屠蘇(読み)トソ

デジタル大辞泉 「屠蘇」の意味・読み・例文・類語

と‐そ【××蘇】

屠蘇散」の略。
屠蘇散を浸したみりんや酒。延命長寿を祝って年頭に飲む。また、年頭に飲む祝い酒。「―を祝う」 新年》「甘からぬ―や旅なる酔心地/漱石
[類語]酒類さけるい酒類しゅるい般若湯アルコール御酒お神酒銘酒美酒原酒地酒忘憂の物醸造酒蒸留酒混成酒合成酒日本酒清酒濁酒どぶろく濁り酒生酒新酒古酒樽酒純米酒灘の生一本本醸造酒吟醸酒大吟醸冷や卸し甘露酒卵酒白酒甘酒焼酎泡盛ビール葡萄酒ワインウイスキーブランデーウオツカラムテキーラジン焼酎リキュール果実酒梅酒薬酒やくしゅみりん白酒しろざけ紹興酒ラオチューマオタイチューカクテルサワージントニックジンフィーズカイピリーニャマティーニ

とう‐そ【××蘇】

とそ」の音変化。
医師くすしふりはへて―、白散びゃくさん、酒加へて持て来たり」〈土佐

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精選版 日本国語大辞典 「屠蘇」の意味・読み・例文・類語

と‐そ【屠蘇】

〘名〙
① 「とそさん(屠蘇散)」の略。
※延喜式(927)三七「元日御薬〈中宮准此〉。白散一剤〈略〉度嶂散一剤〈略〉屠蘇一剤」
② 屠蘇散を浸した酒・みりん。正月に飲む。また、単に、年頭に飲む酒。《季・新年》
※菅家後集(903頃)歳日感懐「合掌観音念、屠蘇不盃」
洒落本・風俗八色談(1756)三「屠蘇(トソ)の酒を始めとして、三月は曲水の宴に桃の酒、〈略〉是皆災厄を払ふ故に、酒は百薬の長ともいへり」
※俳諧・七番日記‐文化一五年(1818)二月「朝不二やとそのてうしの口の先」
[語誌]元旦に飲んで一年の邪気を払う薬で、白散・度嶂散とともに飲む習わしであった。中国の習俗を移入したもので、紅絹(もみ)の三角袋に屠蘇散を入れ、除夜、井中につるしおき、元旦に取り出して酒に浸し、一家をあげて東を向き、年少の者から順に飲むのが故実であった。薬嚢は再び井戸に投ずれば、病むことがないとされた。

とう‐そ【屠蘇】

〘名〙 「とそ(屠蘇)」の変化した語。
土左(935頃)承平四年一二月二九日「くすしふりはへて、とうそ、白散、さけくはへてもてきたり」

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「屠蘇」の意味・わかりやすい解説

屠蘇
とそ

年始に、祝いとして飲む薬酒。屠蘇散を袋に入れて酒(普通はみりん)に浸したもの。元来邪気を払い長寿をもたらしてくれる酒と考えられ、古く中国においても椒柏酒(しょうはくしゅ)、桃湯(とうとう)、膠牙餳(こうがとう)などとともに、家族そろって飲み交わす風があった。その影響を受け、わが国でもすでに平安時代初期には、宮中においてこれを飲むことが供御(くご)薬として儀礼化していた。肉桂(にっけい)、山椒(さんしょう)、白朮(びゃくじゅつ)、防風(ぼうふう)、桔梗(ききょう)などを調合し(屠蘇散)、緋(ひ)色の袋に入れて井戸の中に吊(つ)るしておいたものを、典薬寮(てんやくりょう)の官人が元旦(がんたん)に取り出して献上するもので、天皇は歯固(はがた)めの行事のあと、これを酒に浸し一定の作法に基づいて食した。これらはほとんど、中国の作法に準じて行われたようである。井戸に吊るすのは、春の象徴である青陽の気が地中より昇るのを受けるためだとされる。その後、江戸幕府においてもほぼ同様なことが行われ、しだいに一般にも広まって、雑煮(ぞうに)の前に一家で祝って飲んだり、来客にも勧めるようになった。その際、屠蘇はまず年少者から飲み始め順次年長者に及ぶといわれたが、宮中においても薬子(くすこ)と称する未婚少女が先に飲む習わしであったし、中国でも同様のことが説かれていた。

