(読み)バ(その他表記)field

翻訳|field

デジタル大辞泉 「場」の意味・読み・例文・類語

ば【場】

[名]
物や身を置く所。場所。「足の踏みがない」
ある事が行われる所。「仕事の」「を外す」「そのに居合わせる」
ある事が行われている所の状況。また、その雰囲気。「そのでとっさに答える」「が白ける」「をもたせる」
機会。折り。「話し合いのをもつ」「を踏んでなれている」
芝居や映画などの場面。特に舞台で、一幕のうち、舞台情景を変化させず、同じ場面で終始する一区切りの部分。「源氏店げんじだな
花札トランプなどのゲームで、札を積んだり並べたりしてゲームを進めていく所。また、マージャンで、東西南北の局面。
取引所内の売買をする所。立会場のこと。「が立つ」
ゲシュタルト心理学で、行動や反応のしかたに直接影響し関係する環境や条件。「の心理学」
物理学で、そのものの力が周囲に及んでいると考えられる空間。電磁場重力場など。
[接尾]助数詞。演劇で、一幕のうちで一区切りのつく場面を数えるのに用いる。「二幕三
[類語]場面シーンカット一齣ショット場合ところ機会

じょう【場】[漢字項目]

[音]ジョウ(ヂャウ)(呉) [訓]
学習漢字]2年
〈ジョウ〉
何かが行われる所。「場外場内場裏会場開場漁場劇場式場出場戦場退場登場道場農場満場浴場来場試験場
ひとしきり。一回。「一場
〈ば〉「場合場所場面足場市場急場職場相場立場墓場本場
[難読]弓場ゆば

じょう〔ヂヤウ〕【場】

場所。会場。

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精選版 日本国語大辞典 「場」の意味・読み・例文・類語

ば【場】

  1. 〘 名詞 〙
  2. ところ。いどころ。場所。にわ。席。〔名語記(1275)〕
    1. [初出の実例]「繁昌の市は、箕の手形に立つと申すが、〈略〉扨も扨もよいばで御ざる」(出典:狂言記・羯鼓炮碌(1660))
  3. あることの行なわれる場所。集会を催す場所。会場。また、集会の席や、その雰囲気。
    1. [初出の実例]「戦の場(バ)で教ゆるぞ」(出典:足利本論語抄(16C)子路第一三)
  4. その時その時での情況・場合。はめ。おり。とき。
    1. [初出の実例]「一所に死なねばならぬ場(バ)也」(出典:浮世草子・傾城色三味線(1701)京)
  5. 劇や映画などの場面。舞台では、場景の変化がなく、その場面だけでひとくぎりがつく部分をいう。
    1. [初出の実例]「浅草観世音額堂の場」(出典:歌舞伎・東海道四谷怪談(1825)序幕)
  6. 関西地方でいう劇場の観客席の一つ。江戸の土間に相当する。〔浪花聞書(1819頃)〕
  7. 境地。域。
    1. [初出の実例]「狩野主馬〈尚信〉〈略〉筆意を得たる事、画に於ては、中々尊円、尊澄などの場にてはなし」(出典:随筆・槐記‐享保一二年(1727)閏正月二八日)
  8. 花札やトランプなどで、手持ちの札以外の札を積んだりならべたりして、互いに札を取ったり捨てたりしてゲームを進めて行くところ。また、マージャンで東南西北の局面。
    1. [初出の実例]「一人が寺箱を担ぎ出す。一人が場(バ)の銭(ぜに)を奪(さら)って逃げる」(出典:落語・三で賽(1896)〈三代目柳家小さん〉)
  9. 取引所内の売買取引をする場所。立会場。
    1. [初出の実例]「鐘紡も一円四十銭の上放れを示し場中沸くが如く」(出典:朝野新聞‐明治二六年(1893)七月八日)
  10. 心理学で、行動または反応の仕方を規定する環境・条件。
  11. ある物理量が空間の各点に応じた値をもつとき、その空間の領域をいう。物理量の種類によって、電場、磁場、万有引力場、重力場、応力場、核力場などがある。力の場。〔物理学術語和英仏独対訳字書(1888)〕

じょうヂャウ【場】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 土地を平らに開いて神をまつる所。斎場。祭場。
  3. 物事の行なわれる所。場所。
    1. [初出の実例]「或は説法衆会の場(ヂャウ)もあり」(出典:太平記(14C後)二二)

