安・易(読み)やすい

精選版 日本国語大辞典 「安・易」の意味・読み・例文・類語

やす・い【安・易】

〘形口〙 やす・し 〘形ク〙
物事のなりゆきに障害や不安がない。平穏である。安心していられる。
古事記(712)下・歌謡「下問ひに 我が問ふ妹を 下泣きに 我が泣く妻を 今夜(こぞ)こそは 夜須久(ヤスク)肌触れ」
源氏(1001‐14頃)桐壺「同じ程、それより下臈の更衣たちはましてやすからず」
② らくらくと物事を行なうことができる。容易である。たやすい。
書紀(720)雄略元年三月(前田本訓)「産腹(はら)(ヤスキ)(ひと)は、褌(はかま)を以て体(み)に触(かから)ふに」
③ 責任が軽く自由である。気楽である。
※源氏(1001‐14頃)橋姫「心にまかせて身をやすくもふるまはれず」
④ (「廉」とも書く) 値段が高くなく、金がかからない。他と比べて、質や量のわりに値段が低い。低廉である。安価である。⇔高い
※蘇悉地羯羅経延喜九年点(909)「価ひ復た最も賤(ヤスカラ)む」
⑤ 格が低い。身分が低い。品質が劣っている。〔観智院本名義抄(1241)〕
※浮世草子・傾城色三味線(1701)大坂浅黄に黒羽織きる人に、草り取のなきは〈略〉やすう見へける」
⑥ 粗末にあつかうようである。みくびるようである。
※滑稽本・風来六部集(1780)放屁論後編「お家に由緒ある数代出入の町人でも、不如意になれば安くあしらひ」
人品などが下卑(げび)ている。下品である。〔新撰大阪詞大全(1841)〕
⑧ (動詞連用形に付いて、その動作が容易に行なわれる意を添える。②の形式化したもの) たやすくそうなる傾向がある。簡単に…する。らくに…できる。
万葉(8C後)四・五八三「つき草の移ろひ安久(やすク)思へかも我が思ふ人の言(こと)も告げ来ぬ」
※枕(10C終)二八「あなづりやすき人ならば後にとてもやりつべけれど」
やす‐げ
〘形動〙
やす‐さ
〘名〙

やす【安・易】

(形容詞「やすい」の語幹相当部分)
[1] 〘語素〙
名詞と熟合して、平安・安穏の意を表わす。「やすくに」「やすむしろ」「うらやす」など。
※万葉(8C後)一四・三五〇四「春へ咲く藤の末葉のうら夜須(ヤス)にさ寝る夜そなき児ろをし思(も)へば」
② 名詞や動詞と熟合して、たやすくそうすること、そのようにしがちであることを表わす。「やすうけあい」など。
※天延三年庚申朝光歌合(975)「枝弱み乱れやすなる青柳の糸のたよりに風なより来そ」
③ 名詞と熟合して、その物の値段が安いこと、安くて粗末であることを表わす。「やすもの」「やすやど」「やすね」など。また、金額を表わす語に付いて、ある時点の価格と比べてそれだけ安くなっていることを表わす。「十円安」
※くれの廿八日(1898)〈内田魯庵〉六「下等(ヤス)料理屋めいた西洋舘の楼下は」
[2] 〘名〙 安いこと。安目。

やすき【安・易】

〘名〙 (形容詞「やすし」の連体形を名詞に用いたもの)
① たやすいこと。やさしいこと。また、楽でのんきなこと。安易な状態。⇔難(かた)き
※仮名草子・浮世物語(1665頃)三「安(ヤス)きに居て危きを忘るる事なかれと言へり」
② まったく心配のない安定した状態であること。激しい変化がないこと。
※読本・春雨物語(1808)天津処女「本国の備前にくだりて、水害を除き、民を安きに置れし功労もありしかどとて」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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