 屠蘇の風が広まったとはいっても、都市部以外への浸透疑問で、薬効を期待するのではなく、年頭の一形式として、普通の酒を「おとそ」と称して飲む程度の所も多かったようである。一方、屠蘇と同様な効果はむしろ若水で沸かした福茶などに求められ、これを、延命長寿や邪鬼払いを願って家族そろって飲むことのほうが、一般的ではなかったかと思われる。

[田中宣一]


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改訂新版 世界大百科事典 「屠蘇」の意味・わかりやすい解説

屠蘇 (とそ)

元日に祝儀として飲む薬酒。屠蘇酒の略。肉桂(につけい),山椒(さんしよう),白朮(びやくじゆつ)(オケラの若根),桔梗(ききよう),防風(ぼうふう)などの生薬(しようやく)を配合した屠蘇散(とそさん)を清酒,または,みりんに浸して作る。中国唐代にはじまる習俗を伝えたもので,唐代には上記のほかに大黄(だいおう),虎杖(いたどり),烏頭(うず)(トリカブトの根)を加えて〈八神散〉と呼び,これを紅色の布袋に入れて,大晦日の暮れがた井戸の中につるし,元旦に引き上げて袋のまま酒に浸した。杯に注いで神に捧げ,〈一人これを飲めば一家疾なく,一家これを飲めば一里病なし〉と唱えて年少者から順に東に向かって飲んだという。日本では平安前期以来,宮中で元日の儀式に用いられていた。元日御薬(がんにちおくすり)と呼ばれたこの行事は,典薬寮で調えた屠蘇散を中国どうよう除夜に井戸につけ,元日の朝,歯固めに続いて屠蘇,白散(びやくさん),度嶂散(としようさん)の順序で天皇に進められていたもので,その後,民間でも元日の祝儀に用いるようになった。屠蘇の語源については,屠蘇という名の草庵に住んでいた人が,里人の健康を守るため除夜ごとに薬を配って,元日に服用させたことに始まるなどの説が流布されてきたが,元来は西域に産する薬草の名で,東晋ごろ中国へ伝えられたものともいう。
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百科事典マイペディア 「屠蘇」の意味・わかりやすい解説

屠蘇【とそ】

元日,または三が日に祝儀として飲む薬酒。中国の習俗を伝えたもので,肉桂(にっけい),山椒(さんしょう),白朮(びゃくじゅつ),桔梗(ききょう),防風などの生薬(しょうやく)を調合した屠蘇散を袋に入れ,酒に浸して作る。一年中の邪気を払い,齢を延ばすといわれ,日本では嵯峨天皇のころから用いられたという。
→関連項目

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飲み物がわかる辞典 「屠蘇」の解説

とそ【屠蘇】


➀「屠蘇散」の略。⇒屠蘇散
➁正月に邪気払いとして飲む薬酒。酒またはみりんに屠蘇散を浸したもの。平安時代に中国から伝わって宮中の儀礼となり一般にも次第に普及した。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「屠蘇」の意味・わかりやすい解説

屠蘇
とそ

正月の祝儀に用いる酒の一種。味醂を台として,山椒,肉桂,桔梗,大黄など漢薬を加えたもの。中国から伝わったもので,平安時代初期には正月の薬酒として広く用いられた。中国では蘇と呼ばれた鬼を屠 (ほふ) るということを意味しており,日本では健康を祝うための祝儀用として使われている。

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世界大百科事典(旧版)内の屠蘇の言及

【正月】より

…年が明けると,神々を拝し(接神),四方を拝し,祖先の霊を拝し,年長者に正月の挨拶をし(拝年),子どもたちはお年玉(圧歳銭)をもらう。ちなみに,屠蘇(とそ)を飲む風習は6世紀の《荆楚(けいそ)歳時記》にみえているが,中国では早くにすたれてしまった。外では,竜灯舞,獅子舞,跑旱船(ほうかんせん)などがくり出し,正月気分を盛りあげる。…

※「屠蘇」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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