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改訂新版 世界大百科事典 「場」の意味・わかりやすい解説

場 (ば)
field

一般には,空間そのものが何らかの作用(物理的,心理的)をもち,そこに現象を生じさせると考えられるとき,その空間を〈場〉と呼ぶ。場の概念は,必ずしも〈場〉と呼ばれない場合も含めて,今日,科学の諸領域で重要な役割を果たしつつある。それは,一つにはニュートン力学的な遠隔作用を前提とする力の概念に対抗して,またもう一つには原子論的発想に対抗して,とりあえずは19世紀に生まれた。したがって,出発点は物理学にあるといってよい。

ニュートン力学と呼ばれるものの本態は,実はデカルトの基本プログラムである。デカルトは世界を材料としての〈もの〉と,その材料のふるまい(運動)を定める運動法則とに還元するプログラムを立てた。デカルトにあってその両者は,創造主たる神によって原初的なものとしてつくられ与えられたが,それゆえに〈もの〉と〈運動〉とは,世の終りまで半永久的に保存されると考えられた。そこで世界は,〈もの〉と,それに外から与えられる〈運動〉とによって記述されることになった。皮肉なことにデカルトは真空を認めなかったために原子論者にはなれなかったが,原子論における原子をデカルトの材料としての〈もの〉の具体像となし,一方,〈運動〉の法則にはニュートンの運動法則を採用することによって,このプログラムは理念上は完成したかに見えた。ある時点において作用している力や力学的状態を完全に把握・解析する能力をもち,宇宙の全運動を確定的に知ることのできる超人間的知性で,ラプラスによって想定されたことから,のちに〈ラプラスの魔〉と呼ばれたものはそうした状況の象徴ともいえる。

 しかし,ここに解決されないで残された問題がいくつかある。第1に,ニュートンの運動法則における〈力〉は,いったいどのような機序で〈もの〉に働くと考えるべきか。例えば重力がその好例である。二つの〈もの〉の間に〈遠隔的〉に働く重力は,どのような作用機序によるのか。第2に,18世紀末からしだいに人々の関心をひき始めた電気や磁気において,その作用機序は重力のような〈遠隔作用〉として理解するだけでよいのだろうか。つまり,物体に対する力の遠隔的作用という形でそれ以上の説明を拒否する(それが《プリンキピア》におけるニュートンの〈我は仮説をつくらず〉という言明の真意であった)ことに満足できないような状況が,19世紀に入ると生まれてきたのである。

1820年H.C.エルステッドが電流の磁石に対する影響を明証する事実を発見した。電流を流した電線の傍らに磁石を置くと,電流の方向に対して直角に(もしくは円環をなすように)磁石が動く,という事実である。この事実は,それが電流であること(つまり静電気では起こらない),また従来の引力(静電気や磁力の場合には斥力も加わるが)のように,点と点との間に,直線的に働くのではないことなど,遠隔作用力で説明するには困難な性格をもっていた。そこからファラデーの磁場(電場)という着想が現れる。この着想の物理学的意味は重要であり,その説明とその後の展開については次項に譲るとして,より広範囲な文脈での意味もまた見逃し得ない。つまり,物質が存在する空間は,完全に中性的で等方・等質な性格をもつものではない,という認識をそれが生み出したからである。物体は等方・等質・中性の空間内にあって,ただ物体どうしの相互作用のみに注目すればよい,という原子論的な発想と,物質(もの)とそれに与えられる運動の2本立てで原理的にはすべての現象は記述される,というデカルトに淵源するプログラムとは,ともに修正を迫られることになった。

 物体が存在したり,運動したりすること自体,空間を歪ませ,等方・等質・中性の空間を変形しているという認識からは,当然,物体もしくは物質ではなく,それまで単に物質にとってのいれものにすぎないとされてきた空間そのものに対する関心が引き出される。この新しい関心はひとり物理学にとどまらず,生物学,心理学,哲学などにも広がった。20世紀初頭,胚の発生,器官形成などの場面で,さまざまな異なった条件下にも等結果性equifinalityを実現するような〈場〉が生物体として考えられるというグルビッチA.G.GurvichやワイスP.A.Weiss以来の生物学上への〈場〉の応用が見られ,こうした考え方はベルタランフィなど現代のシステム論の原型をなすものとなった。さらにユクスキュルの〈環境世界Umwelt〉のように,生物にとっての環境空間は,決して客観的に等方・等質的なものではない,という考え方にも場の概念は取り込まれている。この路線上には,現代の動物行動学におけるプロクセミクス,生活圏,なわばりすみわけなど,個体,群れ,種などさまざまなレベルでの生物の存在と環境空間とのかかわりに着目する概念系が見据えられる。

