にもなる。これに対し,物理現象を利用して他の形態のエネルギーを電気エネルギーに変換する装置が物理電池で,太陽光エネルギーを電気エネルギーに変換する装置は太陽電池と呼ばれ,放射線のエネルギーを電気エネルギーに変換するのが原子力電池である。…

【コルク】より

…スベリンはヒドロキシ脂肪酸を中心成分とする高分子化合物で,フェノールも含む。スベリンが細胞壁の内側にへばりついているため,それら細胞の集合体であるコルクは上記の性質を示す。保冷庫の断熱材,卓球のラケット,靴底など用途は広い。…

【死】より


【生物における死】
 死とは,生体系の秩序ある制御された形態と機能が崩壊することである。本来は生物個体が生命を失うことの概念であるが,種・個体群や器官,組織,細胞,原形質などの系についても考えられている。老衰による死,つまり寿命が尽きるまで生存する個体は自然ではまれで,多くの個体は捕食,病気,飢餓,気候,事故などの外的要因で死亡する。…

※「細胞」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

仕事納

〘 名詞 〙 年の暮れに、その年の仕事を終えること。また、その日。《 季語・冬 》[初出の実例]「けふは大晦日(つごもり)一年中の仕事納(オサ)め」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油...

仕事納の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android