ダイヤモンド(Peter A. Diamond)(読み)だいやもんど(英語表記)Peter A. Diamond

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ダイヤモンド(Peter A. Diamond)
だいやもんど
Peter A. Diamond
(1940― )

アメリカの経済学者。ニューヨーク市生まれ。1960年にエール大学数学科を卒業し、1963年にマサチューセッツ工科大学MIT)で経済学博士号を取得した。MITでの恩師サミュエルソン教授から「過去の私の学生のなかで最高」と絶賛する推薦文をもらい、カリフォルニア大学バークリー校準教授などを歴任。1970年からMIT教授を務める。2010年、求人が十分にあるのに大量の失業者が存在する「雇用ミスマッチ」などを理論的にうまく説明するサーチ理論search and matching theoryの基礎を築いたとして、ノーベル経済学賞を受けた。

 株式や外国為替(かわせ)市場のように売り手と買い手が情報を共有し需要供給で価格が決まる取引(ワルラスの一般均衡的取引)ではなく、売り手と買い手がばらばらに取引する場合、商品に関する情報不足や、取引成立にコストや時間がかかることで、需要があっても取引が成立しない「市場の摩擦」search frictionsが生じる。ダイヤモンドはこの「局所的・分権的取引」を数学的に厳密に分析するサーチ理論の基礎を築いた。その後、ダイヤモンドとノーベル賞を共同受賞したモルテンセン(ノースウエスタン大学教授)とピサリデス(ロンドン・スクール・オブ・エコノミックス教授)がサーチ理論を労働市場に適用。失業と求人の併存のほか、失業保険制度の充実がかえって失業者増や失業期間長期化につながる現象などをうまく説明するのに成功した。現在、サーチ理論は住宅取引、貨幣理論、公共経済学、結婚などの家族経済学はじめ幅広い分野に応用されている。

 異なった世代への財政や経済成長の影響を同時に扱うOLGモデルOverlapping Generations modelの発展(1965年)、総生産効率性定理(ダイヤモンド‐ミルレス定理)の導入(1971年)、社会保障政策への貢献など経済学の幅広い分野で功績をあげている。

[矢野 武]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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