 また心理学ではK.レウィンの〈生活空間〉が重要である。もともと心理的行動Bを個人Pと環境Eの関数(BfPE))としてとらえるという物理学的アナロジーを心理学に導入したレウィンは,環境すなわち心理的な作用をもった〈生活空間〉を心理現象の根本に据えようとした。現代では,このような考え方は社会や国家にも拡張され,グループ・ダイナミクスゲーム理論などに暗々裏にあるいははっきりした形で取り入れられている。さらにこうした発想は文化人類学においても顕著である。E.T.ホールの個人のもつ個体空間〈バブルbubble〉のような着想から,一つの文化圏それ自体が一つの場として,人間行動を支配する“歪んだ”空間であると考えるエスノメソドロジーに至るまで,場の概念は広範に広がっている。

 哲学においては,サルトルの〈状況〉や,実存主義における〈世界〉は,自己実現を可能にするものであると同時に,自己実現を限定する役割も担うと考えられる。こうした概念も特異な場所,意味空間としてのトポスというような考え方と並んで,諸科学における〈場〉の哲学的な定式化の試みと見ることができよう。もっとも,諸科学においては物理学からのアナロジーとしての場は発見誘導的な意味で,重要な役割を果たしたが,物理学における場自体の厳密な数学的定式化とは違って,精密化されるに従ってその領域特有の概念に転化される傾向があることは指摘しておくべきかもしれない。
執筆者:

空間的に分布する量で,とくに力や作用の伝達に関与するものを場,あるいは力の場と呼ぶ。古典物理学でもっともよく知られているのは,電場や磁場であり,またこれらが物理学における場の概念の出発点である。特殊相対性理論および一般相対性理論において場という考え方はさらに本質的なものとなり,一方,量子力学では,粒子と場の二重性が明らかにされた。現在の素粒子論は,量子力学と特殊相対性理論とを結合させた場の量子論によって記述される。以下,まず静電場の説明から始めよう。

原点Oにある点状の電荷Qが,距離rだけ離れた点P(xyz)に作る電場E(P)は,大きさがkQ/r2kは比例定数)で,Q>0ならばOからPを向き,Q<0ならばPからOを向くベクトルである。点Pに,もう一つの電荷Q′をおくと,FQEという力を受ける。これに,上で考察したEを代入すると,この力は結局,QQ′の間に働くクーロンの力を与えることがわかる。すなわち,電荷を結ぶ方向の,kQQ′/r2の力である。もちろん,QQ′>0ならば斥力,QQ′<0ならば引力である。

 しかしクーロンの法則では,離れた2点の間に直接力が働くと考えるのに対し,上述の考え方では,力は電場を介して伝えられると解釈する。すなわち,電荷Qは,まわりの空間に電場Eを作り,もう一つの電荷Q′は,その場所における電場から力を受けとるのである。第1の離れた2点間に直接力が働くとする考え方を遠隔作用と呼び,場を経由する第2の考え方を近接作用と称する。

 ただ静電気力に限っていえば,二つの考え方は,同じ結果を得るための記述法の差にすぎない。しかし磁気に関する法則は,もっぱら近接作用論的に表現される。2本の平行直線電流I1I2の間に働く力を考えてみよう。まず電流I1アンペールの法則によって,そのまわりに同心円状の磁場Hを作る。この磁場のあるところに第2の電流I2があると,電流には,電流と磁場の双方に垂直な方向に力が働く。こうして,結局2本の電流の間に力が働く。この結果を,磁場を介さず,電流間の直接の力として導くことも不可能ではないが,きわめて複雑である。さらにM.ファラデーによる電磁誘導の法則では磁束の考え方が本質的であり,場の概念なしにこれを理解することは事実上できない。

