(読み)ギャク

デジタル大辞泉 「逆」の意味・読み・例文・類語

ぎゃく【逆】[漢字項目]

[音]ギャク(呉) ゲキ(漢) [訓]さか さからう
学習漢字]5年
〈ギャク〉
本来の方向・事態などと反対である。「逆境逆行逆転逆風逆流逆輸入可逆
支配や命令にさからう。正道にそむく。「逆心逆賊悪逆横逆弑逆しいぎゃく大逆反逆
さかのぼる。「逆上吃逆きつぎゃく
〈ゲキ〉
普通とは方向が反対である。「逆鱗げきりん
出迎える。「逆旅
前もって。「逆睹げきと
〈さか〉「逆子逆夢
[難読]吃逆しゃっくり逆上のぼせる

ぎゃく【逆】

[名・形動]
物事の順序・方向などが反対であること。また、そのさま。さかさま。「立場がになる」「コース」⇔
論理学で、ある命題の主語と述語を換位して得られる命題。「pならばqである」に対して「qならばpである」という形式の命題。最初の命題が真でも、逆命題は必ずしも真ではない。
柔道で、関節技のこと。逆手ぎゃくて
道理や道徳に反すること。また、そのさま。
「朝廷の御為おんためには…―にくみする条理なし」〈染崎延房・近世紀聞〉
[類語]反対あべこべかえって逆様裏腹逆さ裏返し裏表うらおもて右左みぎひだり上下うえした後ろ前正反対真逆本末転倒主客転倒

さか【逆/倒】

さかさま。ぎゃく。反対。
「開けた儘の一頁を―に三四郎の方へ向けた」〈漱石三四郎
名詞や動詞の上に付いて、さかさま、ぎゃく、反対の意を表す。「―波」「―うらみ」「―のぼる」

げき【逆】[漢字項目]

ぎゃく

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精選版 日本国語大辞典 「逆」の意味・読み・例文・類語

ぎゃく【逆】

  1. 〘 名詞 〙
  2. ( 形動 ) 順序、方向と反対であること。さかさまなこと。また、そのさま。反対。⇔
    1. [初出の実例]「逆にいはるる事は立春をはるたつひといへるがごとし」(出典:名語記(1275)九)
    2. [その他の文献]〔易経‐説卦〕
  3. ( 形動 ) 道理に反すること。道徳的な教えにそむくこと。また、上位の者にさからうこと。また、そのさま。反逆。⇔
    1. [初出の実例]「忽有不慮之間、兇徒作一レ逆」(出典:続日本紀‐天平宝字元年(757)閏八月壬戌)
    2. 「ぎゃくな弟に似ぬ心、順慶町の兄河内屋太兵衛」(出典:浄瑠璃・女殺油地獄(1721)中)
    3. [その他の文献]〔易経‐比卦〕
  4. 逆手(ぎゃくて)。→逆に取る逆を取る
  5. 命題の仮定結論とを入れ換えて得られる命題の、もとの命題に対する称。すなわち「AならばB」に対して「BならばA」をその逆という。もとの命題が真でも、逆は必ずしも真とは限らない。

さか【逆・倒】

  1. [ 1 ] さかさま。ぎゃく。反対。
    1. [初出の実例]「諫むる程猶さかになり、愈々(いよいよ)謀叛に募りしが」(出典:浄瑠璃・河内国姥火(1720頃か)二)
    2. 「大方田舎だから万事東京のさかに行くんだらう」(出典:坊っちゃん(1906)〈夏目漱石〉六)
  2. [ 2 ] 〘 造語要素 〙 名詞や動詞の上に付き、さかさま、ぎゃく、の意を添える。「さかはぎ」「さかなみ」「さかご」「さかのぼる」など。

さからいさからひ【逆】

  1. 〘 名詞 〙 ( 動詞「さからう(逆)」の連用形名詞化 ) さからうこと。反対すること。てむかうこと。抵抗。
    1. [初出の実例]「その申告の時も、私は格式のある動作をして見せた。それが唯一の私の抗(サカラ)いの表現だった」(出典:小銃(1952)〈小島信夫〉四)

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普及版 字通 「逆」の読み・字形・画数・意味


常用漢字 9画

(旧字)
10画

[字音] ギャク・ゲキ
[字訓] むかえる・さからう

[説文解字]
[甲骨文]
[金文]

[字形] 形声
声符は(ぎゃく)。は向こうから人の来る形。人の正面形である大の倒形。これを道に迎えることを「逆(むか)う」という。〔説文〕二下に「ふるなり」とあり、(こう)は人の左右相対する形。周初の金文〔令〕に「用(もっ)て王の(げきざう)にす」とあり、逆造は出入・送迎のことをいう。は倒逆の形であるから、また順逆の意となる。