電気,磁気の諸法則をまとめたマクスウェルの方程式は,完全に場の理論の形をとっている。しかし物理的な実体としての場の概念の確立にとって決定的であったのは,マクスウェルによる電磁波の理論である。マクスウェル方程式の解の一つとして,彼は真空中をc≒3×108m/sで伝わる波,電磁波が存在することを見いだし,これが光の本性であることを示した。電荷が振動するとそのまわりに振動する電場や磁場が生じ,それが離れた場所にある別の電荷に達すると,それを振動させる。すなわち,電荷から電荷へ,作用が電磁波を通じて伝達されるのである。ここまでは,静電気力の場合と同じであるが,注意すべきことは,作用の伝わり方に時間がかかることである。なぜなら光速cは有限の値をもっているからである。

 これは,離れた電荷の間の空間に何物かが存在することを示唆する。ちょうど水面に石を落とすと,波が水面を伝わり,離れた点に浮かぶ落葉を動かすのに似ている。これこそ近接作用の考え方にほかならない。これに反し,遠隔作用論では,途中には何もないと考える。したがって,作用が伝わるとすれば,それは瞬間的に伝わらなければならない。アインシュタインの特殊相対性理論のもとでは,空間的に離れた2点における同時性は絶対的な意味をもたず,座標系の選び方によって変わるものであることが明らかにされた。遠隔作用論に特有の瞬間的な作用の伝達という考えは,この同時性の概念に基づいているので,相対論とは相入れない。こうして,相対論においては近接作用論的な場による記述が不可欠となる。

特殊相対性理論以後,物理学における流れの一つは,微視的物理学の追究から量子力学へとつながる。ここでは,電磁場も光子という粒子像をももつこと,また逆に古典的には粒子と考えられる電子なども波動の性質を示すことが発見される。すなわち,ド・ブロイ,E.シュレーディンガーの物質波の考え方である。このようにして場の概念は飛躍的に拡張され,粒子像との相補性という新しい面も出現したのである。

 量子力学の完成後,多くの素粒子が発見されることになるのであるが,これらを記述する方法は,現在ではすべて場の形式を用いて行われる。これは前に述べたように,特殊相対性理論の要求に一致するようにするためである。作用の伝達は,1点における場の重なりおよび真空中の波動の伝播(でんぱ)の組合せによって表される。前者は場の相互作用と呼ばれる。量子力学によれば,これは,その場所におけるそれぞれの量子,すなわちその場に相当する粒子の生成,消滅を表す。このような事柄を整合的に記述する理論形式が相対論的な場の量子論であり,現在の素粒子論の基礎となっている。

 ディラックの陽電子論は,このような理論形式の最初の物理的成果といってよい。これは,電子の物質波に相当する,フェルミオン場に関する理論であるが,電磁場と同じ範疇(はんちゆう)に属するボソン場に関する最初の成果は,湯川秀樹による中間子論であった。中間子は,粒子像でみれば質量をもつ粒子であり,その反映として,対応する中間子場は有限の到達距離をもつ。これに対して電磁場は,無限の到達距離をもつといわれているが,これは静電場が~1/r2のようにふるまうことに対応している。一方,中間子場は~eμ/λ/r2のように,r>λに対して急速に小さくなってしまう。ここで到達距離λは,中間子の質量μとλ=ħ/μcという関係にある(ħは,プランク定数hを2πで割ったもの)。

特殊相対性理論以後のもう一つの発展は,アインシュタイン自身による一般相対性理論およびそれに基づく重力の理論である。ニュートンの重力は,静電気力と同じく遠隔作用的な力と考えられていたが,一般相対性理論では,完全に近接作用論的な場の理論として定式化される。この理論における重力の場,すなわち重力場は,曲がった時空の計量テンソルである。そして,マクスウェルの電磁波に対応して,真空中を光速cで伝播する波動の存在が導かれる。これが重力波である。重力の作用もこの重力場を通じて有限の時間をかけて伝達されるのである。この重力波を実験的に検知するための努力が現在精力的に進められている。

 こうして電磁場と重力場は多くの共通点をもつ場の理論として定式化されることとなり,これらをさらに高い立場から統一的にとらえようとする統一場の理論が種々試みられた。なかでも,H.ワイルの理論が有名であるが,ここで提出されたゲージ理論およびゲージ場の概念は,その後素粒子の基本理論として受け継がれている。
相対性理論 →場の量子論
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「場」の意味・わかりやすい解説


空間座標の関数である物理量、すなわち空間の至る所に分布している物理量を場という。場の概念の始まりには、弾性体の理論と流体力学が大きく寄与しており、その展開には18世紀前半のダニエル・ベルヌーイ、オイラー、ガウス、リーマンなどがかかわっている。これらは液体などある物体の上の場であるが、現在では、真空に広がる場が基本的であって、それによって物体もつくられると考えられている。そのような考えは電磁場によってもたらされたもので、その導入はファラデーに始まる。ファラデーは、電気的作用と磁気的作用の一つの物体から他の物体への伝達の研究から、電気あるいは磁気を帯びた物体の周りの空間に電磁気の場が存在するという考えに導かれた(1837)。電磁場の基本法則はイギリスのマクスウェルによって確立され、それらは「マクスウェルの方程式」として数学的に表現された(1864)。この方程式によれば、電磁場の変化は空間を有限の速さで伝わり、空間には、物体が存在していないところにも、場のエネルギーが蓄えられる。また、空間における電磁場の変化は波動として伝わり、その速度は光速度に等しいこともマクスウェルの方程式から導かれる。このことから、光は電磁波の一種であることが知られる。電磁波の存在、したがって電磁場の物理的な実在性は、マクスウェルの理論が発表されてから20年後に、ドイツのH・R・ヘルツによって実験的に確かめられた(1888)。

[町田 茂]

物体(粒子)と場

こうして、自然は、粒子(原子、分子など)からなり空間の一定の部分だけを占める物体と、空間の至る所に広がる場とからなると考えられるようになった。物体あるいは粒子と場との基本的な違いは、空間に局在するか遍在するかのほかに、不可浸透性の有無がある。すなわち、物体あるいは粒子は空間のある領域を占めて一定の広がりをもち、その中に他の物体を入れない(不可浸透性)のに対し、場は空間の至る所にあり、このような不可浸透性をもたず、互いに浸透可能である。すなわち、場は、自然全体を満たしている媒質であるかのように考えられる。

[町田 茂]

場の源と自由場

二つの荷電物体は互いに引力あるいは斥力を及ぼすが、これは、それらの物体の周りに電場ができるためである。このとき荷電物体をその場の源という。電場の強さを決めるのは荷電の大きさである。同じように、重力も物体の周りの重力場によるものであり、その強さは源である物体の質量に比例する。このように源に結び付いた場のほかに、空間を自由に進行する波動としての場がある。これを自由場という。

[町田 茂]

場の種類

場は空間あるいは時間・空間座標の変換に関して一定の性質をもっている。たとえば、空間の各点で、その点の関数であるベクトルを考えると、これはベクトル場であって、座標変換に対して、各点の座標だけでなく、関数の形もベクトルとして変換する。座標の連続変換に対してはベクトルと同じ変換をするが、座標軸の反転に対して符号だけ逆のものを擬ベクトル場という。また、関数形がまったく変わらない場合、反転に対して変化しない場と符号だけ変わる場合とがあり、それぞれスカラー場および擬スカラー場という。たとえば光子の場はベクトル場であり、π(パイ)中間子の場は擬スカラー場である。一般的には、n個のベクトルの積と同じ変換をする場をnテンソル場という。スカラー場とベクトル場は、それぞれ零階および1階のテンソル場である。電磁場の強さは2階テンソル場で表される。テンソル場のほかにスピノル場が存在する。物理学に最初に現れたスピノル場は、イギリスのディラックが1928年に、相対性理論の要請を満たす電子の波動方程式の解として導入したもので、スピンが2分の1の粒子を記述する。一般に、スピノル場はスピン半整数の粒子の場を記述し、n階テンソル場はスピンが整数nの粒子の場を表す。テンソルはスピノルによって表せるが、逆はできない。

 自然に存在する素粒子を記述する場は、これらの場のどれかに属する。その理由は次のようである。特殊相対性理論によれば、互いに等速直線運動をしている二つの観測者にとって、自然法則はまったく同じはずであるから、四次元時空における座標変換であるローレンツ変換をするとき、粒子の質量もスピンの大きさも不変でなくてはならない。このことから、素粒子の場は一定の階数のスピノル場またはテンソル場に限られることがわかる。

[町田 茂]