[訓義]
1. むかえる、まねく。
2. あらかじめ、はかる、前もって。
3. さからう、そむく、もとる、たがう。
4. さかさま、よこしま、悪逆。

[古辞書の訓]
名義抄 サカシ・サカサニ・ムカフ・タガフ・アラカジメ・シリゾク・サカフ 〔字鏡集〕 サカフ・タガフ・カネテ・ワタル・ススル・モトル・サカサマ・シリゾク・アラカジメ・ムカフ

[語系]
ngyak、(迎)ngyang、(遇)ngio、(御)ngeaは声近く、みな人を迎え、遇うことをいう。また忤・ngaは人に逆らう意。・午・は声近く、一系の語をなしている。

[熟語]
逆悪・逆意・逆違逆奄逆閹・逆億・逆気・逆境・逆計・逆撃・逆言・逆・逆行・逆子・逆死・逆耳・逆事・逆邪・逆順・逆心逆臣・逆数逆斥・逆折・逆接・逆節・逆戦・逆賊・逆探・逆知逆徒逆睹逆覩・逆党・逆道・逆徳逆悖・逆坂・逆・逆風逆氛・逆法・逆謀・逆暴・逆命・逆乱・逆流・逆虜・逆料逆倫・逆・逆旅・逆
[下接語]
悪逆・意逆・違逆・横逆・気逆・凶逆・敬逆・五逆・忤逆・降逆・寇逆・逆・詐逆・讒逆・肆逆・弑逆・讐逆・順逆・親逆・僭逆・送逆・大逆・忠逆・誅逆・討逆・拝逆・背逆・悖逆逆・伐逆・反逆・犯逆・風逆・払逆・暴逆・目逆・来逆・乱逆・六逆・凌逆

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改訂新版 世界大百科事典 「逆」の意味・わかりやすい解説

逆 (ぎゃく)
converse

論理学の用語であるが数学でよく使われる。一つの命題〈AならばB〉に対して,ABとを入れかえたもの〈BならばA〉をもとの命題の逆という。例えば,〈実数xについて,x>2ならばx2>4〉という命題を考えると,〈実数xについて〉は前提条件として考え,Ax>2,Bx2>4であるが,この命題の逆は,〈実数xについて,x2>4ならばx>2〉である。もとの命題が正しくても,逆は正しいとは限らない(x2>4ならば,x>2またはx<-2が正しい命題)。また,もとの命題および逆のABを,ABの否定におきかえたもの〈AでないならばBでない〉〈BでないならばAでない〉(前の例なら,〈実数xについて,x≦2ならばx2≦4〉および〈実数xについて,x2≦4ならばx≦2〉)を,それぞれもとの命題の裏obverse,対偶contrapositionという。もとの命題が正しければ対偶も正しく,対偶の対偶はもとの命題であるから,ある命題とその対偶とは同値であり,ある命題を証明するのに対偶を証明してもよい。裏は逆の対偶であるから,逆が正しくないときは裏も正しくない。

 上の例ではAの否定,Bの否定はやさしかったが,一般には否定を作るときはまちがいやすいので注意を要する。例えば,一つの関数fxy)についての命題,〈どんな実数x0に対しても適当に実数y0をとれば,fx0y0)=0〉の否定は,〈適当な実数x0に対しては,どんな実数y0をとってもfx0y0)≠0〉であり,〈どんな〉と〈適当な〉の入れかえが起こっている。

 なお,数学的命題でなく,例えばABとに原因結果というような関係があって,時間的差のある場合,単に形式的に対偶を作ったのでは正しい対偶にはならない。例えば〈食事をしないとおなかがすく〉と,形式的対偶〈おなかがすかないと食事をする〉は大違いである。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「逆」の意味・わかりやすい解説


ぎゃく
converse

文章で表された一つの主張において、それが真であるか、または偽であるかが明確なものを命題propositionとよぶ。つまり、一つの命題は、それが真であり、かつ偽であるということはありえない。「AならばBである」という命題をpとするとき、pの仮設Aと終結Bとを交換して得られる命題「BならばAである」を、もとの命題pの逆という。「逆はかならずしも真ならず」といわれているように、一般に、真の命題の逆がいつも真であるとは限らない。たとえば、「6の倍数は偶数である」という命題は真であるが、その逆、「偶数は6の倍数である」は真でない。仮定や結論が複雑である命題の逆はただ1通りではない。また、「三角形の内角の和は180度である」という命題のように、その逆がつくりにくいものもある。

[古藤 怜]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「逆」の意味・わかりやすい解説


ぎゃく
inverse

条件文「p→q (pならばq) 」に対して,条件文「q→p (qならばp) 」をもとの条件文の逆という。たとえば「雨が降れば傘をさす」の逆は,「傘をさせば雨が降る」,「ある数が6の倍数ならばその数は偶数である」の逆は,「ある数が偶数ならばその数は6の倍数である」となる。また「 ab=0 ならば,a=0 または b=0 である」の逆は,「 a=0 または b=0 ならば,ab=0 である」となる。一般に,ある条件文が真であっても,その逆は必ずしも真ではない。

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