場の量子論

場の量子論quantum theory of fieldsは、物理量としての場が量子力学の法則に従うとするものであって、1928年にドイツのハイゼンベルクと、スイスのパウリによって一般論が建設された。場は空間の各点ごとに定義され、それぞれ独立な自由度をもつから、場の量子論は、量子力学を連続無限個の独立変数の系に適用したものとみることもできる。場の量子論は、ハイゼンベルクとパウリの一般論の前に、ディラックによって電磁場に対してつくられ、これによって、電磁場が単に古典論的な場でなく、電磁場の量子として光子が現れて粒子性と波動性とを示し、光子が発生したり消滅したりするようすがみごとに記述されていた。このように、場を量子化すると、その場に伴う量子が現れ、それらは発生したり消滅したりする。実際、場の量子論でもっとも基本的なのは、場の量子の発生および消滅を表す演算であって、場の量子の存在ではない。現在、素粒子を取り扱うもっとも高度な理論は、この場の量子論であって、したがって、すべての素粒子は発生したり消滅したりするものとして扱われている。このことは、また、実験ともよく一致している。場の量子論では、場の量子は、他の場と相互作用をし、それによって反作用を受けて質量や荷電などが変化する。これを計算すると無限大の答えが出るが、ある種の理論では、それを観測する質量や荷電の値にくりこんでしまうと、それ以外に無限大は現れず、他のすべての観測量を詳細に計算できるようになる。これがくりこみ理論で、朝永(ともなが)振一郎によって始められ、ますますその重要性がはっきりしつつある。

[町田 茂]

すべての自然の基礎としての場

現在知られている限り、宇宙のすべての物質は素粒子あるいはそれと類似と考えられるものでつくられており、それらの基本的な性質は場の量子論で表されると考えられているが、これは、場の量子論以前の自然観と比べると非常に違っている。

 場の量子論以前には、物体を構成する粒子、たとえば電子は、光子と違って、消滅したり発生したりすることはなく、不生不滅で、ただその運動状態が変わるだけと考えられていた。これはギリシア時代の原子論の流れをくむものである。これに対して、量子化された場に伴う粒子は発生したり消滅したりすることが、むしろ本性である。このため、場の量子論は、現実の素粒子が絶えず発生したり消滅したりし、そのほとんどが非常に短い寿命で自然に他の素粒子に転化するようすを記述することができる。一面からみれば、場の量子論は、発生したり消滅したりする粒子を記述するための理論ということもできる。したがって、場の量子論に基づく現代の自然観では、物質は基本的には、すべて空間に広がった場からなり、それに伴う量子として素粒子が存在するのであって、日常的にみられるすべての物体も、そのような場の励起の集合体であると考えられる。ギリシア時代の原子論が、空虚のなかの不生不滅の粒子という自然観であったのに対し、現在の場の量子論に基づく自然観では、自然のもっとも基礎にあるのは、空間全体に広がる場である。一般相対性理論まで考慮すれば、時空の性質も本質的に場の分布によって規定される。

[町田 茂]

統一理論

素粒子は数百種類もあり、そのすべてが基本的な場であるとは考えられない。現在では、陽子・中性子など物体をつくる素粒子(ハドロン)を構成するクォークと、電子・ニュートリノなどのレプトンと、それらの間の力を媒介する光子・重力子などが基本的とされる。

 素粒子の間には電磁・弱・強・重力の4種類の相互作用があるが、1970年代後半から電磁および弱い相互作用を統一する(電弱)統一理論と強い相互作用を記述する量子色(いろ)力学(QCD)とが、重力を除いて、自然現象をよく記述することが明らかになった。これを標準模型とよんでいる。(電弱)統一理論と量子色力学とをさらに統一しようとする理論は大統一理論とよばれる。

[町田 茂]

超ひも理論

さらに重力をも含めて、すべての相互作用を統一することを目ざして、1984年以降、超ひも理論が活発に研究されている。

 重力をも含めると、場の理論特有の困難が、先に述べたくりこみ理論では避けられなくなる。これは空間の各点における点状の場(局所場)を基礎にしているためであって、その困難を乗り越えるためには一点上に限られない場を基礎にする必要があると考えられる。これを非局所場といい、1950年代に湯川秀樹(ひでき)がその重要性を強調した。

 そのもっとも簡単な形態である一次元のひも(弦)を基礎とする理論は、1970年代に、強い相互作用をする素粒子(ハドロン)の理論として始められたが、1984年以降、超対称性という特殊な対称性をもつプランク長さ(約10-33センチメートル)程度の非常に短いひもがすべての自然のもとであるとして、重力を含め、すべての相互作用を統一する可能性をもつ理論として盛んに研究されるようになった。これが超ひも理論である。とくに1990年代の後半以降、宇宙論との結び付きもみいだされ、新しい宇宙像を示すようになった。しかし、超ひも理論特有の理論的予言が実験的に確かめられているわけではなく、未解決の理論的な問題も多い。この理論ではわれわれが住む時空は、いままで信じられていた四次元ではなく、実は十次元であって、そのうちの余分な六次元はプランク長さの程度に縮まっているため、普通の観測にはかからないと考えられる。しかし、この余分な次元の効果の現れをみいだす研究もされている。

[町田 茂]

『W・パウリ著、大場一郎訳『パウリ物理学講座6 場の量子論』(1976・講談社)』『武田暁著『物理学選書21 場の理論』(1991・裳華房)』『アブドゥル・N・カマール著、高橋康訳『場の理論計算入門』(1998・講談社)』『S・ワインバーグ著、青山秀明・有末宏明・杉山勝之訳『ワインバーグ場の量子論6 超対称性――非摂動論的効果と拡張』(2003・吉岡書店)』『G・パリージ著、青木薫・青山秀明訳『場の理論――統計論的アプローチ』(2004・吉岡書店)』

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普及版 字通 「場」の読み・字形・画数・意味


常用漢字 12画

[字音] ジョウ(ヂャウ)
[字訓] にわ・ば

[説文解字]
[その他]

[字形] 形声
声符は昜(よう)。昜に(しよう)・湯(とう)の声がある。昜は台上に玉(日の形)をおき、その玉光が放射する形。玉による魂振りの儀礼を意味し、その儀礼を行うところを場という。〔説文〕十三下に「を祭るなり」とあり、両祭壇の間を場という。〔漢書、郊祀志上〕に「犧牲壇場」と称しているもので、墓祭のときには「羨道(えんどう)」(墓室に通ずる道)で行った。〔孟子、文公上〕に、孔子の喪送の後、ひとり子貢が「室を場にき」三年の喪に服したことを記している。〔周礼、地官、場人、注〕に「地をきて(せん)を爲(つく)り、季秋に圃中を除して之れを爲る」とは、田中に「祭の場(にわ)」を作ることをいう。わが国の古訓に「には」とよみ、「斎場」をいう。なお〔説文〕には「一に曰く、田さざるなり。一に曰く、を治むる田なり」とあり、「を治むる田」とは、場圃をいう。

[訓義]
1. にわ、神を祭るところ、祭壇のあるところ、つか。
2. とりいれば、はたけ。
3. ば、ばしょ、あきち。
4. 舞台、特設のところ。
5. とき、ばあい。

[古辞書の訓]
〔名義抄〕場 サカヒ・ニハ・ミチ・ツチクレ 〔立〕場 サカヒ・ミチ・バ・ミギリ・ニハ

[語系]
場diang、sjiangは声近く、一上は「道上の祭」、場は「神を祭る道」で、関連のある語である。

[熟語]
場院・場園・場屋・場規・場期・場景・場功・場師・場試・場事・場籍・場中・場長・場苗・場圃・場務・場面・場囿・場埒
[下接語]
一場・園場・塩場・会場・官場・戯場・議場・教場・劇場・現場・工場・広場・沙場・斎場・祭場・市場・祀場・射場・酒場・戎場・宿場・上場・陣場・芻場・戦場・場・禅場・草場・退場・壇場・築場・滌場・登場・道場・入場・馬場・文場・牧場・墨場・臨場・霊場・鹿場

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百科事典マイペディア 「場」の意味・わかりやすい解説

場(物理)【ば】

一般には,物質または空間のある領域で,ある状態量が各点の関数として決まるとき,その領域をその状態量の場という。状態量の性格により,スカラー場(温度分布,密度分布,ポテンシャルなど),ベクトル場(流体内の速度分布,電場磁場など),テンソル場(弾性体のひずみや応力の分布など)がある。→場の量子論
→関連項目位置エネルギー遠隔作用近接作用空間(哲学)グラビトンくりこみ理論ゲージ理論統一場理論媒質マクスウェル力線

場(生物)【ば】

発生学用語。編成された系から発せられる未編成の素材に対する造形的な働きかけ。イモリの肢や尾を切断すると,再生芽を生じて元どおりになるが,肢の再生芽を尾に移植すると尾になり,逆に尾のそれは肢の基部で肢に発達するように,再生芽の分化の方向を決定するのは,その場所を支配している場である。胚発生の場所にも,胚内にある原基が出現する前に,その予定材料の部域を中心に一定の広さをもった器官の場が考えられ,形態形成に重要な役割を演じている。最近では位置情報という概念によって場の作用を説明する考え方がある。
→関連項目極性

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「場」の意味・わかりやすい解説



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ある空間領域で1つの量 Aが位置座標の関数として一義的に決定されているとき,その領域を Aの場という。 Aスカラーベクトルテンソルであるとき,それぞれスカラー場,ベクトル場,テンソル場という。空間的に離れた粒子が直接作用を及ぼさず,まず粒子はその位置で場と相互作用して場の変動を引起し,その変動が伝搬して離れた粒子の位置に達してから相互作用を及ぼすと考える立場で構成された理論を,場の理論という。相対論によれば,場の変動が伝わる速度は,光速度またはそれ以下である。非局所場理論との対比から,場を局所場ということがある。

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【場市】より

…朝鮮における市(いち)の一種で,常設の店舗等の特別の施設を有さず,行商人や近辺の農民たちが定期的に集まって商品交換を行う場所。朝鮮語ではチャンシchangsi。…

【エーテル】より

… 19世紀末近く,地球が光エーテル系に対してもつはずの速度の実際的測定を目指した〈マイケルソン=モーリーの実験〉は,意外にもまったく期待された結果を示さず,結果的には,光エーテル系の存在そのものの疑問ともなったが,H.A.ローレンツ,G.F.フィッツジェラルドらの数学的な提案を経て,アインシュタインの特殊相対性理論の提唱(1905)によって,この問題の解決は得られた。一方,19世紀後半,電磁現象の統一的解釈として提案されたJ.C.マクスウェルの電磁方程式は,新たな空間像としての〈場〉の概念の数学的な確立を告げるものであり,量子力学も今日その延長上に展開され,素粒子もまた,そうした空間(場)としての定義を受けるに及んでいる。これは古典的エーテル概念の新たな実体化とも見ることができる。…

【近接作用】より

…M.ファラデーは二つの帯電した物体の間のクーロン力も,帯電体の間の空間に充満した電気力管が引っ張られた(または押し合った)ゴムのような状態にあるため生ずると考えた。彼はこのような立場から電場,磁場,力線などの概念,すなわち場の考え方を導入し,それまで遠隔作用と考えられていた電磁気力を場を通じた近接作用によるものとして説明した。これによればコイルによる磁場と棒磁石による磁場とが同一なら磁極に対しまったく同じ作用をもつことも当然と考えられるし,電磁誘導も磁力線がコイルを切ることによって生ずるのだとして受け入れることができる。…

【空間】より

…時間とともに,人間が自己および他者について認知し,語ろうとするときに登場する基本概念であって,通常はいっさいの事物の生起する舞台もしくは容器のごとき役割を果たしていると考えられる。時間をとめたとき,世界がそこにおいて存在するもの,といういい方もできよう。…

【力】より

…一般に,自己,他者,他物に対して作用を及ぼす可能性の総称。作用者と被作用者とがともに個人もしくは社会であり,その作用が人間的価値をめぐる意志的な性格をもち,しかも制度を伴って発揮される場合は〈権力〉と呼ばれる。その不当性が強調されるとき〈暴力〉ともなる。…

【物質】より

…なぜなら,空間は,物質を容れる器のごとく,物質の存在を可能にするのに必須なものではあり,しかもそれ自体としては,人間の感覚によって覚知されるものとはならないからである。 こうした近代主義的立場に立って眺めてみると,古代においてこうした物質観に最も近いのはデモクリトスの原子論である。デモクリトスの原子論では,原子は感覚的性質をもたずに,容器としての空間のなかにあって,ひたすら運動をしていると考えられている。…

※「場」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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